熱中症が心配です。高齢になった両親の水分補給の工夫を教えてください。

質問

質問者

75歳の父と72歳の母は隣町で2人暮らしです。 70歳を過ぎてから、「寒い」と言って真夏でもエアコンをあまり使わず 熱中症にならないか心配です。 こまめに水分補給をするように言っていますが、十分摂れているのかわかりません。 高齢者でも手軽に水分補給できる工夫があれば教えてください。

監修者 野溝明子高齢者は皮膚にある温度センサーが衰え、暑さを感じにくくなります。また、脳機能の衰えで、のどの渇きを感じにくく、水分をあまり自分でとらなくなります。そのため、冷房をつけない室内で過ごしていると脱水が進み、熱中症となってしまうこともあります。一人暮らしの高齢者や高齢者のみの世帯でも適切に水分補給ができ、熱中症を起こしにくくする方法を紹介します。

目次

  1. 高齢者に必要な水分補給量は?
  2. 熱中症だけではない、高齢者の脱水症状
  3. 手軽に水分補給できる工夫
  4. 水分補給の注意点
  5. まとめ

高齢者に必要な水分補給量は?

 1日に必要な水分補給量は、体重1kgあたり30mLを目安にします。のどが渇いていなくても体重が50kgの人は1,500mL、60kgの人は1,800mL程度の水分を飲むようにしましょう。ベッドサイドや日常生活を過ごしている場所にペットボトルを1本置いておくと、飲んでいる量を把握できるでしょう。1日8回ほどにわけ、1回ごとにコップ1杯の水分をとることが目安です。

高齢者の熱中症

熱中症だけではない、高齢者の脱水症状

 熱中症とは、高温環境下で体温が異常に上がり、体内の水分や電解質のバランスが崩れたり、調整機能が働かなくなったりするなどして発症する障害の総称です。死に至る可能性もありますが、適切な予防法で対処すれば、防ぐことが可能です。

 一方、脱水は、体内の水分もしくは塩分等の電解質が不足した状態のことをいい、体重の1~2%相当が減ると口や皮膚の乾燥や尿量の減少がみられ、3~9%相当が減ると頭痛、めまい、血圧の低下等が起こります。体内の水分量が減少すると、血液が濃縮され、いわゆる“ドロドロの血”になるため、血栓ができやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞の原因となってしまうので注意が必要です。

 暑い中で水分や電解質を補給しないまま、脱水症状が進行すると、熱中症を誘発します。 また、熱中症になると脱水はさらに進み様々な障害が出ます。重度の熱中症を起こすと病院での治療が必要となるため救急搬送され、麻痺などの障害が残ってしまうこともあります。

手軽に水分補給できる工夫

1.経口補水液での水分補給

 脱水症状を予防するためには、体内から失われた水分と電解質を補うことが大切です。それらを効果的に補うには、経口補水液が有効といわれています。

 水と電解質を口から補給する経口補水療法は、開発途上国で感染性の下痢等の患者のために、世界保健機関(WHO)が1970年代に経口補水液の粉末飲料を開発したのが始まりです。経口補水液は、水、電解質、糖分を調整して、水分と電解質が短時間で体内に吸収されるように工夫された飲み物です。 

 経口補水液は自宅でも簡単につくることができますし、薬局等でペットボトル飲料やゼリーが市販されています。

●経口補水液の作り方

材料:水1Lの場合は、塩小さじ1/2(3g)、砂糖大さじ4と1/2(40g)、水500mLの場合は、塩小さじ1/4(1.5g)、砂糖大さじ2と1/3(20g)

*材料をまぜるだけでできあがります。レモン等の果汁を混ぜると飲みやすくなりますが、甘い果汁は糖濃度が増加するため、水分が吸収されにくくなり、注意が必要です。

*無菌状態ではないため、1~2日で飲みきるようにしましょう。

2.ゼリーを利用した水分補給

 摂食・嚥下障害のある人、水ばかりたくさん飲めないという人には、ゼリータイプがおすすめです。ゼラチン等で固めることで、水分を固形物として摂取できるようになります。水分を固めるゼラチンには、温かい口の中で表面が溶ける特徴があります。これによって、すべりがよくなるため、のどに送りこむことが容易になります。ゼリーの濃度を濃くすると、硬くて溶けにくいゼリー、濃度を低くするとやわらかくて溶けやすいゼリーができます。嚥下の状態等によって、飲み込みやすい硬さには個人差があるため、試しながら本人に合った形態を探っていきましょう。

●麦茶ゼリーの作り方

材料:麦茶900cc、ゼラチン14g、水100cc

  1. ゼラチンを水で湿らせる。渇いたところがないようにまんべんなく水を含ませる。
  2. 熱い麦茶にゼラチンを入れ、よく溶かす。
  3. ②が冷めたら、容器に移す。
  4. 室温程度に冷えたら、冷蔵庫で保管する。

*1日で食べきりましょう。

*小分けにしたぶんは、1回で食べきりましょう。

3.食事からの水分補給

 味噌汁やスープなど、食事に汁物を加えることで、水分と塩分をとることができます。成人は、一日に必要な水分の半分を食事から摂取しており、食事をしっかりとることで水分補給ができます。

水分補給の注意点

1.水分補給の方法

 水分補給のタイミングは、起床後、食事の前後、運動の前後、外出前、飲酒後、入浴の前後、就寝前です。のどが渇いていなくても、水分をとる習慣をつけましょう。特に、経口補水液は、一度にたくさん飲むよりも、時間をかけてこまめに飲んだほうが効果的です。

2.何を摂取するか

 暑い夏など大量の汗をかいたり、下痢や嘔吐したりした時は、水分だけでなく塩分など電解質もかなり失われています。もしそこで、ミネラルウォーターなど水分のみを摂取すると、水は足りても体内の塩分はさらに薄まり、塩分欠乏タイプの脱水(低張性脱水)になる可能性があります。この場合、塩分濃度を保とうとして、身体が水をたくさん排泄し逆に脱水が進行します。塩分欠乏による脱水は、幻覚や幻聴などを起こすせん妄の原因となり、判断力が低下し、脱水もさらに悪化してしまいます。経口補水液で、効果的に水分と電解質を摂取しましょう。

 スポーツドリンクは、経口補水液に比べ、塩分が少なく、糖分が多いため、飲みすぎないようにするなど、注意が必要です(表内のブドウ糖・ナトリウム値参照)。お茶やコーヒー、アルコール類には利尿作用があります。飲みすぎると、かえって体内から水分が出ていってしまうので、摂取量に気をつけましょう。特に、アルコール類を飲むと利尿する上に体内の水が使われるので、水も一緒に飲む必要があります。

■経口補水液とスポーツドリンク(ゼリー含む)商品の成分比較

経口補水液とスポーツドリンク(ゼリー含む)商品の成分比較 

※液体は100mLあたり、ゼリーは100gあたり

2019年8月15日現在

3.認知症の人の水分補給

 認知症の人は、口渇感や頭痛、めまいなど、体調の変化を自覚しにくい傾向があります。介護を行う家族や介護職等の周りの人は、室温の調整等の環境を整えることも含めて、本人の様子を観察し、脱水症状に注意して予防するように働きかけましょう。

4.摂食・嚥下障害がある人の注意点

 食事の際に飲み込みが悪い、むせるなどがみられる人は、水やお茶のような液体は飲みにくいことが多いです。薬局等で販売されているとろみ剤でとろみをつけたり、経口補水液のゼリータイプを食べるなどして、水分を補給しましょう。とろみは濃くすればよいというものではなく、わずかな差で飲めたり飲めなくなったりします。濃度の低いとろみをつけた飲み物や崩したゼリーから始めて、本人が飲みやすい形態を探っていきましょう。

5.心不全や腎臓病などの水分制限

 心不全や腎臓病等の持病がある人は、水分制限が必要な場合があります。主治医に、夏場にどの程度の水分補給が必要か、事前に相談しておきましょう。

まとめ

  • 1日に体重1kgあたり30mL程度の水分を飲むようにする。
  • 1日8回、1回あたりコップ1杯を目安に水分補給をする習慣をつける。
  • 脱水が進行すると、頭痛、めまい、血圧の低下やせん妄など意識障害が起こる。
  • 脱水は熱中症を起こしやすく、熱中症で脱水は進行するので温度管理にも注意する。
  • 発汗が多い時や下痢や嘔吐の時は、水分だけでなく必ず電解質も補う。
  • 脱水症状の予防には、体内から失われた水分と電解質を補える経口補水液が有効。
  • 摂食・嚥下障害のある人には、ゼリータイプやとろみをつける等の工夫で水分補給する。
  • 食事をしっかり摂取することも、水分補給につながる。
  • お茶には利尿作用があるので、注意する。
  • アルコールは利尿と脱水を進行させるので、飲んだら必ず水分をとる。
  • 心不全や腎臓病等の持病がある人は、水分制限が必要な場合があるため、主治医に相談する。 

 

 離れて暮らす両親が水分をきちんと補給しているのか、生活の様子をすべて把握することが難しいため、不安も大きいと思います。まずは、手軽にできそうな市販されている経口補水液やゼリー等での水分摂取を勧め、ペットボトルの減り具合から、摂取量を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。実践された感想などを、SNSでシェアしてください。

(編集:編集工房まる株式会社)

 

i.ansinkaigo.jp

監修者:野溝明子
監修者 野溝明子

医学博士。鍼灸師。介護支援専門員。
東京大学理科一類より同理学部、同大学院修士課程修了(理学修士)、東京大学医学部(養老孟司教室)で解剖学を学んだ後、東京大学総合研究博物館(医学部門)客員研究員。医療系の大学で非常勤講師を務めるほか、鍼灸師として個人宅や施設などへ出向き施術を行っている。
著書に『看護師・介護士が知っておきたい 高齢者の解剖生理学』『セラピストなら知っておきたい解剖生理学』『介護スタッフのための 安心! 痛み緩和ケア』など。