3年に1度行われている介護保険制度の見直し。現在は2018年の改正に向けた議論が、厚生労働省の介護保険部会で進められています。
それを受けて当事者を中心とした団体の「認知症の人と家族の会」は、8月31日、厚生労働省に「認知症の人も家族も安心して暮らせるための要望書(2016 年版)」を提出しました。
「今、介護保険制度は重大な岐路に立たされています」と書かれた要望書では、介護保険の現在と今後について、どう記されているのでしょうか。内容を紹介したいと思います。
検討中の項目に反対の声
介護保険部会で議論されている次の項目について、要望が書かれています。
▼「実施しないこと」 ・要介護1,2の人の生活援助サービスの原則自己負担化 ・要介護1,2の通所介護サービスの地域支援事業への移行 ・要介護 2 までの福祉用具の貸与と住宅改修の原則自己負担化 ・高額介護サービス費の上限引き上げ ・65~74歳までの介護保険利用料の原則2割負担への引き上げ
認知症では要介護度が低く見積もられることが多いと言われています。そのため、現在議論されているような軽度者へのサービスの縮小が進むと、認知症当事者と家族の精神的・肉体的負担が増えると考えられます。
昨年の改正の見直しも求める
また、昨年行われた以下の改正について、見直しの声も上がっています。
・入居施設の低所得者対策(補足給付)の要件縮小 ・要支援の人の訪問や通所介護が介護保険から外れたこと ・一定収入(年金収入280万円など)以上の人の負担を2割へ引き上げ ・特別養護老人ホーム入所対象者を要介護3以上に限定すること
この4項目については、今年4月にも撤回を求める要望書を提出していました。 >>認知症の人と家族の会、昨年の介護保険制度改定の一部撤回を求めて要望書を提出
実現されたらうれしい要望も
同要望書には、遠距離介護者向けの割引が航空機ではあるのに、JRなどにはないことに触れ、「すべての交通機関で(介護者割引が)実施されるよう働きかけること」との一文もありました。
これは遠距離介護者にとっては、ぜひ実現してほしい要望だと言えそうです。
また、イギリスではじまり、日本でも京都で取り入れられている「リンクワーカー」を例に上げ、早期の認知症の人が、専門職や専門機関につながるシステム作りの重要性が訴えられています。 >>日本初の試み「認知症リンクワーカー」制度を開始-京都府
「認知症初期集中支援チーム」については、本来ならリンクワーカーのように、認知症が疑われる人を早急に介護や医療機関につなげる役割を持つはずが、十分に果たされていないことが指摘されました。 「本来の早期支援の役割を果たせるよう改善を図ること」とも書かれています。 >>認知症初期集中支援チームとは
要望書に書かれている内容は、地域支援事業や介護保険サービスの内容、家族の支援、若年性認知症、街づくりや環境整備など多岐にわたっています。
認知症の人と家族の会では、「残念ながら介護保険を含む日本の社会保障の歩みは、私たちの願う方向に進んでいるようには思えません」としたうえで、「誠意を持って実現のために取り組んでいただくように要望します」と、要望書に記載しています。
※この記事は2016年9月時点の情報で作成しています。