100万人を超える男性介護者の現状について【“ケアメン”ネットワークからのレポート】

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「冷遇・衰弱・不衛生」「長寿嘆く20万人寝たきり老人」-これは日本で初めての介護実態調査の結果を報じた1968年9月14日付朝日新聞朝刊記事の見出しです。

日本初の調査報告、いまであれば一面トップを飾ってもおかしくないビッグニュースかもしれませんが、当時は社会面にてたった3段組みの記事として扱われたのみ。特別養護老人ホームは身寄りがなくかつ低所得の高齢者を対象として全国にわずか4,500床しかなかった時代に、介護者は「嫁が49%と半数を占め、次が配偶者(大部分が妻)で25.6%、3番目が娘で14.3%と、9割以上が婦人の肩にかかっている」と報じました。

主介護者の3人に1人が男性の時代に

あれからほぼ50年、今や主たる介護者の3人に1人が男性となり、実数でも優に100万人を超えています。「男性介護者」や「ケアメン」という言葉も生まれ、もう介護は男性も含めて誰もがその役を担う時代といっても過言ではありません。

しかし、こうした劇的な介護を担う人の変容にも拘らず、介護を女性専業とみなすジェンダー規範は、相も変わらず深く社会に根を下ろしています。家族の介護を引き受けるとは期待されてこなかった男性が、ある日突然に妻や親の介護責任を問われるというわけです。

男性介護者の現状

そのために、男性介護者の多くが介護はおろか炊事・掃除・洗濯・買い物などの家事にも苦労し、仕事と介護の両立に葛藤し、離職すればたちまち家計も逼迫します。過剰な夫・息子の家族責任に囚われ、弱音も吐かずに介護を抱え込み、そのあげくに社会からの孤立などで介護心中や虐待などの不幸な事件を起こす人も少なくありません。

年間1万5,000件を超える介護虐待の加害者の3人に2人は男性、新聞報道されるだけで年40~50件にものぼる介護心中・殺人事件でも加害者の4人に3人が男性、家族の介護・看病疲れによる自死者(年間約250人)でもその6割は男性、という実態があるのです。

家族の中に被害者も加害者もつくらないために

こうした事件報道を聞くたびに、問題を起こす個々人のキャラクターという以上に何か大きな構造的要因があるのではと不安に思います。男性に否応なく埋め込まれた家族の介護を引き受けるに不適合なライフスタイルにこそ、その要因が潜んでいるのではとみるのが自然かもしれません。

いかにも「不良」然として事件を起こしそうな夫や息子たちが犯した問題という以上に、むしろ身を粉にして献身的に介護を担ってきた夫や息子たちが前途絶望して不幸な事件の当事者となった人たちです。介護を巡って家族の中に被害者も加害者もつくらないために必要な社会的支援について、私たち男性介護者と支援者のネットワーク(男性介護ネット)の取り組みを通して考えてみたいと思います。

《執筆者:津止正敏(男性介護者と支援者の全国ネットワーク事務局長)》 男性介護者と支援者の全国ネットワーク