高齢者がかかりやすい感染症とは

高齢になると加齢に伴い、感染症などの病気にかかりやすくなります。特に家族に高齢者がいると、なぜ高齢者は感染症にかかりやすくなるのか、感染症にはどのような種類があるのかなどが気になるのではないでしょうか。今回は、高齢者と感染症の関係や、高齢者がかかりやすい感染症の種類についてご紹介します。

高齢者が感染症にかかりやすい理由

高齢者が感染症にかかりやすい理

高齢者が感染症にかかりやすい理由には加齢と免疫力が関係しています。免疫で大きな役割を果たしているのは骨髄の造血幹細胞が分化することによって作られるT細胞とB細胞です。ところが、加齢に伴い骨髄が老化したり、T細胞や分化する胸腺が萎縮したりすることによって、これらの機能が低下して、免疫力が弱まり、感染症にかかりやすくなります。

また、自然免疫系であるNK細胞、マクロファージ、好中球の機能も低下するため、免疫力が弱まると考えられます。例えば、若いころと比べて高齢になると傷が治りにくいということを経験される方も多いかと思いますがこれはこの免疫系が関係しているという例になります。

高齢者がかかりやすい感染症

ここからは高齢者がかかりやすい感染症についてご紹介します。

インフルエンザ

インフルエンザは高齢者でなくても聞いたことがある、かかったことがあるという方は多いのではないでしょうか。インフルエンザとはインフルエンザウイルスの感染によって起こる感染症です。毎年11月下旬から12月上旬頃に流行が始まり、翌年の1~3月頃にかけて患者数が増加、4~5月にかけて減少する傾向にあります。こういった状況から、冬にかかりやすいのだから冬場だけ気を付けていれば良いと考える方も少なくありません。

ですが、インフルエンザは夏にも流行することがあるため、年間を通じて注意しておくことが必要です。インフルエンザは1~3日の潜伏期間を経て発症します。症状は38℃以上の高熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現われます。続いて咳、鼻汁などの上気道炎症状が見られ、約1週間ほどで軽快します。いわゆる一般的な風邪に比べて全身症状が強いという特徴があります。また、インフルエンザのワクチンを接種している方の場合は熱があまり上がらないという特徴もあります。

若い方であれば、前述したように1週間ほどで軽快しますが、高齢者の場合症状が長引いたり、重篤な合併症を引き起こして場合によっては入院となったり死に至ったりすることもあります。特に高齢であることに加えて呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患がある場合、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下する疾患にかかっている場合においては、これらの疾患が悪化して二次的な細菌感染症を起こしやすくなることが知られています。

感染性胃腸炎

感染性胃腸炎はさまざまなウイルスの感染によって起こる胃腸炎を包括した呼び方です。感染性胃腸炎となる感染源は細菌性のものでは腸炎ビブリオ、病原性大腸菌(腸管出血性大腸菌)、サルモネラ、カンピロバクタなどが挙げられます。

また、ウイルス性のものではロタウイルス、腸管アデノウイルス、ノロウイルスなどのウイルスが感染源となります。さらに寄生虫ではクリプトスポリジウムや、アメーバ、ランブル鞭毛虫などがあげられますが、一般的にはロタウイルスによる感染性胃腸炎が多く報告されています。

症状は発熱、下痢、悪心、嘔吐、腹痛が一般的ですがこの症状は感染した細菌やウイルスによっては出ない症状があったり、他の症状が出てきたりすることもあります。例えば細菌性の胃腸炎では多くの場合血便が見られますし、腸管出血性大腸菌においては発熱はなく強い腹痛が見られます。ですが、下痢の症状は原因が何であっても確実に出現します。

高齢者など抵抗力が弱い方においては重症化することがあり、脱水、けいれん、意識消失、誤嚥性肺炎などの合併症を引き起こすこともあります。

RSウィルス

RSウイルス感染症はいわゆる「風邪」の原因となる一般的な感染症のため成人の場合は重症化することなく軽微な症状のみで警戒しないことが多いです。しかし、慢性呼吸器疾患や心疾患等の基礎疾患がある場合の感染においては入院が必要となることもあり、特に肺炎にまで至った場合は死亡する確率がインフルエンザに匹敵するほど高まるといわれています。

RSウイルスの症状は鼻水、発熱、咳といった一般的な風邪症状です。RSウイルスが気道にまで入り込むと、下気道炎や細気管支炎、肺炎に至ることもあります。  

痂皮型疥癬(かひがたかいせん)

痂皮型疥癬は角化型疥癬ともいわれ、疥癬の一種となります。疥癬とはヒトヒゼンダニが皮膚の最外層である角質層に寄生することによって症状が出現する感染症です。特にこの痂皮型疥癬は100万〜200万と多数のダニが寄生することが特徴で、免疫力が低下する高齢者に感染者が多く、感染力も強いことが特徴です。

主な症状は夜間に特に起こる激しい痒み、厚い角質の増加です。症状が出るのは手・足、臀部、肘頭部、膝蓋など摩擦を受けやすい部分に多くみられますが、そのほかに一般的な疥癬では見られない頭や耳、首などを含む全身にも見られます。

高齢者の場合は痒みの訴えが少ないということが特徴です。感染力が強く、高齢者でなくても感染する可能性があります。接触により感染するため皮膚に触れることによって感染します。そのため、高齢者に感染が確認された場合その同居する家族も検査を受けることが必要になる場合もあります。痂皮型疥癬では細菌性の二次感染および腎不全などを併発することがあるため致死的になることもあります。

結核

結核とは結核菌の感染によって発症する感染症です。結核と聞くと肺に感染するイメージが多いかと思いますが、結核菌の感染する場所は8割が肺で、他にも腎臓、リンパ節、骨、脳など体のあらゆる部分に影響を及ぼします。結核菌が肺に感染した場合、まず肺に炎症を起こし肺炎のような状態になります。そして徐々に肺が破壊されていきます。

結核はまず咳、微熱といった風邪症状と似た症状が長い期間続きます。これに加えて体重減少、食欲減退、寝汗をかくといった症状も見られます。さらに症状が進行すると、倦怠感、息切れ、血痰などがでてきます。その後喀血や呼吸困難で死に至ることもあります。結核は高齢者に多い病気で結核患者の約半数が高齢者であるといわれています。その理由としては結核が蔓延していた時代に生まれ生きていたため、結核にかかったことがあり、その結核が一度治ったものの加齢に伴い免疫力が低下したため再燃してしまったということが挙げられます。

前述したように加齢に伴いT細胞機能の質的・量的な低下が結核に対する抵抗性を減弱させていると考えられています。高齢者の結核は、前期高齢者の場合は生活習慣病を、後期高齢者の場合は合併症によって活動度低下をきたし、寝たきりとなる傾向が多くみられます。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA)

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(以後MRSA)とは、メチシリンなどのペニシリン剤、β-ラクタム剤、アミノ配糖体剤、マクロライド剤などの多くの種類の薬剤に耐性を示す黄色ブドウ球菌による感染症のことを言います。

そもそも黄色ブドウ球菌はヒトや動物の皮膚、消化管内などの体の表面に常在する菌で、通常は無害となります。ですが、皮膚にキズができて化膿したり、湿疹ができたり、毛穴に炎症を起こしたり、いわゆる「おでき」ができるなどさまざまな原因によって皮膚から体内に菌が入り込み、肺炎、腹膜炎、敗血症、髄膜炎などの重症感染症の原因となる病気です。

さらに、エンテロトキシンやTSST‐1などの毒素を産生するため、食中毒やトキシックショック症候群、腸炎などの原因となることもあります。MRSAの病原性は通常の黄色ブドウ球菌と比較して特に強いわけではないため、一般の成人には無害な菌ですが、抵抗力の弱っている高齢者にとっては感染のリスクがあります。

例えば手術をした後に手術の傷口からMRSAの感染が確認されるということもあります。また、高齢者は治療に使用する抗菌薬がなかなか効かず重症化するという例も少なくありません。

緑膿菌感染症

緑膿菌感染症は日和見感染症の一種です。日和見感染症とは普段ならば病原性を発揮しないような病気に抵抗力が弱まっていることによって発症してしまうことを言い、緑膿菌も抵抗力が弱まっていることによって発症します。そのため高齢者がかかりやすい感染症にもなっています。抗菌薬に対して耐性をきたしてしまうため治療が困難となるという側面があります。

家族ができる感染症予防

高齢者がかかりうるさまざまな感染症についてご紹介しました。高齢者が感染症にかからないように家族ができることはあるのでしょうか。これには大きく分けて2つの方法があります。

・感染経路の遮断する

感染経路を遮断する事がまずは第一です。高齢者だけでなく同居家族も手洗いうがいを励行しましょう。手洗いは石鹸で行い、感染症が蔓延する時期にはアルコールなどの手指消毒も併せて行いましょう。また手洗いと並行して保湿も必要です。頻繁な手洗いや消毒剤の使用によって手が乾燥するとそこから黄色ブドウ球菌が入り込みやすいと考えられています。

そのため手洗いとセットでハンドクリームを使用することはおすすめです。他にも感染症の蔓延している時期には外出時にマスクを着用する、人混みにいかないというのも対策になります。

さらに高齢者においておすすめしたいのがオーラルケアです。口腔内を清潔にすることによって呼吸器感染症を防ぎ全身の感染症にかかるリスクを低下させることが分かっています。食後の歯磨きや口腔内の保湿も日常的に行いましょう。

・免疫力をつける

免疫力をつけることでかかりにくくなる感染症もあります。しっかりと栄養を摂る、休息時間を確保する、適度な運動をすることは非常に大切です。また、ストレスも免疫力を低下させる原因とされていますのでストレス発散も適宜していくようにしましょう。

感染症によっては予防接種を行うことで感染を予防することができるものもあります。インフルエンザにおいては高齢者は予防接種法に基づく定期のインフルエンザ予防接種の対象となりますので、活用するのもよいでしょう。

まとめ

高齢者は、通常の成人の場合発症することはほぼないような感染症にもかかるリスクがあります。そのため、日頃から積極的に感染症を予防していくことが必要となります。体調が悪そうに見えた場合や、いつもと違うと感じた場合にはなるべく早めに医療機関にかかり診察をしてもらうことをおすすめします。

高齢者がかかりやすい感染症はさまざまな種類があり、高齢者だからこそかかりやすい理由もあります。この記事を読んで高齢者のかかりやすい感染症が分かった、家庭や友人間において感染症について話し合うきっかけになったという方は、さらにシェアをしていただき多くの方に情報を拡散していただければ幸いです。

※この記事は2019年9月時点の情報で作成しています。

監修者:春田 萌

日本内科学会 総合内科専門医、日本老年医学会所属
15年目の内科医師です。大学病院、総合病院、クリニックでの勤務歴があります。訪問診療も経験しており、自宅や施設での介護についての様々な問題や解決策の知識もあります。