介護用食器の種類
器をしっかり持つ、箸を上手に扱う、落とさずに口まで運ぶ、こぼさずに飲みものを飲む、これらが難しくなってきたときが介護用食器への替えどきです。失敗を叱ることが増える前に替えることをおすすめします。
介護用食器の種類は、大きく分けて3つあります。器と道具、そして飲むための容器です。
器で工夫されているポイント
見えやすさ
介護用食器の色ははっきり見えやすい濃い色のものがおすすめです。ごはん用、メインのおかず用、小鉢用などがそれぞれ色分けされているとさらに使いやすいですね。色分けされていれば介護者から指示しやすくなります。
ひとつ注意したいのは器の内側の色です。白いものはご飯が見えにくく、まだ残っているのに見えていないことがよくあります。また見えにくさから上手にすくえず使用者がいらいらするということも起こりがちです。
持ちやすさ
手に合った大きさで軽いものになるよう、少し小さめになっています。また持つ面にすべりにくい素材が使われています。手指の乾燥と力の衰えで落としやすくなっているので、持ちやすさは大事なポイントです。
また、たとえば汁椀で、つかんでいる手を押さえ込むような取っ手がついたものがあります。使用者にとって安心できるデザインになっています。
器の動きにくさ
器を持ち上げずにテーブルに置いたまま食べることが多い場合は、食べ物をすくったときに動かないような工夫が必要です。底や土台を厚くした低重心設計やすべり止め加工などのちょっとした工夫で、器の安定度は変わります。
すくいやすさ
食べ物がなかなかすくえないことは使用者をイライラさせます。すくおうと必死で繰り返しているうちに食べ物をこぼしたり、器をひっくり返したりということが起こります。すくいやすさは失敗を招かないために非常に大切です。
食べ物が見えやすいように広く、そして斜めになったもの、スプーンをひっかける縁や角、くぼみなどをつけ食べ物を集めやすくしたもの、スプーンが引き上げやすいよう側面がほぼ垂直になったものがあります。
道具で工夫されているポイント
箸
はさむ力を補助する軽いバネがついた箸があります。2本をつなげるこのバネは1本を落とさないためにもよい工夫です。他にもはさみやすい太さ、すべり落ちにくい凹凸などの工夫もされています。
箸はできるだけ使ってほしいものです。当たり前だったこと継続してできることは精神的な自信につながりやすく、実際にも箸を使い続けることにこだわる人は多いのです。
スプーン
箸が使いづらくなってくるとスプーンの登場回数は多くなりますね。種類は多いですが、どれも柔らかすぎと思う人もいるかもしれません。が、口が広く開けられなくなり、当たったときのことを考えての柔らかさです。
すくう部分の形状は長め、細め、幅広などさまざまあります。浅いものは途中で落としやすく、深いものは口に入れても全てしっかり取りきるのが難しくなりますね。
柔らかが適度か、口まで運ぶときに落とさないか、きれいに食べられるか、で大きさや深さを決めてください。
飲むための容器で工夫されているポイント
何度もこぼすようになった場合、まずストローを使います。細いものは吸い上げる力が弱くても使えますが、細すぎるとスープ状のものはうまく吸えません。太さや長さなど使用者に合わせて考えます。
ストローを入れてもこぼすようになったら飲むための容器を使います。ふたがありストローがついたものです。吸い上げ力が極端に弱い場合は水鉄砲の原理で飲み物を押し出すものもあります。
できるだけ自立して飲めるよう形が工夫されたものもいいですね。にぎって持てる形でストローのついたふたつき容器のものは、使用者が自分で何度も自由に飲めるのでおすすめです。
水分をとることは非常に大事ですから、コップで飲むことが難しくなった場合は早めに使いやすい介護用食器にするとよいでしょう。介護者の負担も減ります。薬を混ぜて飲んでもらうこともあり使う機会は多いでしょう。
介護用食器の選び方
ここまでで介護用食器を種類に分け、工夫されている点についてご説明しました。それぞれの介護用食器の特徴から、使用者の自立を妨げないものを選んでください。その他の選び方のポイントをお伝えします。
見た目も大切に
介護用食器も、使いやすさだけを重視したものもあれば、使いやすさは多少劣っていても普通の食器と変わらないほど美しいものもあります。もちろんリューマチなどで片手が使えないときは使いやすさが一番ですね。
高齢者にとって食事は何よりの楽しみですし、食べることへの意欲を保ち続けることは大切です。自立生活を長くしてもらうためにも安易に便利さだけの介護用食器にせず、美しいものを選ぶことにも気を配りましょう。
丈夫さ、手入れのしやすさを考える
落とすことが何度もある、殺菌のために煮沸消毒することもある、介護の忙しさの中で食器洗浄機を使う可能性が高いなどを考えて、丈夫な介護用食器であることも大切です。熱や衝撃に強いものを選んでください。
>>介護用スプーンの種類と選び方
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【この記事の監修者】
中村 静江(なかむら しずえ) /訪問看護ステーションとんぼ
1998年理学療法士資格取得後、永生病院リハビリテーション科に勤務。病棟勤務を経て、訪問リハビリテーションおよびデイケア業務に携わる。2014年国際医療福祉大学大学院にて福祉援助工学分野修士課程を修了し、現在は福祉用具プランナー管理指導者として、福祉用具プランナー研修などの場で講師活動も行う。