トヨタ自動車福祉車両インタビュー ウェルキャブ開発者インタビュー[PR]

前回に引き続き、インタビュー企画第2弾は、トヨタ自動車(株)の福祉車両開発に携わっている中川 茂様にお話をお聞かせ頂きました。

中川 茂

中川 茂 トヨタ自動車株式会社 CV Company CV製品企画 ZU 主査

―トヨタ自動車(株)の福祉車両(以下、ウェルキャブ)のコンセプトは何ですか?

中川(敬称略) ウェルキャブは「もっとやさしく、あなたのそばへ。」というコンセプトのもと、お身体の不自由な方や高齢の方はもちろん、介助する方にとっても快適・安全で使いやすいクルマであること、という考えで開発をしています。 また「福祉車両」という特別な位置付けではなく、日常的により使いやすく、長く使い続けていただけるよう、「普通のクルマ化」を進めています。

―普通のクルマ化とはどのようなことでしょうか?

中川 これは、福祉車両としてだけでなく、その機能を使用しない時、あるいは介護利用が終わった後でも普通の車として利用できるようにすることです。 このコンセプトは2014年に発売した「ヴォクシー」や「ノア」などの車いす仕様車(以下、スロープ車)から始めました。たとえば、従来のスロープ車で使いにくかった部分として挙げられるのは、バックドアを開けた時、スロープ板が邪魔で、車両後部にある荷物が取り出し辛いということでした。そこで、車いすをお使いの方の乗車がない時は、スロープ板を前に倒して荷物の出し入れをしやすくしました。また介護が終わって、福祉車両の目的で使わなくなった時に、普通のミニバンとして使えるようにしました。

―その他にも、機能の改良はあるのでしょうか?

中川 回転・昇降シートの改良です。2015年から販売している「ポルテ」と「スペイド」の回転チルトシートは、一般の駐車場での乗り降りをしやすくするために、車両の外へのシートのはみ出し量を少なくしました。従来のリフトアップシートは、車の左側に1.1mのスペースが必要でしたが、回転チルトシートは45㎝のスペースで乗降できます。また電動ではなく手動とすることで収納時間を短縮させ、雨が降っていてもお客様の身体やシートをできる限り濡れにくくすることに配慮をしています。

―車両開発はどのようにして行っているのでしょうか?

中川 車両を開発する際、利用者の方の生活全体を考えながら行っています。 利用者の方がどのような生活をし、どこに問題を抱えているか、それを解消するために何ができるかを考え、できる限り車両に反映させるように取り組んでいます。 例えば回転チルトシートでは、車外へのシートのはみ出し量が5㎝程度と普通の駐車場でも使えるようにした理由は、介護期間が比較的短い高齢者の家庭では、家のガレージを改造してまで福祉車両を使うということはないだろうと考えたからです。 そのためには、現場を見ることが大事だと考えています。車両を利用する方の生活を実際に拝見させて頂き、どこに課題があるのか、どのような点に苦労があるのかを自分自身の目で確認することで、目に見えて直面している課題だけでなく、ご本人が気づいていないような見えない部分の課題やニーズを探り、それを開発に活かすよう心がけています。

―開発するにあたり、どのようなことに気をつけているのでしょうか?

中川 現在、足腰の不自由な高齢者のいるご家庭への、福祉車両の普及率は1%程度しかありません。 これは福祉車両が福祉目的以外での利用ができにくい状況が、原因の一つではないかと考えています。そのため、介護が必要なときに便利な福祉車両が、介護が必要で無くなったときにどうするかということを重要視しています。これは先にお話したウェルキャブの「普通のクルマ化」に繋がる部分です。車は決して安い買い物ではないため、福祉車両としての役割を終えた後に、簡単に買い直すことは難しいと思います。そのため、その役割を終えた後でも、如何にして普通に使える車であるかということを常に考え、何ができるかを追求し、開発を行っています。

―これから福祉車両の購入を検討されるお客様に一言お願い致します。

中川 先ほど申し上げた通り、日本では高齢者が非常に多いにも関わらず、福祉車両が活躍しきれていないという現状があります。そのため、もっと福祉車両を知って頂き、たくさんの方に利用をして頂ければと思います。 特に回転チルトシートの機能は、杖などの歩行補助用具を利用されている方に使って欲しいと考えています。 歩行することが困難になると、外出することに制約がでてしまったり、億劫になったりしてしまいます。外出頻度が少なくなると、結果としてご本人の体力が落ちてしまうことも少なくありません。外出の頻度を増やすための道具の1つとして、福祉車両があるということを多くの方に知って頂き、更には利用して頂ける方が増ればと思っています。

ウェルキャブは決して特別なクルマではありません。普通の車に便利なオプションがついた車両であるという感覚で、もっと身近なクルマとして捉えて頂ければ嬉しいです。