正常圧水頭症(NPH)とは?

自分の家族が水頭症と診断されたとき、果たしてよくなるのか、どのような治療をすればいいのかわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは、正常圧水頭症がどのような病気なのか、どのような治療ができ、家族はどうサポートすればよいのかご紹介していきます。

目次

正常圧水頭症とは?

正常圧水頭症のイメージ

正常な状態では、「脳室」と呼ばれる空洞内で脳脊髄液が作られ、循環、吸収の微妙なバランスが保たれています。正常圧水頭症は、脳脊髄液の量のバランスが崩れたときに起こります。

そもそも脳は硬い頭の骨の中で、水に浮いている状態にあり、この水が脳を衝撃から守ってくれています。この頭の中にある水は髄液と呼ばれていて、体内で一番きれいな水です。1日に約450ml作られ、絶えず循環してどんどん新しいものに入れ替わっていきます。

髄液は主に脳の中で作られています。脳の中で作られた脊髄液は脳内の血管で一部は吸収されていき、そのほかの多くは脳の表面にまわって出てきて太い静脈や脳神経・脊髄神経周囲のリンパ管などの中に吸収されていきます。このようにして脳脊髄液は循環しているのですが、水頭症になるとこの脳脊髄液の吸収が障害されます。脳脊髄液が吸収されなくなるとどんどん脳内にたまっていくこととなります。そうすると脳を圧迫することになり、さまざまな障害を与えることとなるのです。

くも膜下出血や頭部外傷などにより二次的に発症する場合を続発性正常圧水頭症といい、最初に発症した疾患や原因を特定できない高齢者に発症する場合を特発性正常圧水頭症といいます。ここでは、疾患がないにもかかわらず引き起こされる、高齢者に多く発症する特発性正常圧水頭症をメインにご紹介します。

認知症と診断された患者のうち5-6%が特発性正常圧水頭症だと考えられており、発症は60歳以降で70歳代に多いとされています。これまでの疫学的研究と日本人口の高齢化率(約22%)をふまえて計算すると、日本中で約31万人の方が罹患している可能性があります。

正常圧水頭症の原因

正常圧水頭症の原因は現在においても不明とされています。特発性正常圧水頭症では、患者のほとんどが高齢者であるということから、加齢(老化)が重要な原因であることは間違いないと考えられています。

また、同一家族内で複数の特発性正常圧水頭症の発症も見られることから遺伝が関係することも否定できないという考え方もあります。他にも過去に起きた頭への軽度の衝撃などさまざまな仮説があり、どの説が正常圧水頭症の原因になるのかは研究が進められています。

正常圧水頭症の症状と進行

正常圧水頭症の症状は歩行障害、認知障害、尿失禁が主な症状となり、これらを正常圧水頭症の三徴とも呼ばれています。ここでは、この3つの主症状を詳しくご紹介します。

歩行障害

正常圧水頭症による歩行障害は歩幅の減少、足の挙上低下、開脚歩行が三大特徴となります。歩幅が小さくチョコチョコ不安定な歩きになり、転びやすくなる。転びやすい。足が重く感じ階段使用が困難になる。がに股で歩くようになり、歩幅が歩行中に変動することも特徴です。

認知障害

正常圧水頭症の程度が軽度であっても認知障害は初期から見られます。

軽い認知症の症状が出て、自発性がなくなり、ぼんやりとしていることが多くなってしまいます。これは、前頭葉が障害されるということに関係しています。

アルツハイマー病など他の認知症と比較して、見当識障害(時間・場所・人がわからなくなる)、記憶障害(物忘れ)は軽いのですが、集中力が亡くなる、運動速度の低下、言葉が出にくくなるなど、全般的な前頭葉機能関連障害は比較的重くなります。

尿失禁(排尿のコントロールの障害)

尿失禁(おしっこが間に合わない、我慢できない)、頻繁におしっこをしたくなるなど、排尿のコントロールができなくなります。尿失禁の症状は上記2つの症状よりも最も後に現れ、状態も比較的軽いといわれています。

正常圧水頭症を改善させるためには外科手術

正常圧水頭症の方への対応をお話しする前に正常圧水頭症を改善させるための方法をお話します。正常圧水頭症は前述したように手術で治せる認知症です。そのため、治療によって症状を改善させることができれば正常圧水頭症の方のサポート方法も変わってくるのです。

水頭症の治療は貯まった髄液を管を通して体外に排出するシャント術と、脳の中に新しい髄液の出口を作る第3脳室底開窓術があります。

シャント術

シャント術は正常圧水頭症で最も行われている治療法であり、現在のところこれよりも質の高い治療法は見つかっていません。シャント術は通常脳室腹腔シャント(V-P shunt)が選択されます。その他脳室心房シャント(V-A shunt)、腰椎くも膜下腔腹腔シャント(L-P shunt)、脳室胸腔シャントなどが行われています。これらの治療は全身麻酔下で約1時間ほどで終了します。

第3脳室底開窓術

これは頭蓋骨に穴をあけて、脳の髄液の流れをよくするため交通を確立する治療法です。交通が悪くなっている非交通性の水頭症のみ適応となっています。

正常圧水頭症の予後

正常圧水頭症の予後は手術をするかどうかで大きく変わりますシャント術を施行した場合、症状の改善は、短期(3ヵ月〜2年)で41〜100%、長期(3〜5年)では28〜91%と報告されています。

歩行障害では約75%(58〜90%)の改善が見られるものの、手術前と比較して改善しにくい症状もあります。 記憶障害では、認知症は評価スケールの種類により異なるものの約50%(29〜80%)改善することが分かっています。シャント術後には認知機能の中でも言語性記憶と精神運動速度が改善しやすく、前頭葉機能全般、視覚構成機能も改善する可能性があると考えられています。しかし、認知機能が健常者のレベルにまで改善することは多くないようです。シャント術前に言語性記憶障害が強い場合ではシャント術後に全般的な認知機能が改善しにくいと考えられています。また、言語性記憶障害に加えて視覚構成障害や遂行機能障害を有する場合ではさらに改善しにくいと言われています。

尿失禁(排尿のコントロールの障害)では、約50%(20〜82.5%)改善され、シャント手術をすれば正常レベルにまで回復すると言われています。

正常圧水頭症は手術をすることでADL(日常生活動作)の向上につながり生命予後の長期化にもつながります。一方、手術をしなかった場合、状態はどんどん悪くなり、最終的に動くことも難しくなり寝たきりとなります。

正常圧水頭症の人への対応方法

正常圧水頭症の疑いがある場合には、すぐに医療機関で診察をしてもらいましょう。

正常圧水頭症の診断が下ると、手術を進められる事が多くなります。

例えばリハビリテーション等をして症状の改善を図ろうとしても改善が難しいため、手術をするかご本人と話し合いを行い、治療の環境を整えてあげることが必要です。治療後の状態に合わせてリハビリテーションなどを行い、元の機能を取り戻せるようにご家族は寄り添ってサポートしていく事が重要です。

正常圧水頭症により、日常生活に何らかの不便さを感じたら介護保険の申請しましょう。要介護状態などに合わせた介護保険サービスを活用しながら心身機能の状態を維持していけるように関わるようにします。

まとめ

正常圧水頭症だと思わしき症状が見られるという場合には、まずかかりつけ医に相談し、場合によって専門医を紹介してもらい受診しましょう。

認知症と呼ばれる病気の中で唯一手術で大幅な改善が認められるのが正常圧水頭症。正常圧水頭症についてよく理解していれば治療前後の本人の状態に合わせて適切なサポートをすることができるのではないでしょうか。

正常圧水頭症についてこの記事を読んでわかったということがあればぜひシェアをしていただけると嬉しいです。

陽田 裕也
陽田 裕也 (ひだ ゆうや)

2001年、介護福祉士養成校を卒業と同時に介護福祉士を取得し特別養護老人ホームにて介護職員として勤務する。
その後、介護支援専門員や社会福祉士も取得し、介護以外でも高齢者支援に携わる。現在はソーシャルワーカーとして、特別養護老人ホームで勤務しており、高齢者虐待や身体拘束、成年後見制度などの権利擁護について力を入れて取り組んでいる。