「ユマニチュード」とは 優しい認知症ケアの方法

 「ユマニチュード」というフランス発祥の認知症ケアを、聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。介護職員向けの技法ですが、家庭でも実践できるものです。高額な用具や治療も必要ないので介護家族からも注目を集めています。

魔法のようと表現されることのある「ユマニチュード」ですが、どんな方法で、どんな効果が期待できるのでしょうか。

ユマニチュード

 ユマニチュードの目的

ユマニチュードとは、イヴ・ジネストさんとロゼット・マレスコッチさんがつくり出したケアの技法です。

その目的は、認知症になっても“人との関わりを全うしよう” というもの。もちろん全員に効果があるわけではありません。それでも機械的に介護をしたり、安全のために患者の自由を奪ったりしないユマニチュードは、介護をする側にとっても喜びや楽しみを見つけやすい方法です。

ユマニチュードの本の中で、この技法は「優しさを伝える技術」と表現されています。

ユマニチュードの4つの基本

ユマニチュードの基本は、は「見つめる」「触れる」「話しかける」「立つように支援する」の4つです。動作一つ一つはごくごく単純で、家庭でも取り入れることができます。

見つめる

認知症患者は視界が狭くなっているため、目線を患者に合わせ、できるだけ近く、長く見つめます。

触れる

立ち上がらせたり、体を動かしたりするときに、ついつい手首をつかんでしまいがちです。そうではなく、下から支えるように腕を取りましょう。

話しかける

ケアをする際に、心地よい言葉で優しく話しかけ続けましょう。シャワーを嫌がっていた患者が、おとなしく受け入れただけではなく「お湯が気持ちいい」と言ってくれた例もあります。

立つことを支援する

「できるだけ立つことで人の尊厳を自覚する」と、ユマニチュードの考案者のひとり、イヴ・ジネスト氏は語ります。

ユマニチュードの研修を受けたばかりという介護施設からは、こんな実践動画が投稿されています。

 

▼まずは握手から

握手



▼そして腕を握りなおします

握り返す



▼そして脇に手を入れて、「立つよ」と声をかけます

立つよ



▼「さん、はい」の掛け声とともに、脇をしめて立ってもらいます。このとき、介助する人も脇をしめるのがコツのようです

脇をもち介助



この施設では「歩行困難な方が少しずつこの方法で歩行できるようになっている気がします」と、効果を実感しているそうです。

ユマニチュードの5つのステップ

ユマニチュードでは、出会いから別れまでに5つのステップがあります。

出会いの準備

出会いの準備では、自分が来たことを知らせるために扉やベッドボードをノックします。 

ケアの準備

ケアの準備では、「お風呂に入ろう」「トイレに行くよ」と、これから何をするつもりなのかを伝えて、合意を得ます。

このプロセスで大切なのは、
・本人が嫌がったら強引には行わないこと
・3分以上時間をかけないこと
・最初からケアの話はしないこと
です。 

知覚の連結

 「見る」「話す」「触れる」の2つ以上の感覚に訴えかけるようにしましょう。

このときに意識しておくことが、知覚の連結です。優しい笑顔を見せていても、話す言葉が冷たいものだと知覚は連結しません。 

感情の固定

気持ちよくケアができたことを、記憶に固定するプロセスです。お風呂から上がって「さっぱりした」、トイレから出て「すっきりした」、ご飯を食べて「おいしかった」という感情を言葉であらわすことで、共に過ごした良い時間を感情記憶に残しましょう。 

再会の約束

前のプロセスで心地よい感情を固定したうえで再会の約束をします。これも「感情の固定」と同じく、次回のケアを受け入れてもらいやすくする効果があります。 

簡単に内容をまとめました。より詳しく知りたい人は、「家族のためのユマニチュード」(誠文堂新光社)を参考にしてください。

家族のためのユマニチュード


引用元:seibundo-shinkosha.net

難しく思えるかもしれませんが、一連の流れは「人が誰かと良い関係を築いて楽しい時間を過ごすために自然にやっていること」だと、本には表現されています。友人との付き合いの時間とケアの時間の比較もわかりやすいイラスト付きで解説されていて、とても分かりやすい1冊です。

最も大切な事

ユマニチュードのケアで最も大切なことについて、2014年2月5日に放送された『クローズアップ現代』で、ジネスト氏はこう説明しています。

・私たちが友人である、そして人間であるということを、感じてもらうことが大切
・治療する傷が中心ではなく、ケアをする側とそしてケアをされる側の絆が中心ということ

これらの基本以外にも具体的には150の手法があり、全国で講演会や研修会も開催されています。ほとんどが家庭でも簡単に取り入れられるものばかりです。

より詳しい内容については、介護職員向けの「ユマニチュード入門」(医学書院)にて解説されています。

ユマニチュード入門

引用元:igaku-shoin.co.jp

ユマニチュードで変わる認知症の人

認知症をきっかけに周囲とうまくかかわれなくなった方が、ユマニチュードで変わる姿をおさめた動画があります。

言葉の通じないジネスト氏ですが、それでも話しかけながら手に触れ、そして相手に触れてもらいます。立ち上がる代わりに椅子に座ってもらい、「健康になりたいですか?」と話しかけると、おじいさんは英語で「イエス」と答えました。
本来の明るさを取り戻したおじいさんは、ピースサインでジネスト氏を見送りました。 

ユマニチュードの歴史

もともと体育学の教師だったイヴ・ジネストさんとロゼット・マレスコッチさんは、フランスの医療機関で看護師を対象に腰を痛めない技術の指導を行っていました。

そして高齢者ケアに関する実情を目の当たりにしたふたりが、1979年に生み出したのがユマニチュードです。本国フランスでは400以上の医療機関や施設で導入されています。

ユマニチュードを日本の国立病院機構東京医療センターで行ったところ、状況が理解できずに治療を拒否している患者や、怒りっぽい、意欲がなくなるなどの症状を見せていた認知症患者に大きな効果が見られたそうです。

その結果として、認知症患者だけではなく、ケアに関わる全ての人が穏やかに過ごせるようになります。

2014年には、ベルギー、スイス、ポルトガル、ドイツ、カナダに続く6番目の国際拠点が、日本に誕生しました。

代表を務めているのは目黒区にある国立病院機構 東京医療センターの本田美和子内科医です。本田医師は、2011年10月にフランスの病院や施設を訪れ、ユマニチュードに触れた際に、日本の看護や介護問題を根本的に解決できる可能性を感じたのだそうです。2012年2月には考案者であるイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏を招き、講演会を開きました。

2014年1月までに国立病院機構 東京医療センター、国立国際医療研究センターなどの国立病院のほか、東京都健康長寿医療センター、東京都看護協会、東邦大学看護学部などの病院を中心に、多くの看護師が研修を受けています。

ユマニチュードの日本支部では、専門職向けの研修会のほか、一般の方向けの講演会も開催しています。

実践した安心介護会員の声

ユマニチュードは介護職員向けの技術ですが、各家庭でもアレンジして取り入れることが可能です。それでは実際に、ユマニチュードを実践した安心介護会員からは、どんな声が上がっているのでしょうか。

暴言や攻撃的な反応が激減

「ユマニチュードは技術」
昨年ユマニチュードを勉強したときにも、そんなに簡単に行くわけはない、と。 

そして、ユマニチュードは技術です、とおっしゃる言葉にも、なかなかうなずくことが正直できなかったんですね。

ただ、この1年、つかみ合い、ののしり合いを経るなかで、ふと、思い立って、試してみ始めたことがありました。

認知症の父に、話しかけるときに、まず、お父さん、と立場を明らかにして、自分が娘に対して上位にいる、ことを意識してもらってから声の高さを、できるだけ低く、ゆっくりと、そして、 やってもらいたいことがある場合に、できるだけシンプルに、言葉を短く、順序立てて、そして、かならず、父が選ぶ、というかたちで、選択権を与えて、日常の行為をしてもらっていると、暴言や攻撃的な反応が激減したんです。 

というても、いつもできるわけやのうて、私が自分でそのことを忘れて、いつも通りに話してしまうと怒鳴り合いになってしまうことも多いのですが(笑)

ちょっとだけですが、ユマニチュードが技術やということを理解できた気がしました。

共感広場「認知症の介護は、死闘の巻 p(*^-^*)q がんばっ♪」コメントより 

家庭で導入した具体的な方法

認知症いうても、おひとりおひとり状況は違うので、参考にならへんかもしれません」としたうえで、自宅で導入した具体的な方法を紹介してくれた方もいます。

テレビで紹介された、ユマニチュードの専門書も取り寄せて、読んでみました。なるほどと思いつつ、 朝から晩まで、眉間にしわをよせていて、瞬間湯沸かし器のような父への対応に、どう適用させていけばええのか、具体的に思いつかず悩んでいたのですが。。。 

あるとき、ふと、思いついたのは、混乱しないように、話を、かみくだいて少しずつ入れていって、自分のほうが、エライと感じられて、プライドが満足するそういう接し方なら、怒らへんのやないかと。。。 

それで、2年半ほどのあいだ、怒鳴りあい、掴み合いを続けたのち、半年ほど前から、試してみたことがいくつかあります。

<具体例1> 

〇お父さん、と、優しく呼びかけて、間をおく
(自分のほうが親でえらいと感じられるように) 

〇声は、低めで、ゆっくりと、話しはじめる。
(私の声は高いので、苛立ちを生みやすいので。。
それに最近気がついたのですが、話の内容よりも
話される声のトーンや、話しかけられ方、のほうに
ものすごく敏感になっている、ので、オーバーなくらい
ゆっくり、低めに、高圧的にならへんように、してます。)

〇一連の文章として、話をせずに、ひとつずつ、
理解して、先へ進めていくように、段階を経るように、話す。 

〇顔や目を正面で見ながら、話をする。 

〇自分がしてほしいから、ではなく、父のために
メリットがあるので薦めている、というかたちにする。 

〇必ず、父に、選択権があるような問いのかたちにして、
相手に問いかけることで、こちらがやってもらいたいことを
前提のなかに、隠しこんで、しまう。 

<具体的に言いますと> ご飯の前に、シャワーをしてもらいたいとき
<お父さん>
<シャワーのこと、尋ねてええ?>
<今日、暑かったやろ?
シャワーしといたら、汗のにおい、せえへんようになるよ。>
<今、シャワーしとく? それとも、ご飯食べてからにする?>
<着替えは置いてあるよ。シャワーしてる間に、ご飯作っておけるよ。
ご飯食べてしもたら、眠うなるかもしれんなぁ。。。> 

というふうに、シャワーをすることは、既定のこと、としてしまって、けれども、最後の選択肢は、今はいるか、後にするか、は、父次第で、こちらはそれに従う、というかたちにしてしまうことで、シャワーをしてもらう、という本来の目的を達れば、成功という感じです。

共感広場「激怒する認知症の父対応(*^^*)」 

一部分だけ取り入れた方も

先日NHKで認知症についての特集をやっていました。
この中でフランスの理論であるユマニチュードの解説をしていて試してみたところ、とても穏やかな時間を過ごせています。(中略) 

番組ではユマニチュードについて
・笑顔で目をしっかりと正面から見つめる
・実況中継のように話しかける
・支えるように触れる
・寝たきりにしない
という4つの基本を説明していましたので、特に意識して「笑顔で目をしっかりと正面から見つめる」を実践してみました。 

またしんどいと訴えるのはもしかして睡眠不足が原因かもとも思い、寝姿を観察してみたところ、少々無呼吸症候群気味では?と感じて枕の位置などを替えてみたり。 

すると常にぼんやりとしてしんどいしんどいと訴えていたのが、ぐんと穏やかになり、しっかりと話し、笑顔も見せ、昨日の記憶を話し、驚きました。 

すると自分の気持ちも落ち着き、さらに母に優しくできる。不思議なものです。

共感広場「ユマニチュードで改善中

また、踏み切れないという方からは、「24時間一緒にいる家族にできるかどうか」と不安に感じる声が上がっています。

ユマニチュードに限ったことではありませんが、完璧にこなすことを考えずに、まずはできるところから始めてみてはいかがでしょうか。