介護保険制度の行方【介護とお金の気になること】

介護保険制度の行方【介護とお金の気になること】

介護の現状とお金の問題に詳しい、「特定非営利活動法人 くらしとお金の学校」のファイナンシャル・プランナー等の方々に、介護にまつわるお金の問題について書いていただきました。

執筆:長沼和子(NPO法人 くらしとお金の学校 代表)

国の財政から、今後の介護保険制度の方向性を考える

介護保険料が全国的に高騰していく理由は介護給付を受ける高齢者が増えていくからですが、介護施設給付の割合が高い地域は介護保険料が高くなる傾向があります。ここでは65歳以上の人(第1号被保険者)が支払う保険料の仕組みから全国の介護給付の割合までを見ていきます。

1.介護保険改正のたび、上昇していく介護保険

40歳以上で加入する介護保険は、一生つきあう保険なので、保険料の仕組みもしっかりと把握しておきたいものです。2015年の改正で65歳以上の人(第1号被保険者)の全国平均保険料は5,514円、年額約66,000円になり、2014年から11%の上昇ですが、9年後の2025年には月額8,165円、年額97,980円で、現在より48%の負担増になると推計されています(図表1)。厚生年金の受取額は年々減額しているのに対し(図表2)、年金から天引きされる介護保険料は年を経るごとに高くなっています。

<図表1> 介護給付と保険料の推移

介護給付と保険料の推移
 (クリックで拡大します) 出典:厚生労働省ホームページ

<図表2> 国民年金・厚生年金受給権者の平均年金月額の推移

  国民年金 厚生年金
平成22年 54,529 150,034
平成23年 54,612 149,334
平成24年 54,783 148,422
平成25年 54,544 145,596
平成26年 54,414 144,886

出典:「平成26年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(厚生労働省)をもとに筆者作成

2.65歳以上の人の介護保険料は住んでいるところで変わる

介護保険料は、保険者である市町村によって異なります。月額の保険料を都道府県の平均額で見ると、沖縄県の6,267円が最高で、埼玉県の4,835円が最低になります。高齢化率が高ければ介護認定率は高くなり、さらに居宅サービスより介護施設等の割合が多ければ高くなります。

3.第1号被保険者の保険料の決定・徴収は市町村

保険料の算定は次の式によります。

65歳以上の保険料=市町村ごとに定められている基準額×所得段階ごとの「保険料率」

市町村全体でどの程度介護サービスが必要かによって基準額が決まり、所得段階別に個人ごとに算定されます。市町村によって段階の設定は異なり、第1段階(生活保護受給者等)からマックス第18段階(合計所得3,000万円以上)までの間で、所得に応じて細分化されています。

4.介護サービスの割合と地域分布

図表3を見てわかるとおり、特別養護老人ホームなどの施設サービスが多いのは富山県、徳島県、鳥取県などで、西高東低の傾向があります。千葉県、大阪府、埼玉県などの大都市圏は施設給付費が低くなっています。 「全国平均」を中心に左右を比較してみると、右側は高齢化先進地域で介護施設等のサービス基盤整備がすでに完了しています。一方、左側は大都市圏地域で団塊世代や団塊ジュニアが集住している、これから本格的に高齢化していく地域です。施設給付費が少ないということは介護施設が少ないということでもあります。居宅サービスや地域密着型サービスの給付費も低いということは、まだ介護が必要な高齢者が多くなく、在宅介護を支える地域密着型サービスも少ないということです。在宅介護・在宅医療を地域完結することを目指す「地域包括ケアシステム」構築が切迫しているのはこの大都市圏なのです。

<図表3> 都道府県別の第1号被保険者1人当たり給付費

<図表3> 都道府県別の第1号被保険者1人当たり給付費

 (クリックで拡大します) 出典:「H26年度 介護保険事業状況報告(年報)」(厚生労働省)

当面考えられる介護保険の改正~社会保障審議会から

2016年12月9日、社会保障審議会介護保険部会は、厚生労働省が取りまとめた「介護保険制度の見直しに関する意見」(*)を了承しました。それを受けて、厚生労働省は取りまとめを基に介護保険法案を来年の通常国会へ提出します。ここでは、審議会での「意見」のうち、介護保険の給付の伸びの抑制を図る「負担と給付」について重要と思われる3点を紹介し、検討します。

(*)「介護保険制度の見直しに関する意見」社会保障審議会介護保険部会(厚生労働省) 平成28年12月9日

1.利用者負担の引き上げ

①利用者負担割合と高額介護サービス費の引き上げ

平成26年介護保険改正で一定以上の所得者の利用者負担割合が1割から2割となりました。同時に、現役並み所得に相当する高齢者は高額介護サービス費の負担上限額が37,200円から44,400円となっています。
今回の審議で次のことがまとまりました。

イ)高額介護サービス費の一般区分の負担上限額を医療保険の高額療養費の一般区分並に引き上げる。

ロ)現役並み所得者の利用者負担割合を3割にする。

図表4、5を参考にすると、患者負担の引き上げや高額療養費上限額の引き上げと同様に、今後、介護保険の利用者負担割合の引き上げと高額介護サービス費上限額の引き上げが予想されます。

<図表4> 医療保険制度の患者負担の推移

平成14年10月 70歳以上 現役並み所得者 2割負担に引き上げ
平成18年10月 70歳以上 現役並み所得者 3割負担に引き上げ
平成26年4月 70歳~74歳 2割に負担に引き上げ

出典:同上「介護保険制度の見直しに関する意見」をもとに筆者作成

<図表5> 医療保険制度 高額療養費の上限額の推移

平成14年10月 70歳以上(一般区分)37,200円⇒40,200円
平成18年10月 70歳以上(一般区分)40,200円⇒44,400円

出典:同上「介護保険制度の見直しに関する意見」をもとに筆者作成

②補足給付から除外

平成26年介護保険法改正で一定額を超える預貯金等がある人は補足給付の対象から外されました。今回、不動産については様々な課題があり引き続き検討することとなりました。

2.介護給付の削減

①軽度者の地域支援事業への移行

平成26年の介護保険改正で要支援の訪問介護・通所介護は市町村の地域支援事業に移行しました。軽度者(要介護1,2)の地域支援事業への移行についても審議されましたが、今回は見送りになりました。軽度者については平成30年度介護報酬改定の際に改めて検討されます。

②福祉用具貸与に上限

価格設定が事業者の裁量である福祉用具は、同じ商品でも平均的な価格と非常に高い価格があるとして、国が商品ごとに貸与価格の全国的な状況を把握し、公表する仕組みを作ります。貸与価格について自由価格としつつも貸与価格に上限を設けます。

3.費用負担の公平化、総報酬割の導入

第2号被保険者(40歳~64歳)の加入する医療保険者(協会けんぽと健保組合・共済組合)が負担する介護納付金は各医療保険者の総報酬に応じたものとしました。

これからの介護

以上から、今後の介護について、次のようなシナリオが考えられます。

介護保険料も利用者負担割合も今後、負担増が続き、介護給付の削減も続くでしょう。
「地域包括ケアシステム」の対象は団塊世代と団塊ジュニアです。今後、大量に介護サービスの利用者となる世代に、介護予防等の自助努力(自助)を求め、費用負担が伴わないご近所同士の助け合いやボランティア活動等(互助)を推奨し、それでも間に合わなければ介護保険(共助)を利用しなさい、という仕組みができつつあります。介護保険料を払い続けていても必要な時には使えないという事態も考えられます。

 

※この記事は2017年1月時点での内容です

 

 


執筆者

長沼和子(NPO法人 くらしとお金の学校 代表)
NPO法人くらしとお金の学校代表。ファイナンシャル・プランナー。創立当初から高齢者問題に関心が強く、高齢者施設・住宅の取材や見学のコーディネイト、住み替え相談を担当。
2010年から始めた連続「介護FP養成講座」はリピーターが多く、今年で6期目を迎える。同年、NPO法人みぬまで暮らす会(さいたま市)の設立に参画、高齢者向けのコミュニティ・カフェを開設。高齢者の暮らしから見えてくる課題は講座にフィードバック。


介護とお金の気になること:バックナンバー

  1. 介護保険制度の行方
  2. 介護にいくらかかるか
  3. 費用との関係で考える「終のすみか」
  4. 介護のためのお得な情報
  5. 介護費用はどのように準備すればよいか
  6. 民間介護保険
  7. 地域で異なる介護事情と老後の住まい
  8. 介護費用が足りない時は?
  9. 要介護時期の財産管理
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