高齢者に多い誤嚥性肺炎とは?

誤嚥性肺炎とは、気管内に食べ物や唾液、逆流した胃液などとともに口の中の細菌が流入することによって、肺に炎症を引き起こす病気のことです。誤嚥性肺炎は、物を飲み込む力や反射、気管に異物が入り込んだ際に咳が出る反射などの嚥下機能が衰える「嚥下障害」が根本的な原因です。嚥下障害は高齢者に多くみられる症状のため、誤嚥性肺炎は高齢者に多い病気とされています。

今回は、嚥下障害がみられるようになった時、誤嚥性肺炎を防ぐにはどのような対策が必要かについて詳しく解説します。

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誤嚥性肺炎とは

誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎とは、正常な状態なら食道の中に流れ込む飲食物や唾液、胃液などが、誤って気管内に張り込むことで生じる肺炎のことです。

通常、私たちが口にした飲食物や口の中で分泌された唾液は、のどを通って食道から胃へ送り込まれます。普段意識することなく行っている「飲み込み(嚥下)」には多くの神経と筋肉が関わっており、老化による衰えや脳卒中など神経・筋肉にダメージが加わる病気の後遺症などによってその機能が低下すると、正常な「飲み込み」ができなくなることがあります。

「飲み込み」に障害が及ぶ症状のことを嚥下障害といいます。嚥下障害は飲食量の減少だけでなく、口の中の飲食物や唾液が気管に流れ込む「誤嚥」を引き起こします。 口の中には目に見えない多くの雑菌が潜んでいるため、「誤嚥」を生じると、無菌状態の肺に雑菌が入り込み、肺で炎症を引き起こすリスクが高くなるのです。これが、「誤嚥性肺炎」の正体です。

 

嚥下状態の解説

 

厚生労働省による平成29年度人口動態統計では、誤嚥性肺炎が原因で亡くなった人は全国で約36,000人に上り、死因順位の7位です。

誤嚥性肺炎を引き起こしやすいのは、以下のような方です。また、高齢者の場合にはこれらの病気がない場合でも、老化によって嚥下する力が弱まることで誤嚥が増え、誤嚥性肺炎を発症するリスクが高くなります。

特に、食事中のむせ込みなどがないにも関わらず、就寝中に唾液や逆流した胃液を誤嚥するタイプの「不顕性誤嚥性肺炎」は本人や周囲が誤嚥に気づかないケースも多く、適切な対処がなされないために肺炎を繰り返すことも少なくありません。

誤嚥性肺炎を引き起こしやすい人

  • 嚥下を行うための神経や筋肉に障害を与える病気を発症している人
    • 脳卒中
    • パーキンソン病などの神経疾患
    • 認知症
  • 食べたり飲んだりする行為に関連する認知機能が低下する病気などを発症している人

誤嚥性肺炎の主な症状

誤嚥性肺炎を発症した場合、典型的には高熱や咳、痰、呼吸困難など一般的な肺炎と同様の呼吸器症状が現れます。重症な場合には、急激に肺の機能が低下して呼吸困難となり、人工呼吸器の装着が必要になるケースも珍しくありません。

しかし、上で述べたような「不顕性誤嚥性肺炎」の場合には、徐々に少量の細菌が気管内に入り込むため気管や肺に慢性的な軽い炎症が生じ、軽度の呼吸器症状のみが現れることがあります。また、中には「何となく元気がない」「食べる量が減った」など、一見すると老化による変化と捉えられがちな症状しか現れないこともあります。

誤嚥性肺炎の予防方法

嚥下をしやすい工夫

年齢を重ねるごとに発症リスクが高まる嚥下障害は、年をとれば完全に避けることはできないものです。しかし、誤嚥性肺炎にできるだけ至らないように、嚥下障害の諸症状を予防したり早期発見・改善していくことが大切です。

具体的には、どのような対策を行えばよいのでしょうか? 以下におススメの誤嚥性肺炎予防対策をご紹介します。

嚥下食の工夫

嚥下障害がある人に対して、誤嚥を防ぐために食事の形状(大きさなど)や粘性(やわらかさなど)などを調節した食事のことを「嚥下食」と呼びます。以下のような嚥下障害のサインが見られるようになったら、「嚥下食」の導入を検討しましょう。

ただし、普通の食事から流動食やゼリーなど急激に食事の形状を変えるとますます嚥下機能が衰えることにつながります。ご飯から軟らかめのご飯へ、刻んだおかずからすりつぶしたおかずへ、といったように段階を踏んで調節していくことが大切です。

嚥下食とは? - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

嚥下障害のサイン

  • 食事中にむせ込む
  • 食事時間が長くなる
  • 食事量が減る
  • 食べ終わってしばらくしても、口の中に食べ物が残っている

食前の準備

物を噛んで飲み込むという一連の動作には、口やのどの神経・筋肉だけでなく、食事に適した姿勢を維持するため首や肩、背中など全身の様々な部位が使われています。

食事には多くの筋肉が関与していると考えれば、食事も一種の「運動」と捉えることもでき、食前にも「準備体操」を行うことが勧められています。具体的には「嚥下体操」と呼ばれるもので、深呼吸して首や肩を回したり、口や舌を動かすトレーニングが含まれています。

体操ではなくても、スムーズな食事のための準備が有効な場合もあります。例えば、食事を開始した時に最も強くむせ込む場合は、のどの神経・筋肉がまだウォーミングアップできていない状態と言えます。

このようなタイプの嚥下障害では、食事を開始する際にシャーベットやアイスクリームなどを口にすることで、口やのどに冷刺激が加わり、動きがよくなることがあります。

やってみよう!嚥下体操 - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

食事中の姿勢

食事中の姿勢の悪さは誤嚥の大きな原因の一つです。姿勢が悪いと、食べ物が正常なルートで胃へ送られづらくなるからです 。

誤嚥なく食事を摂るには背筋をまっすぐ伸ばして身体の傾きを正し、舌を前に突き出した時に床と平行になるような首の角度がよいとされています。

食事介助が必要な人には、介助者が高い位置から食べ物を口に運びがちです。首がやや上を向いた状態だと食べ物が気管に入りやすくなるので、首の角度はやや顎を引くように意識しましょう。

一方、背中が曲がっている、片麻痺があり体が傾く、ベッドをギャッチアップすると体幹を支えきれず前屈みになってしまう、など食事に適した姿勢を保持できない高齢者も多く、それが誤嚥の原因となっているケースも少なくありません。そのような場合は、クッションなどをはさんでできるだけ体幹をまっすぐに支えてあげると、誤嚥が起こりにくくなります。

嚥下障害の食事方法|介護者の注意点 - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

口腔ケア

口の中には目に見えない多量の雑菌が生息しています。この雑菌が食道や胃の中に入り込んでも問題となることはありませんが、無菌状態の気管や肺に雑菌が入り込むと肺炎を引き起こします。

高齢者では、唾液などの誤嚥はある程度起きうること。その上で誤嚥性肺炎を防ぐには、口腔ケアを徹底して口の中を清潔に保ち、唾液や食べ物とともに気管に入り込む雑菌を減少させることが大切です。毎食後、丁寧にブラッシングやデンタルフロスなどで口の中を掃除して清潔に保ち、さらに約半年に一度、歯科医院でセルフケアのみでは落としきれない歯石などをクリーニングしてもらうのもおススメです。

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まとめ

年齢を重ねるごとに発症リスクが高まり、重症な場合には死に至ることもある誤嚥性肺炎を防ぐには、今回ご紹介した対策方法をぜひ取り入れて下さい。誤嚥性肺炎は目立った症状が現れないこともありますので、普段と違った体調の変化がある時はかかりつけ医に相談しましょう。 嚥下障害がある方や、そのご家族の参考になれば幸いです。参考になったらシェアをお願いいたします。

(編集:編集工房まる株式会社)

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監修者:成田 亜希子
監修 成田 亜希子(なりた・あきこ)

2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。