認知症になると、怒りっぽくなって人格が変わったように思えることがあります。これは「易怒性(いどせい)」という認知症の症状です。薬に頼らなくても改善する可能性があります。この記事では怒りっぽくなる原因や対応方法についてまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
認知症の易怒性(いどせい)とは
認知症になると、初期のうちから些細なことで怒りっぽくなり、すぐに怒鳴ったり、他人に攻撃的な発言をしたりといった症状が出ることがあります。
これは認知症の行動・心理症状(周辺症状/BPSD)のひとつです。アルツハイマー型認知症の場合には、こうした人格の変化とも呼べる症状が軽度認知障害(MCI)のうちから出ることもあり、家族が異変に気付くきっかけにもなります。
易怒性は認知症だけではなく、多くの精神障害でみられる症状です。「おかしいな」と思ったら、病院を受診するようにしてください。
行動・心理症状(周辺症状/BPSD)とは
認知症の行動・心理症状(周辺症状/BPSD)とは、認知症になったら必ず出現するものではなく、人によって出たりでなかったりする個人差の大きな症状です。
認知症の行動・心理症状には他に、幻覚やしまい込んだものを盗られたと思い込む「物盗られ妄想」、徘徊、抑うつ、意欲の低下などがあります。
認知症になると怒りやすくなる原因
なぜ、認知症になると怒りっぽくなってしまうのでしょうか。その原因には以下のようなものがあります。
認知機能の低下による不安や混乱
認知症の人は初期の頃から、もの忘れや失敗が多くなったこと、昔は難なくできていたことができなくなったこと、他の人が言っていることが理解できなくなったことを感じていて、その不安を抱えていたり、混乱していたりするため、周囲の言動にとても神経質になっています。
また、認知機能の障害によって感情の抑制もできなくなっているため、自分のちょっとした間違いや失敗を指摘されると、すぐにかっとなりやすくなります。
体調不良のため
不眠や便秘、脱水などの体調不良を自覚できず、怒りにすり替わっているのかもしれません。
薬の副作用のため
認知症の治療に用いられるコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)により、易怒性が出てきたり、症状が強くなったりといった副作用が出てくる場合があります。こうした副作用は、服用してすぐに出現するとは限りません。
もしかしたらと思ったら、かかりつけ医に相談をしてみてください。
認知症の種類別、怒りの特徴
認知症の種類ごとに怒りの特徴を見ていきましょう。
アルツハイマー型認知症
初期のうちから怒りっぽさが出てきます。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症の特徴的な症状に、人格の変化があります。礼節や社会通念を失い、衝動的で無分別な行動をする症状の一環として、怒りやすくなったり、攻撃的になったりすることがあります。
怒りの対処方法
怒りっぽくなってしまった認知症の方には、どのように対応したらいいのでしょうか。
安心できる環境を整える
部屋を明るくし、適切な温度や湿度に調整しましょう。本人が好きな音楽を流すなどして、安心できる環境を整えましょう。
本人に合わせて行動する
本人が分かりやすいようにゆっくりと話しましょう。また、視界も狭まっているので、正面に回って話しかけるようにすると良いです。プライドを傷つけてしまうため、子ども扱いは避けた方がいいでしょう。
否定や強要をしない
本人を否定したり、一緒になって怒ったりするのは避けましょう。介護されるのを嫌がる時には、無理にやろうとはせずに時間を置くことも大切です。
妄想や幻覚といった症状が出ている場合にも、否定は避けてください。
ショートステイを利用する
易怒性は認知症の症状だとは理解していても、介護している家族の精神的な負担は小さなものではありません。
ショートステイなどを利用して、介護者も息抜きをするように心がけましょう。本人に拒否があるようなら、ケアマネジャーに相談をしてください。1泊からスタートして徐々に慣れてもらったり、「自分が入院することになったので、その間はショートステイに」と伝えてみたりして、距離を取る方法を一緒に見つけてくれるでしょう。
医者に相談する
上記のような対応をしても効果がない場合には、認知症以外の病気の可能性や薬物療法に移行する必要があるかどうかも含めて医師に相談をしてみましょう。
薬物療法といっても、「薬漬けにしておとなしくさせる」ということではありません。薬の内容や量がうまくいくと、怒り以外の正常な感情は抑制せずに、平穏に過ごせる場合があります。
怒りから暴力に発展するような場合には、早急にケアマネジャーや地域包括支援センターに相談をしてください。
まとめ
認知症による易怒性は、人によって発現に差がある行動・心理症状(周辺症状/BPSD)のひとつです。アルツハイマー型認知症では、軽度認知障害(MCI)のうちから易怒性の症状が出る場合があります。
記憶障害や見当識障害などによる不安や混乱、または体調不良が易怒性の原因となっている場合があります。認知症の治療に用いられる薬の副作用で易怒性が発現するケースも報告されています。
易怒性のある認知症の方の対応には、安心できる環境をつくり、本人に合わせた行動をとって否定や強要をしないことが大切です。また、ショートステイを利用して適度に距離を取るなど、介護者自身のケアも忘れてはいけません。医師やケアマネジャーなどの力を借りて、対応していきましょう。
医師:谷山 由華(たにやま ゆか)
【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤
内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている