本人や家族のためにも、早期発見と早期治療が重要な認知症。身近な家族が変化に気づくことが大切ですが、認知症なのかそれとも年相応の変化なのかを判断するのは難しいものです。この記事では、家庭で認知症をチェックできるポイントを紹介しています。ぜひご参考ください。
認知症は早期発見、早期治療が大切です
「もしかしたら家族が認知症かもしれない」…。そう感じても確信が持てずに先送りにしてしまったり、疑いたくないからと気づかないふりをしてしまったりすることがあるかもしれません。認知症は早いうちに診断を受けて治療をスタートすることで、進行の予防や症状の改善がより期待できる病気です。
しかし、認知症なのか自然な老化現象なのかを判断するのは難しいものです。
早期受診に繋げるためにも知っておきたい、日常の生活の中で認知症かどうかをチェックする方法をいくつかご紹介します。
認知症を早期発見するメリット
早期に認知症だと発見できれば、本人だけではなく家族にとっても以下のようなメリットがあります。
- 症状の進行を抑える治療を、早い段階から受けられる
- 将来に向けて家族で話し合う時間が取れる
- 自治体や医療機関、介護保険のサポートを早いうちから受けられる
また、安心介護内で行った「認知症を疑ったきっかけと受診までの期間」についてのアンケート調査でも、認知症を疑ってから受診するまでの期間が1年以内の人の方からは、「進行を食い止めることができた」「周りに迷惑をかける前だった」などの声が上がっています。
【アンケート結果】認知症を疑ったきっかけと受診までの期間について - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識
認知症早期発見の目安
まずは、介護をしている家族と同じ立場の人が作成した「認知症早期発見の目安」を紹介します。
日常の暮らしの中で、認知症ではないかと思われる言動を、「認知症の人と家族の会」の会員の経験からまとめたものです。医学的な診断基準ではありませんが、暮らしの中での目安として参考にしてください。
いくつか思い当たることがあれば、一応専門家に相談してみることがよいでしょう。
●もの忘れがひどい □1 今切ったばかりなのに、電話の相手の名前を忘れる □2 同じことを何度も言う・問う・する □3 しまい忘れ置き忘れが増え、いつも探し物をしている □4 財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う
●判断・理解力が衰える □5 料理・片付け・計算・運転などのミスが多くなった □6 新しいことが覚えられない □7 話のつじつまが合わない □8 テレビ番組の内容が理解できなくなった
●時間・場所がわからない □9 約束の日時や場所を間違えるようになった □10 慣れた道でも迷うことがある
●人柄が変わる □11 些細なことで怒りっぽくなった □12 周りへの気づかいがなくなり頑固になった □13 自分の失敗を人のせいにする □14 「このごろ様子がおかしい」と周囲から言われた
●不安感が強い □15 ひとりになると怖がったり寂しがったりする □16 外出時、持ち物を何度も確かめる □17 「頭が変になった」と本人が訴える
●意欲がなくなる □18 下着を替えず、身だしなみを構わなくなった □19 趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった □20 ふさぎ込んで何をするのも億劫がりいやがる
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認知症の人と家族の会とは
公益社団法人認知症の人と家族の会とは、認知症の方を介護している家族や認知症の本人だけではなく、専門職員、地域住民など認知症の方を支えたいと考えるすべての人を対象とした団体です。
認知症に関する啓蒙活動の他に、電話相談を受け付けたり、支部ごとに集会を開いて、同じ立場の人々と交流をする機会を設けたりしています。
入会には年会費(正会員5000円など)がかかりますが、ホームページやTwitterなどを通して会員以外にも広く情報発信を行っています。
9問の質問に答える簡易診断も
続いて、自宅でできる認知症簡易診断プログラムを紹介します。
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とは、聖マリアンナ医科大学名誉教授の長谷川和夫先生が作成した、自宅で気軽にできる認知症簡易診断プログラムです。
テストの問題は全部で9問です。30点満点中20点以下だった場合、認知症の疑いが高いと言われます。ただし、点数が低かったからといって、必ずしも「認知症」と診断されるわけではありません。あくまでも医療機関を受診する目安の1つとしてご利用ください。
認知症ともの忘れの違い
年齢を重ねると、誰にでも起こるのがもの忘れです。認知症によって起こる記憶障害とは、いくつかの違いがあります。
認知症の記憶障害ともの忘れの違い
もの忘れでは体験の一部分を忘れますが、認知症の記憶障害では体験したことの全体を忘れます。例えば「昨日、公園で友達3人とお花見をして団子を食べた」という体験全てを忘れるのが認知症の記憶障害で、「いつ」「どこ」「誰と」などの一部分を忘れるのが加齢によるもの忘れです。
また、加齢によるもの忘れでは忘れていることを自覚していたり、ヒントがあれば思い出せたりする点が認知症とは異なります。
認知症の症状を知っておきましょう
認知症と自然な老化現象を区別するためには、認知症の症状を知っておくことも大切です。
認知症の症状には、中核症状と行動・心理症状(周辺症状/BPSD)の2種類があります。
中核症状とは、認知症によって脳の神経細胞が失われることで直接的に起こる認知機能障害のことです。記憶障害、見当識障害、理解・判断力の障害、実行機能障害、失語・失行・失認などがあり、これらの症状は進行に伴って誰にでも現れる可能性があります。認知症にはアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症などの種類がありますが、どの認知症かによって初期のうちに現れる中核症状は異なります。
行動・心理症状(BPSD)とは、認知症の中核症状に加えて環境や性格、精神的な不安、体調などの様々な要因によって現れる、行動障害や精神症状のことです。人によって現れる症状は異なります。
認知症の中核症状と行動・心理症状(周辺症状/BPSD)について - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識
もしかしたらと思ったら専門医に相談を
認知症であるのか自然な老化現象であるのかを判断するのは、なかなか難しいものです。そのため認知症かもと思っても、受診するまでに時間がかかってしまうことがあります。
ただし、本人がその人らしく生き続けるためにも、家族の負担を和らげるためにも、変化に気づいたらすぐにかかりつけ医に相談、または「神経内科」「精神科(心療内科、神経科など)」といった医療機関を受診して認知症を早期発見、治療開始することは大切です。「認知症早期発見の目安」に当てはまるような言動が、どのくらいの頻度で見られたのかをメモしておき、受診の際に医師に伝えるといいでしょう。
この記事が「もしかしたら」と気づくきっかけ、受診のヒントになれば幸いです。
※この記事は2020年7月時点での情報を基に作成しています。
医師:谷山 由華(たにやま ゆか)
【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤
内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている