前回まで「イライラ怒鳴ってしまうときの対策」をご紹介してきました。今回は、イライラや感情が爆発した状態から抜け出せた実例を紹介したいと思います。
感情爆発することが減ったAさんのケース
認知症のお母さまを介護されて12年になるAさん。
「介護をはじめた当初は、落ち着いて対応できていたことが今はできなくなった」とのご相談でした。
お母様のおトイレでの失敗が増え、「頭では仕方ない、母のせいじゃないとわかっているのに、“なんでこんなことぐらいできないの!”って怒鳴ってしまう」
「一度怒鳴ると、何分でも怒鳴り続けてしまう自分が怖い」
「母を殺してしまうんじゃないか? 自分が怖い」
介護疲れと自分を責めるお気持ちで、心も体も悲鳴をあげている状態でした。
悩みが伝わらないのは「冷静でいなきゃいけない」が原因だった!
それまでも、地域包括支援センターやケアマネジャーに悩みを相談していたのですが、「自分の大変な状況がわかってもらえない」と感じていました。
Aさんとお話しをするなかで印象的だったのは、とても大変な状況にあるにもかかわらず、冷静で知的にお話しをされること。
また、お話しする中でわかったのが、 「泣いてしまったら、自分の伝えたいことが伝わらない!」 「ちゃんと伝わるように、冷静でいなきゃ」 そう感じて必死に冷静でいようとがんばっていらっしゃることでした。
つまり冷静でいなければならないとがんばった結果、Aさんの心のなかで起こっている「深刻な状況」が相手に伝わらなかったのです!
「ちゃんとしなきゃ」が感情爆発の原因だった!
冷静でいようとしたために、悩みが伝わらない状況だったAさん。さらにお話しを聞いていくと、感情爆発が起きる原因が見えてきました。
「イライラしないで、お母さんに優しくしなければ!」 「プライベートと仕事は、ちゃんとわけなきゃ!」 「どんな理由があっても、遅刻してはいけない! 職場に迷惑をかけてはいけない!」 「ケアマネさんに、わたしのことを相談するのは甘えだ!」
そう感じて、苦しい気持ちを飲み込む毎日。
「ちゃんとしなければ」と自分に厳しくするあまり、介護と仕事の両立で苦しんでいる状況を誰にも相談できず、自分を追い詰めていたのです。
Aさんにお願いした3つのこと
Aさんのお悩みに対して、3つのお願いをしました。
・怒り、苦しみ、辛さ、すべての気持ちをノートに書き出す
・感情が爆発してもいい!と自分を許可する。爆発したときには、呼吸を意識して自分が落ち着くのを待つ
・ケアマネジャーさんの前で泣く
このお願いをしたとき、Aさんは、 「辛い、苦しい感情を書き出すことで、書いているうちに怒りが爆発してそこから抜け出せなくなりませんか?」 「爆発していい! 思ったら、さらに暴力を振るってしまいそうで怖い!」 「ケアマネさんの前で泣くなんて、絶対にできません!」
新しい取り組みに対して不安に感じたり、できない!と抵抗感を抱いたりしながら、Aさんは
・自分の気持ちを書き出す「本音ノート」を作る ・怒りを爆発さてもいい!と毎日呪文を唱える ・感情が爆発したら、鼻呼吸をして自分が落ち着くのを待つ ・ケアマネさんの前で、「泣いてもいいかも」と自分に許可を出す
と、少しずつ取り組み始めました。
新しい挑戦で見えた変化
新しい取り組みをはじめたAさんから、1ヶ月もしないうちにうれしい報告がありました。
「辛い、苦しい、腹が立つ! 書き出すのが怖かったけれど、書き続けていたら泣くことができて、もやもやイライラ気分がすっきりするのを感じられました」
「怒ってもいい! 爆発してもいい! と自分を許可できたら、不思議と爆発する回数が減りました! 爆発しても呼吸を意識すればいいと知ったことで、安心感がぜんぜん違った!」
「怒りで気が狂いそうになったときも、鼻呼吸を数回するだけで、冷静な自分がどんどん戻ってくるのがわかりました。簡単なのに、すごい効果ですね!」
「ケアマネさんの前で泣くなんて絶対にできない!と思っていたけれど、この間、思わず涙が出ちゃって」
「支離滅裂な言葉になってしまったけれど、その後、ケアマネさんから『こんなサービスもありますよ』と、いろいろ声をかけてくれることが増えてびっくりです!」
「介護の大変さは変わらないけれど、ケアマネさんや周囲の人に、わかってもらえている安心感があると、辛さや大変さが軽くなることを実感しました」
1ヶ月前、冷静だけれど重たい空気を背負っていたAさんは、まぶしいほどの笑顔で、たくさんの変化を教えてくださりました。
介護疲れ、イライラ・感情爆発のときことチャンス!
介護殺人や心中事件の多くが、「ちゃんとしなければ!」、「がんばらなきゃ」とご自身を追い詰めた結果起こっています。 介護疲れを感じたとき、イライラ・感情爆発したときをチャンスと考えて、
●周囲の人に助けを求める時期がきている ●介護をする人が自分をいたわり、自分を大切にする時期にきている ことを思い出していただけるとうれしいです。
そして、感情を爆発させてしまったときには、 ・怒ってもいい、感情を爆発させてもいい ・ちゃんとしなくてもいい、できないことは助けてもらえばいい ・自分を優先していい。自分に優しくしていい と、ご自身をいたわる言葉を思い出してくださいね!
《執筆者:橋中今日子》 理学療法士・リハビリの専門家/心理カウンセラー
認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟の3人を介護。シングル介護歴は21年になる。
家族関係や人間関係に悩んだことから、心理学、コーチング、コミュニケーションスキルを学ぶ。
「介護者メンタルケア協会」を設立し、家族を介護している方、医療・介護の現場で働く方が「心が軽くなる」よう、心身両面からサポートする活動をしている。
【イライラ怒鳴ってしまうときの対策(全4回)】