中心静脈栄養とは?

 病気や手術などで一時的に口から食事が取れなくなったり、消化管がうまく機能しなくなったりする場合に、人工的に体に水分や栄養を補給する人工栄養法をとる場合があります。人工栄養法には、胃や腸を使う「経腸栄養」と、血液に直接栄養を入れる「経静脈栄養」の2種類の方法があり、高齢者でも用いられることがあります。

 このサイトでは、経静脈栄養のうち、「中心静脈栄養 (TPN:Total Parenteral Nutrition)」について、具体的にはどのような方法なのか、メリット・デメリットなどについて解説します。

中心静脈栄養とは?

患者への説明

1. 経静脈栄養の2つの方法

 経静脈栄養とは血管(静脈)に直接栄養を投与する方法です。経静脈栄養は、次のような適応の大前提があります。

  • さまざまな状況により消化管が利用できない場合
  • 医師が消化管を利用できないと判断した場合
  • 消化管を使用できても不十分であると医師が判断した場合

 経静脈栄養には、心臓に近い太い静脈を使う「中心静脈栄養法」と、手足など末梢の細い静脈に点滴をする「末梢静脈栄養法」があります。

 栄養管理をする期間が7〜14日以上と中期にわたる場合は中心静脈栄養法を行い、7〜14日以内の短期の栄養管理が必要なときは末梢静脈栄養法が行われます。

 消化管がきちんと機能している場合には、鼻から胃にチューブを入れる経鼻経管栄養や、手術で胃や腸などの消化管に外から孔を開けてお腹の皮膚からチューブを入れる胃ろうや腸ろうで、流動食を直接腸に送る「経腸栄養(経管栄養)」が適しています。しかし、大きな外科手術後や病気が重症な場合、吸収不良を引き起こした場合など、消化管では十分な栄養を吸収できない状態の場合には、栄養管理のために中心静脈栄養法が行われることもあります。

2. 中心静脈栄養法の適応条件

 7日以上口から食事が摂れない以下のような場合に中心静脈栄養法が選択されます。

  • 重度の腸管麻痺や吸収障害などがあり、消化管が十分に機能していない場合
  • 消化管の使用が不可能、あるいは、すべきでないと判断された場合
  • 治りにくい下痢や嘔吐がある場合
  • 消化管が閉塞している場合
  • 小腸の手術により栄養が吸収できない場合
  • 重い炎症があり、腸管を安静に保つ必要がある場合

3. 中心静脈栄養の方法

 中心静脈というのは、上大静脈や下大静脈という心臓に近い太い静脈のことです。中心静脈はとても太く血流が多いため、高濃度・高カロリーの輸液を投与しても一瞬のうちに大量の血液で薄められ、血管への影響や体の副作用も少なく輸液ができます。一方、末梢静脈栄養法では、手や腕などの細い静脈を使うため、濃度の濃いものを入れると痛みがひどく、静脈炎を起こしやすく、血栓ができて血管が塞がることも起きます。また、末梢静脈から十分な栄養を補給するのは難しいのです。そのため、短~中期的に十分なエネルギーの補給が必要な場合には、中心静脈栄養法が適しているといえます。

 中心静脈栄養法では、鎖骨下静脈など皮膚からアプローチしやすい静脈から細いカテーテルを挿入し、カテーテルの先端を心臓近くの太い静脈(中心静脈)まですすめて固定します。一度、このカテーテルを設置すると、点滴の度に針を刺す必要がなく、1日に必要な栄養の大半を点滴だけで補給することができるようになります。

4. 中心静脈栄養法で投与される輸液とは?

 中心静脈栄養では、人間に必要な五大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂肪、ミネラル、ビタミンのすべてを含む輸液が使われます。これをカテーテルを通じて中心静脈へ注入することにより、口から飲食ができなくても長期間、体内に栄養や水分を十分にまかなうことができ、生命を維持することが可能となります。

 中心静脈栄養法で使用される輸液は、1日に必要な栄養素を投与するため、末梢静脈栄養法で使う輸液に比べると3〜6倍も高濃度のものです。高濃度の糖液を急激に体内に投与すると、高血糖になるおそれがあります。そのため、中心静脈栄養法を行うときは、輸液の栄養素が体内で十分代謝されるように24時間かけて一定の速度で投与されます。

 また、検査の結果、何らかの病気にかかっていたり、患者の年齢によってはさまざまな栄養剤が用いられます。たとえば、腎不全の患者で透析が行われていない場合や肝不全の場合、タンパク質が少なく、必須アミノ酸の割合が高い栄養剤が投与されます。心不全または腎不全の場合には、水分の少ない栄養剤が、呼吸不全の場合には、炭水化物が少なく脂肪が多い栄養剤が、肥満患者には、脂肪の少ない栄養剤が投与されます。

5. 中心静脈栄養法の栄養管理方法

 中心静脈栄養法は、急に投与を開始したりやめたりすると体調を崩すことがあります。一般的には血糖値などを見ながら数日かけて少しずつ投与量を上げていきます。これを導入期といい、最初に糖濃度の低い輸液から始め、その後、通常の輸液を用いて1日の必要量を投与します。 中心静脈栄養をやっている間は、血糖値、血液中の電解質やpHのバランス、体重、尿量などを定期的に調べ、欠乏している栄養素がないか、腎機能や肝機能に問題はないかなどを必ずチェックします。

 中心静脈栄養法をやめるときも、開始するときと同様に、投与量を少しずつ減らしていきます。急にやめると、糖質の補給がなくなり、低血糖を起こすことがあります。

中心静脈栄養法のメリットとデメリット

1. 中心静脈栄養法のメリット

 消化管に頼らずに、1日約2,500kcalまで高濃度の栄養を投与できるため、栄養状態が悪い場合に適しています。十分なカロリーを投与できるだけでなく、栄養成分や水分量など、状態に応じて適切な栄養管理ができます。

 1回カテーテルを入れると数ヶ月間使用できるので、末梢静脈栄養法のように液の注入口を確保するために何度も針を刺して点滴する必要がなく、苦痛が少なくなります。また、すでに中心静脈にカテーテルが挿入されているため、症状が悪化した時に、栄養だけでなく薬剤投与なども容易に行うことができます。

2. 中心静脈栄養法のデメリット

 カテーテルを挿入する際に合併症を引き起こすリスクがあります。たとえば、局所麻酔によるショック、注射針による損傷(肺損傷、血管損傷、神経損傷、胸管損傷)などです。

 一般的にカテーテルは炎症を起こしにくい材質のものが使われていますが、身体にとっては異物です。そのため、患者によっては細菌感染を引き起こし、発熱や敗血症(血液に細菌が混じり、高熱や頭痛などを起こし、命に関わることもある)、血栓性静脈炎(静脈内に血栓ができ、炎症を引き起こす)などを発症するおそれがあります。

 高濃度の糖液を点滴するため、高血糖になったり、長期的には脂肪肝などの代謝性合併症を引き起こす可能性もあります。コストが高いこともデメリットの一つといえるでしょう。

 また、腸管は消化吸収を行う器官であると同時に、細菌や毒素が体内に侵入するのを予防し、免疫組織として体調を整えるという機能もあります。このような働きのある腸管を使用しない静脈栄養を続けていると、感染症などの病気を引き起こすリスクが高くなるという研究結果もあります。

中心静脈栄養—導入後、口から食事できるまで回復する?

1. 患者の状態によって回復には差がある

 中心静脈栄養は、本来、一時的な栄養補給方法であり、栄養状態が良くなって自分で食べられるようになれば外す前提で使うものです。もちろん高齢者でも、基本的な体力があれば、中心静脈栄養を導入後にリハビリテーションで回復できる人も多くいます。その導入判断は医師や専門家によって行われ、回復を前提で導入されるのが原則です。

 しかし、中には、長期にわたって経静脈栄養を行ったため食べるための口の筋肉や消化管の機能が衰え、結果的に口から食事ができるまで回復することが難しくなる場合もあります。また、終末期で回復見込みのない、再び自分で口から食事ができるようにならない人に中心静脈栄養法を使うこともあります。そのような状況が見込まれる場合は、導入前に家族などに意見が求められるでしょう。

2. 口腔ケアや嚥下機能強化が回復可能性を上げる

 中心静脈栄養法を行うと、食物を口で咀嚼し、飲み込むという動きをしなくなるため、口の筋肉や嚥下機能が衰えてしまいます。導入中も口腔ケア(口腔内をきれいに掃除すること)や嚥下機能の維持を心がけることで、再び安全に口から食事をできる可能性が高まります。

 高齢であっても、病状が安定したり、栄養状態が改善されて元気が出てくれば、中心静脈栄養をしながら同時に、胃ろうなどで経腸栄養を行ったり、経口摂取の訓練をすることもできます。そして、中心静脈栄養から離脱して経腸栄養に移行したり、あるいは自分の口から食べるまでに回復したりすることもあります。

まとめ

  • 中心静脈栄養法とは、心臓に近い太い静脈に細いカテーテルを挿入し、生命維持に必要な栄養素を点滴するもの。
  • カテーテルの挿入時に合併症を引き起こすリスクがある。
  • 中心静脈栄養法を行うことで高血糖になったり、長期的に使用すると脂肪肝などの代謝性合併症を引き起こす可能性もある。
  • 導入後のリスクや経過の見込みを理解し、医師ともよく相談した上で、中心静脈栄養法を行うかどうかを決めよう。

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(編集:編集工房まる株式会社)

※この記事は2019年10月時点の情報で作成しています。

 

監修者:野溝明子
監修者 野溝明子

医学博士。鍼灸師。介護支援専門員。
東京大学理科一類より同理学部、同大学院修士課程修了(理学修士)、東京大学医学部(養老孟司教室)で解剖学を学んだ後、東京大学総合研究博物館(医学部門)客員研究員。医療系の大学で非常勤講師を務めるほか、鍼灸師として個人宅や施設などへ出向き施術を行っている。
著書に『看護師・介護士が知っておきたい 高齢者の解剖生理学』『セラピストなら知っておきたい解剖生理学』『介護スタッフのための 安心! 痛み緩和ケア』など。