「要介護認定調査」の注意点や事前準備は

介護保険制度を利用して介護サービスを利用するためには、要介護認定を受け、「要支援」か「要介護」と判定される必要があります。しかし、要介護認定調査の結果、思ったとおりの判定が出ないといった声も聞かれます。どうしたら正しく判定されるのでしょうか。正しく判定されるための事前準備のしかたやポイントをまとめてみました。

「要介護認定調査」の注意点や事前準備は

要介護認定調査の事前準備

申請から判定までの流れ

 まず、要介護認定を受けるための申請から判定までの流れを見てみましょう。 市区町村の窓口や地域包括支援センターなどに要介護認定の申請をすると、1~2週間ほどで市区町村などから委託を受けた認定調査員が自宅や入院先などに訪問し、全国一律の「認定調査票」を手に調査を行います。市区町村などは、それと並行して主治医に意見書の作成を依頼します。そして、認定調査票と主治医の意見書をもとに、コンピューターによる推計で「一次判定」をします。

 その後、医療・保健・福祉の専門家が集まる介護認定審査会が開かれ、「二次判定」が行われます。それをもとに、要支援2段階・要介護5段階のいずれかを認定し、居住地の自治体の状況により、申請日から1か月程度で結果が通知されます。

 この一連の流れのなかで大事になるのが、最初に行われる認定調査員による調査です。主治医の意見書は通常はかかりつけ医が行うため、本人や家族ができることは限られています。しかし、認定調査員の調査は本人や家族の準備次第によって評価も大きく変わり、二次判定もこの調査結果が判定材料の1つとなっているので、とても重要になります。

要介護認定調査の当日の流れ

 調査員は、市区町村から委託を受けたケアマネジャー(介護支援専門員)が行います。介護認定の最初のステップで基本となる情報収集なので、調査項目に漏れがないように、認定調査票を手にして質問をします。介護保険を受ける本人および家族への質問のほか、本人に動いてもらって動作確認などもします。認定調査票で表現できない部分に関しては、調査員の判断で「特記事項」が記されます。調査は通常、30分~1時間ほど行われます。

訪問認定調査の聞き取り項目

 調査員の質問は次の74項目あります。

 

身体機能・起居動作

麻痺(5)、拘縮(4)、寝返り、起き上がり、座位保持、両足での立位、歩行、立ち上がり、片足での立位、洗身、つめ切り、視力、聴力

生活機能

移乗、移動、えん下、食事摂取、排尿、口腔清潔、洗顔、整髪、上衣の着脱、ズボン等の着脱、外出頻度

認知機能

意思の伝達、毎日の日課を理解、生年月日を言う、短期記憶、自分の名前を言う、今の季節を理解、場所の理解、徘徊、外出して戻れない

精神・行動障害

被害的、作話、感情が不安定、昼夜逆転、同じ話をする、大声を出す、介護に抵抗、落ち着きなし、1人で出たがる、収集癖、物が衣類を壊す、ひどい物忘れ、独り言・独り笑い、自分勝手に行動する、話がまとまらない

社会生活への適応

薬の内服、金銭管理、日常の意思決定、集団の不適応、買い物、簡単な調理

その他

過去14日に受けた特別な医療(12)

質問内容を確認

 認定調査員は「認定調査票」を手に質問をしていきますが、注目すべきは、質問内容が幅広いことです。内容の一部を次に紹介します。

寝返りについて

1.つかまらないでできる 2.何かにつかまればできる 3.できない

座位保持について

1.できる 2.自分の手で支えればできる 3.支えてもらえればできる 4.できない

歩行について

1.つかまらないでできる 2.何かにつかまればできる 3.できない

食事摂取について

1.介助されていない 2.見守り等 3.一部介助 4.全介助

外出頻度について

1.週1回以上 2.月2回以上 3.月1回未満

 質問の内容を見てわかるのは、調査するのは「できる」「できない」の2択だけではないということです。寝返りと歩行では「何かにつかまらないでできる」があり、座位保持では、「自分の手で支えればできる」「支えてもらえればできる」があります。  

また、食事摂取でも、「介助なし」「介助あり」だけでなく、「見守り等」「一部介助」などがあります。外出頻度も「週1回」「月2回以上」「月1回未満」と、「外出できる」「できない」の質問ではなく、より詳細な内容を聞き取ろうとします。

 そのため、こうした細かい情報を正しく伝えることができないと、実際の状態と違った判定が出てしまう可能性があります。本人が調査員にうまく伝えることができないこともあるため、できるだけ日々介護している家族などが付き添うようにしましょう。

こんなことに注意しよう

ふだんの様子をメモしておく

 調査員に詳細な情報を伝えるためには、事前に何がどこまでできるのかをふだんからメモしておくことをお勧めします。「できる」「できない」だけでなく、介助があればできるのか、その介助はどの程度なのかを書いていきましょう。

 また、質問は数多くあるため、事前に質問を把握しておくことも必要です。表のように「立ち上がり」「つめ切り」「視力」「聴力」「えん下」「洗顔」など、多岐にわたりますので、質問項目1つひとつに答えられるようにメモをしておきましょう。

病気やケガの履歴もメモしておく

 要介護認定の判定には主治医の意見書も判断材料の1つですが、かかりつけ医ともいえども、すべての既往症を把握していないこともあります。内科だけでなく、耳鼻咽喉科、皮膚科、外科など、これまでにかかった病気やケガの履歴も残しておき、調査員が来たときに渡しましょう。

 また、かかりつけ医がいない場合は、市町村の指定医が診察することになりますが、その場合、さらに既往症などの把握が難しいため、より多くの病気の履歴を渡す必要があります。

動画を撮影しておく

 調査に来たときに、実際に本人に動いて動作を確認してもらうことがあります。その際、ふだんできないことができたりすることがあります。また、昼間はおとなしいのに、夜になると徘徊しいたりすることもあるため、動画でそうした様子を撮影しておき、調査の際に見せることも一考しましょう。

遠慮せずに困っていることはありのままに伝える

 本人や家族が調査員に対する姿勢として一番大事なのは、遠慮せずにありのままを伝えることです。よく見せようとしたり、逆に悪く見せようとするのではなく、調査時点での状態をストレートに伝えましょう。

認定の結果に納得できない場合は

 認定結果に納得できないときは、まずは市区町村に相談してみましょう。それでも不服であれば、都道府県に設置されている「介護保険審査会」に不服申し立てをすることができます。

 また、これとは別に「区分変更の申請」という方法もあります。これは本来は本人の状態が悪化するなどして変化があった場合に行うものですが、不服があった場合にも、この方法が用いられることがよくあります。

認定の期限

 認定結果は有効期限があり、新規であれば6か月、更新の場合は原則として12カ月(状態により最長48カ月*)です。更新する場合は再度申請する必要があり、期間満了日の前日から60日前から満了日までに申請しなければなりません。申請すると調査員が来て再度本人の状態を調査して判定が出ます。

*2021年4月から

まとめ

 介護保険制度を利用する場合、要介護認定調査は避けてとおれません。判定結果によっては、本人が十分なサービスを受けられなかったり、介護者の負担が増えることもあります。しっかりと事前準備をして、正しい判定が出るようにしておきましょう。

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※この記事は2021年3月時点の情報で作成しています。

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監修者:下 正宗
監修: 下 正宗(しも まさむね)

東葛病院臨床検査科科長。1984年広島大学医学部卒。 認定病理医、臨床検査専門医、プライマリケア指導医。『最新 目で見る介護のしかた全ガイド』『家庭でできるリハビリとマッサージ』『介護用語ハンドブック』(成美堂出版)、『絵を見てわかる認知症の予防と介護』(法研)、『体位変換・移動・リハビリの介助』(桐書房)、『身近な人の上手な在宅介護のしかたがわかる本』(自由国民社)など、著作・監修多数。