【自動車メーカー福祉車両開発インタビュー】ダイハツ工業株式会社 より低価格・高機能 軽の福祉車両で実現[PR]

【自動車メーカー福祉車両開発インタビュー】ダイハツ工業株式会社 より低価格・高機能 軽の福祉車両で実現[PR]

今回、福祉車両についてのインタビューに答えてもらったのは、創立以来100年を超える歴史を持つダイハツ工業株式会社です。
福祉車両の名称を「フレンドシップシリーズ」とし、軽自動車のメリットを生かした福祉車両を手掛けています。
福祉車両の中でも人気の高い車種を取り揃えているダイハツでは、どのような車造りを目指しているのでしょうか。開発の歩みやコストダウンの苦労話まで、特装車両室の大和誠歩さんにお話をうかがいました。

 

個々の要望に応える特装車両から始まり「フレンドシップ」へ

―福祉車両の開発はどのように始まったのでしょうか。

大和 お客様からのさまざまなニーズへの対応として、ダイハツは古くから標準車を改造した特装車両を手掛けてきました。障がいをお持ちのお客様のご要望にもお応えし、早くから福祉車両の開発にも着手しました。
1979年には運転補助装置付き車両を発売し、その後、介護施設でのニーズの高まりを受け、1995年に「ハイゼット」をベースとしたリヤシートリフト(昇降シート車)を発売したのが、本格的な開発の始まりです。

―それからの展開はどうなったのですか。

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大和 誠歩
ダイハツ工業株式会社
営業本部
特装車両室 課長

 

大和 1997年に「ムーヴ スローパー(スロープ式車いす移動車)」を発売するなど、小型車(注:現在はラインナップなし)も含め車種や機構などバリエーションを拡大していきました。
また1999年から福祉車両を「フレンドシップシリーズ」と呼んでいます。より親しみやすく、ご高齢の方、お身体の不自由な方にも、よりやさしいクルマづくりを目指していくダイハツの想いが込められた名前です。

―現在(2016年)のラインナップはどうなっていますか。

大和 昇降シート車では「タント ウェルカムシート」と「ムーヴ フロントシートリフト」を、車いす移動車は「タント スローパー」をはじめ「アトレー」「ハイゼット」でもご用意しています。「ムーヴ」や「タント」は標準タイプとカスタムがあり、さらに「ムーヴ」にはターボグレードも用意しています。
また、軽自動車初の衝突回避支援システムも福祉車両に積極的に採用するなど、幅広いニーズにお応えできるよう設定しています。

軽自動車の経済性、運転のしやすさに加え、多くの工夫で人気を得る

―軽自動車の福祉車両のメリットとは?

大和 経済性に優れているところです。低価格で燃費にも優れ、小型車に比べ税金面など維持費がかかりません。また運転もしやすく、女性にも人気です。狭い道が多い日本の道路事情にも合っていて、施設の送迎でも、「家の玄関先まで」といったご要望に応えられるため、軽の福祉車両には高いニーズがあります。
特に全長と全幅を制限される軽自動車では、車内空間を広げるため、高い車高でも快適で安定した走行ができるベース車の開発が進められてきました。それにともない、福祉車両も、より乗り降りや介助がしやすい車へと進化してきました。

―具体的には「車いす移動車」は、どのように変化しましたか。

大和 車いす移動車は1997年発売の「ムーヴ スローパー」が最初で、その後、より室内が広い「タント」ベースへ移行しました。この初代「タント」はヒンジタイプの4ドアでしたが、2代目(2006年発売)からは左側が大開口のミラクルオープンドア(リヤドアがスライドタイプのピラーインドアで開口時はピラーがなくなる)となりました。お客様から「介助しやすい」と評価していただき、販売台数も月200台を超えるまでになりました。

―高い人気を得たのですね。

大和 はい。現在の3代目ではミラクルオープンドアに加えて両側がスライドドアになり、電動ウインチも標準装備。スロープの長さも1,210mmから1,115mmまで短縮し、狭いスペースでの乗降が可能となるなど、さまざまな改善点を盛り込んだ結果、月400台を超える販売実績をあげ、日本で最も多く販売された車いす移動車となりました。2014年度におけるダイハツ全福祉車両の販売台数は9,000台を超え、軽福祉車両の5割を超える高いシェアを得られるまでになりました。

大開口で乗り降り、省スペースでスピーディー、それぞれのメリット

―「昇降シート車」についてもうかがいます。「タント ウェルカムシート」について教えてください。

大和 通常の座席位置から一旦後ろに下がって回転し、大開口のミラクルオープンドアの中央から昇降できるため、回転時の広い足元スペースと昇降時の高い頭上スペースで快適な乗り降りを実現したのが「ウェルカムシート」です。
ほとんどの昇降シート車が「スローパー車はまだ必要ないが、足腰に不安を感じ、乗降を補助してほしい」という方向けの商品なのに対し、「ウェルカムシート」では、回転時の足元スペースが広いため、膝が曲がりにくい車いすを使われる方にもご利用いただけます。
「車いすでの長距離移動は、非常につらい」とのご意見をよくいただきますが、そういったお客様に通常のシートに乗って快適にご家族とドライブしていただきたいとの想いから開発されました。また、昇降時間が短い、フロントドアだけ開けた状態でも回転し昇降ができる、2ポジションの動作が選択可能な高機能な昇降シートです。

―「ムーヴ フロントシートリフト」の特徴とは?

大和 より使いやすく、より低価格で、より身近な商品コンセプトを目指しました。昇降機構をムーヴ専用設計で最適化をはかり、昇降シートの中で、昇降時間は最速レベルの16秒(注:ダイハツが定めた一定条件での値)に、また座席が車外へ降下した時の突出部分も最小で、介助スペースも広くとれます。コストも抑え、昇降シートとしては郡を抜く最安値を実現しました。

 

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軽自動車の福祉車両への多くの期待を1つ1つ実現、その「裏」を語る大和誠歩さん

 

コストを「約半分」にまで下げ、低価格で福祉車両を提供

―コストを下げるうえで難しいこととは何でしょうか。

大和 軽自動車を販売するメーカーとしては「経済性」を考え、福祉車両でも低価格で提供するのが大切な役目だと考えております。福祉車両の販売台数は、全車両の1%、多くてもせいぜい2~3%程度。そのため量産効果が生かせず、コストも下げにくい。高齢化が進み、お客様からのお問い合わせも年々増えているにもかかわらず、市場が広がっていません。その大きな要因のひとつが、標準車との価格差だと考えています。

―価格差を埋めるために、どのようなことをしたのでしょうか。

大和 専用パーツのコスト低減が大きな課題です。しかも旧モデルに対する品質改善や、機能面でも商品力の向上が求められます。
例えば昇降シート車では、昇降リフトユニットの基本構造や、各パーツの最適な製造方法への見直しをはかりました。また、少量生産を得意とする仕入先を新規開拓するなど、数円単位まで切り詰め、結果として従来と比べ約半分の価格を実現しました。

―標準車と比べてどのくらい価格差が縮まったのでしょうか。

大和 「ムーヴ フロントシートリフト」では、標準車(税込)と約30万円あった価格差を14万円以下にまで抑えることができました。高機能な「タント ウェルカムシート」では、約54万円もあった価格差が現在は約24万円に、「タント スローパー」では、電動ウインチの専用開発を含め、ほぼ全ての専用部品をコストダウンした結果、約35万円あった価格差が約21万円に縮小しました。

福祉車両も試乗できる販売店、スタッフに専門資格も

―販売店ではどのような取り組みをされていますか。

大和 2013年から、福祉車両販売の認定店「フレンドシップショップ」を全国展開しています。2015年12月時点で168店舗、全てバリアフリーに配慮しており、福祉車両の試乗や操作ができます。
また専門資格「福祉車輌取扱士(注:一般社団法人 日本福祉車輛協会が認定)」を取得し、さらに当社独自のプログラムを受講した営業スタッフが、優遇税制など専門知識を持ち、お客様のニーズやお身体の状態に合わせて、最適な車をご提案させていただいています。

より身近になった福祉車両の日々の進化を見に来てほしい

―福祉車両を利用している方や、購入を検討している方にメッセージをお願いします。

大和 お客様の中には以前、福祉車両をご覧になり「似たものばかりで代わり映えしない」とお思いの方もおられると思います。しかし、標準車同様、福祉車両の技術も日進月歩です。
ダイハツだけをご覧になると、モデルチェンジは早くても4年に一度ですが、当社のラインナップや、他社を含めると毎年のように新しい車が発売されています。ダイハツや他のメーカーの販売店に、ぜひ足を運んでいただきたい。必ず福祉車両の進化を実感いただけると思います。

―開発を手掛ける立場としての想いとは?

大和 「たくさんの方に、生き生きと外出していただくために」、その想いを叶える手段としてクルマづくりにかける想いは、どの自動車メーカーも同じです。
お客様のお困りになっていることに対応しきれていない点は多々ありますが、福祉車両を「特別」ではなく、より「身近」なものへ感じていただけるよう、日々技術を磨き、一段ずつ確実に階段を上がっていますので、その変化をぜひ見ていただきたいと思います。

軽自動車に求められる「経済性」と「高い品質と機能性」。これらは同時に福祉車両の市場拡大の鍵を握っています。それを実現する開発者の創意工夫は、世界に先駆けて未知の分野を切り開いていくにちがいない、と、お話を聞いて目の前が明るくなる思いでした。

開発とともに販売の体制についても、期待できる要素が増しています。ダイハツの「商品と販売体制造りの両面で福祉車両を普及促進する取り組み」が国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)主催の「IAUDアウォード2015」で「日本のユニヴァーサルデザイン社会に向けた重要な前進」と高く評価され、金賞を受賞しました。

福祉車両普及の取り組みが認知、評価されることにより、福祉車両が多くの方にとって、より身近で使いやすいものになっていく動きが加速すると感じました。