認知症と間違えやすい高齢者のうつ病(老人性うつ病)とは?

高齢者の認知症と間違えやすい老人性うつ病とは?

高齢者のうつ病には、一般的なうつ病と異なる点があります。また、認知症と症状が似ていることもあり、診断が難しい病気です。この記事では、高齢者のうつ病の原因や症状、対応方法などの基礎知識をまとめました。適切な診断と治療開始を目指すためにも、ぜひ参考にしてください。

高齢者のうつ病(老人性うつ病)とは

高齢者のうつ病(老人性うつ病)とは

老年期に入るとうつ病になる要因が多くなることもあり、うつ病になる高齢者は少なくありません。高齢者のうつ病は、老人性うつ病とも呼ばれています。

高齢者のうつ病では、1/3から1/4程度にしか典型的な症状が出ないといわれており、診断が難しいのが特徴です。本人自身がうつ病に気づきにくいことや、また記憶力の衰えなどの症状のため認知症と間違われやすいことから、治療が遅れてしまい、最悪の場合は自殺に至ってしまうことがあります。うつ病と認知症では必要な治療が異なるため、早期に適切な診断と治療を受けることが大切です。

高齢者にうつ病が多い理由

高齢者になると、仕事を退職したり身近な人と死別したりといった大きな喪失体験、病気の慢性化などの健康の減退、家族の介護などのストレス、深刻な経済的危機、社会的孤立など、うつ病を引き起こす要因が多くなります。

また、脳卒中などの身体疾患の合併症としてうつ病を引き起こすこともあります。

高齢者のうつ病(老人性うつ病)の症状

高齢者のうつ病(老人性うつ病)の症状とは?

高齢者のうつ病ではどのような症状がみられるのでしょうか。特徴と共に確認しておきましょう。

うつ病の症状

うつ病では気分が落ち込むといった精神的な症状だけではなく、さまざまな身体的な症状が現れる場合があります。

精神症状

  • 気分が落ち込む
  • 興味や喜びの喪失
  • 不安・焦り
  • 意欲の低下
  • 集中できない
  • 自分を責める
  • 死にたい など

 

自責感が強くなると貧困妄想(お金がない、破産したなど)、罪業妄想(自分が罪を犯した、警察に捕まるなど)、心気妄想(自分は重病であるなど)といった微小妄想がみられることもあります。

重症になると、自発性が低下して無言・無動となる昏迷状態になる場合があります。

身体症状

  • 睡眠障害(不眠や過眠)
  • 食欲異常(食欲低下や過食)
  • 疲労感・倦怠感
  • めまい
  • からだの重さや痛み など

高齢者のうつ病の特徴

高齢者のうつ病では、不眠や食欲不振といった身体症状を訴えることが多いです。本人がこうした症状を自覚し、抑うつ気分や不安を感じているのも特徴です。また、「もの覚えが悪くなった」など、記憶力の衰えを自覚した発言も多くなります。

認知症と高齢者のうつ病(老人性うつ病)の違い

認知症と高齢者のうつ病(老人性うつ病)とは何が違うのか

高齢者のうつ病は、医療機関で使われている長谷川式簡易知能評価スケールなどの認知症のテストでも認知症と同様に低い点数となるため、認知症と誤って診断されることがあります。ただし、うつ病から回復するとこの点数は改善するため、真の認知症と区別する必要があります。高齢者のうつ病と認知症の区別は病院での検査のみで区別することは難しく、普段の様子を知っている家族からの情報がとても重要になります。

 

認知症とうつ病には、どんな点に違いがあるのかを確認しておきましょう。

進行速度

認知症は、体験自体を忘れてしまう記憶障害から始まり、階段を下りるようにゆっくりと進行していきます。高齢者のうつ病は、抑うつ症状や心気妄想などの症状が何らかのきっかけにより急激に出るようになります。

症状の変動

うつ病では、午前中は調子が悪く、午後以降は気分が軽くなることが多いという特徴があります。認知症では、1日の中で症状が変動することはほとんどありません。

認知機能低下の自覚

認知症の方は何かが起こっていると感じてはいるものの、認知機能の低下による症状を自覚していることはあまりありません。高齢者のうつ病の方は認知機能の低下を自覚しており、症状が悪化していないかを気にするようになります。

妄想の内容

認知症の方の妄想で多いのが、自分で別の場所に移動したのにそのことを忘れて盗まれたと思い込む「もの盗られ妄想」です。高齢者のうつ病で生じやすいのは心気妄想、貧困妄想、罪業妄想の3つです。不安や死にたいという気持ちが強くなる傾向もあります。

高齢者のうつ病(老人性うつ病)への対応

高齢者のうつ病にはどのように対応すればよいか

高齢者のうつ病の方には、どのように対応したらいいのでしょうか。

うつ病の方への対応方法

うつ病の方は妄想により、現実とは異なる訴えを繰り返します。本人の訴えを否定をしたり、「がんばれ」と励ましたりするのではなく、「大丈夫ですよ」「必ず良くなりますよ」などの前向きな発言をするようにしましょう。

死にたいという気持ちの強い方には、あいさつ程度でもいいのでこまめに声をかけましょう。相手を気にかけていることが伝わる、温かい言葉を心がけてください。

気分転換になるからと無理に外出を進めるのはNGです。

うつ病の治療方法

うつ病は、抗うつ剤などの薬物療法や休養、カウンセリング、アートセラピーや音楽療法といった集団療法などの治療を適切に受けることで回復する病気です。高齢者のうつ病では環境の変化をきっかけに発症するケースも多いため、環境を整えることも重要です。高齢者は服用している薬も多いため、飲み合わせへの注意が必要となります。おくすり手帳を活用しましょう。

医師と相談しながらその人にあった治療を受け、焦らずに回復を目指すことが大切です。

うつ病かもと思ったら

高齢者のうつ病は診断が難しい病気です。心療内科や精神科などの専門医を受診しましょう。専門医にかかるのを嫌がるようであれば、まずはかかりつけ医に相談してください。

高齢者のうつ病を予防する方法

老人性うつ病の予防方法とは

高齢者のうつ病を予防するためにも、次のポイントを意識した生活を送るようにしましょう。いずれも年齢に関係なく、心身を健康に保つために心がけたいポイントです。

人とかかわりを持つ

特に定年退職を迎えて自宅にいる時間が急に増えてしまうような状況は、うつ病を引き起こすきっかけになります。自宅を出て人とかかわりを持つために、早いうちから趣味を見つけたりボランティア活動を始めたりなど、交流関係を広げて人や社会とかかわっていると実感できるような生活を送りましょう。家族が積極的に声掛けをすることも大切です。

健康的な生活を送る

ウォーキングなどの適切な運動を継続する、栄養バランスの整った食事をとる、十分な睡眠をとるなど、健康的な生活を送るように心がけましょう。

まとめ

定年退職や身近な人の死など、高齢になるとうつ病になる要因が多くなります。若い人のうつ病と比べて、環境の変化がきっかけになることが多いのも高齢者のうつ病の特徴です。

高齢者のうつ病では、身体症状の訴えが多く、抑うつ気分など精神症状が目立たない場合もあるため、診断が難しいことがあります。また、症状が認知症と似ているため間違われることもあります。認知症とうつ病では必要な治療が異なるため、専門医による適切な診断を受けて治療を開始することが大切です。専門医の受診に抵抗があるようなら、かかりつけ医に相談するところからスタートしてもいいでしょう。

うつ病の症状は本人だけでなく、介護している家族も対応に苦しむことがあります。うつ病は治療によって良くなる病気ですので、医師と相談しながら焦らず回復を目指しましょう。

 

※この記事は2020年6月時点での情報を基に作成しています

医師:谷山由華
監修者:谷山 由華(たにやま ゆか)

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)

【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤

内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている