高齢者の口腔ケアの方法は?誤嚥性肺炎の予防に口腔ケアが重要

高齢者にとって口腔ケアは命に関わるほど大切です。口腔ケアをせずに放置すると、誤嚥性肺炎などの疾患を引き起こします。

しかし、口腔ケアがはじめての場合はどうやったらいいか難しいものです。口腔ケアの必要性や注意点、具体的な方法を知って、正しく効率的に高齢者の口腔ケアを行いましょう。

 

高齢者の口腔ケアとは

口腔ケアのイメージ

 

口腔ケアとは口の中を掃除してきれいな状態に維持するケアのこと。口の中をきれいに保つのにとどまらず、体の健康を保ち病気を予防するためにも非常に重要です。

高齢者の中には、自分で口腔内の掃除ができず、清潔な状態が維持できない人がいらっしゃいます。そういう場合は、本人に代わって介護者が高齢者の口腔内をケアする必要があります。

ただし、高齢者の口腔ケアは歯磨きだけを意味しているわけではありません。歯に限らず、上あごや舌をはじめとする口の中全体の掃除なども含んでいます。

口腔ケアの必要性──口内環境の悪化が病気の原因に

口腔ケアは口腔内を清潔に保ち、様々な病気を防ぐために必要です。

口内環境の悪化は全身の健康に影響を与えます。高齢者は免疫力が低下している方が多く、口腔ケアをせずに不潔なまま放置してしまうと死に至る場合も。

口腔内の環境が悪化して起こる病気としては、虫歯や歯周病、味覚障害、口腔カンジダ症、口腔乾燥症といった口腔内の病気がまず考えられます。

さらに、口の中で繁殖した細菌が体内に入り込んでしまうと、誤嚥性肺炎や糖尿病、心臓病、認知症といった症状を引き起こす可能性があります。

また口腔環境の悪化は、細菌がのどの粘膜を弱らせて、カゼやインフルエンザなどのウイルスが入り込みやすくなるリスクを高めるなど、免疫力が弱まっている高齢者にとっては文字通り命に関わる問題なのです。

口腔ケアの効果

高齢者の健康を維持するために必要な口腔ケアについて、どんな効果があるのかを具体的にご紹介したいと思います。

口腔ケアの直接的な効果として挙げられるのは、「口腔内を清潔に保つ」ということです。 この直接的な効果は、上でご紹介したような口腔内の病気、さらに誤嚥性肺炎や糖尿病、心臓病、認知症などの口腔内以外の病気の予防につながります。

日本人の死因第7位「誤嚥性肺炎」を予防する

口腔ケアには、口腔内の細菌を減少させることで、誤嚥性肺炎のリスクを低下させる効果があります。

厚生労働省が公表している「平成29年(2017)人口動態統計」によると、誤嚥性肺炎は日本人の死因第7位で、平成29年には35,788人の方が誤嚥性肺炎で亡くなっています。

誤嚥性肺炎で亡くなる人の多くが高齢者です。嚥下機能の低下で細菌が気道に入り込みやすいのに加え、身体の免疫力が弱まっているため、誤嚥性肺炎を発症するリスクが高いのです。

口から摂取された食べ物は、口腔内で咀嚼された後に飲み込まれて食道内へと入り、胃へと運ばれます。食べ物を口の中から胃へと運ぶ動作は嚥下と呼ばれ、通常は意識せずに行われる動作ですが、複雑な機能の上で成り立っており、加齢とともにその機能は低下していきます。

嚥下機能が低下すると、食べ物や唾液、細菌などが誤まって気道に入ってしまうことがあります。これを誤嚥と呼び、誤嚥によって細菌が肺に入り込んだ結果、誤嚥性肺炎を発症します。

>>誤嚥性肺炎とは 原因・症状・対策

認知症・糖尿病・心臓病の予防

口腔ケアには、誤嚥性肺炎だけでなく認知症や心臓病、糖尿病を予防する効果もあります。

認知症 口腔ケアを行なって歯を保ち、自分の口で食事ができると、食事が脳への刺激になって認知症予防につながります。
また口腔ケアで口の中に触れることが脳への刺激になり、これも認知症予防になると言われています。
心臓病 歯周病になって歯周病が血液に入ると、血管が詰まって心臓病の原因となります。歯周病の人はそうでない人と比べて心臓病になるリスクが2倍と言われています。
糖尿病 歯周病によって発生するサイトカインという物質が血液中のインスリンの働きを悪くし、糖尿病を悪化させます。

口腔ケアで口腔内の清潔さを保つことが、高齢者の健康にいかに大切かがわかりますよね。

口腔ケアの方法

入れ歯のイメージ

次に口腔ケアの方法についてご紹介します。まずは必要な道具について見ていきましょう。

口腔ケアに必要な道具

口腔ケアに使う基本的な道具がこちらです。

  • 歯ブラシ
  • 歯間ブラシ
  • 舌ブラシ
  • スポンジブラシ
  • 受け皿
  • コットンタオル

この6つ以外に、口腔保湿ケア用品(保湿ジェルやスプレーなど)や歯磨き粉、入れ歯洗浄ブラシ、口腔ケア用のガーゼやウェットティッシュなどを適宜用意してください。 舌ブラシやスポンジブラシは、口腔ケア用のガーゼやウェットティッシュを介助者の指に巻いて代用することもできます。受け皿に関してはうがい受けが使いやすいですが、そのほかの容器でも使えます。

口腔ケアの準備──口腔内のチェック

口腔ケアを始める前の準備としてぜひやっておきたいのが口腔内のチェック。

口腔内をくまなくみて、傷ついている箇所や、磨きにくそうな箇所、汚れが溜まっていそうな箇所などがないかを事前に確認します。

入れ歯を入れている場合はこの段階で外しましょう。

また、口腔内が乾燥しているときは、そのままだと口腔ケアによって口腔内が傷つきやすいため、口腔保湿ケア用品を使って湿らせておきます。

>>液体歯磨きとは 種類と使い方

>>洗口液とは 種類と使い方

口腔ケアの3ステップ──歯磨き、舌・粘膜のケア、入れ歯ケア

口腔ケアは歯磨きを含めた次の3つのステップに分けられます。毎食後の実施が好ましく、可能であれば就寝前や食前にも行います。

① 歯磨き

口腔ケアのメインは歯磨きです。歯ブラシを使って、歯の表面はもちろん、歯間、歯の根元と歯茎の間などを丁寧にブラッシングして、歯垢を取っていきます。歯ブラシだけでは歯垢が取りにくいところは、歯間ブラシを利用してください。

脳梗塞などにより麻痺がある場合、麻痺側は汚れが溜まりやすくなっていますので、注意して磨くようにしましょう。

>>歯磨きを嫌がる場合の対処法

② 舌や粘膜のケア

歯茎のケア以外に行うのは、舌、そして口蓋や頬の内側などの粘膜のケアです。舌のケアには舌ブラシを使います。粘膜はスポンジブラシを用いてやさしくこすって汚れをとりましょう。歯と唇の間の粘膜は汚れがたまりやすく、見落としがちなポイントですので、忘れずにケアしてください。

>>舌苔とは 原因・症状・対策

③ 入れ歯(義歯)のケア

入れ歯を入れている方は、歯磨き、舌・粘膜のケアに加えて、入れ歯のケアを行います。 歯垢は自然な歯に限らず、入れ歯にもたまります。

歯垢がたまると細菌が繁殖してしまいますので、ケアをして清潔に保つ必要があります。

入れ歯洗浄液につけるだけでは十分に汚れが取れるとは言えません。1日1回は入れ歯を外して、入れ歯洗浄ブラシなどを使って細かなところまで掃除します。

>>入れ歯のお手入れ方法

 

自力でできる場合は自分でケアさせて見守る

介助者の手を借りずに本人が自力で口腔ケアができる場合は、本人に行わせて介助者がそれを見守りましょう。

うまくできているところは褒め、磨き残しがあるときは励ましながら注意すると、本人のやる気が損われず、口腔ケアへの意欲を維持できます。口腔ケアの注意点

姿勢に注意する

口腔ケアは椅子に座った姿勢で行うのが基本です。その際はあごが上がらないよう、目線を地面と平行にするか少し前かがみの姿勢にします。あごが上がった状態で口腔ケアをするとケアで汚れた唾液を誤って飲み込む可能性があるためです。ベッドから起き上がれない場合は顔を横に向けてケアしてください。

口腔ケアグッズの管理について

歯ブラシや歯間ブラシ、舌ブラシ、スポンジブラシといった口腔ケアグッズは、口腔ケアが終わるたびに水でよく洗い、ほかの人のブラシなどと触れないようにして保管してください。ほかの人のブラシに触れる状態で保管すると、そのブラシから細菌がうつったり、細菌をうつしたりしてしまいます。

口で食事していなくても口腔ケアを

胃ろうや腸ろうなど、口で食事をしなければ、口腔ケアは必要ないと思われるかもしれませんが、そうではありません。食事をしてしなくても、なにもケアせずに放っておくと口腔内は不潔になり、細菌が繁殖してしまいますので、定期的な口腔ケアを行いましょう。

まとめ

介護をしているとほかにもやるべきことがたくさんあって、口の中はつい後回しにしてしまいがちかもしれません。

しかし、改めて考えてみると、口は食事や呼吸、会話など、私たちが生きていく上で重要な役割を担っています。こう考えるだけでも口の健康の重要性に気づかされますよね。

高齢者の全身の健康を守るために重要な口腔ケア。介護者の方が大きな負担を感じず、継続して行くためには、重要なポイントを押さえて効率的に行うことが大切です。

口腔ケアの重要性はまだ十分に広まっているとは言えません。この記事が役に立った場合には、ぜひシェアをして拡散をお願いします。

やってみよう!嚥下体操 - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

自宅でできる!高齢者の嚥下リハビリテーション - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

舌苔(ぜったい)とは? 舌の白い付着物が起こすトラブルやケア方法を解説 - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

監修者:陽田 裕也
陽田 裕也 (ひだ ゆうや)

2001年、介護福祉士養成校を卒業と同時に介護福祉士を取得し特別養護老人ホームにて介護職員として勤務する。
その後、介護支援専門員や社会福祉士も取得し、介護以外でも高齢者支援に携わる。現在はソーシャルワーカーとして、 特別養護老人ホームで勤務しており、高齢者虐待や身体拘束、成年後見制度などの権利擁護について力を入れて取り組んでいる。