親がデイサービスを嫌がり困っています。介護拒否の対応方法や良い接し方を教えてください。

質問

質問者認知症の親と同居をしています。家族は皆仕事があるのでゆくゆくは施設入所を考えているのですが、デイサービスに出すのさえ一苦労です。朝に嫌がってなかなかお迎えの人に預けられないと、泣きたくなります。家族が薬を飲ませようとしたりお風呂に入れようとしたりしても、拒否することもあります。つい叱ってしまうのですが、そうした言動しかできない自分とそんな状態になった親が情けなくなります。どうやってなだめれば良いのか、また施設入所をどうやって説得すれば良いのか教えてください。 

専門家

仕事に行かなければならないのにデイサービスへの送り出しがスムーズにできず、朝からバタバタするとイライラしてしまうのは無理もない話です。しかしイライラが親御様に伝わると、余計にうまくいかないということはないでしょうか。

認知症の人がデイサービスに行くことを嫌がったり、服薬や入浴を嫌がったり拒否をすることはよく見られます。介護しているほうからするとなぜ分かってもらえないのかという思いになりますが、そこには本人なりの理由があるのです。

ここでは、よく見られる介護拒否の理由と対応方法についてご紹介していきます。

 

介護拒否について知ろう

介護拒否について知ろう

認知症となった人が家族や介護者の言うことを受け入れず、拒否する言動を取ることはよくあることです。介護拒否はなぜ起こるのでしょうか。介護拒否の原因について考えていきましょう。

介護拒否のパターン

介護拒否にはいくつかのパターンがあります。もっとも多いのは、デイサービスに行くのを嫌がるという行動です。外出の準備をしているうちはにこにこしていたのに、施設スタッフが迎えに来たとたん急に拒否する様子を見せます。

中には車いすやドアにしがみついたり、泣き叫んだりということもあるでしょう。

家族が同行しないということが分かり急に心細くなる、認知症によって人の顔を覚えられず施設スタッフに恐怖を抱いているといった可能性があります。

もう一つは家族の介護を拒否するパターンです。家族が世話をしようとすると、いちいち抵抗して何もさせてくれません。せっかく飲ませた薬を吐き出したり、食事にまったく手をつけようとしなかったりという場合もあります。

考えられることとしてはまだプライドがあるため、家族の世話になりたくないという気持ちが残っている。自分でしようとしていたことに横から手を出され、苛立ったなどが考えられます。

中にはまったく周囲の状況が理解できていないという場合もありますが、いずれにしても本人にとっては拒否行動の起点となるそれなりの理由があるはずです。

介護拒否の原因は大きく2つ

介護を拒否する原因としては、大きくは2つあります。

比較的認知症状が軽い場合には、介護されること自体に抵抗があるのかもしれません。認知症患者は感情をコントロールする部分が委縮し、感情表現がうまくできなくなっています。

不快な感情を正しく伝えられず、苛立ちが乱暴な言動となって現れます。

また認知機能の低下により、状況が分からないせいで介護を拒否しているということもあります。何のために薬を飲まなければならないのか、どうして家族がいるのに自分一人だけが出かけなければならないのか、理解ができません。

例えばお風呂を拒否するのは、入浴すれば清潔になり、気分が良くなるのを忘れてしまっていることもあります。入浴が良いことだと分からなければ、服を脱がされるのは恐怖でしかありません。また裸になるのを他人に見られるという羞恥心から、抵抗している場合も考えられます。

介護する人の動作との関連性

介護拒否が、介護する側の動作と関係している可能性もあります。

介護する人としてはそのようなつもりがなくても、急に動いたことで相手をびっくりさせていることもあります。認知症患者は周囲の急激な変化に対応できません。次に行うことが理解できていないと、「突然ひっぱられた」「いきなり服を脱がされた」といった気持ちになります。

それがひきがねとなり、介護拒否につながることもあります。 介護をするときには、相手の様子をよく見ながら次に行う動作を促します。高齢者は注意力が散漫になりがちなので、絶えず声をかけ、都度やって欲しいことを伝えなければなりません。

介護する側が観察不足だと介助が一方的になり、本人の気持ちとのズレが生じて拒否反応を誘発してしまいます。

介護拒否を理解するために

介護拒否を理解するために

介護拒否についてどのように理解を深めていけば良いのでしょうか。

介護拒否の背景を考える

認知症だからと言って、理由なく何かも拒否をしているということはありません。

介護拒否を理解するためには、介護されている人の感情を思いやり、その背景となっているものを探る姿勢が求められます。

一見、まったく理不尽な言動に思えても、拒否をする本当の理由があるのかもしれません。激しい拒否が起こるその前後の状況を思い起こし、原因やきっかけを考えてみます。

例えば食事を拒むときには、メニューの内容や本人の状態からも原因を探ります。

認知症になる前から好みでなかった食べ物が入っていたのではないか、車いすに終日座っていたため運動が足りず空腹感がないのではないか、など原因が推測できれば打つ手が見つかる可能性があります。

いつ、何をしているとき、どんな状況になると拒否が強くなるのかといった点に着目するのも大切です。

相手は何を感じているのか

介護拒否が起こるとき、介護されている人はどんな感情なのでしょうか。それを推測することも、介護拒否の改善につながります。

できることやしたいことを取り上げられた不満なのか、状況が分からずに怖がっているのか、あるいはどこかに不調があり不快感があるのかもしれません。

自分でできるはずのことがうまくいかず、自信喪失から反発しているときもあります。 心が不安定になり、わけの分からない不安から「イヤだ」という言葉を発している可能性も考えられます。

相手が話してくれれば理解するのも容易ですが、多くはそれが伝えられないため、粗暴な言動になります。理解しようとする姿勢で受け止めなければ、前には進みません。

「ねばならない」を止めてみる

介護する側は健常者であるため、時間やスケジュールが気になります。決められたことをきちんとこなさなければならないという気持ちが、苛立ちを募らせます。

認知症の人の介護は、そうした社会的なルールに沿ってできるものではありません。

時間に制約があるのは仕方のないことですが、今すぐ本当にしなければならないのか、と疑ってみると、介護が楽なる場合もあります。

本人が嫌がっているのであれば、後回しにできそうなものはひとまず置いておくというのも一つの手段です。

急ぐ必要があることなのか、本当に本人のためになることなのかを一歩引いて見直せば、 「〇〇でなければならない」という気持ちから逃れられ、少し余裕が持てるようになります。

介護拒否に上手に対応するために

介護拒否に上手に対応するために

身になって世話をしている相手から介護拒否を受けるのは、とても辛いことです。しかし介護する側がむきになってしまうと、さらに状況が悪化する恐れもあります。介護拒否に上手に対応していくための、ポイントを見ていきます。

できるだけ認める姿勢を

介護する側は失敗させないために、何にでも手を出してしまいがちですが、それが介護される人のプライドを傷つけていることもあります。

できることは自分でしてもらうようにし、難しいときには一緒に作業を行います。

手元に集中しているか、ほかに気を取られていることはないかなど安全に配慮しながら、できるだけ本人の能力を認める姿勢を持ちましょう。

時間を置いてみる

介護拒否が起きやすいときには、一気にそれをしようとせず、抵抗のないところまで進めるという方法もあります。「今はここまで」と時間を置き、気持ちを切り替えるとその次の段階をスムーズに進められる可能性があります。

入浴を拒否するときには、今何をしているのかを説明してみましょう。

「汚れていて気持ち悪いよね」「きれいにしようか」「服を脱ぎましょうか」と順番に声かけをします。

途中で忘れているかもしれないときには、何度も声かけをして何をしているところかを思い出してもらうようにます。

威嚇は絶対にしない

認知症の人は一般の人以上に恐怖を感じやすく、突然の大きな音にも委縮します。どれほど苛立っても大きな声で叱ったり、乱暴に扱ったりするのは逆効果です。

どうしても感情が抑えられないときには、その場から離れるようにして冷静を保ちましょう。

家族を「怖い」と思うと余計、介助のときに反発するようになるかもしれません。

気持ちを傷つけない

思い通りにしてもらえない歯がゆさから、ついきつい言葉を発してしまいますが、具体的に意味が分からなくても、傷ついている可能性があります。

「もう知らない!」「それなら勝手にして!」「ダメね」など、口に出しがちですが、不用意に相手を貶める言葉は、避けるようにしてください。

尊重してもらえていないことは肌で感じるものです。そうした積み重ねが、介護拒否を呼ぶ可能性もあります。

介護拒否には外部の協力を仰いで対応

介護拒否に対しては強硬な態度を取るのではなく、相手の気持ちを考えながら対応していくようにします。無理強いせずにタイミングをずらすなど、工夫をしていきましょう。また家族だけで悩むことのないよう、外部の協力を仰ぎながら対処することが大切です。

※この記事は2019年11月時点の情報で作成しています。

 

監修者:寺岡純子

監修者:寺岡純子(てらおか じゅんこ)

主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。