介護施設で転倒や誤嚥といった事故が起こることがあります。事故の連絡を受けたらなかなか冷静でいるのは難しいものです。介護施設ではどんな事故が起こりやすいのか、どのように対応したらいいのか、相談先はどこなのかをあらかじめ把握しておくようにしましょう。
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介護施設で起こりやすい事故とは
時には命にかかわることもある介護事故。介護施設には思うように身体が動かせない方や認知症の症状がある方がいることもあり、事故が起こりやすい環境です。
介護施設で起こる事故には、以下のようなものがあります。
転倒・転落
歩行中や立ち上がりの際に転倒したり、座位が保てずに転倒転落してしまったり、ベッドや車いすから転落してしまうケースです。
介護施設で発生する事故の8割を占めます。
誤嚥・誤飲
食事介助中にのどに食べ物が入って窒息してしまうケースや食べ物や飲み物が気管に入り、それが原因で誤嚥性肺炎を起こしてしまうケースです。むせる機能が低下している高齢者もいるため、食事介助中の誤嚥による誤嚥性肺炎と、一般的な肺炎とでは区別が付きにくいことがあります。
また、口腔ケアが十分にされておらず、口の中の雑菌が唾液と一緒に気管に入って誤嚥性肺炎を起こしてしまうケースもあります。
介護ミス
おむつを交換しようとして体を動かした時に大腿骨などを骨折させてしまうおむつ交換骨折や、体位変換や移乗、更衣介助の際などに、利用者の皮膚を傷つけてしまったり内出血(皮下出血)を起こしたりしてしまうケース、入浴介助前に血圧や体温測定といったバイタルチェックを怠ったことで、入浴中に体調が急変してしまうケースなどです。
徘徊による事故や行方不明
利用者が介護施設を抜け出して徘徊し、事故にあったり行方不明になったりしてしまうことです。認知症などにより介護施設からの脱出が考えられ、徘徊の危険性が高い利用者に対して、介護施設には見守りの強化やベッドから降りるとブザーが鳴るなど、尊厳を重視しながら予防策を講じる義務があります。
介護施設で事故が起きたときに家族がするべきこと
事故があった時には、家族はどうしたらいいのでしょうか。介護家族がするべきことをまとめます。
しっかりと説明を受ける
事故の連絡を受けたら、事故報告書を提示してもらったうえで事故の状況やその後の対応、そして今後の対策などの詳細を説明してもらいましょう。市町村に提出する事故報告書ではなく、事故発生の詳細や事故の原因、対応策が書かれている施設の事故報告書を提出してもらうといいでしょう。
また、目撃や対応したスタッフが経過を記録する介護記録も見させてもらうと、事故の状況がイメージしやすいかと思います。
施設から説明を受ける際には、不明点はしっかりと質問し、録音しておくことをおすすめします。
治療費などを請求することを考えてみる
介護施設側に過失があり、介護事故により治療が必要になったり損害が発生したりした場合には、施設側に費用を請求します。詳細は契約書に書かれているので確認しましょう。 「必要な事故防止策をしていなかった」、「指示や規則への違反があった」など、職員や施設などに過失があって起こった場合には、契約書の内容に基づいて介護施設が加入している保険から治療費などが支払われます。
弁護士に相談する
施設の対応に納得がいかず、慰謝料や後遺症などへの損害賠償請求などをする場合には、むやみに裁判を起こすのではなく、弁護士に相談するとよいでしょう。
ただし、実際に慰謝料などが支払われても、それほど大きな金額になることは期待できず、弁護士費用が高くついてしまうこともあります。法テラスや無料で相談できるサービスもあるので、まずは利用してみるといいでしょう。
介護施設での事故に関するQ&A
介護施設での事故にかかわる疑問をまとめます。
利用者が利用者にケガをさせた場合は?
利用者が故意に他の利用者にケガをさせてしまった場合には、介護施設に責任はあるのでしょうか。
これは事故発生までの当事者の行動などから、ケガをさせてしまうことが予想できたかによって変わってきます。もし、以前から暴力的な行動傾向があったのにもかかわらず放置していたのであれば、介護施設が責任を問われる可能性があります。
介護事故を予防するために身体拘束はしてもいい?
身体抑制の3要件「切迫性・非代替性・一時性」というものがあります。介護保険の運営基準上、利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため、緊急やむを得ない場合には身体拘束が認められています。
ベッドから落ちてしまう方や、歩けないのに車イスから立ち上がろうとして転倒してしまう方に、ベッドを柵で囲って出られなくしたり、車イスから立ち上がれないようにベルトで固定したりといった対策をすることは、身体抑制の3要件にあたらない場合、してはいけません。
本人や他の利用者の安全を確保するために必要であり、他に方法がなく、一時的である場合を除いては、身体拘束をしてはいけません。また、職員の独断で身体拘束が行われることはなく、家族の同意が必要となります。
事故が起こりやすいのはどんな時?
介護施設に入居したばかりで環境に慣れていない間は、精神的に不安定になり、転倒する危険が高くなります。特に認知症の方には注意が必要です。 不安な場合には、ひとりで移動ができる方でもしばらくは移動時に付き添いをお願いしておくといいでしょう。
介護事故が起きた時の相談先
介護施設で事故が起こったら、苦情や要望、相談はどこにしたらいいのでしょうか。
苦情相談受付窓口
苦情相談受付窓口は、契約時に取り交わした重要事項説明書に記載されています。多くの場合は、担当のケアマネジャーなどの施設の一員が担当しています。まずはそこに相談をしてみましょう。
それでも解決しなかったり直接施設に話をするのに抵抗があったりする場合には、以下に相談してみてください。
第三者委員会
第三者委員会の連絡先も重要事項説明書に記載されています。第三者委員会とは、話し合いの場に立ち会うなど、利用者と事業者の間に立って苦情の解決にあたる存在です。事業者が設置するものですが、利用者の立場を尊重するべき存在とされています。
市町村や県の窓口
市町村の役所にある介護保険課や県の国民健康保険団体連合会の苦情処理窓口の連絡先も重要事項説明書に記載されています。
いずれも保険者(自治体)が窓口になるでしょう。
地域包括支援センター
地域包括支援センターに内容の相談をしてみてもいいでしょう。弁護士への無料相談などの情報も提供してくれるはずです。
国民生活センター
商品やサービスなどのトラブルについて苦情や相談を受け付けている国民生活センターですが、介護サービスについての相談も受け付けています。
弁護士
どうしても解決が難しい場合や、話し合いの内容に納得がいかないため、法律による判断を望む場合には、弁護士に相談をしてみるのも一つの手段です。
ただし、費用と時間がかかってしまいます。まずは各自治体や社会福祉協議会などが提供している無料相談などを利用するといいでしょう。
介護のQ&A
安心介護内には、専門家や介護家族への相談が投稿できる「介護のQ&A」があります。気楽な相談の場として利用してください。
まとめ
介護施設で転倒や転落、誤嚥、介護ミスなどの介護事故にあってしまう場合があります。介護事故の連絡を受けたら、施設からしっかりと事故の状況やその後の対応、そして今後の対策について説明を受け、疑問に思うところは質問をして明らかにしていきましょう。施設で作成している事故報告書や介護記録を見せてもらうと、介護事故の原因や状況の把握に役立ちます。
マニュアルやルールにそむいていたり事故予防のための対策をしていなかったりなど、介護施設に過失がある場合には治療費などが介護施設から支払われます。
もし話し合いに納得がいかないようであれば、重要事項説明書に記載されている相談窓口に連絡をしてみましょう。施設の用意した相談窓口の他に、自治体が設置している相談窓口も記載されています。内容によっては、国民生活センターや弁護士などに相談をしてみるという方法もあります。
しっかりと説明を受けて泣き寝入りをしないことも大切ですが、感情に任せて時間や費用をかけてしまうのも避けたいところです。寄り添ってくれる相談先がみつかるといいですね。
※この記事は2020年3月時点の情報で作成しています。
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2001年、介護福祉士養成校を卒業と同時に介護福祉士を取得し特別養護老人ホームにて介護職員として勤務する。
その後、介護支援専門員や社会福祉士も取得し、介護以外でも高齢者支援に携わる。現在はソーシャルワーカーとして、
特別養護老人ホームで勤務しており、高齢者虐待や身体拘束、成年後見制度などの権利擁護について力を入れて取り組んでいる。