認知症が進行するにつれて、人が変わったように暴力的になってしまいました。家族も混乱し、また大声を出されると怖いので介護が辛いです。あまりにひどいと、ついこちらも本気で怒ってしまいますが、これではいけないと反省しています。何でもないことで興奮して暴れるのはなぜなのでしょうか。どうやって扱えば良いのか教えてください。いつまでこのような状態が続くのかと思うとこれからが思いやられます。
認知症になり穏やかだった人が乱暴になったり、突然スイッチが入って大声をあげるようになったりするような性格の変化は家族にとっては辛いものですね。
認知症は脳の細胞が壊れることによって起きる病気です。脳はその部位によって様々な役割があり、感情や理性をコントロールする部位に障害を受けると暴言や暴力といった症状が現れることがあります。
ここでは、その原因と対応のしかたについて詳しくご紹介していきます。
認知症の人の暴力とは
認知症の人の暴力的な行動とは、どのような形で現れるのでしょうか。またその原因となる要素とは何なのでしょう。
認知症で良く見られる暴力
認知症で良く見られる暴力的な行動には、以下のようなものがあります。
- 暴言を吐く
- 叫ぶ
- 疑う(ものを盗まれたなど)
- 物を投げる
- 人を叩く
- ひっかく
- 噛みつく
暴力行動は、認知症のすべての人に現れるというわけではありません。しかし、それまで穏やかな性格だった人が、「急に人格が変わったように」激しい行動を起こすことがあります。 また、何かのきっかけでいきなり機嫌が悪くなり、大声で叫び出す人もいます。 物を盗られた、なくなったなど、家族や周囲の人を疑うような妄想を抱き、暴れ出す場合もあります。
暴力の原因
こうした暴力行動の原因は、認知症により感情の抑制ができなくなっていることにあります。
認知症は、脳の細胞に異常が起きたり壊れてしまったりする病気です。
脳は人間の行動のコントロールを行い、理性や感情を司る器官です。ここがうまく働かなくなれば、感情のふり幅が大きくなり、介護する側からは極端に見える行動をとってしまいます。
「前頭側頭型認知症」では理性をコントロールする前頭葉が委縮するため、感情の抑えがきかなくなります。また「レビー小体型認知症」というタイプの認知症は、幻覚や幻聴が現れ、「誰かが家にいて騒がしい」「部屋に人が入ってきて物を盗っていった」などの発言が見られます。
暴力の原因となるのは、精神的不安定や家族・周囲への不満、恐怖や悲しみ、身体の異常や変調による不快感などがあります。
要因は複数ある
このように認知症の暴力の要因となるものは複数あり、各個人によって異なります。いくつかの要因が複合的にからんで、暴力の形となって現れる場合もあります。
前兆となる様子や変化を見逃したことで次第に症状が悪化したり、いつもと違うことがあったのがきっかけで感情が揺さぶられて暴力行動につながったりするケースも考えられます。
家から施設や病院に入所したといった、施設の担当者が変わったなど、環境の変化も原因の一つとなり得ます。
なぜ暴力をふるうのかを理解するために
暴力的な行動は、本来のその人の性格によるものではなく、認知症という病気が引き起こす言動です。そこを理解していくことが、状況の改善にも役立ちます。
暴力や怒りは問題行動ではない
暴力的な行動や怒りで叫んでいる様子を見ると、家族は「問題行動」と受け取り、困惑してしまうでしょう。
しかし本人にとってはコントロールが効かないだけであり、それなりの理由があります。他の人から見ればただ暴れているだけに見えても、自分ではどうにもできないという切ない感情の表れなのです。
怒る、興奮するといった行動には、引き金となった直接的な出来事とともに、感情の深いところで関連している根本的な理由があります。
それぞれの理由や原因を、時間をかけながらでも探っていくことで暴力的な行動を減少させる手がかりを見つけられます。
「して欲しくない」という気持ちの発露
暴力や暴言は、本人が「〇〇して欲しくない」「こうして欲しい」という気持ちの表れでもあります。
周囲の判断が自分の意志にそぐわなかったり、本人にとっては見過ごせない困りごとがあったりする状態なのかもしれません。
自分ではできるつもりでいることを横から手を出され、自尊心が傷つけられている可能性もあります。
感情の起伏を緩和する
何とか落ち着かせようとして、力で押さえつけようとしても、一層興奮させるだけです。なぜそうした行動に至ったのか、周囲の理解しようとする気持ちが必要です。その場をごまかそうとするだけでは、本人が敏感に感じ取り、なかなか収束できません。
表情を読み取りながら、柔和な顔つきになるまで興奮状態を受け止め、落ち着いてきたら話を聞いていきましょう。本人の口から思わぬヒントが得られる可能性もあります。
認知症の暴力の改善に向けて
どれほど家族が我慢強くても、たびたび興奮状態が起こるのでは介助する側が疲弊してしまいます。再発を防止し、改善していくために起きてしまった暴力行動から学んでいく必要があります。
原因を探る
先にもあったように、暴力行動には必ず原因があります。
昼夜が逆転していて良く眠れておらず、イライラしているなど身体的不快感が理由となる場合も考えられます。昼間に散歩を促したり、医師に相談したりするなどして対処できることがあります。
急に暴力的になったり興奮状態が続いたりするときには、薬の副作用であることも考えられます。処方が変わった、薬が増えたなど、変化があった場合には疑ってみる必要があります。
認知症の症状が進行したり、精神疾患を併発していたりすることが、暴力行動を激化させているといる可能性もあります。
その他、施設内での人間関係や生活環境が、暴力行動の遠因となるケースもあります。
寂しさや、不安感、怖いといった気持ちの揺れが見られるときには、その原因となることを探っていきましょう。
きっかけとなる出来事はないか
暴力行動が起きたとき、そのきっかけとなった出来事を良く思い返すようにしてください。家族が出かけようとした、通院させようとしたなど、一定の行為によって暴力が誘発される場合もあります。
時間的な規則性があれば、なぜその時間なのかを考えましょう。認知症の人は、夕方になると不安感が増すことがあります。なるべくその時間は家族が一緒にいるようにしたり、散歩をしたりして精神を穏やかに保つ工夫をするなど、対策を立てていきましょう。
寝不足や運動不足、食欲不振、内臓の不調、足腰の痛みなどにも注意します。家族の知らない身体の不具合が、きっかけとなっている可能性もあります。
力ではなく頭を使う
日頃から興奮状態が起きたときに備え、注意をそらす方法を考えておくことも一つの有効手段です。
誰かキーパーソンになる人物によって、落ち着かせられるということもあります。可愛がっていた孫がくれば、大人しく従う例も聞かれます。
その他にも音楽や写真、ペットなど、心が穏やかになる方法を探しておくと、役に立つかもしれません。
力で制しようとするのではなく、頭を使いながら穏やかにできる手段を確保していきましょう。
介護する人の対処法は?
暴力行動が起きたとき、介護する人はどのように対処するのが良いのでしょうか。
感情的にならない
暴れているのを目の当たりにして、冷静でいられる家族はまずいません。しかし、自分自身が感情的になってしまうと、火に油を注ぐ状態となってしまいます。
そうした行動が起きるのは、本人の性格や責任ではなく、もちろん家族のせいでもありません。病気が引き起こしているのだと強く意識するようにします。
介護する人が精神的に不安定になると、相手の不安感も増大します。日頃から介護する人自身がストレスをためず、心穏やかにいられることが大切です。
争わない
認知症で興奮状態の相手には、「争わず」「逆らわず」で対応します。
身に危険を感じる場合には、少し離れた場所から見守るようにします。暴力行動は、一定の家族の向く場合もあります。本人にとっては、もっとも身近な存在に感情が向けやすいということなのかもしれません。
そうしたときには他の人に対応を代わってもらうと、落ち着く可能性もあります。
いずれにしても暴言に対して同じように防戦したり、力で抵抗したりするのは逆効果であることを忘れないようにしなければなりません。
周囲のサポートを得る
認知症の人の暴力や暴言でもっとも心を傷めるのは、介護をする家族です。その家族が心を病んでしまっては、生活を改善する手立てがなくなります。
常にケアマネジャーや医師と連絡を取り合い、相談をしながら対応にあたっていきましょう。介護において、孤立だけは避けたいものです。
暴力行動が起きたとき、その詳細を観察・記録をして医師に報告するのも改善に役立ちます。報告を受けた医師が検討し、投薬を変えたことで、改善したという例もあります。
身体的な疾患や痛みなどがないか、日常生活の中で注意し、確認するようにします。
本人にとって居心地の良い居室となるよう工夫し、心穏やかに落ち着いて暮らせる環境づくりを心がけていきましょう。
家族が対応に疲れたり、特に家族への反発が強かったりする場合には、ショートステイなどを利用し、適度に距離を置くこともときには必要です。
負のサイクルを避けるために
人が変わったような家族の姿を見るのは、とても辛いことです。病気のせいとは考えながらも、興奮状態がしばしば起これば、介護する人のストレスを増大させます。介護する側の不安な心情が、さらなる暴力行動につながる場合もあります。
恥ずかしいなどと考えずに、ケアマネジャーやヘルパー、医師などの各方面の専門家に相談することが、暴力行動の防止・改善をする上では重要です。
認知症の人の暴力の例は、決して少なくありません。専門家のにアドバイスを参考に、状況改善に役立てていきましょう。
※この記事は2019年11月時点の情報で作成しています。
主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。