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【アート体験で認知症ケア:第2回】認知症当事者の方や家族に起こった変化の数々

公開日: : 最終更新日:2017/03/14 認知症のケアと介護

art

認知症になってもすべての脳の機能が失われるわけではありません。残された脳の機能をアート体験で刺激して、認知症当事者の方の自信を取り戻す活動をされているのが、一般社団法人アーツアライブの林容子さんです。
複数回にわたり、アート体験を通した、認知症を含む高齢者向けの活動について解説していただいています。

今回はアート体験をした認知症当事者の方に起こった変化について、具体例を紹介していただきました。

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前回の記事で、認知症を患う高齢者とその家族のためのアート鑑賞プログラム「アートリップ」を紹介しました。
>>【アート体験で認知症ケア:第1回】アーツアライブの認知症を含む高齢者向けのアート活動

今回は、実際にアートリップを体験された認知症の方やそのご家族にどんな変化があったのかについてお話しさせていただきますね。

うつ状態だった若年性認知症の男性

アートリップ体験者の一人である杉本知穂さんは、若年性認知症のご主人との生活をV字回復させました。そのきっかけとなったアートリップを、「幸福感ハピネスお持ち帰りプログラム」と呼んでいます。現在は養成講座を受講してスキルを習得し、認定アートコンダクターとして活躍されています。

「アートリップ」に参加する中で、うつ状態に陥っていたご主人との関係も改善したそうです。今では横浜地区で自ら若年性認知症カフェを運営され、「アートリップ」を実施されるまでになっています。

▼杉本ご夫妻

mr. and Mrs Sugimoto

「アートリップ」を最初に体験した後に何が起こったか、2回目、3回目の後には何が起こったかを、杉本さんはNHKの取材のために文章に書き起こし、それを私と共有してくれました。長いのですが、一部彼女の文章を引用させていただきます。

林先生の第一声から引き込まれる。キリコ一枚目から夫の真剣な横顔と眼差しにこれから「楽しい時間」をともに過ごせるとワクワクした。キリコの自画像の感想を周りや妻の意見に同調することなく、目を大きく見開いて堂々と自分の意見を述べている!、、、帰り道家のそばで二人の外人さん(たぶんドイツ人)に「コンニチハ~」とすれ違いさま挨拶された。夫は妻にハローと挨拶言えばと言われたが、たぶんドイツ人ですと小声で言うとイッヒリーベンディッヒと言いだした。既にあの二人が反対方向に歩いて行った後イッヒリーベンディッヒを繰り返して言う。こんな素敵な会話を持てたのもACP(アートリップの前の名称)効果で私たちが幸せそうににこやかに歩いているから贈り物が与えられたと思いました。帰宅後、今日のグループは何ていうの?複数回聞かれた。絵を見るサークル=小さなコミュニティーのことが強く夫の感情に残っていることが嬉しく思えた。

2回目に参加した後は、ずっと固辞していたカラオケに寄って熱唱し、3回目に参加した後はご主人の変化にケアマネージャーもが、「今日は何かいい事がありましたか?」と聞いたといいます。

杉本さんの言葉を借りると

『アートリップは、認知症の人々がこれまでに経験したことのないやり方で自己を表現する機会を提唱し作りだしている。美術館のプログラムは介護者が愛情を注ぐ人の存在をありのままの人間として、より健全な視点で見つめる為の手助けが出来て多くの偏見と闘う疲労や不安を緩和してくれる。認知症の方々の声に耳を傾け希望をくみとり、介護者自身のニーズを掘り下げてくれる一石二鳥のプログラムである。私たち夫婦はアートリップで介護者と被介護者が同じ場所でアートを通して同時に喜びを得ることを体験しました。認知症の人々やその介護者の両者の生きがいになるアートリップハピネスお持ち帰り効果を定期的に重ねることが重要です。アートリップという小さなコミュニティーで素敵な人たちとアートに出会えることを夫婦ともに生きがいにしております。』

今では杉本ご夫妻は、アートリップに参加されるほか、エデュケーター養成講座で受講生の練習にも付き合ってくださっています。

認知症の方との接触が初めてという受講生も多いのですが、皆さん彼の冴えたコメントに驚いています。

再び絵を描き始めた99歳の男性

アートリップにおいて認知症当事者の方がありのままの姿を受け入れられ、認められることは、彼ら本来の姿を取り戻すことに繋がります。これまでにアートリップに参加された最高齢の方は、お孫さんが連れてきた99歳の男性でした。

以前は絵を描いたりして絵が好きだという彼は、西洋美術館でのプログラムに参加してギャラリー内の美しい女性の絵にくぎ付けとなり、ニコニコして何度も「綺麗だね~」と感嘆の言葉を繰り返しました。

その後、お孫さんからメッセージをいただき、プログラム参加から1ヵ月ほど経ったころから、絵を描くのを再開したそうです。

美術館で絵を見たことが彼の閉ざされていた絵心を喚起したのです。彼女はおじい様の笑顔の写真とともに、何枚かのドローイングの写真を送ってくれました。そこには翌月に100歳になる男性が描いたとは思えない、かわいらしい動物のキャラクターや写実的な猫のデッサンが描かれていました。

▼贈られてきたイラストの数々

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▼帰りの車中で撮ったという笑顔の写真
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再び絵を描きはじめてくれたことを「すごいQOLの向上」と言う彼女の喜びが、文面から伝わってきました。今回このコラムを書くにあたり、お孫さんに連絡したところ、おじい様はあの3ヵ月後に永眠されたとそうです。

そして、帰りの車の中で撮影された素晴らしい笑顔の写真をお送りくださり、あれが最後の外出だった。本当に参加して良かったと今でもこの写真を見て思っているとおっしゃってくださいました。

娘さんの記憶に刻まれた母親の姿

アートリップには、様々なレベルの認知症の方が参加されます。絵を見て、絵についてのコメントができる方ばかりではありません。それでもこれまで途中退出された方は一人もいませんでした。

末期の方を含め全ての方が、絵と対話相手であるエデュケーターに1時間集中するのは驚くべきことです。数年前に娘さんと参加された、かなり症状の進んだ85歳の女性の方がいました。

一緒に見たのは肖像画の多いジョルジュ・ルオーの展覧会だったのですが、彼女は、それらの肖像画の特徴を「高貴な顔をしていますね」という言葉で表し、それを5分置き位に繰り返しました。私たちエデュケーターは参加者の方の日常の様子を知りませんが、娘さんは、ほとんど話すことの無くなっていたお母様が実によく発言されたことにとても驚かれていました。

ご主人の言うことに従順な昔のタイプの女性で、もともと口数は多くないらしいので、自分の思ったことをそのままストレートに話される姿に信じられなかったと言っていました。

その後、2ヵ月ほどして彼女は亡くなり、お母様との最後の外出となったこの美術館への外出が、いい思い出となったと御礼状をいただきました。

アートが“おしゃべり”を誘発

認知症になると他者との接触を避け、口数が減ってしまうことが多いですが、アートリップでは認知症の方は楽しいせいか、普段では考えられないほどよくコメントされます。同じデイサービスにいても、お互いに無口だと思っていた人たちがこんなに話すなんて、というのはよくあることです。

絵画の多様な色、表現、描かれているものは脳の様々な部位を刺激し、過去の記憶を呼び起こし、想像力を喚起します。自分の感じたこと、思ったことを話し、それが受け入れられていくことで安心感が生まれ、本来の姿に戻ることができるようです。

さらに、アートを見ることで、様々な好奇心が呼び覚まされるのを感じます。自分が気に入った絵の作家名と作品名を何度も聞いてくる方がいました。この作家が好きだから、図書館に行って本を借りたいから、と言うのです。図書館になんて行ったことないのだけれど、図書館に行ったらこの作家の本があるか、と聞くのです。

「娘に連れて行ってもらうから」と。実際に彼女が図書館に行ったかどうか確認はしていないのですが、自分で本を読みたいと思うほど、関心を持ったことは確かです。画集を見れば、さらに様々な感情が起こされることでしょう。

多くの記憶が失われる中、新しい記憶も作られていると再認識

アルツハイマー型の認知症の特徴として、短期記憶力の劣化があげられます。何をしてもすぐに忘れてしまうといいます。しかし、それは体験の内容と質によります。

若年性認知症当事者の会の代表で、私が日本で最初にアートリップを実施したときの参加者である佐藤さんは、「認知症の人は、楽しいこと、興味のあることは新しいことでも覚えることができるし、忘れないのです」と言います。

アートリップを通して私たちはこのことを実感しています。彼らは絵を覚えていますし、自分がそこでどんなコメントをしたかも覚えているようなのです。

いつもご主人、娘さんと3人で参加される87歳の女性は、美容院でパーマをかけたことを、美容院を出て10歩も歩くと忘れてしまうそうですが、美術館で前に見た絵の前を通ると、「この絵は前に見ましたね」とおっしゃいます。

認知症の方は多くの記憶が失われる中、新しい記憶も作られているのです。心から楽しいこと、関心のあることは私たち誰でも印象、記憶に残ります。アートリップを通して、認知症の方も同じであることをいつも再認識しています。

アートリップは現在東京の国立西洋美術館等を中心に実施していますが、養成講座を受けた認定エデュケーターは熊本、宇都宮、名古屋、諏訪、小淵沢などにもいますので、これから順次地方でも実施して、より多くの認知症当事者と介護者であるご家族にアートリップを体験していただけるようにしたいと思っています。アートリップのスケジュール詳細は、アーツアライブ ウェブサイトをご覧ください。

《執筆者/一般社団法人アーツアライブ代表理事・林容子》

尚美学園大学・大学院芸術情報研究科准教授/武蔵野美術大学, 一橋大学大学院他非常勤講師
米国PUBLIC ART REVIEW誌アドバイザー
National Center for Creative Aging 国際フェロー
川崎市文化芸術振興委員
「進化するアートマネジメント」「進化するアートコミュニケーション:医療福祉に介入するアーティスト」 レイライン刊 著者 「Meet me: アートを認知症の人々に」NY近代美術館編 アーツアライブ刊 翻訳

1999年より美大生や若いアーティストとともに病院や老人介護施設でのアートプロジェクト(ArtsAlive)を企画、実施。米国ケースウエスタンリザーブ大学教授ピーターホワイトハウス博士(脳神経学者)とアートが脳の高齢化特に認知症に与える影響とアートプログラムを介護に導入する際の政策課題について研究している。

▼arTrip アートリップの開催について
上野の国立西洋美術館で毎月1回、港区オレンジカフェ(認知症予防カフェ)、都内近郊複数の施設で定期開催、複数の美術館で不定期開催しています。

アートリップへの参加申し込みは、一般社団法人アーツアライブまで
一般社団法人アーツアライブ
http://www.artsalivejp.org/

アートリップについてのラジオ放送が再放送予定

昨年10月に林容子さんが出演したNHKラジオ深夜便「アートは脳のチョコレート」が、2017年3月20日から23日の間、毎日23:30より45分ごろまで再放送されるそうです。

アートリップのお話しなど、ご関心のある方は是非この放送をお聞きください。

日時:2017年3月20日から23日の間、毎日23:30より45分ごろまで
NHK第一ラジオ「ラジオ深夜便」ないとエッセイ~アートは脳のチョコレート
http://www.nhk.or.jp/shinyabin/index.html

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