【自動車メーカー福祉車両開発インタビュー】日産自動車株式会社 介護の問題解決 技術で応える福祉車両[PR]

【自動車メーカー福祉車両開発インタビュー】日産自動車株式会社 介護の問題解決 技術で応える福祉車両[PR]

日産自動車の福祉車両には「生活のいろいろなシーンでお役に立ちたい」という意味で「ライフケアビークル(略称LV)」(Life Care Vehicles)という名前が付いています。
国際福祉機器展H.C.R.2015では、先進技術を搭載した数多くのLVを展示した日産。実際に、LVを開発する現場ではどのような取り組みを行っているのか。
「乗り心地のよさ」や「運転のしやすさ」などのほかにも、福祉車両に込める想いとは。
日産自動車の西尾史樹さんと日産の福祉車両を手掛ける株式会社オーテックジャパンの島本圭子さんにお話をうかがいました。

 

先進技術で介護をサポート、福祉車両の最初期から現在へ

―福祉車両の開発の歴史を教えてください。

島本 1976年に、バスの車いす仕様車「シビリアン」を造ったのが始まりです。別名「わたぼうし号」と呼ばれ、日本の福祉車両の歴史で最初期の車となります。
また1978年の第1回「24時間テレビ」では、10人乗りの「キャラバン」を福祉車両に改造し、トヨタさんの「ハイエース」などと共に合計213台を納車しました。

―その後はどのような車を手掛けたのですか。

島本 1980年には「バネット」車いす仕様車を「チェアキャブ」の名称で介護施設や病院に業務用として初めて販売しました。
ご家庭向けとしては1995年に「マーチ」の回転シート車を発売したのが始まりとなります。
介護保険がスタートした2000年からさまざまなラインナップが登場し、現在(2015年)では電気自動車からセダン、ワゴン、マイクロバスまで18車種をご用意しています。

西尾・島本
〈左〉西尾史樹
日産自動車株式会社 マーケティングダイレクターオフィス
兼 株式会社オーテックジャパン プログラムダイレクターオフィス プログラムダイレクター
〈右〉島本圭子
株式会社オーテックジャパン マーケティング部 主管

―その後、さらに進化し、H.C.R.2015では先進機器を導入したLVを展示していましたね。

島本 アラウンドビューモニターやエマージェンシーブレーキを取り入れています。
介護を受けている方と一緒に車に乗るときは、ドライバーの方が、同乗の方に「気を取られて」しまいがちです。プロのタクシー運転手さんでさえ、非常に気を使うそうです。
介護を受けている方の安全面と同時に、ドライバーの方の負担を軽減することも大切ですから、先進技術でサポートしたいと考えています。

要望、ニーズを探るため話を聞く、そして観察する

―現在、LVをどのような体制で造っているのですか。

島本 1976年当時は日産の特販部が担当していたのですが、1986年からはグループ会社のオーテックジャパンが特装車両を造ることになりました。
お客様のご要望を素早く吸い上げ商品化するのが重要ですから、現在(2015年)も機動性を生かし、LVの企画から開発、販売、アフターフォローまで全てを担っております。

―製造はどのように始めるのですか。

島本 お客様のニーズを知ることから始めます。
病院や個人のお客様をお訪ねし、単にお話を聞くのではなく、実際に利用されている姿を観察します。お客様が運転・乗車されている福祉車両の後ろを、別の車で追うこともあります。
その中からヒントを得て解決策をお客様にご提案したり、開発担当に伝えたりしています。

島本


利用者の方々の声を直接、聞き、観察して開発担当へ伝える中での実体験を語る島本圭子さん

 

お客様の要望に応えるために重要なのは「気付くこと」

―昇降シートの開発で重視しているのは、どういう点でしょうか。

西尾 昇降シートはお客様のライフスタイルに合わせ、多くの車種から選んでいただく必要があります。モーターや部品は小さく軽く、信頼できるものでなければなりません。
また車によってドアの形状やサイズも異なりますから、最適な動きで出し入れできるよう可能な限り柔軟性を持たせた昇降シートが求められます。これが基本的かつ最大の課題となります。

―具体的にお客様のご要望で実現したことを教えてください。

西尾 「多機能型ワイヤレスリモコン」です。シートのリクライニングからスライドまで調整できます。私達は、疲れたら自分の好きな角度でシートを倒せますが、これまで、介護を受けている方は同乗者の助けが必要でした。そのため「自分で調節したい」という声が多く寄せられていたんです。
このリモコンがあれば、好きな時に快適な位置まで調節できますし、介護する方も運転席から後席にある昇降シートを操作できます。

西尾



技術を生かして利用者の方の「最適」の形にするため試行錯誤がある、と西尾史樹さん

 

―ご要望を形にする難しさはどういう点でしょうか。

西尾 形にするのが難しいというよりも「気付かないために実現できていない」部分があります。実際にお客様が利用なさっている場面を見て、初めて教えられるケースもあります。
例えば、エンジニアは昇降シートを「より低く下げよう」と追求しようとします。ところが、お客様にとって最適な位置は体型やお体の状態、車いすの高さで1人1人違いますから、より低く、が重要ではないんです。そのため今では、昇降シートにメモリ機能を搭載し、ボタンを押せば常に適切な高さに止まるよう工夫しています。

―それぞれのお客様に合わせることが大切なんですね。

西尾 介護を受けている方も1人1人状態が異なりますし、施設や病院、介護・福祉タクシーでも、福祉車両の使い方はさまざまです。いかに利用しやすい車を造れるかが課題となります。
そのため「NV350キャラバンの車いす仕様車」では、介護する方の使いやすさを追求した形として3タイプをご用意しました。シートを折り畳めるものや取り外せるタイプなど、車いすの方が4人乗れるタイプでも5通りの使い方ができる仕様になっています。

車内レイアウト決定にも議論を尽くし、さまざまな想定を

―車内のレイアウトを決めるのも難しそうですね。

島本 私はお客様のご要望を最大公約数にまとめ開発現場に伝えていますが、開発者は現実に決められた空間の中で複雑な配置を考えなければなりません。
車いすを4台乗せ、さらに介護する方の席も用意し、手すりや酸素ボンベを置く場所も設定する必要があります。大型の車いすやストレッチャーを乗せる場合も考慮しなければなりません。
開発者が車内のレイアウトを考えるときには、まるでパズルを解いていくような状況なんですね。

―それぞれの位置をどのように決めているのですか。

西尾 例えば、空調や車いすを固定するスイッチにしても、議論を尽くして決めています。
介護する方の動きを確認して「この位置なら便利だ」と考えても、それだけでは駄目なんです。もし、介護を受けている方の身体の一部が当たって誤作動したら、などの場合も想定しなければなりません。
そのため1つ1つの場所を皆で確認しながら、多くのバリエーションから慎重に選択し取り付けています。

「家族が揃って外出できる」喜びの声を紹介する場所

―お客様からどのような声が寄せられますか。

島本 家族揃って外出できるようになった、というお声をいただいています。
あるご家族のお話ですが、お出掛けのとき、いつも家族に気を使って1人、家に残っていたおばあちゃんが、昇降シート付きの福祉車両を購入したことで一緒に出掛けるようになり、お孫さんがとても喜んでいるそうです。
このような声を聞くと、本当に造って良かったと思います。それまで、おばあちゃんは家族に迷惑を掛けたくないという理由から、ファミリーレストランへ行くことさえ遠慮していたんです。
私どもはこのような体験談を、ホームページの「Enchanté(アンシャンテ)」というコーナーでご紹介しています。

―「Enchanté」について、もう少し詳しく教えてください。

島本 1999年から15年以上にわたって連載しているLVマガジンで、お客様に写真付きで登場していただき、購入された車や選んだ理由、使い方などを詳しくご紹介したものです。
ウェブ以外でも冊子として47号まで(取材時)発行し、ご希望の方にお配りしています。ご意見・ご質問があれば冊子にある電話番号からもお問い合わせいただけますし、メールでもご質問を受け付けております。どんな些細なことでも、お気軽にご連絡いただきたいですね。

相談、問い合わせをいただければ、全力で応え、お手伝いする

―福祉車両をお使いの方や、検討されている方へのメッセージをお願いします。

西尾 私達がお客様の困っていることやご要望に気付かないために技術が生かされていない、と責任を感じるときもあります。そのようなことを知るためにも、皆様からたくさんのご相談やお問い合わせをいただければと考えています。
そこからヒントが得られれば、従来の技術を組み合わせ、解決策をご提案できますし、難しい課題でも最大限の努力でお応えしたいと思います。

島本 福祉車両は生活必需品です。お客様の中には車を家族同然と考え、10年以上も長く乗ってくださる方もいます。本当にありがたいです。
ご検討されているお客様にも、ぜひ最良の一品を選んでいただきたい。そのために私達は、できる限りご相談に乗り、お手伝いしたいですね。

お客様の要望を知るために、とことんお話を聞く。1つ1つの問題点を洗い出し、できる限り要望に応えようとする。そして、もっと要望に気付き、困っている方の問題を解決する役に立ちたい。お話を聞いて、そんな強い想いが伝わってきました。
人として人を助けたいという想い、そして、自動車メーカーとしてのプロ意識が、未来の福祉車両の可能性をさらに広げていくのかもしれない、と新たな希望を抱くことができました。