初期の認知症と診断された母が、火事を起こさないかヒヤヒヤしています。

 
質問

質問者同居する母は初期の認知症ですが、今でも簡単な料理は作れます。でも最近、ガスコンロの火をつけたまま忘れることが増え、鍋を焦がしてしまったこともあります。そのときは私が気づいたので大丈夫でしたが、この先、火事を起こさないか心配です。良い対策方法があれば教えていただけないでしょうか。

 

専門家

認知症の人が在宅生活を送る中で「注意しなければならないこと」のひとつに、火の始末があります。

自宅で火災を起こしてしまうと自身の身の危険だけではなく近隣にも迷惑をかけることになり、近隣の方の不安も大きいでしょう。実際に認知症の方がコンロの火をつけたまま忘れていたり、タバコの火の不始末があり火災を起こすと言った事故は多くみられています。取り返しのつかない事故が起こらないよう、早めに対応をしておくことが大事です。

ここでは認知症の方への火災防止のための注意点や具体策について解説していきます。

火事に要注意!認知症の人の在宅生活

初期の認知症と診断された母が、火事を起こさないかヒヤヒヤしています。認知症の方の在宅生活にはさまざまなリスクがあります。認知症になると日常生活で些細なミスが増えやすくなり、大きな事故につながる可能性があるため注意が必要です。

認知症になると注意力が低下する

認知症には「記憶が維持できない病気」というイメージがありますが、注意力や判断力の低下もみられます。そのため、健康な人であれば「危ないから注意しよう」と判断できることが、認知症を発症すると難しくなります。

火の不始末による火事のリスクも

認知症の方の在宅生活で、特に注意したいのが火事のリスクです。もの忘れや注意力の低下は、ガスコンロ・ストーブの消し忘れなどの火の不始末を引き起こしかねません。軽度の認知症だとご自身で料理をする方もいますが、鍋を火にかけたまま出かけたり、袖に火が燃え移ってしまったりすることがあるため、症状が軽くても油断は禁物です。

家族の監督責任が問われる可能性がある

認知症の方の火の不始末が原因で火事を起こした場合、家族の監督責任が問われる可能性があります。実際、家族が外出している間に認知症の人が火事を起こした事例において、裁判所が家族の責任を認めた判例も見受けられます。火事は自宅のみならず、近隣にも延焼する可能性もあるため、早めにリスク対策を考えておくことが大切です。

火事のリスクを低下させる6つの対策ポイント

火事のリスクを低下させる6つの対策ポイント


認知症の方を在宅介護することになったら、火事のリスクを低下させる対策を講じましょう。ここでは6つのポイントをご紹介します。

まず、家の中を点検しよう

まず、家の中に火事の原因になりそうなものがないか点検してください。マッチやライターが手に取りやすい場所にある、暖房器具の近くに洗濯物やスプレー缶があるなど、火事のリスクは至るところにあります。認知症の方は思わぬ行動をとることがあるので、燃えやすいものは片付けましょう。

調理器具を見直す

認知症の方と同居する場合は、出火につながりやすい調理器具を見直すことをおすすめします。特に、火が出るガスコンロは火事のリスクを高めますから、自動消火するセンサー付きタイプや、電磁調理器(IHクッキングヒーター)に替えることを検討しましょう。

ガスコンロの元栓の位置を変え、元栓をいじるリスクを低下させるのも一案です。また、安全かつ簡単にお湯を沸かすために、電気ケトルを取り入れても良いでしょう。認知症の方は新しいことを覚えるのが難しいため、調理器具の変更を機に料理や火の取り扱いをしなくなる効果も期待できます。

ただし、もともと料理好きだった方にとって、料理ができなくなることは大きなストレスになるかもしれません。調理器具を変更する際は、ご本人の気持ちを汲みつつ、安全な調理環境を整えましょう。

暖房器具を見直す

調理器具と同様に、暖房器具を見直すことも大切です。暖房器具にはさまざまなタイプがありますが、特に危険なのは加熱部分が露出している電気ストーブや石油ストーブです。

冬場はストーブに何かが燃え移ることによる火事が増えますし、給油が必要な石油ストーブは油漏れによる発火のリスクも。そのため、ストーブは認知症の方がいるご家庭では避けたほうが良いでしょう。また、こたつも加熱部分が露出しているので注意が必要です。

火事になりにくい暖房器具は、エアコンやパネルヒーター、オイルヒーター、ホットカーペットなど。リフォームが必要になりますが、足元から部屋全体を暖められる床暖房も安心・安全でおすすめです。

ただし、パネルヒーターやオイルヒーターは安全性が高い暖房器具として知られていますが注意が必要です。ストーブより低リスクとはいえ、ヒーターで洗濯物を干したり、すぐ側に加熱しやすいものが置いてあったりすると出火する可能性があります。

また、コンセント周りに置いた物や、溜まったホコリが原因で出火することもあるため、暖房器具を変更すれば100%安全だと思わないようにしましょう。

難燃性のカーテン・カーペットに替える

衣類をはじめ、カーテンやカーペットなどの繊維製品は、いったん火がつくと一気に燃え広がってしまいます。最初は小さな火種でも、繊維製品に燃え移ると大きな火災につながってしまいますから、室内の繊維製品はなるべく減らしたほうが安心です。

もしくは、燃えにくい素材を使ったものに替えましょう。市販されているカーペットやカーテンの中には難燃性タイプもあるため、通常のものから変更すれば火事のリスクを低下させられます。また、パジャマやエプロンなどの衣類にも燃えにくい加工が施されたものがあります。

仏壇のロウソクや線香にも要注意

仏壇にお線香をあげることを日課とする高齢者は多いので、ロウソクや線香の取り扱いにも注意が必要です。仏壇内には燃えやすいものは置かず、ロウソクや線香が倒れても燃え広がらないようにしましょう。ロウソクや線香立ての下には、ガラス板などの不燃材を設置しておくと延焼を防ぎやすくなります。

また最近では、火を使わないロウソクや線香も市販されています。認知症になると注意力が低下するため、ロウソクに火をつけたまま外出したり、倒してしまったりするリスクが高まります。仏壇へのご挨拶は毎日のことですから、火を使わないタイプを選択肢に加えることをおすすめします。

火災報知器を設置する

万が一、出火してしまったときに備えて火災報知器を設置しましょう。認知症の方は予期せぬ行動をとることがあるため、上記のような対策を施しても完全に火事のリスクを防ぐのは難しい場合があります。ですが、火災報知器があれば、被害を最小限に抑えることができるでしょう。特に就寝中は火事に気づくのが遅れてしまいがちなので、火災報知器がない場合はすみやかに設置しましょう。

介護施設への入居も検討しよう

介護施設への入居も検討しよう


認知症によって火の不始末や危うい行動が増えてきたら、介護施設への入居も検討しましょう。

おおごとになる前に

基本的に認知症は進行する病気なので、在宅生活における火事のリスクは年月とともに高まります。今は大丈夫でも、来年もトラブルなく過ごせるとは限りません。ご家族だけで認知症の方を24時間つねに見守るのは困難ですから、火事や事故を起こす前に施設への入居も考えておきましょう。

困ったら地域包括支援センターに相談を

在宅介護で困ったことがあったら、お近くの地域包括支援センターに相談しましょう。地域包括支援センターには、ケアマネジャーや社会福祉士といった介護・高齢者福祉の専門知識がある職員が常駐。生活上のさまざまな相談に対応してくれます。適切な介護施設や介護サービスも紹介してもらえるので、積極的に利用することをおすすめします。

火事を起こす前に早めに対策しておこう

認知症になると記憶力や判断力などが低下し、日常生活でもミスが目立つようになります。些細なミスが火事につながることもあるため、認知症の方の在宅生活には十分に気をつける必要があります。

火事は命に関わる重大事故。延焼により近隣にも大きな被害を与えてしまうこともあるため、ご紹介したポイントを踏まえてしっかりと対策しましょう。また、在宅介護が難しくなったときに備え、介護施設への入居もあわせて検討しておくことをおすすめします。

 

監修者:寺岡純子

監修者:寺岡純子(てらおか じゅんこ)

主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。