認知症の義母がたびたび失禁するようになりました。以前は、トイレに行きたくなったら教えてくれたので介助できましたが、最近は間に合いません。服やシーツが汚れて後片付けも大変です…。やはりオムツをしたほうが良いのでしょうか。いい対策方法があれば教えてください。
認知症が進行すると、ほとんどの場合で失禁が起こります。しかし、本人は羞恥心からそのことを認めたがらなかったり、オムツの着用などの失禁に対するケアを拒否したりすることもあり、多く介護者を悩ませます。
認知症の人の失禁にはいくつかの原因が考えられ、それぞれに適した対処法を行なうことで、失禁のケアの負担を軽減できます。
ここでは、排泄に関連したトラブルの負担軽減につながるように、認知症の人の失禁の原因やその具体的な対処法についての解説をしていきます。
原因は?認知症の人にみられる尿失禁
認知症が進行した人に起こりやすくなるのが尿失禁です。認知症介護はご家族の負担が大きいものですが、排泄関連のトラブルはさらに心身のストレスを増大させる悩みの種。
ご家族の負担を少しでも軽減させるには、認知症の人にみられる尿失禁の特徴や対処・ケアのポイントを知ることが大切です。
まずは、尿失禁のタイプや認知症の人に多い失禁の特徴を確認しましょう。
失禁にはさまざまなタイプがある
一口に失禁と言っても、さまざまなタイプがあります。主なタイプは以下の通りです。
- 腹圧性尿失禁:咳やくしゃみ、重い物を持ち上げたときの腹圧上昇に伴う失禁
- 切迫性尿失禁:強い尿意を感じ、我慢しきれず漏らしてしまう
- 機能性尿失禁:排尿機能の障害や認知症の影響によりトイレが間に合わなくなる
- 混合型尿失禁:腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の混合タイプ
- 溢流(いつりゅう)性尿失禁:排尿障害によって膀胱から尿が溢れてしまう
認知症の人によくみられるのは機能性尿失禁です。とはいえ、高齢になると身体機能が低下するため、それ以外の尿失禁も併発する可能性があります。失禁するようになったら医師に診てもらいましょう。
認知症の人に多い機能性尿失禁の特徴
認知症の影響による機能性尿失禁では、以下のような状況になることが多いです。
- トイレに行きたいことをうまく伝えられない
- トイレの場所がわからない
- トイレの使い方がわからない
- トイレで排泄する認識がない
- 排泄行為の意味がわからない
認知症になると、記憶障害だけではなく理解力や判断力も衰えます。そのため、「尿意があるときはトイレに行く」「おしっこは便器で排泄する」といった基本的なことさえ理解できなくなることがあるのです。
また、普段は大丈夫でも、旅行や施設への入所などの環境変化を機に失禁が起こるケースもあります。
どう防ぐ?尿失禁の対処方法
では、尿失禁はどのように防げばよいのでしょうか。在宅介護で試していただきたい5つの対処方法をお伝えします。
トイレの表示を目立たせる
トイレの場所がわからなくて失禁することが多ければ、トイレの表示を目立たせるようにしましょう。施設や病院と違い、一般の住宅だと他の部屋とトイレの見分けがつきにくいため、認知症の方は迷ってしまいます。
トイレのドアに大きな文字で「トイレ」や「お手洗い」と書いて貼り紙をすれば、トイレにスムーズに行けるようになるかもしれません。文字を読み取るのが難しい場合は、便器のイラストを貼る、トイレのドアを少し開けて便器が見えるようにしておくなどの方法もあります。
トイレまでの動線をスムーズに
部屋からトイレまで移動しやすくなるよう、スムーズな動線を確保することも大切なポイントです。廊下に手すりをつけたり、途中の段差をなくしたりすれば、動作が緩慢になっている方でも移動しやすくなります。
また、夜間も一人でトイレに行ける場合は、トイレまでの動線に照明を設置しておくとわかりやすいです。
トイレの環境を整える
ご本人がスムーズに動作できるよう、トイレの中の環境も整えましょう。例えば、「便座に座る・立ち上がる」という動作をサポートするために手すりを設置する、すぐに座れるよう便座は上げておくなど。可能であれば、トイレのドアを引き戸にすれば、高齢者でも開け閉めしやすいでしょう。
着脱しやすい服を選ぶ
認知症の高齢者は生活のさまざまな動作が遅くなることが多く、ズボンや下着の着脱に手間取ってトイレが間に合わなくなるケースもあります。そのため、ご本人が着脱しやすい衣服を選ぶことをおすすめします。
ポータブルトイレやオムツを利用する
どうしてもトイレが間に合わない場合や、トイレまでの移動が困難な場合は、ポータブルトイレやオムツがおすすめです。
ポータブルトイレは、ご本人にトイレに行く意思があり、座位を保てる場合に有効です。ベッドの横に設置しておけば間に合いやすくなるでしょうし、夜間のトイレ介助の負担も軽減できます。ポータブルトイレは「特定福祉用具」の対象なので、要介護認定を受けていれば介護保険を利用して購入できます。
オムツや尿器という選択肢もあります。オムツや尿器であれば、ベッドに寝たままでも用を足すことができます。ただし、オムツをつけることに抵抗感がある人もいるため、介護の専門家や医師に相談したうえで利用しましょう。
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ご家族の心構えと対応のポイント
失禁のような排泄トラブルはデリケートな問題です。ご家族が意識しておきたい心構えや対応のポイントもチェックしましょう。
叱らない・プライドを傷つけない
多くの方は、認知症になっても羞恥心や自尊心が残っています。ご本人は失禁を恥ずかしく感じ、羞恥心からトイレの失敗を隠そうとすることもあります。失禁は介護者の負担を増やすため、見つけたときは感情的になってしまうかもしれません。ですが、叱りつけると逆効果になることもあるため、ご本人のプライドを傷つけないに落ち着いて対応しましょう。
できる限りトイレを利用してもらう
失禁がみられるようになっても、できる限りトイレを利用してもらいましょう。失禁があるとオムツに頼りたくなるかもしれませんが、オムツを使い続けると尿意や便意を感じにくくなることがあります。
そうすると、もともとはトイレでの排泄が可能だった人でも、トイレに行く意欲や排泄に対する意識が薄れてしまう可能性も。トイレに行く意思や排泄行為への認識があり、歩行可能な方の場合は、安易にオムツに頼らないようにしましょう。
トイレのサインに気づいてあげる
「トイレに行きたい」という仕草やサインに気づいてあげられれば、失禁を防ぎやすくなるかもしれません。認知症になると、自分の状況を的確に説明するのが難しくなってきます。
そのため、トイレに行きたくてもうまく伝えられなければ、結果的に間に合わなくなってしまいます。
キョロキョロとして困っている様子やトイレに行きたいような素ぶりがみられたら、声かけをして、トイレに誘導してあげましょう。
定期的に声かけをする
時間やタイミングを見計らい、定期的に声かけをするのもおすすめです。高齢になると、膀胱に尿が溜まっても尿意を感じにくくなることがあるので、本人が「トイレに行きたい」と言うのを待っていると間に合わなくなる可能性も。
そのため、まずは傾向をつかむために排尿のタイミングを数日間記録しておきます。それを参考にしながら、特定の時間・タイミングに「トイレに行きましょうね」とやさしく誘導すれば失禁する前に用を足せるようになるかもしれません。
適切な失禁対策で介護の負担を軽減しよう
認知症が進むと、排泄やトイレに関する認識が薄れ、失禁が起こりやすくなります。尿失禁が起こる背景にはさまざまな要因があるため、一概には言えませんが、適切な対策を講じれば失禁を防ぎやすくなる可能性があります。
失禁がみられるようになったら、ご紹介した対処方法を実践してみてください。ご本人に合った対処ができれば、ご家族の負担も軽減できるでしょう。
ただし、尿失禁の原因は認知症とは限りません。排尿機能の障害など別の原因がある可能性もあるため、一度、医師に相談することをおすすめします。
※この記事は2020年2月時点の情報で作成しています。
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主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。