ターミナルケアとは 在宅や施設、病院における方法

ターミナルケアとは

家族の人生の最期をあなたはどこで迎えさせてあげたいですか?自宅で迎えさせてあげたいけれども自宅ではどうしても難しい、できれば本人が楽に過ごせる場所がいい、安心できる場所がいい等、最期を迎える場所についてはさまざまな思いがあるでしょう。
今回は、人生の旅立ちまでの経過の中で行われるターミナルケアにスポットを当てていきます。
ターミナルケアとは何か、ターミナルケアをどこでするかなど、これから家族がターミナルケアに差し掛かる方へ参考になれば幸いです。

 

ターミナルケアとは

ターミナルケアについて

ターミナルケアという言葉をご紹介する前にまず終末期という言葉をご紹介します。終末期とは「治療方針を決める際に、患者はそう遠くない時期に死に至るであろうことに配慮する」時期のことをいいます。そして、この時期に行われる医療やケアのことをターミナルケアと言います。
ターミナルケアでは基本的に延命を目的とした治療は行わず、痛みや不快な症状を和らげる緩和ケアが中心となります。身体・精神的ともに苦痛を伴わないよう、本人らしく生きられるようにサポートしながら、人生の最期を迎えられるように行われるものです。

高齢者に限らず、人間は必ずいつか最期のときを迎えます。家族を介護しているならば、そのことはいずれ訪れる現実として考えておく必要があるでしょう。

ターミナルケアの開始時期

家族として悩ましいのはターミナルケアの開始時期ではないでしょうか。
例えばガンなどの病気の場合は、病気の治癒が期待できず積極的な治療ができなくなってしまったタイミングからターミナルケアが開始されます。ですが、認知症や老衰では、「いつからをターミナルとするか」の判断がとても難しいでしょう。一般的には、寝たきりになって食べられなくなってきた頃からがターミナルとされています。

選択可能な延命措置方法

選択可能な延命措置方法

ターミナルケアはただ死を待つケアではなく、延命をすることも可能です。
ターミナルケアにおける延命とは、栄養の投与や呼吸の補助などです。口から栄養が摂れなくなれば人は衰弱して死に至りますが、あらゆる方法で栄養を投与し続けることによって生き永らえることはできます。その選択肢となるのが24時間点滴で栄養を送る中心静脈栄養、鼻から胃にチューブを通して栄養剤を送る経鼻経管栄養、胃に穴をあけて外部と交通するチューブを通し、そのチューブから栄養剤を送る胃ろうなどです。
呼吸の補助には、酸素吸入や気管切開、人工呼吸器などの選択があります。
こういった延命措置を行うかどうかは医師と話し合って決めます。

延命措置・医療方針の意思決定者は誰か

容態が急変してしまった場合に、CPR(心肺蘇生)をするかどうかも含めた延命措置について、医療方針の意思決定をするのは基本的には本人です。認知症の場合には、本人の意思確認が難しくなっていることがほとんどなため、家族が決定することになります。
厚労省が発表したガイドラインでは、本人の意思が確認できない場合の医療方針や延命措置の決定手続きについて以下のように述べています。

  1.   家族等が本人の意思を推定できる場合にはその推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
  2. 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
  3. 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、 本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

最近では本人が元気で正しい判断ができるうちに、「リビングウィル(終末期の医療への希望や方針を意思表明した書面)」を作成しておくケースやエンディングノートを作成しておくことが増えています。

在宅でのターミナルケア

在宅でのターミナルケア

住み慣れた自宅でのターミナルケアを望む人もいます。政府も医療費削減のために、在宅での看取りを推進していく方針です。
在宅でのターミナルケアは、病院に入院する場合と比べて費用はかかりませんが、費用以外の介護家族への負担が大きいため、医療・介護サービスとの連携や、家族間の連携が欠かせません。
家族だけでずっとケアを行うのではなく、医師や看護師などに訪問してもらって痛みや不快感を和らげたり、本人や家族の精神的支援を受けたりしながら、在宅で看取りに向けた日々を過ごします。

認知症の場合

ターミナルまで自宅介護されてきた家族は、そのまま自宅での最期を選ぶことが多いでしょう。特に認知症のある方は環境が変わることで混乱を招いてしまうこともあるからです。また、認知症の方は本人からの処置についての同意を得ることが難しいということもあり、在宅で看取りをするという方も少なくないようです。
ずっと認知症の介護をされてきているので、医師やケアマネージャーなどと連携を取りながらの経験が根づいています。それまで以上に医師や訪問看護師らと密に連絡を取り合い、ターミナルケアを進めていくといいでしょう。

ガンなどの場合

ガンや難病などでは、医師がこれ以上効果的な治療がないと判断した場合、在宅に戻ることを勧める場合があります。これは、残り少ない余命を住み慣れた家で気持ちよく過ごしてほしいという医療機関からの計らいでもあります。実際に、ガンにおいては在宅でターミナルケアを受ける方が多い傾向にあります。病院にはソーシャルワーカーなどがいる地域医療連携室がありますので、在宅医療を始めるためのアドバイスをもらいましょう。ガンのターミナルケアは医療処置もあり不安という方もいらっしゃるかもしれませんが、訪問診療や訪問看護を活用することで無理なくターミナルケアを在宅で行うことができます。

医療的な措置が必要となるケースも

ターミナルケアでも本人の苦痛が緩和できるように、痛み止めなど必要とされる薬剤の点滴や酸素吸入など、その方の状態に合わせた処置が求められることもあります。状況により、処置内容や医師・看護師の訪問回数などは違ってくることになります。

家族だけですべてのケアを行うと肉体的にも精神的にも疲弊してしまうことが考えられます。医師や看護師だけでなく介護サービス事業者などがサポートしてくれることもあります。これらの資源を上手く連携しながら適切な医療・介護サービスを利用しましょう。

褥瘡(じょくそう)が出来ないように注意を払いましょう

褥瘡とは「寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと」をいい、床ずれとも言います。
施設や病院では、一定時間ごとに職員が体位交換を行い褥瘡を予防しています。在宅でケアをする際にも、褥瘡を予防するようにこまめに体位変換を行うことが必要です。また、施設によっては褥瘡があることで受け入れを拒否することがあります。ターミナルケアを在宅でしていても、何かあった時は施設へ任せたいと考えている方は特に褥瘡のケアには気を配っておくとよいでしょう。

ターミナルケアに必要な家族の心構え

自宅でターミナルケアを行うにあたり、家族はどのような心構えをしておけばよいでしょうか。看取りと一言で言っても、その人の最期はいつ来るかわかりません。ガンという診断で余命を宣告されていたとしても、その余命をはるかに上回り長生きをしたという方もいます。とある調査によれば、 平均介護期間は4年7ヶ月程としています。先の見えないターミナルケアですので、まずは何より序盤で頑張りすぎないこと、そして医療や介護などの社会資源をフル活用することをおすすめします。
また、ご本人がまだコミュニケーションをとれる段階であるならば積極的にコミュニケーションをとり、今後の生活についても考えておかれることもおすすめします。
サイトでも何度も紹介したエンディングノート。こちらを早い段階から書いてもらい、活用していくことが望ましいですが、中にはエンディングノートを書くことを拒否されたり、本人に病気の告知をしていないから、エンディングノートを書いてもらえないという方もいるようです。そういった場合には、「もしも最期が来たらどうしたい?」というようなもしもに備えての質問をしたり、交換ノート形式で最期についての思いを書き留めてもらい、家族側の意向も伝えるなどしておくという方法もありますのでご活用ください。
在宅でのターミナルケアとなると、ケアのほとんどを家族が中心となって行います。家族も慣れないことが多く、大きな負担になってしまうかもしれません。決して家族だけでやろうと無理はせず、専門家を巻き込み、みんなでケアをしていくという体制を作ってください。

介護施設でのターミナルケア

介護施設でのターミナルケア

ターミナルを迎える場所は、もちろん自宅以外にも考えられます。特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)などには「看取り介護加算」や「ターミナルケア加算」があり、看取りを前提とした入居をすることも可能です。

グループホームなどでは看取りを前提とした入居ができるかどうかは、医療施設と提携しているかどうかなどの医療体制とともに、事前に確認をしたほうがいいでしょう。介護施設でターミナルケアを受けながら、容態が急変したときには病院へ搬送され、病院で最期を迎える人も少なくありません。

介護施設での「看取り」

令和3年4月の介護報酬改定において「看取り介護加算」「ターミナルケア加算」の算定要件が見直されたことから、施設における看取り介護を充実させるところが増えてきました。そのため、介護施設で積極的に看取りを行うところが増えているのが現状です。介護施設では看取りについて十分研修を受けたスタッフがケアをしてくれること、今の本人の状態にあったケアを提供し、家族の精神的ケアや情報提供なども密に行ってくるという観点から、家族としては安心して任せられるかもしれません。
ですが、このように充実したケアを提供してもらえるとなると利用したいという方も増えていきます。
現状介護施設では入所されている方から優先して看取りを行うということもあり、在宅でターミナルケアをしていている方が、数日後に施設に入所したいという希望を通すのはかなり難しいことと言えます。ある程度待ち時間があるということを覚悟したうえで、施設での看取りを検討されるとよいでしょう。

病院でのターミナルケア

病院でのターミナルケア

厚生労働省が緩和ケア病棟(ホスピス)の診療対象としているのは、「ガン」と「後天性免疫不全症候群(エイズ)」患者です。
緩和ケア病棟のほかにも、一般病棟で緩和ケアチームに診てもらうこともできます。ただし日本ホスピス緩和ケア協会によると、2021年6月時点で緩和ケア病床数は、累計9383病床(456施設)です。また、日本緩和医療学会に登録された緩和ケアチームは2019年で520施設になっています。

病院に「とりあえずの入院はできる?」

病院の場合、療養病棟や緩和ケア病棟でターミナルケアを行うことができます。ですが、この病院での看取りの対象の多くはガンで、ガンの拠点病院に設置されている緩和ケア病棟でのターミナルケアが多いようです。
すなわち、ガンや後天性免疫不全症候群以外の病気で、病院でのターミナルケアを行うことは難しいと言えます。また、自宅でのターミナルケアが難しくなったのでいったん医療機関を利用するといういわゆる社会的入院も難しいというのが現状です。

※この記事は2021年10月時点の情報で作成しています。

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医師:谷山由華
監修者:谷山 由華(たにやま ゆか)

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)

【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤

内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている