グリーフケア:大切な人を失った後の喪失感、痛みから心を回復する方法

大切な人を失った後の喪失感、痛みから心を回復する方法:グリーフケア

介護が終わった後に訪れる”悲嘆(グリーフ:GRIEF)”は、心身や生活に変化を起こします。
>>大切な人を失った後の喪失感によって起こる変化

変化に対処をしながら進めていく“回復のステップ”について、介護者メンタルケア協会の橋中今日子さんに伺いました。

 

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回復の障壁になるもの

大切な人を亡くした後は、その喪失感を埋めるために、故人の死、人生に価値や意味を見出そうとしたり、自分や他人、環境や社会を責める気持ちが生まれたりすることがあります。

例えば…
・「もっとできたはずなのに」など、罪悪感や自分を責める気持ち
・「これでよかったんだ」、「母はもう十分苦しんだから、これでよかったんだ」など、故人の死に意味や価値を見出そうとする
・「助けてくれなかった」、「ひどい目にあわされた」、「ちゃんとしてくれなかった」など、施設や病院、周囲の人への怒り、他人を責める気持ち

故人の死に意味を見出そうとすることも、自分や他人を責める気持ちが出てくることも、痛みを解消する過程ではとても自然な反応です。しかし、これらは“解釈”であり”感情”ではありません。

悲嘆、悲観、喪失感を癒すためには、死に意味づけをしたり、解釈したりすることよりも、感情に目を向けることが大切です。

解釈なのか感情なのかが分からなくなったら、今自分が感じていることを書き出してみてください。そして、表1、2を使って分けてみましょう。

▼感情の一覧表

表1)解釈の例 
・愛されなかった ・嫌われた ・無視された ・イライラさせられた ・大切にできなかった(大切にされなかった) ・聞いてもらえなかった ・裏切られた ・苦しめられた ・受け入れられなかった ・ごまかされた  ・嘘をつかれた ・疑われた ・追い詰められた ・恩着せがましくされた ・感謝されなかった ・抑圧された ・拒否された/拒絶された ・犠牲にされられた・攻撃された ・孤立させられた ・誤解された ・いじめられた ・息苦しくさせられた  ・サポートしてもらえなかった ・奪われた ・邪魔された ・失望させられた ・捨てられた ・責められた ・操作された ・当然だと思われた ・濡れ衣を着せられた ・卑下された ・批判された ・侮辱された ・プレッシャーをかけられた ・踏みにじられた ・妨害された ・見捨てられた ・見てもらえなかった ・乱された ・無視された ・求められていない ・利用された ・犠牲にされられた ・攻撃された ・孤立させられた/隔離された ・誤解された ・ごまかされた

出典:open communication

表2)
感情の例
●望むことが満たされているときの感情例
・うれしい ・ワクワクする ・楽しい ・しあわせ ・生き生きとした ・好き ・安心 ・明るい ・のんびり ・ゆるむ ・気楽さ ・元気がわいてくる ・ほっとする ・落ち着いている ・あたたかい ・やる気に満ちている ・希望に満ちている ・勇気付けられた ・親しみ ・満たされている ・優しい ・感謝 ・開かれた ・感動 ・うれしい ・うっとり ・さわやか ・喜びにあふれる ・しあわせ ・穏やか ・愛おしい ・心地よい ・懐かしい ・楽天的 ・ほこらしい ・面白い ・落ち着いている ・満たされているやさしい ・引き込まれる ・大丈夫

●望むことが満たされていないときの感情例
・悲しい ・腹がたつ ・イライラする ・さびしい ・混乱 ・むなしい ・空っぽ ・怖い ・ぞっとする ・ショック ・うんざり・孤独 ・疎外感 ・引き裂かれる ・行き場のない ・圧倒される ・退屈 ・恥ずかしい ・つまらない ・不信感 ・うらやましい ・無力感 ・不幸 ・めどくさい ・やる気が出ない ・心配 ・せつない ・戸惑う ・困った ・もどかしい ・がっかりする ・うちのめされる ・絶望 ・喪失感 ・落ち込んでいる ・疲労 ・不快感 ・神経がすり減る ・緊張 ・ためらう ・焦り ・沈む ・屈辱 ・憎い ・残念 ・心細い ・後ろめたい ・驚く ・歯がゆい
出典:西任曉子『本音に気づく会話術』、ホプラ社、2016

喪失感で苦しい気持ちから回復するための5つのステップ

”悲嘆(グリーフ:GRIEF)”からくる苦しみや心の痛みの解消に効果的な、5つのステップをご紹介します。

ステップ1:悲しみや落ち込んでいる状態を否定しない

落ち込むことや悲しむことは、ダメなことではありません。悲しみは心の痛みから回復するために誰もが通る大切な過程です。

「突然、泣けてくる」、「イライラする」、「何もする気が起こらない」などの状態にある時は、落ち込みを否定せずに「今は回復途中にいるんだ」と今の状況を受け入れましょう。

ステップ2:用事や趣味の予定を入れずに、何もしない時間を作る

私たちは寂しい・苦しい気分になることを恐れ、暴飲暴食や買い物、ギャンブルといった刺激に強いものに夢中になって自分の気持ちを紛らわそうとします。
 
他にも仕事やボランティア活動、趣味に過度に熱中するなど、一見問題に思えない行動も、寂しさを埋めるための“代償行動”となっていることがあります。

もちろん、楽しいことや仕事に夢中になって、充足感や達成感を得るのは、心と体が元気になるために必要なことです。
しかし、落ち込まないためや悲しみを紛らわせるために何かに熱中すると、悲しみを増幅させてしまい、心身のバランスを崩す可能性があります。

一般的には悲しみ、怒りを感じること、落ち込むことはよくないものとされていますが、心の回復・ケアのためには、悲しむのも、怒るのも、落ち込む状態でいることもとても大切なことです。

悲しむことも、落ち込むことも、悪いことではありません。むしろ、心をケアして回復させるために、しっかり悲しみ、怒り、落ち込む気持ちを“感じる”ことが重要です。

「予定や用事を入れすぎて疲れてしまう」、「何かをしていなければ落ち着かない」、「何かをしている時は楽しいけれど、一人になると苦しくなる」などの状態にある時は、何もしない時間を作って、心身がリラックスするのを意識して過ごしましょう。

自分がどんな気持ちや感情でいるのかよく分からないと感じた時は、前項であげた「感情の一覧表」を見て、自分の気持ちにより近い言葉を見つけてみましょう。

ステップ3:自分の感情を実況中継してみる

落ち込むことや腹を立てること、悲しむ時間が大切だと説明をされても、悲しい気持ちになることは決していい気分にはならないもの。

そして怒りの気持ちを認めてしまったら、「周りの人に八つ当たりをしそうで怖い!」とも思いますし、「ひどく落ち込んで立ち直れなかったらどうしよう?」と不安になるものです。
しかし、感情を感じることと、感情に溺れること、感情をぶつけることは別物です。

そして感情を爆発させるのを防ぐには、感情に目を向け、感情を感じることが大切。感情に振り回されたり、爆発させたりすることなく、感情を感じる方法が“ひとり実況中継”です。

▼ひとり実況中継とは

手が震えるほど怒りを感じている時には、「手が震えるほど、腹が立ってるんだ」、イライラしている時には「私、いまイライラしてるんだ」、わけもなく涙が溢れてくる時には「涙が止まらないほど、何か感じてるんだ」と自分の状況を言葉にしてみましょう。

仕事や人と過ごしている時で声が出せない時は、心の中でつぶやくだけでも十分効果が得られます。

落ち込んでいる時は早く元気になりたい、前向きになりたいと思うものですが、無理に元気になろうとするのではなく、“ひとり実況中継”をしながら、今の状態をそのまま受けとめてみましょう。

ステップ4:悲しみの裏側にあるニーズに見つける

ステップ3で“ひとり実況中継”ができたら、自分が感じている悲しみ/怒り/イライラの裏にある、自分が望んでいること(ニーズ)に目を向けてみましょう。

▼人が必要とするもの(ニーズ)リスト

《生命・生活の維持》
食べ物、生命・生活の維持、心身の健やかさ・健康、生理・整頓、住まい、発達・発展、力・パワー、独立、活力(イキイキ)、強さ、豊かさ、空気、運動

《休息》
スペース・空間・場、休息・睡眠、気楽さ、ゆとり、快適さ、癒し、静けさ、気の置けなさ、無防備、開かれていること(オープン)

《つながり》
信頼、相互依存、多様性、コミュニティ・仲間、大切にすること、大切にされること、帰属・所属、調和、一緒にいること、つながり、高めあうこと、参加、交流、分かち合うこと、承認、認めること、認めてもらうこと、協力、透明性、コミュケーション、親密さ、触れること・触れ合い

《理解》
明確さ・明晰さ、受け入れること、受け入れてもらうこと、聞くこと・聞いてもらうこと、見ること・見てもらうこと、共感、知ること・知ってもらうこと、理解すること・理解されること、存在・存在感、気づき・発見

《思いやり》
思いやり、尊敬・尊重、配慮・気遣い、愛・愛情、あたたかさ、気にかける・ケアする、やさしさ

《守ること》
安全、秩序、安定、支え・サポート、プライバシー、平和、平等、安心、尊厳、信念

《意味》
本物であること、嘘じゃないこと、美しさ、意味、祝福・お祝い、貢献、目的、統合、意識、希望

《あそび》
創造性、ユーモア、直感、インスピレーション、学び、遊び、好奇心、刺激、探求、表現、性的表現、挑戦

《自主性》
自由、誠実さ、選択、正直さ、自発性・自主性、自覚、超越・飛躍、繊細さ、計画性、一貫性、流れ(フロー)、能力、効率性、責任、成長、自立
*このリストは、ニーズの一部であり、すべてではありません
*このリストはマーシャルローゼンバーグ氏のオリジナルリストを元に大勢の協力で作られました
改定)西任曉子
出典:西任曉子『本音に気づく会話術』、ホプラ社、2016

悲しみ、怒り、イライラなど不快な感情の背景には、大切にしたかったもの、守りたかったこと、わかって欲しかったことなど、“満たされなかったニーズ”があります。

例えば…
・母を失ったことで、“つながり”が無くなったと感じて苦しんだ
・母と“一緒に”笑うこと、“楽しむこと”がもうできないと感じて悲しんだ
・夫と“温かな時間”を過ごせないことが辛い

満たされなかったニーズを見つけることで、苦しさ、悲しさがどんどん解消していきます。

すぐには答えが見つからないかもしれませんが、ニーズ一覧表を見ながら自分に問いかけてみましょう

その人を失ったことで…
どんなニーズが満たされなくて悲しいのだろう?
どんなニーズを大切にされなかったと感じて腹がたつのだろう?

そして…
これからはどんなニーズを大切にしていきたいんだろう?

ステップ5 解釈と感情を分けて考える

悲しみの中にいる時に、自己批判や他者批判の気持ちが出てくることがあります。

●自己批判…自己否定、自己非難 

・もっとしてあげられたはずなのに。
・何にもしてあげられなかった
・私は冷たい人間だ
・私は何の役にも立てなかった

●他者批判…相手を責める、自分を正当化する、責任の否定、選択肢がないと感じるなど

・あの人がちゃんとしてくれたら、こんな結果にならなかった!
・これ以上苦しませるのはかわいそうだったから、これでよかったんだ
・仕方ない。他に方法がなかったんだ。
・これくらい、どうってことない

苦しいときに自己批判や他者批判をする気持ちが出てくるのは、とても自然なことです。しかし、自己批判や他者批判を続けても、心の回復には残念ながらつながりません。

自己批判や他者批判は、叶えたかったこと、してあげたかった思いの裏返し。ニーズを見つける大きなヒントとして活用できます。 
 
ノートに書き出しながら、自己批判、他者批判の言葉が出てきたら、さらに、ニーズの一覧表を見て、何が満たされずに苦しい気持ちでいるのか、その原因を深堀していきましょう

例えば…
・早く回復しない自分がダメだと思って、焦っているんだ。ドキドキしているんだ
・そっか、私は母に十分にしてあげられなかったと感じて苦しいんだ
・夫ともっと側にいてあげたかったから悲しいんだ
・何もしてあげられなかったと思って、自分に腹を立ててるんだ
・病院のスタッフの態度が冷たい!腹がたつ!と感じるのは、夫との最期の時間を静かに、落ち着いて過ごしたかったからなんだ

焦る気持ちが、回復を遅らせる

回復の過程で、誰もが早く元気になろう、前向きになろうという気持ちを抱きます。

しかし、まだ立ち直れない、早く前向きにならなきゃと思うことは、心の回復を邪魔するだけでなく、うつや燃え尽き症状を招く危険性があります。

心の回復にかかる時間と、心の強さ、弱さは関係ありません。 

突然泣けてくる、誰かの言葉に過敏に反応してイラっとするなどの状態になった時には、「まだ悲しみが自分の中にたくさんあるんだ。時間をかけて回復していけばいいんだ」と安心してくださいね。

大切なのは“一人で抱え込まないこと”

大切な人を失ったことで受ける衝撃、心の痛みから心が回復する時間は、心の強さ、弱さとは関係がありません。亡くなられた方との関係、思いがあればあるほど、痛みは大きくて当然です。

悲しみから早く回復しなければと焦る必要はありません。そして苦しい時には一人で抱え込まないようにしましょう。

体が重だるい、やる気が起こらない、何もかも捨てたくなるなど、心や体の変調を感じた時は、一人で悩まず心療内科、臨床心理士、心理カウンセラーなど、メンタルヘルスの専門家に助けを求めましょう。

誰に相談すればいいのか?悩んだ時は、内閣府が無料で相談にのってくれる「こころの健康相談所」もありますから、是非利用してみてくださいね。

執筆者:橋中今日子

理学療法士・リハビリの専門家/心理カウンセラー
認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟の3人を介護。シングル介護歴は21年になる。
家族関係や人間関係に悩んだことから、心理学、コーチング、コミュニケーションスキルを学ぶ。
「介護者メンタルケア協会」を設立し、家族を介護している方、医療・介護の現場で働く方が「心が軽くなる」よう、心身両面からサポートする活動をしている。
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※この記事は2016年12月時点で作成した記事です。(改修:2019年1月)