在宅介護が増える中、介護を受ける方の「食」は大きな問題となっています。「きちんとした食事がとれなくなる」「栄養に偏りが出る」ことによって、体調を崩してしまい、在宅から再入院となるケースも少なくありません。
そんな中、役立つのが「やわらか食」。今回は1,000人にもおよぶ患者さんの食生活を劇的に改善する活動をされてきた管理栄養士の中村育子先生に「やわらか食」を利用するメリットについてお聞きしました。
食べることに問題があると、こんなに大変
―要介護状態になると、食事に関してどのような問題が起きるのでしょうか。
中村 まず「自分で食べる」「自分で料理を作る」ということができなくなります。他の人に用意してもらうと食欲不振に陥りやすくなるんですね。また、自分で口に運ぶときにこぼしてしまうなどして摂取量の低下や体重減少を招いてしまいます。さらに、低栄養によるさまざまな障害を引き起こす場合もあります。
―低栄養による障害とは、例えばどのようなものですか。
中村 育子
管理栄養士
医療法人社団福寿会
福岡クリニック在宅部
栄養課 課長
中村 体を動かす器官に異常をきたすロコモティブシンドロームや、筋肉量が減少するサルコペニア、肉体全体が衰弱するフレイルなどのリスクが高まります。
また日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)も低下します。低栄養感染症の危険もあり、冬場ではインフルエンザや肺炎等の感染症にかかりやすくなります。
多くの方の食への「願い」と、実際の状況とは
―患者の皆さんはどのように食事をしたいと望んでいるのでしょうか。
中村 多くの方が「おいしい食べ物を家族と一緒に食べたい」と切実に願っています。「今日の料理はおいしかったね」という日常的な会話で楽しい思いを共有したいんですね。また、日本人は季節感に敏感な方が多いので、例えば秋ならリンゴや栗、柿、キノコのような旬の食べ物が満足感につながります。
―食事の大切さは、栄養を摂るということだけではないのですね。では、要介護者の方における経口摂取の「実態」はいかがでしょうか。
中村 要介護高齢者には歩行困難があることなどから、歯科医へ通えなくなります。義歯をなくしてしまい、歯茎で食べている方も少なくありません。また、自分で口腔ケアができない、介助者がいないという場合もあります。
すると、口腔内の問題から栄養の低下が起き、大きな問題に発展しかねません。東京では歯科医による往診があるので、私達がご家族やケアマネージャーと相談し、患者様に診察を受けていただくこともあります。
食べやすい食品の必要性とユニバーサルデザインフード(UDF)
―食事の大切さと、皆さんが実際に経口摂取をしやすくすることの重要性を考えると解決策として「食べやすい食品=やわらか食」が挙げられます。食べやすい食品として「ユニバーサルデザインフード(UDF)」のことを教えていただけますか。
「在宅介護に『やわらか食』の影響は大きい」と語る
中村育子先生
中村 UDFは日常の食事から介護食まで幅広くお使いいただける、食べやすさに配慮した食品です。種類も豊富で、レトルトや冷凍などの調理加工食品をはじめ、飲み物や料理にとろみをつける「とろみ調整食品」もあります。商品のパッケージには日本介護食品協議会が定めた規格に合っていることを示すマークがついています。どの商品にも「固さ」「粘度」を示す4つの区分も表示されています。
―4つの区分、それぞれについて教えてください。
中村 「区分1」から「区分4」があり、摂食嚥下障害(食べ物を飲み込むのが困難)の程度として「1」が最も軽く、数字が高くなるほど重度になります。「区分1」は食べ物が容易に噛めるけれど固くて大きいものはやや食べづらい、しかしある程度は飲み込める方用。「区分2」は食べ物を歯茎でつぶせる方用です。具体的には固くて大きいものは食べにくく、食材によっては飲み込むのが苦手な方ですね。
「区分3」は舌でつぶして摂取できる方用。「区分4」は噛まずに食べられる商品で、形状は完全なペーストで、小さな粒でも食べづらく、水やお茶も飲みにくい方を対象としたものです。
―「とろみ調整食品」のことを具体的に教えていただけますか。
中村 食べ物や飲み物に加えて混ぜるだけで、適度にとろみをつけることができる粉末状の食品です。とろみのつけ方を「ドレッシング状」「とんかつソース状」「ケチャップ状」「マヨネーズ状」の4段階で表現しています。
摂食嚥下障害の方は飲み込む速度が遅くなり、食べ物が先に喉を通過してしまうのですが、とろみをつける食べ物が喉を通る速度が緩やかになるので、タイミングが遅れる人でもうまくキャッチできるのです。
「やわらか食」で介護を受ける方も介護をする方も「うれしい」
―UDFのような「やわらか食」のメリットは具体的にどのようなことがありますか。
中村 家庭でやわらかい食事を作るのは、とても大変です。「やわらか食」の商品を利用すれば介護する方の負担軽減になり、その分、時間を有効に使っていただけます。また、商品にはおいしいメニューが揃っていますし、家庭では出せない味もあります。介護を受ける方、介護をする方、両方にメリットがあります。
―「やわらか食」がよい結果につながった具体的なケースを教えていただけますか。
中村 介護疲れで体調を崩されていたご家族様に「やわらか食」をお勧めしたところ、それまで1品しか作れなかったのが、おかゆや汁物以外に2品も増えました。介護を受ける方にすれば、ごちそうです。実際に「おいしい」と言っていただき、食事を摂る量も増え、栄養のバランスが改善されました。
―「やわらか食」を上手に利用するには、どのような方法がありますか。
中村 「やわらか食」の商品はメニューも豊富ですが、変化がほしいときは商品に他の食材を少し加えるのをお勧めしています。例えばお豆腐や卵を加えたり、青じそや香味野菜を入れたりするだけでも、味が変わって好みに対応できます。
在宅介護に大きな役割、「やわらか食」の可能性
―病院から在宅へと介護形態が変化していますが、これによって起こる食の問題とはどのようなものでしょうか。
中村 病院では1日3回、栄養の行き届いた食事が提供されますが、在宅の場合はそうとは限らず、生活状況も含めた栄養評価が必要となってきます。実際には経済的な問題も発生します。在宅患者さんに経済的問題のある場合、私達はケアマネージャーや生保ワーカーと連携し、必ず毎日3回の食事がとれるよう環境作りに取り組んでいます。
―そんな状況の中「やわらか食」はどんな役割を果たせるでしょうか。
中村 現在「老老介護」の方が増えています。また、介護保険にあるホームヘルパーの生活援助の時間も短時間で、1日に食材の買い物と調理を同時に行うことは不可能です。少子高齢化がすすみ、今後さらに介護保険はサービスが不足していくと思われます。
そんな中で「やわらか食」は介護する方の時間に余裕を生み、介護能力をカバーし、栄養のバランスも整えてくれます。患者様が低栄養になるかどうかの分かれ目になるといっても過言ではありません。そういう意味で、在宅介護に「やわらか食」がもたらす影響は大きいと思います。
人にとって欠かせない「食」の問題は、介護においても切実です。在宅介護で食事を用意するのが大変、という現状を改善する大きな可能性を持つのが「やわらか食」の商品です。介護を受ける方、介護をする方のニーズに応え、種類も豊富で、品質も優れた商品が数多く販売されています。患者さんご本人の栄養状態を良くするのみならず、ご家族の「介護疲れ」をも解消するケースがある「やわらか食」。ぜひ、気軽に便利に利用していただきたい商品です。