経済的に親の面倒を見るのが難しい時に考えたい生活保護とは?

日常生活を送るために必要な最低限度のお金を受け取ることができる生活保護。働くことが難しい高齢者も、利用している方は少なくありません。経済的に親の面倒を見るのが難しいと感じたら、利用を検討したい制度です。この記事では、知っておきたい基礎知識をまとめました。

経済的に親の面倒を見るのが難しい時に考えたい生活保護とは?

生活保護とは

日本国憲法第3章第25条より「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と、社会権のひとつである生存権と、国の社会的使命について規定されています。

高齢や障害、病気、怪我、あるいは家計を支えていた方が亡くなったりと、何らかの事情により働くことができず生活に困窮している方に、国が必要な保護を行い、困窮の程度に応じて最低限度の生活を保障し、自立の手助けをすることが目的です。 

生活保護のデメリット

生活保護を受けると、いくつかの制限がかかります。その一例を紹介します。

所持品に制限がかかる

不動産や自動車、宝飾品やパソコンなどのぜいたく品は、原則として所有できません。ただし、条件によっては所有が認められるものもあります。また、家電を買い替える際に選択肢が限られます。

借金ができない

生活保護費で借金を返済できないため、お金を借りたり、ローンを組んだりすることは、原則的にできません。クレジットカードの新規作成や利用も、原則としてできません。

ケースワーカーの訪問を受ける

生活保護を受けると、担当ケースワーカーによる年に数回の家庭訪問を受けるようになります。があり、どのような生活をしているかのチェックや指導を受けます。また、生活保護受給中は、毎月収入の報告をしなければなりません。

親族に生活保護を申請したことが知られてしまう

生活保護を申請した際、親、兄弟、三親等以内の親類に扶養照会が行われ、援助が可能かどうかを確認します。援助が可能な親族が見つかった場合は、生活保護の対象となりません。

利用できる医療機関、介護事業所が限られる

福祉事務所管轄内にある、生活保護指定の医療機関や介護事業所を利用しなければいけません。

生活保護指定を受けていない介護事業所の利用や入居ができない場合があります。詳しくは、担当のケアマネジャーか担当ケースワーカーにご確認ください。

生活保護の条件

生活保護を受けるには、どのような条件があるのでしょうか。

やむを得ない状況で、働いて収入を得ることができない場合

高齢や障害により、どうしても働くことができない方は対象となります。

生活の援助をしてくれる親類がいない場合

同居している家族がおり、その人が働き、生活を営むことができる収入がある場合は生活保護を受けることができません。

ただし、介護が必要な両親と同居している場合には、世帯分離をして両親だけ生活保護を受給できる場合があります。詳しくは、市区町村の福祉事務所にご確認ください。

資産を所持していない

貯金があり、土地を所有している場合は、それらを売却した後に生活保護を受けることができます。すでに住宅ローンが終わっている住宅の場合を所有している場合には、「高額で売却できない」などの条件次第で住み続けることが可能です。

パソコンや車に関しては、基本的に所有している場合は生活保護の対象となりませんが、働くために必要である、通院のために必要などやむを得ず車が必要な場合には、所有が認められます。資産を隠して受給してしまった場合は、不正受給となる場合があります。ことがあります。

詳しくは、市区町村の福祉事務所にご確認ください。

働いているが生活保護の対象となる2つのケース

  • 母子家庭の場合

母子家庭で、養育しておりパート勤務などをするしかない場合です。また、傷害や病気などで長時間の勤務ができない(最低生活費よりも収入が下回る)場合も生活保護の対象となる場合ことがあります。

  • 収入が低い場合

若い方であっても、収入が最低生活費より下回る場合、生活保護の対象となる場合があります。居住地域で定められた最低生活費と収入の差額分を生活保護費として受給することができます。年金のある方も同様です。

生活保護の内容

ここでは、主に介護が必要な方がいる家庭にかかわりがある扶助を紹介します。

生活扶助

日常生活に必要な費用(食費・光熱水費・被服費など)、介護保険料です。

食費や被服費など個人の費用は年齢と級地別に算定され、光熱費などの世帯費用は世帯人員と級地別に算定されます。これらを合算し計算の上、生活扶助費が支給されます。

住宅扶助

住宅に住むための費用(家賃・地代など)です。共益費は含まれません。定められた範囲内で実費が支給されます。

介護扶助

介護を受けるための費用です。65歳以上で要介護認定を受けた方、または、40歳以上65歳未満で特定疾病により要介護認定を受けた方が対象となります。原則として、福祉事務所管轄内の生活保護指定を受けた介護事業所を利用しなければいけません。

費用は直接介護事業者へ支払われるため、本人の負担はなく介護サービスが現物支給されます。

医療扶助

医療や治療のための費用(治療費や薬代など)です。原則、福祉事務所管轄内の生活保護指定医療機関を利用しなければいけません。

費用は直接医療機関へ支払われるため、本人の負担はなく医療サービスが現物支給されます。国民健康保険に加入する必要はありません。

葬儀扶助

葬儀のための費用です。定められた範囲内で実費が支給されます。

その他

オムツ代、入学準備金などの費用や、引っ越し費用、住居の更新費用など、上限がありますが、一時扶助として支給される場合があります。

支払いが減額または免除されるもの

上記の費用扶助の他に、支払いが減額または免除されるものの一例には、次のようなものがあります。

  • 住民税や固定資産税など
  • 国民年金保険料
  • 公営住宅の家賃
  • NHK受信料
  • 水道料金・下水道料金基本料金
  • 公共交通機関の利用料 など

生活保護を申請するには

 生活保護を受給したい場合は、自身が住んでいる地域の福祉事務所の生活保護担当課へ申請します。
生活保護の相談・申請窓口は、現在住んでいる地域を管轄する福祉事務所の生活保護担当です。
福祉事務所は、市や区では市や区が設置し、町村部では、都道府県が設置しています。
福祉事務所を設置していない町村では、町村役場でも申請手続きを行うことができます。
生活保護を申請しない場合でも、生活で困っていることなどを相談することで、生活保護以外の制度の紹介や他の施策の活用を紹介してくれ、生活をサポートしてもらえます。

生活保護受給手続きの流れ

1.相談
生活保護の申請を希望する方は、居住地域の福祉事務所、生活保護担当課まで行き、現在の困っている状況を説明します。
生活保護担当者より生活保護制度の説明があり、生活福祉金貸付制度や各種社会保障の施策などの活用について説明を受けます。

2.申請
申請をしたら保護費決定のため調査を受けます。

  • 家庭訪問等により、生活状況等を把握する実施調査実地調査
  • 資産調査(預貯金・保険・不動産など)
  • 扶養義務者(親、兄弟、三親等以内の親類)に扶養可否照会
  • 年金等の社会保障給付や就労による収入等の調査
  • 就労できるかどうかの調査

3.保護費の決定
生活保護の受給が決定しましたら、厚生労働大臣の定める基準に基づく最低生活費から収入を引いた金額が生活保護費として毎月支給されます。
申請を出してから原則14日(調査に日時を要する特別な理由がある場合は最長30日)以内で決定されます。

生活保護の申請が通った場合は、生活保護申請を行った日に遡って生活保護費が支給されます。申請が却下された場合は、審査請求により不服申し立てを行います。

4.事後調査
福祉事務所のケースワーカーが年数回、訪問調査を行い世帯の実態調査を行います。必要に応じて、就労に向けた助言や指導が行われます。

生活保護の相談や申請に必要な書類

特別な書類を用意しなくても、生活保護の申請は行われますが、生活保護の申請を行った後の調査にて、世帯収入や資産状況が確認できる資料(通帳の写しや給与明細など)の提出が必要となる場合があります。

生活保護費の支給について

生活保護費の支給日は地域によって異なりますが、おおむね毎月1~5日に支給されます。
正確な支給日を知りたい方は、地域の福祉事務所、生活保護担当課へ確認が必要です。
支給日が土日祝日やゴールデンウイークや年末年始など大型連休となった場合は前倒しで支給されます。

保護費の受け取りは、福祉事務所へ行き手渡しで受給するか、指定の金融講座した金融機関の口座へ振り込まれるかのどちらかになります。福祉事務所の方針や受給者の状態により異なります。

病気や傷害などで移動が困難な方、金銭管理ができる方は振込になり、安否確認が必要であったり、お酒やギャンブルをする人などは手渡しが原則となります。

生活保護費

生活保護受給の注意点

収入の申請

生活保護を受給すると、担当のケースワーカーがつきます。生活保護受給中に困ったことや相談したいこと、収入が少しでもあったことなどは報告する必要があります。例えば、臨時収入として宝くじの当選や事故の示談金を受けとったなどです。
生活保護が受給されると担当のケースワーカーが決まります。生活保護受給中に困ったことなどの相談ができます。収入など生活状況に変化や、住まいや家族構成について変わったことがあった時などは、すぐに担当ケースワーカーに報告したり届出をしないといけません。事実と違う申請や収入があったことを報告しなかった場合は不正受給とみなされ返還や保護打ち切り、法律により罰せられることもあります。
収入があった場合は差額が減額されますが、収入があることを報告しない場合は、不正請求となり生活保護費が打ち切りになり、遡って請求されることになります。 

住居について

よく住所不定の場合は生活保護が受給できないと聞きますが、法の趣旨からすると住所不定であっても生活保護受給は可能です。

しかし、その地域の方でないと生活保護の手続きが難しい福祉事務所もあります。
先に住居を見つけたうえで生活保護の申請をするのが良いのですが、難しい場合は自立支援をしているNPOや福祉団体に相談すると、福祉事務所と交渉をしてくれたり、住居を探してくれる場合もあります。

他の制度の活用

生活保護費以外に受給している各種手当や年金があれば、そちらを優先して生活費に充てなければいけません。例えば、雇用保険・健康社会保険・児童扶養手当・高齢福祉手当・身体障害者福祉手当・各種年金や恩給などです。

まとめ

国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を守るための「生活保護」。年金を受給している方でも申請可能です。生活に必要な金額から、年金を引いた金額が支給されるようになります。

生活保護を申請して受給が決定すると、生活扶助、住宅扶助、介護扶助、医療扶助などの扶助が受けられるほか、住民税や固定資産税、公営住宅の家賃、介護保険料、国民年金保険料など、さまざまな減額や免除が受けられます。ただし、不動産や車、ぜいたく品など、原則として所有が制限されるものがあります。

高齢者のみで生活している世帯だけではなく、介護のために家族が生活をしている場合でも、条件によっては親のみ生活保護を受けることも可能です。生活保護の申請は、人によっては抵抗を感じることがあるでしょう。介護により生活が苦しくなってしまったり、仕事が思うようにできなかったりする場合には、まずは相談してみてはいかがでしょうか。詳しくは、市区町村の福祉事務所や生活保護担当課で確認してください。

この記事が、介護の負担を軽減するお手伝いになれたら幸いです。


※この記事は2020年11月時点の情報で作成しています。

監修者:小笹 美和

介護業界・区役所勤務経験を経て、相続コンサルタントに転身。
介護保険訪問調査員など高齢者との1,000件を超える面談実績を持つ。 高齢者にもわかりやすい説明とヒアリング力には定評があり介護にも 強い相続診断士として多くの相談を受けている。
終活や相続・介護と幅広い視野から話すセミナー講師として全国で活動をしている。