介護の食事のときに使える道具

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食事の目的と重要性

“食べる”という行為は体に栄養を取り入れ、それをエネルギーに変え、生命を維持するために最も基本的な日常生活行為です。また、食べ物を目で見る「視覚」、においをかぐ「嗅覚」、耳で聞く「聴覚」、味わう「味覚」などの感覚を使うのはもちろん、舌やあごなどの器官が深く関わっています。これらそれぞれがしっかりと機能することで、初めて実行できる行為なのです。

食事には毎日繰り返すことで、こうした機能・動作を維持するという目的があります。さらに、食事は人と人のコミュニケーションを図ったり、「おいしい」「楽しい」という感情を引き出し、心を豊かにしてくれるという情操部分においても重要な意味を持っています。

高齢者の食べ方の特徴

残念ながら、人は加齢と共に食べる際に必要な機能が低下してしまいます。これは、例外なく誰にでも起こる老化現象の1つです。そして高齢者の食べ方には、次のようにいくつかの特徴があります。

味覚の衰え

味を感じる細胞自体の減少により、味覚が鈍くなり濃い味付けが好む。

嚥下力の低下

飲みこむ力が弱くなり、むせたり、つっかえたりすることが増える。

咀嚼力の低下

歯を失ったり、義歯になったりすることで噛む力が弱まり、固いものを避けて軟らかいものを好んで食べる。また、唾液の分泌量が少ないため、食べ物を細かくしたり、軟らかくしたりする行為に時間がかかり、飲みこむまで時間がかかる。

嗅覚、温覚の衰え

さまざまな感覚が鈍くなり、においがわからずに傷んだものを食べたり、温覚が低下したり、熱いものを食べて火傷をしやすい。

食事に使える道具

介護用スプーン

スプーンの向きを顔の前で自分に向ける動作は、思っている以上に複雑です。柄の部分が自由に曲げられるタイプなら、すくった角度のまま口に運べるので便利でしょう。

介護用食器

底に滑り止めがついた転倒しにくいもの、また、側面が垂直ですくいやすいものがおすすめです。手にしっくりと馴染んで持ちやすく、落としても割れない素材がよいでしょう。プラスチックだけではなく、木や割れにくい陶器などもあります。

介護用箸

2本の箸がバラバラにならないようにつながったものや、弱いバネがついていて力を入れずに挟めるものが使いやすいでしょう。

食事用エプロン

食べこぼしに対応できるよう、撥水加工がしてあるものやビニール製のものがおすすめです。肩周りから太ももまですっぽりとカバーでき、さらに食べこぼしをキャッチするポケット付きが便利でしょう。

吸いのみ

ホルダーがついたものは、持ちやすく飲みやすいでしょう。倒れにくいデザインで、煮沸ができるものやキャップ付きのものが衛生的です。

介護用マグカップ

カップは、片手よりも両手で持てるものが安心です。また、深いものより浅いもののほうが、傾けることなく飲めるのでむせるリスクが抑えられます。同時に、腕への負担が軽くなるでしょう。

道具を使った食事介助の方法

自由に楽しく食べてもらいましょう

高齢者にとって、食事は大きな楽しみです。できるだけ自分の手で食べられるよう、持ちやすいスプーンや箸、また落としにくく安定感のある食器やカップなどを用意してあげてください。食べこぼしを想定したうえで、後片付けがしやすいエプロンをつけたり、床に新聞を敷いたりするなどの対策を行い、自由に食べさせてあげましょう。

時にはほめて励ましましょう

こぼしたからといって叱ったり、遅いからといって急かしたりすることは、自尊心を傷つけます。また、食べる喜びが無くなるだけではなく、「自分で食べよう」という意志も低くなってしまうでしょう。上手くできないときは、道具を持つ手に手を添えながら教えてあげてください。 むせてしまったとき、または助けを求められたときには、すぐに対応できるように見守ることです。その際、黙って見守るのではなく、「おいしいね」「たくさん食べてね」「上手にすくえたね」などの声をかけてあげましょう。それだけで、大きな励みになるはずです。たとえ時間がかかっても、自分のペースで、かつ自分の手で食べさせてあげることが何よりも大切です。