高齢者に起きる「低栄養」とは?

高齢になると、活動量が落ちて自然に食べる量が減る上に、病気や孤独など様々な要因で食欲がわかず、さらに食事の量が減ることが多くなります。食事を一食とらないことがときどきある程度なら特に心配はありませんが、長期間に渡って食事の量が減ると「低栄養」になることが考えられます。高齢者の低栄養とは何か、改善するにはどうしたらよいかを解説します。

 

 

高齢者が低栄養になるとどうなるか

高齢者に起きる「低栄養」とは?

 高齢者は75歳以上になると、低栄養状態となるリスクが増加するといわれています。低栄養状態になると、筋肉が減って動きにくくなり、免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなったり、病気が治りにくくなったりします。さらに、認知機能の低下のリスクがあること、生存率が低いことを示した研究もあり、心身にさまざまな影響があることがわかります。  

 高齢者によくみられるのは、たんぱく質などの栄養素が不足し、全体として必要なエネルギー量も満たなくなるタイプの低栄養です。たんぱく質は、内臓や筋肉、骨、皮膚など体をつくり、臓器を正常に機能させ、炭水化物は脂質とともに主なエネルギー源となり、体を動かすために不可欠なものです。特に、たんぱく質の減少は深刻です。血液中のタンパク質(特にアルブミン)の低下はむくみを引き起こし、免疫力も低下し、感染症や床ずれが起きやすく、病気が治りにくくなります。さらにひどくなると臓器の機能も障害され、命にかかわります。低栄養状態が長く続き、障害の程度がひどくなると回復が困難なため、早いうちから対処することが必要です。  

高齢者が低栄養になる原因

 高齢者が低栄養になる原因は、病気や体調不良、ストレス、薬の副作用、味覚の低下、孤独感等による食欲不振、偏食、口腔機能や嚥下力の低下、食事を用意したり、食べたりする意欲やADLの低下等です。これらの原因が重なって食事量が減り、栄養状態が悪化して体重が減少すると、体力も低下してしまいます。

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の対策として、エネルギーや脂質を控えた食事をするのは、将来の疾患予防として中年期にやるべきことですが、それを高齢になってからもやっている人がいます。しかし、高齢期になって、カロリー制限を続けていると低栄養のリスクを高めてしまいます。

 また、加齢に伴い飲み込む力が落ち、むせやすくなり、食事をとる、水分をとることで疲れるようになると、食事に時間がかかり、食べられる量がさらに低下していきます。 このような悪循環が続くと、低栄養状態が進んで、寝たきりとなってしまいます。  

低栄養の予防・改善策

1)医学的問題を確認する

 高齢者の食欲不振の大きな原因に、病気や体調不良、薬の副作用があります。高齢だから食事量が少ないのが当然と思わず、医療機関に相談することも重要です。

2)全体の食事量を増やすための工夫

○必要な食事量を把握する

 低栄養を改善するためにまず考えたいのは、食事量を増やすことです。「日本人の食事摂取基準」の高齢者の推定エネルギー必要量・身体活動レベルⅡ(70歳以上の男性:2,200kcal、70歳以上の女性:1,700kcal)を把握して、必要なエネルギー量が摂取できるように、献立を考えましょう。

○生活にリズムをつける

 生活のリズムが乱れると、朝食と昼食が一緒になり、1日2食になってしまうことがあります。決まった時間に食事をする、1日に3食の食事をとることは、食事摂取の機会を増やし、低栄養の予防につながります。さらに、規則的に生活を送ることは、体内の消化酵素やホルモンの分泌、神経調節、臓器組織の活性のバランスを保つこと、日常の食欲増進や規則的な排便にもつながります。

○食べやすい食事にする

 歯が悪いなど、噛んだり飲み込んだりするのが難しくなってきた場合は、柔らかくしたり、とろみをつけて飲み込みやすくするなど、嚥下食も考えます。

○食欲がないときの工夫を考えておく

 食欲がなく、食べようとしても食べられないときもあります。そのようなときには、好きなものを食べたり、少量でも多くの食品がとれるもの(具沢山の麺類・丼類など)を食べたりしましょう。食事の回数を増やし、少しずつ摂取することも、一つの方法です。

 また、間食(おやつ)を食べることもよいでしょう。おやつをとる場合は、食事で不足している食品群のものを摂取すると、効果的に栄養を補えます。例えば、乳製品が不足している場合はヨーグルト、いも類が足りていない場合はさつまいも、水分不足の場合は果物などです。ゼリーやプリン、ムースやアイスクリームなどは、口当たりがよいので、食欲がないときも食べやすいですね。

3)食欲を出すための工夫

○適度な運動をする

 食欲増進のために、毎日、適度な運動や活動を行えるように生活を組み立てましょう。厚生労働省が行った「2017年度国民健康・栄養調査」では、外出頻度の低い人ほど低栄養傾向の割合が高く、栄養摂取量と運動量が多い人ほど筋肉量が多い傾向にありました。外出をしたり、適度に運動をしたりすることで食事摂取量が増え、筋肉がつくなどし、低栄養予防のためのよい循環が生まれます。

○味覚を刺激する食事にする

 食事の見た目を美しくし、味を感じやすいように適度な温度にし、水分量も調節します。唾液の少ない高齢者には水分の多い方が味を感じられますし、塩分は感じにくくても酸味で味にアクセントをつけることもできます。

○人と一緒に食べる

 一人分の食事を作るのは面倒、一人で食べてもつまらないといった場合は、趣味のサークルに入るなどして時々誰かと一緒に食べるといいでしょう。一緒に作ったものを食べる高齢男性向けの料理教室などもあります。デイサービスも積極的に利用しましょう。

4)栄養バランスを取るための工夫

○食事の内容を見直す

 低栄養の原因となる全体のエネルギー量の不足、栄養素では特にたんぱく質不足を補えるように食事の内容をチェックしましょう。動物性、植物性のたんぱく質のほか、ミネラルが豊富で消化の良い食材を取り入れます。

 活動量が減ったり、食欲が落ちたりしても、肉や魚、卵、乳製品、豆類などのたんぱく質はできるだけ減らさないようにします。1日に必要なタンパク質の目安は、「両手のひら」分です。魚1切れ、肉60g前後、豆腐1/3〜1/4丁、卵1個、牛乳200mL、または乳製品100g程度を摂取するとよいでしょう。

 脂質は、エネルギー量が高く、体内でつくることができない必須脂肪酸も含まれています。脂溶性ビタミンの吸収を促し、細胞膜の成分やホルモンの材料にもなるため、敬遠しないで必ず摂取したい栄養素です。1日に大さじ1杯分の油を調理で使いましょう。

 ビタミンやミネラルは、体温調節など、体の生理機能を維持したり、エネルギーや体をつくるための代謝に関わったりしています。ビタミン、ミネラルを豊富に含む野菜や海藻を、生野菜なら両手1杯分、加熱する場合は片手1杯分を、1日に3皿以上とるのが理想です。

○配食サービスを利用する

 一人暮らしの人は、買い物に行くことが難しかったり、料理をするのがおっくうになったりするなどで、毎日同じ物を食べ続けたり、食事の回数が減りがちです。そのようなときは、配食サービスの利用を検討しましょう。配食サービスには、毎日決まった時間に配達してくれるもの、冷凍食品を数日分まとめて配送してくれるもの、嚥下の状態に合わせて加工された介護食など、さまざまなサービスがあります。

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○栄養補助食品を利用する

 一人では調理することが難しい、体調が悪くて調理ができないなどの場合は、市販の栄養補助食品の利用も考えましょう。たんぱく質や微量栄養素、エネルギーを強化した飲料やゼリー状の製品は、食欲のないときでも手軽に摂取できます。

 介護食品「スマイルケア食」(農林水産省が介護食品を選ぶ際の参考となるように設けたマーク)の青マークのついた食品は、健康維持上、栄養補給が必要な人向けとなっていて、100gまたは100mLあたりのエネルギー量が100kcal以上、たんぱく質が100gあたり8.1g以上、または100mL・100gあたり4.1g以上のものにつけられています。種類が豊富で、薬局等で購入できるため、利用しやすいのが特徴です。

まとめ

  • 低栄養状態になると、免疫力が低下し、病気が治りにくくなり、筋力が落ちる。体重が減りすぎると、死に至ることもある。
  • 低栄養の原因は体調不良、ストレス、薬の副作用等による食欲不振、偏食、口腔機能や嚥下力の低下、食事を用意したり、食べたりする意欲やADLの低下、孤独感などである。
  • 1日に必要な食事量を把握して、バランスよく食べられるように食事内容を見直す。
  • 適度な運動をし、外出の機会をつくって楽しく食事ができるようにする。
  • 簡単に栄養バランスのとれた食事を用意したい場合は、栄養補助食品を取り入れたり、配食サービスを利用したりする。

 低栄養がきっかけとなって全身状態が悪化すると、死に至る危険性もあります。参考になった方は、ぜひSNSなどでシェアしてくださいね。

(編集:編集工房まる株式会社)

監修者 野溝明子
監修者 野溝明子

医学博士。鍼灸師。介護支援専門員。
東京大学理科一類より同理学部、同大学院修士課程修了(理学修士)、東京大学医学部(養老孟司教室)で解剖学を学んだ後、東京大学総合研究博物館(医学部門)客員研究員。医療系の大学で非常勤講師を務めるほか、鍼灸師として個人宅や施設などへ出向き施術を行っている。
著書に『看護師・介護士が知っておきたい 高齢者の解剖生理学』『セラピストなら知っておきたい解剖生理学』『介護スタッフのための 安心! 痛み緩和ケア』など。