経済的、環境的に在宅での生活が難しくなった高齢者の「最後の砦」と呼ばれているのが、「養護老人ホーム」です。公的な施設ですが、他の高齢者施設とは性質が異なります。本記事では、その特徴やサービス内容、対象者、費用などについて解説しています。ぜひご確認ください。
- 養護老人ホームとは?知っておきたい基本ポイント
- 養護老人ホームのメリットとデメリット
- 養護老人ホームの対象者
- 養護老人ホームのサービス内容
- 養護老人ホームでかかる料金
- 養護老人ホームに入所するまでの流れ
- 様々な事情を抱えている方に
養護老人ホームとは?知っておきたい基本ポイント
養護老人ホームの基本ポイントを確認していきましょう。
様々な理由で生活が困難な方が入居できる高齢者施設
養護老人ホームとは、身体的・精神的・経済的・環境的な理由により、自宅での日常生活が困難な高齢者が対象の施設サービスです。1932(昭和7)年に設置された生活困窮者のための施設「養老院」を起源に持ち、現在でも高齢者の「最後の砦」としての役割を担っています。
有料老人ホームや特別養護老人ホームなどの他の施設は、利用者や家族が希望して申し込み、施設と“契約”して入所します。養護老人ホームは、契約ではなく市町村が入所を判断する“措置”により入所となります。
高齢者を「介護」する施設ではなく「養護」する施設であるという点が、大きな特徴です。経済的な理由で生活が困難な方や、家族の援助が受けられない方、常に介護が必要ではないものの身体または精神の機能が低下している方、事情により住まいがない方、虐待者からの保護が必要な方などが入所しています。
要介護認定を受けていなくても、必要だと認められれば入所が可能です。介護施設ではなく、社会復帰を目指す高齢者施設であるため、寝たきりなどの要介護度の高い方は入所できません。入所者が自立した生活を送れるように、見守りや声掛け、機能訓練、自立支援を提供しています。
介護が必要になった場合には在宅介護サービスを利用することができます。
養護老人ホームの職員体制
日常生活の支援やお手伝いをする支援員は、利用者15人に対して1人以上が設置されています。養護老人ホームは介護施設ではないため、介護人員の配置は充実していません。
支援員の他に、管理者、生活相談員、看護師、栄養士、調理員、嘱託医などが配置されています。
養護老人ホームの利用状況
厚生労働省の「社会福祉施設等調査」によると、2017(平成29)年10月1日時点での養護老人ホームの利用状況は以下の通りです。
- 施設数:931
- 定員数:62,040人
- 在所者数:55,678人(在所率89.7%)
養護老人ホームの退所について
養護老人ホームは、自立した方が対象の施設です。そのため、常に介護が必要になったり、養護老人ホームでは対応しきれない医療的ケアが必要になったりすると退所となります。また、社会復帰を目指す施設ですので、地域で自立した生活が送れるようになった場合にも退所となります。
その他にも、問題行動や危険行為により、他の利用者や近隣住民に迷惑をかけてしまう場合に退去せざるを得ないことがあります。
養護老人ホームのメリットとデメリット
養護老人ホームのメリットとデメリットを比較してみましょう。
養護老人ホームのメリット
- 所得によっては他の施設よりも、費用が低額
- 様々な事情を抱えた方の対応に慣れている
- 支援を受けながら社会復帰を目指せる
養護老人ホームのデメリット
- 介護度が重くなると退去しなければならない
- 入所の要否は市町村が判定するので、希望しても必ず入所できるわけではない
養護老人ホームの対象者
養護老人ホームに入所できる対象者を確認しましょう。
養護老人ホームが利用できる方
原則65歳以上の方で下記の両方に当てはまる方
- 入院治療が必要ない方で、現在の環境下では在宅での生活が困難な方
- 低所得の方(生活保護世帯の方、市町村民税の所得割が非課税世帯または均等割りのみ課税世帯の方、災害などの理由で生活の状況が困窮している世帯)
養護老人ホームが利用できない方
寝たきりの方や介護度の高い方、施設では対応しきれない医療的ケアが必要な方は利用できません。インシュリンや在宅酸素など、対応可能なケアについては施設に問合せください。
また、在宅での生活が困難な方のための施設です。所得の多い方や理由のない方は利用できません。
養護老人ホームのサービス内容
養護老人ホームのサービス内容を見ていきましょう。
養護老人ホームのサービス内容
養護老人ホームでは、その人に合った支援が受けられます。具体的な支援内容にはこんなものがあります。
- 3食の食事の提供
- 週2回以上の入浴や清掃、洗濯のサポートなど、清潔保持のお手伝い
- 安否確認や生活相談など
- 介護や緊急時の24時間対応
- 介護予防や生きがい支援、就労支援などの自立支援
- 機能訓練
- 日々の体調管理や服薬管理
- クラブ活動などのレクリエーションなど
※サービス内容は施設によって異なります。詳しくは施設にお問い合わせください。
養護老人ホームでの介護サービスについて
介護が必要な方は、訪問介護や訪問看護、デイサービスなどの在宅介護サービスの利用が可能です。
養護老人ホームの生活自由度
養護老人ホームでは、食事の時間や起床・消灯時間などのルールが定められています。中には門限を定めている施設もあります。それ以外の過ごし方は自由です。
外出や外泊も自由ですが、多くの施設では事前に届け出を提出します。面会も面会時間内であれば自由に行えます。
養護老人ホームで入所する部屋のタイプ
養護老人ホームの居室は原則個室です。広さは一人当たり10.65平方メートルと定められており、寝具や身の回りの品の収納が備わっています。
必要に応じて夫婦が同じ部屋に入所することも可能です。
養護老人ホームでかかる料金
養護老人ホームでかかる費用は、以下の通りです。
養護老人ホームでひと月にかかる費用
様々な経済状態や事情を抱えた方が入所する養護老人ホームでは、利用者本人や家族の前年度の対象収入に応じて料金が変わります。
対象収入とは、収入から所得税などの税金や医療費、介護保険料、介護保険サービス利用料(自己負担分)などの必要経費を引いた金額のことです。
例えば収入が200万円で必要経費が50万円の場合、対象収入は150万円となります。
ひと月当たりの費用の目安
利用者本人の前年度の対象収入によって39の区分に分かれており、どの区分に当てはまるかによって費用が異なります。 区分
区分 | 収入対象 | 費用 |
区分1 | 270,000円以下 | 0円 |
区分2~38 | 270,001円以上 1,500,000円以下 |
1,000円~81,100円 |
区分39 | 1,500,001円以上 | 対象収入のうち 1,500,000円を超過した額×0.9÷12+81,100円 (100円未満は切り捨て) ※上限は140,000万円 |
上記の他に、扶養義務者への費用徴収が発生する場合があります。
入所時にかかる費用
入所時にかかる保証金などはありません。
養護老人ホームに入所するまでの流れ
最後に、養護老人ホームを利用する基本手順を確認しておきましょう。
養護老人ホームの利用方法と入所手続き
養護老人ホームは、施設と契約を結んで入所するのではなく、市区町村が入所の要否を決めたうえでの入所となります 。
1.行政の窓口に相談する
本人または家族が、市町村の養護老人ホーム担当窓口、福祉事務所、民生委員、地域包括支援センターに、どうして在宅での生活が難しいのかなどを相談します。
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2.申し込んで調査を受ける
養護老人ホームに申し込むと、市町村が状況や本人の健康状態を調査して、入所判定委員会にて入所の可否を判定。市町村長が入所判定委員会の報告により入所措置の要否を決定します。
3.入所決定
入所可の判定がでたら、入所決定です。同時に自己負担額も決定されます。 ※上記は基本的な流れです。サービス提供事業者やケアマネジャー、利用者の状況によって異なります。
様々な事情を抱えている方に
介護をする人と介護を受ける人が抱えている事情や思いは、人によって異なります。同居できないのに施設にも入れられない…と悩んだら、一度養護老人ホームを検討してみてはいかがでしょうか。希望したら必ず入所できるという施設ではありませんが、まずは地域包括支援センターや自治体の高齢者窓口、民生委員に相談してみてください。
訪問介護事業所職員、福祉用具専門相談員。 訪問介護サービスの利用をきっかけに、ご利用者様や ご家族の表情が和らいでいくのを何度も目にしてきました。 2021年の介護福祉士取得を目指しています