認知症の母が介助を拒否します。入浴の拒否もあり、どう対応すれば良いか悩んでいます。

質問

質問者

認知症で要介護1の母と同居しています。基本的に私が身の回りのサポートをしていますが、介助を拒否されることがあって困っています。最近はお風呂に入るのも嫌がるようになってしまいました。

 

私はどうすればいいでしょうか。在宅介護がしんどくなってきました。

 

専門家

認知症のお母さまと同居され、身の回りのサポートをされているとのことで、毎日大変なことと思います。一生懸命介護されているからこそ、良かれと思って言っていることを拒否されるとつらいですよね。

認知症になると今まで普通に行なっていた感覚に違いが出ることがあります。その一つとして、大好きで毎日入っていたお風呂を嫌がるということもよく見られます。これは、私たちにとっては必要と思っていることを本人は必要と感じていなかったり、さっき入ったばかりと時間の認識にずれがあったりするためです。

命にかかわることでなければ、少し様子を見るようにしてみてはいかがでしょうか。

以下では、介護拒否が見られる場合のアプローチの仕方や対処方法についてのポイントをお伝えします。

 

介護者を困惑させる「介護拒否」とは

 

認知症の母が介護拒否

認知症の方には「介護拒否」という症状が現れることがあります。家族やヘルパーさんのさまざまなサポートを拒むようになるので、場合によっては生活に支障が出てくることも。 介護拒否の対処方法を見ていく前に、まずは具体的な症状を確認しておきましょう。

手助けや服薬を拒否する

介護拒否のパターンとしては、主に以下のようなものがあります。

  • 食事をしない
  • 服薬を拒否する
  • 着替えを嫌がる
  • 入浴を拒む
  • トイレに行こうとしない
  • 施設への通所を拒否する

人によって症状の現れ方は異なりますが、生活の基本的なことを拒否するようになるので、介護をする方は対応に悩まされます。

脳の機能低下にともなう症状

脳の細胞が壊れ、理解力や判断力が低下してしまうことが、介護拒否を引き起こす主な原因だと考えられています。介護拒否をされると「性格が変わってしまった」と感じるかもしれませんが、病気による脳の機能低下によって起きているのです。

介護を嫌がる理由・気持ちも知っておこう

介護を嫌がる理由

認知症によって脳が萎縮すると、理解力や判断力のほか、感情面にも影響を及ぼします。その影響は介護を拒否する場面で現れることも。介護拒否をする理由にも個人差がありますが、考えうるものをいくつかご紹介しましょう。

手助けの必要性を忘れた・理解できない

認知症によって記憶力や理解力が低下すると、身の回りのサポートや薬の必要性を理解できなくなることがあります。また、認知症が進むと好きなことさえ忘れてしまい、毎日の楽しみだったお風呂を嫌がるようになる人もいます。

自尊心が傷ついた・恥ずかしい

認知症の方にも自尊心はあります。そのため、「人に手助けしてもらうのが情けない」「迷惑をかけて申し訳ない」といった気持ちが介護拒否につながるケースも。トイレや入浴介助を嫌がる方の場合は「人に見られるのが恥ずかしい」といった羞恥心から拒否するケースも見受けられます。

ほかに気になることがある

認知症が進むと自分の状況やしたいことをうまく伝えられなくなり、そのことが介護拒否を招くことがあります。例えば、本当はトイレに行きたいのに、食事を促されるような場面です。うまく言葉にできないもどかしさや、トイレに行けない不安感などが募ると、人によっては言動が荒くなるかもしれません。

体調が悪い・薬の影響

体調不良や薬の副作用が影響している可能性もあります。例えば食事を拒否する場合、「入れ歯が合わないから食べたくない」とか「食べ物を飲み込めない」といった不具合があるのかもしれません。また、服用薬の影響で体調が優れないことも考えられます。 認知症の人のなかには、ご自身の体調をうまく伝えられない方もいます。介護拒否が見られる際は、身体状況や服薬状況なども確認するようにしましょう。

介護拒否されたらどう対応する?

では、実際に介護拒否をされたらどのように対処すれば良いのでしょうか。基本ポイントやパターン別のコツをお伝えします。

無理強いはしない

まず心がけておきたいのは、「無理強いはしない」という点です。ご本人が嫌がっているのに無理にやらせようとすると、逆効果になる可能性があります。いっそう頑なになり、暴言や暴力につながることもあるので要注意。介護拒否をされたら、いったんその場から離れて様子を見るのがおすすめです。

できることはやってもらう

ご本人の自尊心を尊重し、できることはやってもらうようにするのも一案です。食事の際に配膳をお願いしたり、食後にテーブルを拭いてもらったり、部分的でも何か役割を与えることで自尊心が保てる場合があります。ご本人を尊重する姿勢を見せれば、介護者に対してポジティブな気持ちが生まれやすくなるでしょう。

丁寧に声かけをする

サポートをする際は丁寧に声かけをすることも大切です。なぜ介護をされるのか理解できない方にとって、いきなり人に体を洗われたり、施設に行くために外出を促されたりすることは苦痛に感じられるでしょう。そのような不信感を和らげるためにも、「汗をかいたから体を洗いましょうね」など、なるべく具体的な声かけを心がけましょう。

パターン別の対処のポイント

主なパターン別の対処のコツもチェックしておきましょう。  

着替えを拒否する場合
着替えの介助を拒まれるときは、いったんご自身で着替えてもらうと良いです。その様子をさりげなく見守りながら、うまくできないポイントを確認します。例えば、トレーナーの首や腕を穴に通すのに苦労する場合は、前開きの服に変更すれば着替えやすくなるかもしれません。身体状況や、手足の可動域に合う衣類を試してみましょう。  
食事を拒否する場合
食べ物だと認識できない、食べ方がわからないといった場合に食事拒否が起こることがあります。そのようなときは、「甘くておいしいお饅頭を食べましょう」などと具体的に声かけると良いでしょう。食べ方がわからない方のために、ご本人の目の前で食べて見せる、使いやすいスプーンで食べる食事に変更するのもおすすめです。 また、介護施設への入所など環境変化によるストレスが食事拒否につながる場合も。施設の生活になじめば食べるようになることが多いので、焦らずに待ちましょう。これまでの食習慣や好き嫌いを施設側に知らせておくと対策しやすいかもしれません。  
トイレを拒否する場合
羞恥心からトイレ介助を拒否されるときは、直接的に「トイレに行きましょう」と誘導するのは避けたほうがいいでしょう。例えば、洗面所に歯ブラシを取りに行くついでに立ち寄るよう仕向けると従ってくれることがあります。また、排泄中はトイレからいったん出て、ドア越しに待機すると抵抗感が薄れる可能性も。ご本人の自尊心を尊重し、できる限りプライバシーに配慮したサポートを心がけましょう。  
入浴を拒否する場合
入浴拒否は羞恥心のほか、面倒くささや入浴の必要性を理解できないことが原因となる場合があります。そのような方に何度も促すと怒らせかねないので、背中にクリームを塗るなど、何かほかの理由で脱衣所に誘導するといいかもしれません。入浴はするけれども介助を拒まれる場合は、滑りにくいマットや手すりを設置し、ご本人が安全に入浴できる環境を整えましょう。  
服薬を拒否する場合
服薬を拒否される場合は、まずは薬の必要性を丁寧に説明しましょう。加齢によって飲み込む力が低下し、薬が飲み込みづらくて拒否することもあります。そのような場合は、医師や薬剤師に相談すれば、異なる形態の薬に変えてもらえるかもしれません。

対応に困ったら専門家に相談を

介護拒否の対応に困ったら、ご家族だけで抱え込まず、医師や介護の専門家に相談してください。介護拒否は単に認知機能の低下によるものだけではなく、体調不良や何か不都合があって拒否している場合もあります。思い込みで対処していると、体調悪化や思わぬトラブルを招きかねません。うまく対処できないときは、専門知識がある人の助けを借りましょう。

介護拒否はご本人なりの理由があります

認知症の方が介護を拒否する理由はさまざまです。介護拒否は一見すると、ただわがままを言っているだけに思えるかもしれませんが、ご本人なりに理由があるケースがよくあります。介護はご本人と介護をする方との信頼関係があってこそ成り立つものです。ご本人の気持ちを尊重し、アプローチの仕方を工夫すれば解決しやすくなるので、ご紹介したポイントを意識しながら対応しましょう。

 

監修者:寺岡純子(てらおか じゅんこ)

監修者:寺岡純子(てらおか じゅんこ)

主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。