【自動車メーカー福祉車両開発インタビュー】いすゞ自動車株式会社 最新の路線バス 人にやさしく進化![PR]

【自動車メーカー福祉車両開発インタビュー】いすゞ自動車株式会社  最新の路線バス 人にやさしく進化![PR]

今回の福祉車両の記事は、多くの方が見たこと使ったことがあると思われるクルマ、公共交通機関である「路線バス」についてのお話です。
床が低く、車いすでも容易に乗り込める「ノンステップバス」の導入やバリアフリー化は以前から進められてきましたが、現在(2016年)、さらなる進化を遂げているんです。
インタビューをしたのは、いすゞ自動車株式会社。2015年8月、15年ぶりにフルモデルチェンジしたノンステップバス「エルガ」のことを中心に、国の方針や施策の内容も含め、いすゞ自動車販売株式会社の商品架装政策部、下山明夫さんにお話をうかがいました。

 

階段で乗り込むバスから、床が低く乗り込みやすいバスへ

―そもそもノンステップバスは、いつごろ登場したのですか。

下山 1997年より国内でノンステップバスの販売がスタートしました。当時、すでにヨーロッパではノンステップバスが主流でしたが、日本では階段(2ステップ)の乗降口が中心だったんです。そのため床の低いバスを導入すべきという国の方針のもとノンステップ化が進められました。

―具体的に国やメーカーは、どのような取り組みをしてきたのですか。

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下山 明夫
いすゞ自動車販売株式会社
商品架装政策部
商品政策グループ 担当部長

 

下山 2000年に「交通バリアフリー法」の施行で路線バスの床の高さが制限され、2ステップバスの新車登録ができなくなり、床の低いワンステップもしくはノンステップへの移行が始まりました。
2004年には「標準仕様ノンステップバス認定制度」がスタートしました。これは、仕様を標準化することによってユニバーサルデザイン導入や製造コスト削減を進めよう、という制度です。

―仕様を標準化する、とはどういうことでしょうか。

下山 当時、ノンステップの仕様はバス事業者やメーカーごとに異なっていました。そこで、認定制度によりシート配列、車いすのスペースや固定方法、スロープ板の種類などが決められました。基準に沿った車両を標準仕様ノンステップバスと位置付け、補助金の交付対象とすることで、さらなる導入の促進が図られてきました。

―その結果、ノンステップバスの普及が進んだのですね。

下山 はい。普及率も上がってきています。2006年に「交通バリアフリー新法」が施行され、2010年までにノンステップバスの普及率を30%にするという目標が立てられました。残念ながら当時は27.9%という結果でしたが、2015年には47.0%まで増えています。また、2011年の法改正により「2020年に70.0%」という新たな目標も設定されました。

最新車両開発には課題山積み「多くの要望・改善点」「相反する条件」

―新型「エルガ」はどのように開発されたのですか。

下山 国がノンステップバスの課題を整理して示した開発の方向性に沿って造りました。2011年「地域のニーズに応じたバス・タクシーに係るバリアフリー車両の開発」報告書がまとめられました。3年にわたり学識経験者や障がいをお持ちの方、運送事業者、そして自動車メーカーなどで検討を重ねた内容です。ノンステップエリアの拡大および通過性改善が求められ、シート配列やスロープ、車いす固定の簡易化までクリアすべき改善点が多く盛り込まれていましたので、それらの課題を克服していく開発になりました。

―多くの課題があり、苦労されたこともあったのではないでしょうか。

下山 そうですね。例えば、サイズの問題。バス事業者からすれば大型バスは広い駐車スペースを必要とするため、車両の全長は伸びるのは望ましくないんです。
一方、利用者の方からみると、車内のノンステップエリアは広いほうが使いやすいので、広げてほしい。このように相反する条件が課題でした。それに加え「どんな道でも走れる」ようにする必要もありました。

―これまで、走行できる道は制限されていたのでしょうか。

下山 そうです。ノンステップバスは床が低いため、雪道や山道では車両の前後がつっかえてしまうんですね。その結果、走る道が限られていました。

難しい課題の解決策「1つの改良で3つの要望に応える」

―難しい条件があるうえでの課題を解決するため、具体的にどうされたのですか。

下山 今回、新型「エルガ」では10.5mの全長を変えずに前輪と後輪の間の長さ(ホイールベース)を50cm伸ばしました。同時に前輪より前、そして後輪より後ろの張り出した(オーバーハング)部分を短くすることでタイヤの接地面と先端部や最後部までの角度を上げ、さまざまな道を走行できるようにしました。その結果、ノンステップエリアを拡大させることにも成功したのです。

―タイヤ位置を調整するという1つの改良で「全長は伸ばさない」「ノンステップエリアを広く」そして「さまざまな道を走行」という3つの要望をすべて満たすとは見事ですね。しかし構造が変化すると、ほかの部分の見直しも必要なのでは?

下山 確かにそうですね。今までは大型車両を動かすため6気筒のエンジンを使っていましたが、それには後部のスペースが必要です。そこで今回は4気筒に変更することで、オーバーハングの短縮を実現しました。
さらに、より運転しやすいよう、トランスミッションもAMT(自動クラッチマニュアルトランスミッション=クラッチ操作不要でアクセルとブレーキの2ペダルで操作可能)とATの2種類としています。燃費もマニュアルと同等かそれ以上に向上させました。

 

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難題を乗り越える開発秘話とともに、下山明夫さんは「路線バスの利用がもっと広がれば」と想いを伝えてくれました

 

基準のクリアとさらなる利便性を実現した技術の進歩と工夫

―シート配列にも課題があったそうですね。

下山 従来、座席下に燃料タンクを置く必要性から優先席は横向きに配置されていました。しかし、横向きの座席だとブレーキをかけて車体が前のめりになったとき、座っている方は足で踏ん張れませんから、横に倒れてしまい危険です。そこでシートを前向きに変えることが検討されたのですが、そうなると燃料タンクの置き場がなくなってしまいます。ノンステップですから床下には設置できません。

―では、どこに燃料タンクを?

下山 タンクの形状を変えて前タイヤの上部に配置しました。これにより以前から危険とされてきた最前列の席も取り外すことができて、同時に優先席すべて前向きに設置できました。
また前扉から優先席まで「伝い歩き棒」を新設したので、ご高齢の方も車内を移動しやすくなりました。さらに通路も横向きに足がはみ出ないため広くなり、ベビーカーが並んでも、その横を通れるようになりました。

―小さなお子さんを連れた方も利用しやすくなりましたね。車いすを乗せるスロープも簡易化されたそうですが、そちらについてはいかがですか。

下山 これまではスロープの設置に時間がかかり収納スペースも必要でしたが、今回、乗降口に設置されていて「引っくり返す」だけで使用できる反転式スロープを採用したことで大幅な時間短縮となりました。車いすの固定についても、従来は時間を要し、車いす利用者の方が「ほかの乗客に迷惑をかけたくない」と乗車を遠慮する要因になってしまっていました。

―それを解消するためにどのようなことをしたのですか。

下山 操作が簡単な自動巻き取り固定ベルトを採用しました。さらに今まではベルトを収納場所から運んできていたのですが、車体に直接、取り付ける仕様も採用したので数秒で引き出し固定できます。スロープ板の角度や手すりの数などにも細かい基準がありましたが、すべてクリアしました。

「フルフラット」実現への取り組みと、すべての利用者への想い

―多くの課題を解決した新型「エルガ」について、お客様からはどのような声が届いていますか。

下山 路線バスをご利用になる皆様から直接、お声をいただく機会は少ないのですが、運送事業者様からは今回の改良点について一定の評価をいただいています。
また2015年の第44回モーターショーに出品した際には、来場者の方々がノンステップの広さに驚かれ「こんなバスが日本でも走っているんだ」とのお声をいただきました。

―今後はどのような取り組みをしていく予定ですか。

下山 理想的なノンステップバスは車内に階段が一切ない「フルフラット」の形です。エンジンの駆動系やミッションの関係で、実現が技術的に非常に難しいのですが、それでも工夫を重ね、ノンステップエリアの拡大に取り組んでまいります。そしてご高齢の方やお身体の不自由な方だけでなく、ユニバーサルデザインとして、すべての方に使いやすい車両を開発していきますので、ぜひ、多くの方にご利用いただきたいと思います。

高齢者や身体の不自由な方のニーズに応え、求められる多くの基準を1つずつクリアして最新のノンステップバスを完成させたのは「すべての方に使いやすく」という、いすゞの想いでした。
介護をされていて公共交通機関を利用するのは「たいへんなのでは」という印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、随所に工夫がみられる、進化した路線バスは、移動の自由を助けるやさしい存在となっています。多くの方がその便利さを体感することで、さらなる進化につながっていくのだろうと希望を持ちました。