介護にいくらかかるか【介護とお金の気になること】

 

介護とお金の気になる事


介護の現状とお金の問題に詳しい、「特定非営利活動法人 くらしとお金の学校」のファイナンシャル・プランナー等の方々に、介護にまつわるお金の問題について書いていただきました。

 

執筆:ファイナンシャル・プランナー 池田 龍也

介護にいくらかかったか

介護にいくらかかったか、生命保険文化センターが介護した経験をもつ人を対象に行った調査によると、介護保険サービスの自己負担分も含めて介護に使った費用は、

▽住宅改修や介護用ベッドの購入などの一時費用の合計が平均80万円
▽月々の費用が平均7.9万円
でした。期間については、

▽介護を行った期間は平均59.1カ月(4年11カ月)
です。
(出典:(公財)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(平成27年度)より)

介護期間にかかった平均費用は単純計算すると、初期費用80万円に加えて、月7.9万円×59.1カ月=466.9万円となります。決して少ない額ではありません。

介護にいくらかけられるのか

介護保険のことを考える時、国の財源、予算がよく議論になりますが、では家計から見た場合、財源、予算はどうなのか。高齢者の家計が、費用面での大きな負担に耐えられるのかどうか、ということです。実態はどうなっているのでしょうか。
高齢者世帯の負担力という観点でみてみます。内閣府が毎年発行している「高齢社会白書」(平成28年度版)によると、公的年金(恩給も含む)をもらっている高齢者の世帯で、収入に占める公的年金の割合が、

①100%の世帯   56.7%
②80%~100%未満   11.4%
③60%~80%未満   12.0%
となっています。

①は年金だけで生活しているということです。年金だけが頼りという世帯が半数以上にのぼるということです。年金収入が収入全体の80%以上の世帯ということになると、①と②をあわせて、68.1%。なんとざっと7割が、年金に多くを頼って生活していることがわかります。

<高齢者世帯における公的年金・恩給の総所得 に占める割合別世帯数 の構成割合>

内閣府「高齢社会白書」(平成28年度版)

出典:内閣府「高齢社会白書」(平成28年度版)より

同じく内閣府のまとめですが、高齢者世帯の平均所得は、一世帯当たり年間300.5万円で、そのうち働いて稼ぐ稼働所得が55.0万円、公的年金203.3万円、ということで、年金収入を中心とした家計の中から介護費用の負担を賄うのがかなり大きな負担となることは否めません。そういった家計の収支構造の中から、介護費用がどれくらいの負担になるかを知っておくのは大切なことです。
(内閣府「高齢社会白書」(平成28年度版)より)

実際の介護サービス利用の費用

まず、在宅でサービスを利用する場合の仕組みを簡単におさらいしますと、介護認定の申請をして要介護度の認定を受けます。要介護度のレベルに応じて使える金額の上限が決められているので、それを踏まえてケアマネージャーがケアプランを作ってくれます。
ケアプランとはその人の状況によって、どのようなサービスを受けるのがいいのか、家族の状況も踏まえながら、生活を支えるサービスのメニューをつくるというイメージです。
ではどのようなサービスがあるのかというと、大きく分けて3つです。

①自宅でサービスを受ける
②基本は自宅での生活だが施設にも日帰りで通う
③基本は自宅での生活だが施設にも泊まる
それぞれ、主なサービスは、以下の通りです。

①には
訪問介護
訪問入浴介護
訪問看護
訪問リハビリ
夜間対応型訪問介護
定期巡回・随時対応型訪問介護看護

②には
通所介護(デイサービス)
通所リハビリ(デイケア)
地域密着型通所介護
療養通所介護
認知症対応型通所介護

③には
短期入所生活介護(ショートステイ)
短期入所療養介護(ショートステイ)

そしてそれぞれのサービスに単価が決められていて、ケアプランに基づいて、それらを組み合わせて、サービスを受けるという仕組みです。
それぞれのサービスの単価は、基本料が決められていますが、サービスの内容、地域によって、一定の計算式で料率をかけていく形になっています。ですから同じサービスでも、実際の利用者の負担額は全国一律ではありません。
その辺を全部省略して、まずは「いくらかかるか」という視点で話を進めます。以降、紹介する金額は基本料の自己負担分です(自己負担が1割の場合)。
例えば、

▼訪問介護
 身体介護(食事、入浴、トイレなど)
  30分以上1時間未満で   388円
  1時間以上1時間半未満   564円
 生活援助(買い物、調理など)
  20分以上45分未満        183円
  45分以上           225円
▼訪問入浴介護
  1回につき         1,234円
▼訪問看護
  30分未満           463円
  30分以上1時間未満      814円

などそれぞれのサービスにきめ細かく時間単位などで金額が決められています。(金額は2016年現在、1単位=10円で計算)

介護サービスの利用限度額

また要介護度によってサービスの利用限度枠も決められています。要介護度が上がるにつれて、利用限度額も増えていく仕組みですが、いくら保険制度でも、財源には限りがあるので、無尽蔵に使える訳ではありません。

<自宅でのサービスの利用限度額(ひと月あたり)>

要介護 自己負担額(基本料金で1割負担の場合)
要支援1 5,003円
要支援2 10,473円
要介護1 16,692円
要介護2 19,616円
要介護3 26,931円
要介護4 30,806円
要介護5 36,065円

※2016年現在、1単位=10円で計算

つまりこの表で例えば要介護1の場合だと、ひと月あたり、自己負担分で16,692円までのサービスは、介護保険の対象となり、自己負担分は費用全体の1割、残りの9割分は介護保険から支払いますという訳です。本来は166,920円かかっているのですが、自己負担分は1割です。ただ、総額がこの額を越えると、すべて自己負担となる点が要注意です。

実際の介護サービス利用のケーススタディー

では具体的にサービスを受けた場合、どのような費用になるのか、例を見ながら計算してみます。

ケーススタディー①

要介護2で食事やトイレで手助けが必要な場合。月曜日から金曜日までは、訪問介護と通所介護を利用し、土日は家族が介護する。

<曜日ごとの利用するサービス>

曜日 利用するサービス内容
訪問介護
身体介護(食事、入浴、トイレなど)と生活援助(買い物、調理など)
通所介護(デイサービス)
訪問介護
身体介護(食事、入浴、トイレなど)と生活援助(買い物、調理など)
通所介護(デイサービス)
訪問介護
身体介護(食事、入浴、トイレなど)と生活援助(買い物、調理など)
家族が介護
家族が介護

<かかる費用=自己負担分>

ケース1

要介護2の人の利用限度額は19,616円なので、限度内におさまっています。通所介護(デイサービス)の際の食費や医療費、紙おむつ代は別にかかります。

ケーススタディー②

要介護3で足腰の状態が悪く、歩行器と車椅子を利用している。生活援助と通所介護を組み合わせ、土日も利用する。

<曜日ごとの利用するサービス>

曜日 利用するサービス内容
訪問介護
生活援助(買い物、調理など)45分以上
通所リハビリ
訪問介護
生活援助(買い物、調理など)45分以上
訪問看護
通所リハビリ
訪問介護
生活援助(買い物、調理など)45分以上
通所リハビリ
訪問介護
生活援助(掃除など)20分以上45分未満

<かかる費用=自己負担分>

ケース2

要介護3の人の利用限度額は26,931円なので、限度内におさまっています。通所介護(デイサービス)の際の食費や医療費、紙おむつ代は別にかかります。

このような形で、介護度の認定に応じて、どのようなサービスを受けるかを決め、組み合わせていくことで、高齢者の生活を助けていくというのが介護保険制度の目的です。いわば出来高払いなので、利用者側が収入や経済力に応じて、負担できる費用はどこまでかも勘案しながらサービスを選んでいくことも可能です。また家族がどこまで介護に関わっていけるのか、家族の健康状態によって、どこまで介護保険制度に頼っていくのかを考えていくことになります。

介護サービス利用の際の注意点

最後に、介護保険サービスを利用する際の、いくつかの注意点についてお伝えします。
自己負担の割合ですが、これまでの説明はすべて、かかる費用の総額に対して、自己負担は1割の場合をベースに説明し、計算してきました。2015年8月から一定以上の所得のある人には自己負担の割合をあげてもらうことになりました。65歳以上の介護保険の被保険者のうち「所得の多い上位20%に相当する層について適用する」ということで、おおよその目安でいえば、年金収入だけなら280万円以上の人が自己負担を1割から2割に引き上げられた形です。
このため、自己負担2割の対象になる人の負担は、すべて表記の金額の2倍ということになります。

一方で、自己負担額が大きくなった場合の、軽減措置も設けられています。ひと月の自己負担額が、37,200円を超えた場合、超過した分は申請すれば手元に戻ってくる仕組みです。
具体的な例を挙げてみますと、例えば、要介護5の人で、利用限度額めいっぱい利用している場合、自己負担が1割で、すでにご説明したようにひと月の負担額は36,065円ですが、2割負担の人は、2倍の72,130円に跳ね上がります。が、この軽減措置を利用すれば、37,200円を上限として、それ以上はあとから戻ってくるというわけです。厚生労働省では介護度が重く、自己負担の費用が大きい人ほど、この軽減措置の恩恵を受けることができると説明しています。

日本の少子高齢化は、ますます加速しています。社会全体で高齢者の生活を支えていくという目標の下に、介護保険制度が始まりましたが、財政的な負担も高齢化とともに加速する一方です。利用者の立場からすれば、制度が変わるごとに振り回されることがないように、制度の変更や負担方法の変更などをその都度チェックしておくことをお勧めします。

>><特集>介護保険改正2015

※こちらの記事は2017年1月時点の情報です。2018年4月に介護保険改定されるため、最新の情報をご確認ください。


執筆者

池田 龍也
放送局の報道現場でおよそ30年経済ニュース、国際ニュースを担当してきた。定年後のシニアライフをどう過ごすか、50代以降の中長期的なライフプランをどう考えるか等、高齢者問題、シニアライフの課題がライフワーク。国内で唯一「老年学」大学院コースを持つ桜美林大学で、近年老年学修士修了。桜美林大学大学院「シニアライフ研究会」のメンバー。

 


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  6. 民間介護保険
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  8. 介護費用が足りない時は?
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