ロビン・ウィリアムズさんの妻、レビー小体型認知症だった夫の姿を明かす

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2014年8月、自分を苦しめている病の正体が「レビー小体型認知症」だとわからないまま、人気俳優のロビン・ウィリアムズさんが自分の手でその生涯を閉じました。 >>ロビン・ウィリアムズさんの妻、診断されなかった「レビー小体型認知症」を告白

世界中で大きく取り上げられた、この出来事。あれから約2年が経ち、妻であるスーザン・シュナイダー・ウィリアムズさんが、あるエッセイを学術誌「Neurology」上で発表しました。

そのタイトルは、「The terrorist inside my husband's brain(夫の脳にいるテロリスト)」。医師たちに向けて、レビー小体型認知症患者やその家族への理解を促す内容です。

その一部を紹介します。

ロビン・ウィリアムズさんに出ていた症状

2013年10月の段階でロビンさんが訴えていた症状として、スーザンさんは以下をあげています。

・便秘 ・排尿困難 ・胸やけ ・寝不足と不眠症 ・嗅覚の消失 ・ストレス

また、内臓の不調を訴え、憩室炎の検査を受けたものの結局原因はわからなかったそうです。一見つながりのなさそうな症状は、いずれも出たり消えたりしていました。

冬になると妄想や記憶障害、ストレスで増えるホルモン「コルチゾール」の過剰分泌などの問題が出てきました。

スーザンさんは当時を振り返り、「彼を苦しめていたのが、その心や精神の弱さのせいじゃないって、わかっていたら」とコメントしています。

人気映画撮影中の出来事

2014年4月、ロビンさんは人気映画シリーズの第3作『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』の撮影のため、バンクーバーにいました。

その際に彼はパニック発作を起こし、薬を処方されています。しかしその薬は、レビー小体型認知症患者には症状を悪化させるものでした。

以前は長いセリフを舞台で披露していた彼ですが、バンクーバーでの撮影中は、短いセリフでさえ、覚えるのに苦労していたそうです。

そして得た答えは「パーキンソン病」

撮影が終わってからの彼は、正常な思考を失いつつあり、本人もそれを自覚していました。「脳を再起動させたい」と言っていたそうです。

そして再び医師の手で血液検査や尿検査、コルチゾールやリンパ節の検査が行われました。脳の画像検査も行われましたが、それは脳腫瘍を疑ったものでした。

結果から病名はすぐにわからなかったものの、3月28日に得た結論は「パーキンソン病」というものでした。

本人はアルツハイマー病などの認知症を疑っていたため、この診断には納得していなかったそうです。

なぜレビー小体型認知症と診断されなかったのか

レビー小体型認知症の症状は多岐に渡ります。また、記憶障害が症状の初期に出ないため、認知症だと気づかれにくい病気なのは確かです。 >>レビー小体型認知症とは 原因・症状・対応方法

しかし、何度も検査をしたのにもかかわらず、レビー小体型認知症だと気づかれなかったのはなぜなのでしょうか。

パーキンソン病の治療を始めたロビンさんは、薬の変更などによって症状がよくなることがありました。

また、うつ症状についても、以前ロビンさんはうつ病を患っていたため、関連しない症状もしくはパーキンソン病によるものだと考えられていたのです。

そしてもうひとつ、ロビンさんの口から語られなかった症状がありました。それは初期によく出るレビー小体型認知症の特徴的な症状、「幻覚」です。

ロビンさんは幻覚を見なかったのでしょうか? ロビンさんのカルテを見直した医師の多くは、「幻覚を見ていただろう」と答えています。つまり本人が幻覚を隠していた可能性が高いのです。

アルコール中毒やコカイン中毒で長年苦しんできたというロビン・ウィリアムズさん。幻覚があるとは、口に出せなかったのかもしれません。

最期の言葉

数々の症状が出ていたロビンさん。そのころには睡眠中に暴れる症状が出ていたため、スーザンさんは別の寝室で眠っていました。睡眠中に暴れる「レム睡眠行動障害」もレビー小体型認知症でよくみられる症状です。

ある週末、ロビンさんの体調はすこぶるよく、二人は久しぶりにデートのような時間を過ごしたといいます。日曜日の夜、ロビンさんはスーザンさんに「Goodnight, my love.(おやすみ、愛しい人)」と声をかけ、スーザンさんも同じ言葉を返しました。

それは特別なやり取りではなく、毎晩繰り返されていた言葉でした。その言葉が、スーザンさんが聞いた最期の言葉となったのです。

ロビンさんの死後

ロビンさんの死後、解剖によってレビー小体型認知症が明らかになりました。それからスーザンさんはレビー小体型認知症のことについて調べ、多くの医師と話をしたのだそうです。

そして現在は、脳や神経の病気の研究を支える財団法人「American Brain Foundation」の役員として活動をしています。

今回エッセイを公開した理由として、「これはとても個人的で、とても悲しく胸が張り裂けそうな話です。だけど打ち明けることで、生きている誰かが助けられることでしょう」と、スーザンさんは記しています。

誤診されやすい認知症

レビー小体型認知症は誤診されやすい認知症です。その症状の幅広さは、本人や家族を混乱させてしまうでしょう。

日本にはレビー小体型認知症についての啓もう活動や、臨床的・基礎的研究を行っている「レビー小体型認知症研究会」や、レビー小体型認知症の人やその介護家族、ケアスタッフなどと、交流会を通して情報交換する「レビー小体型認知症サポートネットワーク」があります。 >>家族や医師が交流し情報交換する「レビー小体型認知症サポートネットワーク」を知っていますか?

こういった活動を通して、一人でも多くの不安や悲劇が取り除かれるといいですね。