最近、認知症の母がトイレ以外の場所で排泄するようになってしまいました。認知症で物忘れが激しいとはいえ、トイレについては特に問題がなかったので変化に戸惑っています。もう自力でトイレに行くことは難しいのでしょうか。対処法などあれば、アドバイスをお願いします。
認知症が進行してくると、今までできていたことができなくなり、さまざまな症状が現れるようになります。それに伴い、周囲の人は対応の難しさを実感するようになるでしょう。
なかでも、排泄にまつわるトラブルは、衛生面や心理面においても特に悩みが大きくなりがちです。しかし、その行為の原因を知り、対応することでトラブルを解消できる場合もあります。また、排泄は羞恥心を伴う行為ですから、正しい排泄ケアの基本を知っておくことが大切です。
ここでは、認知症の人に多い排泄トラブルの事例やその原因、対処法を解説していきます。
負担が大きい認知症の排泄ケア
心身の負担が大きい認知症介護。認知症の方の身の回りのお世話は大変なことが多いですが、なかでも介護者を悩ませるのが排泄ケアです。
認知症になると、排泄にまつわるトラブルが起こりやすくなるため、介護の負担も増してしまいます。対処法を解説する前に、まずは排泄トラブルが起こりやすい背景や、排泄ケアの重要性を確認しましょう。
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認知症になると排泄トラブルが起こりやすい
認知症になると、記憶力だけではなく理解力・判断力も低下しやすくなります。排泄トラブルは、そのような認知機能の低下によって引き起こされることが多いです。
具体例は後述しますが、認知機能が衰えると「トイレの場所がわからない」「排泄行為自体が理解できない」といった状況になり、失禁や弄便(ろうべん)につながります。
また、加齢に伴う身体機能の低下も排泄トラブルの要因となる場合があります。高齢になると、筋力や体力などの衰えにより日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)が低下しやすく、トイレが間に合わなくなりやすいのです。
認知症介護における排泄ケアの重要性
ここで、トイレでの排泄ケアの基本手順をご紹介します。
- トイレに誘導する
- ズボンやパンツを脱ぐサポート
- 便座に座る介助
- 排泄が終わるまでトイレの外で待つ
- 排泄が終わったら合図してもらう
- 必要に応じて排泄後の清拭(せいしき)をサポート
- ズボンやパンツを穿くサポート
上記はトイレまで移動できる人の場合です。認知症の方にも羞恥心やプライドがあるため、必要以上のサポートはせず、プライバシーに配慮することが大切です。ご本人ができることも含めてすべて介助すると、尊厳が傷ついたり自立心が低下したりする可能性もあるため注意しましょう。
また、介護を担うご家族にとって、排泄ケアは特に負担が大きい仕事です。認知症が進み、排泄トラブルが増えてくると心身共に疲弊してしまいますから、適切な対処法を知り、がんばりすぎないようにしましょう。
原因・対処法は?認知症の方に見受けられる排泄トラブル
次に、認知症の方にみられる排泄トラブルの主なパターンと対処法をご紹介します。
トイレが間に合わない・失禁
認知機能が低下すると、以下のような状況から失禁につながることがあります。
- トイレに行くのを忘れる
- トイレに行きたいことをうまく伝えられない
- 動作が遅い
- 尿意や便意を感じにくくなる
失禁を防ぐには次のように対処しましょう。
- ご本人の排泄リズムに応じて定期的に声かけし、早めにトイレに誘導する
- トイレまでの経路やトイレ内に手すりを設置する
- トイレの表示をわかりやすくする
- 着脱しやすい衣服を選ぶ
介助が難しい夜間はオムツや紙パンツを利用するのもおすすめです。
トイレ以外の場所で排泄する
認知症の影響でトイレの場所がわからなくなったり、ほかの場所をトイレと誤認したりすると、廊下や浴室、玄関など思わぬ場所で排泄してしまうことがあります。
そのような場合は、以下のように対処してみてください。
- トイレまでの経路に誘導の貼り紙をする
- トイレの表示をわかりやすくする
- トイレのドアを少しだけ開けておく
- 定期的に声かけし、誘導する
貼り紙などは、ご本人がトイレだと認識できる言葉を使うようにしましょう。
オムツやパッドを嫌がる
オムツや尿とりパッドを嫌がり、取り外してしまうケースもあります。原因は、不快感や違和感、何のためのものか理解できない、などが考えられます。オムツをつけることに恥ずかしさや抵抗感がある人もいるでしょう。
対策としては以下の方法がおすすめです。
- 薄手のタイプに変えてみる
- オムツを嫌がる場合はパッドに、パッドを嫌がる場合はオムツに変えてみる
- 「オムツ」という言葉を使わず「使い捨てパンツ」などに言い換えてみる
- ご本人の排泄リズムを把握し、なるべくタイミングよく取り替える
トイレに行くのを拒否する
トイレに行くこと自体を嫌がるケースでは「トイレに誘導するタイミングが悪い」「排泄を見られるのが恥ずかしい」などの理由が考えられます。 トイレ拒否がみられる場合は以下のように対処しましょう。
- ご本人の排泄リズムを把握し、タイミングを計ってトイレに誘導する
- 声かけの際、周囲の人に気づかれないよう配慮する
- 排泄のときはトイレから一旦出る
排泄物をもてあそぶ
認知症が進むと、排泄物をもてあそぶ「弄便(ろうべん)」をする人もあります。「オムツの中に便がある感覚が不快」「便が何なのかわからない」などが理由として考えられますが、便を手に取り、壁や床になすりつけるなどの行動は介護者に大きな負荷をかけてしまいます。
弄便がみられるようになったら、以下のような対策を講じましょう。
- なるべくトイレで排便してもらう
- ご本人の排泄リズムを把握し、こまめにオムツを取り替える
- 汚されやすい場所に防水シートを敷く
- オムツの中に手が入らないよう、ミトンなどをはめてもらう
介護をする方の負担を減らすため、「便に触れない工夫」や「掃除しやすい工夫」を心がけてください。
排泄ケアの基本ポイントと心構え
排泄ケアを行なう際は、以下のポイントを意識しましょう。
プライドを傷つけない
先述の通り、認知症の方にも羞恥心やプライドがあるため、声かけや介助の際は自尊心を傷つけないよう気をつけましょう。排泄行為はとてもデリケートな部分なので、家族であってもサポートされるのは受け入れがたいことです。
失禁や弄便があると感情的になってしまうかもしれませんが、そこはグッとこらえて冷静に対処してください。
身体状態に合った排泄方法を選ぶ
排泄トラブルを防ぐには、適切な排泄方法を選ぶことも大切なポイントです。
歩行が困難だけれども座位が保てる方にはポータブルトイレが便利ですし、身体的に排泄をコントロールしにくい方にはオムツが適しています。足腰が弱く、トイレやポータブルトイレを利用するのが難しい場合は、寝たままでも排泄ができる尿器・便器を選択肢に加えましょう。
抱え込まずに専門家に相談しよう
排泄トラブルの対処に困ったら、ご家族だけで抱え込まずに介護の専門家に相談しましょう。自治体の相談窓口やケアマネジャーに相談すれば、介護の負担軽減につながる介護サービスを提案してもらえるはずです。
ご家族が疲弊する前に
認知症の方の排泄トラブルは多岐にわたり、直面したご家族の精神的なショックは大きいものです。失禁やトイレ拒否、弄便などをする背景には、ご本人なりの理由があるものの、排泄トラブルが長期にわたると介護をする方が疲弊してしまいます。
排泄トラブルがみられるようになったら、まずはご紹介した対処方法を試してみてください。それでも負担が軽減できず、状況が改善しない場合は、介護の専門家に相談することをおすすめします。
※この記事は2020年2月時点の情報で作成しています。
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主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。