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【自動車メーカー福祉車両開発インタビュー】トヨタ自動車株式会社 福祉車両の「普通のクルマ化」とは?[PR]

連載第1回から第2回にかけて、福祉車両の現状福祉機器展への出展車両などをご紹介してきました。第3回である今回からは、各自動車メーカーの福祉車両への取り組みや開発秘話をお伝えするインタビューをご覧いただきます。
第1弾は、豊富なバリエーションの福祉車両を展開し、新たな機能を次々と投入してきたトヨタ自動車。トヨタの福祉車両について歴史、想い、展望などを、車両企画室ウェルキャブグループ長の大野修一さんにうかがいました。

トヨタの福祉車両の誕生、そして「ウェルキャブ」へ

―福祉車両の開発が始まった背景と歴史を教えていただけますか。

大野 1964年の東京オリンピック・パラリンピック開催など、社会の動きに沿って1960年代後半から障がい者向け福祉車両の開発に着手しました。
1975年には「ハイエース」の車いす仕様車・リヤリフトタイプの改造を開始し、さらに、国際障害者年となった1981年には「ハンディキャブ」「フレンドマチック」の名称で、メーカー完成車として福祉車両の販売を開始しました。

―福祉車両への取り組みに、より力を入れ始めた時期があるそうですね。

大野 1994年から電動リフトアップシートの販売を開始し、取り組みを強化しました。前年の1993年に「障害者基本法」が公布され、1994年には政府の超高齢社会への対策として「新ゴールドプラン」が策定されるなど、社会福祉の充実が社会の大きな課題となっていた時期です。

1996年には、お客様の幸せな暮らしに役立つことを願い、トヨタの福祉車両の名称を「ウェルキャブ」に変更しました。これはWelfare(福祉)、Well(健康)、Welcome(温かく迎える)、そしてCabin(客室)という意味を込めた造語です。

ウェルキャブを「知ってもらう」「新たに生み出す」

―販売の面ではどのような変化があったのですか。

大野 1996年にはトヨタレンタリースで福祉車両のレンタルを開始しました。また、お客様がウェルキャブを直接、確認できるよう1998年にウェルキャブの総合展示場「ハートフルプラザ」を開設し、こちらは今(2015年)では全国9か所に設置しています。さらに福祉車両の常設販売店「ウェルキャブステーション」を2007年に立ち上げ、多くの方に試乗していただけるようにしています。

大野 修一

大野 修一
トヨタ自動車株式会社
国内商品部 車両企画室
ウェルキャブグループ長

―その間、どのようなウェルキャブが開発されてきたのでしょうか。

大野 車いす仕様のリヤスロープ車を発表した2000年には、ウェルキャブ年間販売台数が10,000台を突破しました。
2005年、車いすを後部座席よりも運転席に近い位置「1.5列目」で固定できる「ラクティス 車いす仕様車タイプⅡ」の販売を開始しました。緊急時でもドライバーの手がすぐに届いてケアできるので、多くのご支持をいただきました。

ウェルキャブを造る開発者の目と会社の意識

―「1.5列目乗車」のラクティスは、どのようにして開発されたのでしょうか。

大野 トヨタには「現場に行き、目で確かめ、自ら考え、改善を行う」という「現地現物」の会社風土が根付いています。ウェルキャブ開発責任者の中川も、実際に養護学校へ足を運び続け、障がいのあるお子さんの送迎のため毎日苦労されている親御さんの姿を目にしました。
困っている方の役に立つためには何が必要か、徹底的に自分の目で見て、感じ、考えて造り出したのが「1.5列目乗車」の仕様です。

―どのような工夫をして生産してきたのですか。

大野 当時、福祉車両は標準車より約60万円も高かったため、コストを抑えるにはどうしたらいいか、が大きな課題でした。
当時は標準車を特装工場へ運びウェルキャブに改造するのが当たり前でしたが、その常識を覆して標準車の生産ラインに組み込む「インライン生産」を会社に提案することになりました。

―提案はすぐに受け入れられたのでしょうか。

大野 いいえ。ウェルキャブを造る際、例えばスロープ車ならカーペットや内装トリムを外して、手作業で鉄板を切断、断面を磨いて溶接、といった工程が加わります。標準車のラインは徹底的に効率化されたトヨタ生産方式を採用していますから、現場からも「標準車に比べて販売台数が少ないウェルキャブを、なぜラインで造らなければならないのか」という声が出ていました。

―そんな状況をどう克服されたのですか。

大野 開発責任者の中川は役員が出席する会議の場で、お体の不自由な方のご家族の厳しい現実を繰り返し訴えました。
「1.5列目乗車」仕様が安く提供できれば、本当に困っている方を助けられる、と伝えるうちに少しずつ社内の意識や雰囲気が変わっていきました。「これは困っている人のためにトヨタだからこそできる」という熱意が会社全体に浸透していき、その結果、日本で初めて「インラインでの福祉車両の製造」が実現しました。

「普通のクルマ化」で福祉車両をもっと使いやすく

―その後、ウェルキャブはどのように推移していったのでしょうか。

大野 超高齢社会の進展や介護保険法の見直しで、今後、医療や介護サービスを在宅で受ける方が多くなり、福祉車両に対する個人のニーズが高まってくることが想定されます。
一方で、ウェルキャブの購入を検討されても「いつまで福祉用途としてウェルキャブを使うかがわからない」と購入をためらうご家族の声が多く寄せられました。そこで新たに「普通のクルマ化」というコンセプトを導入することになりました。

―「普通のクルマ化」とはどういうことでしょうか。

大野 福祉車両の役目を終えても、普通車として利用できるようにすることです。
2014年に発売した「ノア」「ヴォクシー」「エスクァイア」の車いす仕様車は、車いすのまま乗車できるように2列目(左側)のシートを取り外してありますが、車いす仕様車として利用しなくなったら、ご家族の方が普通のシートとして利用できるように「後付けシート」を設定しています。また、垂直に立っていたスロープ板を前に倒せるようにし、車いすを搭載しない場合は、スロープを倒して、荷物の出し入れができるようにしています。
さらにシート車にも次世代の技術を投入しました。それが2015年9月に発表した「新型シエンタ」「ポルテ」「スペイド」へ搭載した助手席回転チルトシートです。

大野 修一
開発の苦労も含め、ウェルキャブに込められた想いを語る大野修一さん

一般の駐車場でも乗り降りできる、より手軽な「回転チルトシート車」

―「チルト」とは「傾く」という意味ですね。助手席回転チルトシート車とは、どういうものでしょうか。

大野 中軽度から重度の方まで幅広くお使いいただける、手動式で価格を抑えた手軽な回転シートを備えた車です。普通車と同じく、一般の駐車場での乗り降りを可能にしました。シートを回転し、座席が前へ少し傾くことで腰の位置が高くなり、自然な体重移動で楽に立ち上がれます。
さらに、車体の外はのシートのはみ出し量が少なく、手動のためシートの収納に3秒しかかかりません。その結果、雨が降ってもお客様の身体やシートが濡れにくくなりました。

―どのようにして一般の駐車場での乗り降りを実現したのでしょうか。

大野 駐車場の幅は一般に2.5mです。「ポルテ」「スペイド」は全幅が1.7mなので、片側それぞれに40cm(隣のスペースを合わせると80cm)の余裕が生まれます。
しかし、電動リフトアップシートから降りる際、人の頭の位置は外側に110cm出る、と人間工学上の計算で分かりました。そこで、回転チルトシートでは、45cmあれば降りられるよう座席の位置や傾きを計算し設計しました。

すべての方に快適な移動の自由を提供し、やさしい社会作りに貢献を

―誕生から発展、そして未来へ向かうウェルキャブの流れがわかりました。そんなウェルキャブをご利用されているお客様からは、どのような声が届けられていますか。

大野 例えば「車の機能など全てに満足しています」といったご感想のほか「販売店の担当者が的確なアドバイスをし、必要書類を揃えるなど、本当に安心できました」など、販売店の対応にも喜びの声をいただいています。
「車いすの娘の送迎から家族旅行まで、長い間、家族の足として活躍してくれています」「本当に助けてくれる車を提供してくれてありがとう」「今では必要不可欠な車となっています」などのお言葉をいただくと、本当にうれしいですし、社内の士気も上がります。

―最後に福祉車両の意義について、教えていただけますか。

大野 移動の自由は、誰もが抱く欲求の1つだと思います。実際に福祉車両に乗り自由を体感し、生き生きとした表情を取り戻される方も多くいます。
ウェルキャブの普及を通じて、ご自宅や介護施設に閉じこもっておられる高齢者の方々に、ご家族の方と外出する機会を増やせたらと願っています。お体の不自由な多くの方が外へ出かけることで、街の人の意識が変わり、理解も深まると信じています。
「こんなに大変なんだ」「困っているから助けよう」と誰もがさりげなく手を差し伸べる、そんな、やさしい社会作りに貢献できたらうれしいですね。

ウェルキャブの開発で目指しているのは「すべての方に快適な移動の自由を提供する」こと。
福祉車両の開発という仕事の根底に「世のため人のために」「困っている人の助けに」という想いがしっかりとあります。
あらゆる仕事に「利益追求」と「社会的責任」があり、ときには相反する2つを、福祉車両を造る現場で両立させていると教えていただけました。