父は認知症で要介護3です。最近、オムツの便を手で取り出して布団や床になすりつけるようになり、とてもショックです...。認知症なんだから仕方ないと頭ではわかっていても、気持ちが追いつきません。弄便を防ぐ方法があれば教えていただけないでしょうか。
認知症が進行してくると、便をいじる行為がみられることがあります。家族にとっては、排泄物やにおいの後始末の負担は大きく、気持ちの面でもストレスが増大します。ですが、本人に注意をしても、なぜ注意をされるのかの意味が伝わらないことが多く、弄便を辞めさせのは容易ではありません。
とはいえ、なぜ弄便を行うのかの心理的な背景や原因を知り、それに対する対応をすることで弄便を未然に防げることもあります。
ここでは、弄便をする認知症の介護者の心身の負担の軽減につながるよう、弄便を行う原因やその対応方法についての解説をしていきます。
弄便とは?認知症の人にみられる不潔行為
弄便(ろうべん)は、自分が排泄した便をいじったり、布団や壁などになすりつけたりする行為です。弄便は認知症の人にみられる症状の一つですが、ご本人はむやみに弄(もてあそ)んでいるわけではありません。
とはいえ、同居するご家族や介護を担う方にとって、弄便の後始末は大きな負担です。目の当たりにしたときの精神的なストレスも大変なものでしょう。
弄便は、適切に対処すれば予防できる可能性があります。対策方法をみていく前に、認知症による弄便の特徴を知っておきましょう。
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認知症の周辺症状の一種
認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」に大別されます。中核症状は、記憶障害のように認知症になったすべての人に現れる症状です。一方、周辺症状は人によって現れ方が異なる症状で、徘徊や睡眠障害、過食、失禁などさまざまなパターンがあります。
弄便は周辺症状の一種なので、症状が現れるかどうかは個人差があります。考えられる原因については後述しますが、認知症の影響で排泄物に対する認識が薄れてしまったことが弄便という行為を招いていると可能性があります。
弄便をする要因と心理的な背景
弄便は問題行為ではありますが、ご本人なりに理由がある場合も。その心理的な背景を含め、主な要因をご説明します。
身体機能の低下が要因になることも
弄便が起こるのは、加齢に伴う身体機能の低下が要因となることがあります。高齢になると、腸の機能低下や筋力の衰えなどによって便秘になりやすく、排便感覚が鈍くなることで「いつ排便をしたかわからない」といった状況にもなりやすいです。
このような排便にまつわる機能障害に加え、認知症が重なると、弄便が引き起こされやすくなる可能性があります。
排泄物だと認識できない
認知症が進むと、理解力や判断力が著しく低下し、便が何なのか認識できなくなる場合があります。「排泄物は不潔だから、手で触るのはよくない」という認識がないため、オムツの中の便を手で取り出して確認したりします。便を食べ物だと思って、口に運んでしまうこともあるため注意が必要です。
お尻に不快感がある
排便によってお尻に異物感や不快感、かゆみなどがあると、弄便につながることがあります。お尻に便が付着した感覚や蒸れた感覚を解消するために、オムツの中に手を入れて取り除こうとするのです。便を取り出すだけではなく、オムツを脱ごうとしたり、汚れた手をきれいにするために衣服やシーツなどで拭き取ろうとしたりする場合もあります。
汚れを自分で処理したい
「便=不潔なもの」という認識がある場合、便を自分で処理しようとして弄便をするケースも。オムツの中の便を「そのままにしておいてはいけない」という意識から、便を取り出して片付けようとしている可能性があります。ですが、適切な処理方法がわからないため、はたから見ると便を弄んでいるように見えてしまいます。
失敗を隠したい
オムツに排便したことを「失禁してしまった」と感じ、便がついたオムツや下着をタンスなどに隠してしまう人もいます。認知症になっても羞恥心やプライドはあるので、トイレ以外で排便したことや、身につけているものを汚したことを恥ずかしく感じるのでしょう。
どう防ぐ?弄便への対処方法と予防策
では、弄便はどのように防げばよいのでしょうか。対処のコツと予防策をご紹介します。
弄便を見つけても感情的にならない
まず意識しておきたいのは、弄便を見つけても感情的にならないことです。
弄便は後始末が大変ですし、大切な家族がその行為をしたことへの精神的なショックも大きいものです。とはいえ、先述の通り、弄便にはご本人なりの理由があるため、怒ったり責めたりしてもあまり意味がありません。なぜ怒られているのか理解できないだけではなく、「なぜだか怒られて怖い」という恐怖心や不快感だけが残り、介護拒否につながることがあるためです。
弄便を見つけときは叱ったりせず、「きれいにしようね」とやさしく声をかけながら浴室に誘導し、手や体の汚れを洗いましょう。
定期的にトイレに誘導する
弄便は、オムツの中の便に対して行われることが多いため、オムツに排便する前にトイレに誘導できれば未然に防げる可能性があります。ですから、可能な限りトイレやポータブルトイレを利用してもらうようにしましょう。
あらかじめ排便をする時間帯を把握しておくと、タイミングよくトイレに誘導できるようになります。そのため、いつもどのような時間・タイミングで排便するのかを数日間観察・記録してみることをおすすめします。
掃除しやすく工夫する
認知症の人を24時間見守るのは難しいので、弄便をしたとしても被害を最小限に抑える工夫をするのも一案です。弄便によって頻繁に汚される場所に、防水シートを敷いたり、カバーをかけておいたりすると掃除がしやすくなります。畳の部屋だと畳に汚れが入り込んでしまうため、畳の上には取り外し可能なマット類を敷いておくとよいでしょう。
手やお尻の皮膚をケアしておく
乾いた皮膚に便が付着すると拭き取りにくく、こすり取ろうとするとかゆみや痛みにつながってしまいます。皮膚を保護する観点から、お尻や肛門まわり、手指にワセリンなどのクリームを塗っておくのもおすすめです。そうすれば、排便でお尻などが汚れたとしても滑りがよくなり拭き取りやすくなります。
また、皮膚が保護されれば排便後に皮膚に刺激やかゆみを感じにくくなるため、弄便の予防につながるかもしれません。
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別のことに意識を向けさせる
弄便を防ぐには、作業や遊びなどに意識を向けさせるのも有効です。ほかにやることや注目すべきことがないと、自分に意識が向かいやすく、オムツやお尻の状態が気になってしまいます。でも、話しかけたり簡単な作業をお願いしたりすれば、そちらに意識が向いて弄便を減らせる場合があります。
困ったらケアマネジャーに相談を
弄便の対応に苦慮し、どうすればよいかわからなくなったらケアマネジャーに相談しましょう。排泄トラブルへの対処は心身のストレスが大きく、ご家族だけで抱え込むと追い込まれてしまう場合があります。心身ともに疲弊する前に、介護の専門家にアドバイスを求めてください。
専門家であれば、ご本人の状態に合った適切な対処方法や、訪問介護やデイサービスなどの介護サービスを紹介してもらえます。よりよい改善策により、介護者やご家族の負担を軽減できるでしょう。
無理のない範囲で弄便対策をしよう
認知症になるとさまざまな症状が現れ、介護者やご家族を悩ませます。なかでも、弄便は目の当たりにしたときの精神的なショックが大きく、後始末の手間やストレスも増大しやすくなります。
ですが、弄便をした人に対して強く叱責するのはNGです。ご本人なりの理由に耳を傾け、理解を示しましょう。
また、弄便は適切な対策をとれば予防できる可能性があります。ご紹介した対処方法や対応のコツを参考にし、できる範囲で実践してみることをおすすめします。
※この記事は2020年2月時点の情報で作成しています。
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主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。