アルツハイマー型認知症で多く見られる「取り繕い(とりつくろい)」について

アルツハイマー型認知症で多くみられる「取り繕い(とりつくろい)」行動とは

初期の認知症の方が行なう「取り繕い」。要介護者との関係を良好に保つため、認知症の早期発見や適切な医療ケアにつなげるためにも、正しく理解する必要があります。この記事では、介護者が知っておきたい取り繕い反応の例や確認方法、対応についてまとめました。ぜひご参考ください。

 

認知症の取り繕い反応とは

認知症における「取り繕い(とりつくろい)」とは

記憶障害のある認知症の方は、事実とは異なることを話したり、「誤魔化した」と受け取られるような回答をしてしまうことがあります。こうした行動は「取り繕い反応」と呼ばれています。特に取り繕い反応が現れやすいといわれているのが、初期のアルツハイマー型認知症の方です。

認知症の方は周囲の人を怒らせようとして取り繕っているわけではありません。しかし、間違いや失敗をごまかしているように受け取られてしまい、周囲の人をイラ立たせたり呆れさせたりしてしまいます。

また、取り繕いによって認知症に気づくのが遅れることもあるので注意が必要です。

なぜ取り繕うのか

取り繕い反応が出る理由は明らかになっていませんが、記憶障害が起こっても思考や判断力が損なわれにくいことが原因のひとつだと考えられています。自尊心を保ちたいという気持ちや周囲の空気を壊したくないという気持ちで、取り繕ってしまっているのかもしれません。

取り繕い反応に気づくポイント

認知症の取り繕い反応に気づくポイント

上手に取り繕いをされてしまうと、異変に気づけないこともあるでしょう。取り繕い反応に気づくためのポイントを紹介します。

取り繕い反応の例を知りましょう

認知症の取り繕い反応では、以下のような言動が現れます。

●「洗濯物が溜まっているけどどうしたの?」と言われた時

事実:洗濯をしたか覚えていない、または洗濯機の使い方がわからなかった

取り繕い反応:「嫁に物干し場に上がるなと言われた」と主張する

●ヘルパーに「お昼は何を食べましたか?」と聞かれた時

事実:ご飯を食べたか覚えていない

取り繕い反応:「もう食が細くなって」とはぐらかす

●「今日は何曜日ですか?」と質問された時

事実:何曜日か把握していない

取り繕い反応:「私は毎日が日曜日ですからね」と切り抜ける

 

このように取り繕いでは、記憶障害やもの忘れを人のせいにしたり、具体的ではない回答ではぐらかしたりといった行動が現れます。

振り向き動作が出ることも

取り繕いの例として、答えられない質問をされた時に家族の方を振り向いて話してもらおうとすることがあります。

例えば、近所の人から「先日は桃をありがとうございました」と言われたものの、その体験自体を忘れてしまった場合に、「あ~、あれは、ねえ」と隣にいる家族の顔を見て、話してもらおうとするといった反応です。

こうした一連の取り繕いによる言動の違和感に気づくためには、普段からのコミュニケーションが大切だといえるでしょう。

取り繕い反応の対応方法

取り繕い反応への対処方法

家族の取り繕い反応に気づいたら、どのように対応すればいいのでしょうか。

認知症当事者の気持ちを理解しましょう

記憶障害やもの忘れはあるものの、理解力や判断力がしっかりしている方の取り繕い反応は、介護をしている家族にとっては「嘘をつかれた」「約束を破られた」と感じられ、ストレスになってしまうことでしょう。

ただし本人には、誰かを困らせたり怒らせたりするつもりがないことがほとんどです。認知症の取り繕い反応には、本人が認知症であることを受け入れられない気持ちや、自尊心を保ちたいという気持ちが隠れていることを理解して、否定をしたり怒ったりすることは避けましょう。

なかなか難しいことだと思いますが、通所介護(デイサービス)などを利用して介護から離れる時間を作ったり家族会などに参加して介護仲間を見つけたりして、介護者が気持ちを切り替えることをお勧めします。

専門医を受診しましょう

家族の取り繕い反応に気づいたら、精神科、神経科、神経内科、物忘れ外来などの専門医を受診してください。その際には今までに気づいた異変の内容や頻度などをメモしておいて、医師に提示するようにするといいでしょう。認知症は早いうちから診断を受けて治療を開始することが大切です。

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まとめ

取り繕い反応は、初期のアルツハイマー型認知症で現れることの多い症状です。認知症は早いうちから治療を受けることで、進行の予防や症状の改善が期待できます。ただし、なかには症状を上手に取り繕ってしまうため、周囲の人が異変に気付くのが遅れてしまうことがあります。

記憶が抜け落ちていることをはぐらかしたり、人のせいにしたり、家族の方を振り向いて自分が答えないようにしたりなどの言動が見られます。「何かがおかしい」と気づくためにも、普段からコミュニケーションを取るようにしましょう。

異変に気づいたら専門医を受診しましょう。取り繕い反応に限らず、認知症の方に否定したり怒るのはNGです。簡単なことではありませんが、この記事で取り繕い反応を理解し、気持ちが楽になる方がひとりでも増えれば幸いです。

※この記事は2020年7月時点での情報を基に作成しています。

 

監修者:春田 萌

日本内科学会 総合内科専門医、日本老年医学会所属
15年目の内科医師です。大学病院、総合病院、クリニックでの勤務歴があります。訪問診療も経験しており、自宅や施設での介護についての様々な問題や解決策の知識もあります。