遠距離介護のはじめ方

遠距離介護の始め方

 

離れて暮らしていても介護は可能です。親子それぞれの暮らしを大切にする遠距離介護には、どのような準備が必要で、どんな費用が掛かるのでしょうか。遠距離介護が始まる前に知っておきたい情報をまとめました。うちの親はまだ元気!という方も、ぜひご参考ください。

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遠距離介護のメリットとデメリット

遠距離介護のメリットとデメリット

仕事や家庭などの事情で、離れて暮らしたまま介護をする「遠距離介護」。そのメリットとデメリットを比べてみましょう。

メリット

●親世代のメリット

  • 住み慣れた地域や家で暮らし続けることができる
  • 子世帯に気を遣う必要がなく、自由な暮らしができる

●子世代のメリット

  • 転居の必要がないので介護離職を避けられる
  • 介護ストレスを軽減できる

また、介護保険施設である「特別養護老人ホーム」は、施設や地域によっては長期間待機する必要がありますが、介護者が遠方に住んでいる要介護者は優先順位が高くなることもメリットだと言えるでしょう。

デメリット

  • 費用が掛かる
  • 何かがあった時にすぐに駆け付けられない
  • 認知症の進行や日々の生活の変化があっても気づきにくい

遠距離介護を成功させるための準備

遠距離介護を成功させるための準備

遠距離介護をスタートさせる際には、どのような準備が必要なのでしょうか。

家族と十分に話し合う

遠距離介護に限らず、介護は家族間で協力することが大切です。介護サービスを利用する際にはキーパーソンを決めますが、ひとりに負担がかからないように、利用している介護サービスの状況や要介護者の身体状況の変化などは、常に情報共有しておくようにしましょう。それぞれの役割に加えて、費用の分担についても細かく話し合うことが大切です。

要介護者本人がどのように暮らしたいのか、要介護度が進行した時にはどうしたいのかなど、本人の意思も重要です。

要介護認定を受ける

まだ要介護認定を受けていないようであれば、認定の申請をしましょう。最も自立に近い要支援1でも使えるサービスはありますし、住宅改修の際に介護保険を利用することができます。

詳しくは市町村の役所にある高齢者窓口、または地域包括支援センターにご相談ください。

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要介護1以上の高齢者のみの世帯は、家族が同居している場合よりも掃除や洗濯などの生活支援のサービスが受けやすくなります。掃除機が重くて使えなくなったり、洗濯や片付けが面倒くさくなったりして家の環境が悪くなると、埃や汚れによる健康状態の悪化や散乱した物に足を取られて転倒するリスクが高くなります。また、定期的に家に介護職員が訪れてくれるので、ささいな変化にすぐに気づくことができるのがメリットです。まだ元気だと思っていても、ぜひ利用を検討してください。

住宅の改修

住宅の改修

長年暮らしてきた住宅は、高齢者向きではないことがあります。高齢になっても暮らし続けられるように、手すりを設置したり段差を解消したり、トイレを洋式にしたりといった住宅の改修を行い、事故が起こりにくい住環境を作りましょう。

費用の準備

費用の準備

介護にかかわる費用の問題は、後々のトラブルの原因になることが少なくありません。親の年金額や預貯金などの資産、保険の有無なども確認しておくと良いでしょう。

親の介護にかかる費用は、親の資産で賄うのがポイントです。

地域の介護施設の情報を収集する

地域の介護サービスに関する情報や自治体が独自に提供している支援、近隣のボランティア団体についての情報を収集しておきましょう。

ケアマネジャーにお任せできることですが、自分でも情報を集めておくと相談や提案がしやすくなります。

また、施設入居が必要になった時のために、近隣の介護施設の情報を知っておいても良いでしょう。

ご近所さんに協力を依頼する

時に頼りになるのが、「遠くの身内よりも近くの他人」です。異変があった時に連絡をしてもらったり、時々様子を見てもらえたりするように、ご近所の方や町内会に協力をお願いしておきましょう。

特に認知症がある場合には、徘徊や昼夜逆転などで迷惑をかけることがあるかもしれません。日ごろから良好な関係を築くことが大切です。

親の人生を知る

親の交友関係や要介護度が進行したらどうしたいのか、そして資産状況などについて、直接聞くのは難しいものです。 そんな時には、元気なうちからエンディングノートを書いてもらうのがおすすめです。直接は話しにくいことでも、エンディングノートには書いてくれるかもしれません。

遠距離介護でかかる費用と負担軽減策とは

遠距離介護でかかる費用と負担軽減策とは

 

遠距離介護にはどのような費用が掛かるのでしょうか。

介護サービス費

元気な方が元気なまま暮らしてもらうためには、訪問介護員(ホームヘルパー)やデイサービスなどの介護保険サービスや、栄養バランスの整った食事を宅配してくれる配食サービスなどの利用が必要です。

《負担を減らすポイント》

●負担軽減策を利用する

 

介護サービス費用などが一定の金額を超えると、申請によって費用が返ってくる制度があります。詳しくは、ケアマネジャーに確認をしてください。

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住宅改修費

要介護者が暮らしやすいように、住宅を改修する費用です。

《負担を減らすポイント》

介護保険や補助金を利用する

介護のための住宅の改修には、1人当たり20万円の工事費用まで介護保険が適用されます。また、自治体によってはそれ以外にも補助金が出るところもあるので、詳しくは地域包括支援センターまたは担当のケアマネジャーに確認をしてください。

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●福祉用具を活用する

要介護者の中には、お風呂はデイサービスでしか入らないという方も少なくはありません。お風呂場の改修をする際に、長く使うかどうかを考えてみましょう。住宅改修ではなく、工事のいらない手すりの設置など、福祉用具を活用する方が費用を抑えられるかもしれません。

帰省費用

遠距離介護がスタートすると、どうしてもかかるのが帰省費用です。 交通費のほか、協力を依頼しているご近所の方へのお土産代も必要です。 《負担を減らすポイント》 ●各種割引を利用する 各航空会社では介護帰省割を提供しています。

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また、鉄道会社や高速バスの回数券なども活用するといいでしょう。

通信費

通信費

介護では各種介護事業所やケアマネジャーなどとのやり取りが増えるため、電話代などの通信費がかかります。

また、遠距離介護では要介護者本人や家族同士でのやり取りも増えるので、通信費がかかってしまいます。

《負担を減らすポイント》

●割引や無料通話アプリを活用する

固定電話の場合には、親と同一県内の場合に利用できる割引や時間帯によって割引されるサービスがあります。また、インターネット通信を利用したIP電話の方が通話料金を抑えられることがあります。

要介護者本人や家族間のやり取りはパソコンやスマートフォンの無料通話アプリを活用するといいでしょう。特にSkypeなどビデオ通話ができるアプリは、顔色や身なり、表情なども確認できるので要介護者本人とのやり取りにお勧めです。

介護費用は親の財布から!

介護サービス費用や住宅改修にかかる費用などは、親の資産から出すようにしましょう。終わりが見えないのが介護です。「これぐらいいいかな」と思って出しているうちに、気が付けば金額が大きくなってしまっていることがあります。

1人に負担が偏ると家族間でもめる原因にもなってしまいます。くれぐれも介護に関わる費用は親の貯蓄や年金から出すようにしましょう。

遠距離介護で役立つサービス

遠距離介護で役立つサービス

続いて遠距離介護で役立つサービスについてまとめます。

見守りサービス

民間企業が提供している見守りサービスには、トイレやポットなどの使用状況を検知するものや、定期的にスタッフが利用者と会話をするものなど多岐に渡ります。 また、自治体でも水の使用や扉の開け閉めから異常を検知するものや、緊急時に要介護者がボタンを押して通報できる緊急通報システムなどを提供しています。詳しくはケアマネジャーに確認をしてください。

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配食サービス

高齢者の噛む力や飲みこむ力に合わせた食事を家まで届けてくれるサービスです。栄養バランスが考えられており、減塩や食事制限食にも対応しています。 配達の際に安否確認をしてくれる業者を利用すれば、見守りにもなります。

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コミュニケーションロボット

高齢者と簡単な会話やゲームをしてくれるコミュニケーションロボットは、一人暮らしの高齢者に癒しを与えてくれます。また、認知機能の維持や向上も期待できるそうです。ヒト型のものからぬいぐるみタイプのものまであり、好みに合わせて選べます。

帰省時にしておきたいこと

帰省時にしておきたいこと

遠距離介護をしている方は、帰省時に次のようなことをしておくといいでしょう。

ケアマネジャーとの面談

ケアマネジャーは、基本的に利用者と月に1度は面談をしています。介護サービス事業者からの報告を受けていることもあり、親の近況を良く把握している存在です。帰省の際には面談をしておく良いでしょう。また、介護のチームメイトとして、介護をしている家族の状況の変化についても話をしておきましょう。

遠距離介護は特に、ケアマネジャーとの関係が重要になってきます。遠距離介護の家族を支援した経験があり、介護と仕事や子育ての両立に理解のあるケアマネジャーを選ぶといいでしょう。

ご近所へのあいさつ

普段から見守りをお願いしている、ご近所の方へのあいさつも忘れずに。家族がすぐに駆け付けられない時や連絡がつかない時などに、ご近所の方に協力を依頼することがあるかもしれません。コミュニケーションを密に取り、良好な関係を保てるようにしたいものです。

健康状態や家の状態に変化はないかをチェック

部屋が汚れていないか、尿臭はしていないか、見慣れない品が増えていないか…など、本人や家に異状が見られないかを確認しておきましょう。

まとめ

親にも子にもメリットがある遠距離介護。しかし、準備をしっかりしておかないと、認知症が進んでいるのに気づけなかったり、費用のことで家族のもめごとが起こったりと、遠距離介護を後悔することになりかねません。

遠距離介護には、介護サービス費用や帰省費用、通信費など様々な費用が掛かります。あらかじめ知っておき、対策を立てておきましょう。

家族間でコミュニケーションを取ること、介護費用は親の資産から出すこと、遠距離介護に理解のあるケアマネジャーに担当してもらうことも、遠距離介護を成功させるポイントです。後で後悔することのないように、しっかりと準備をして遠距離介護をスタートさせましょう。

※この記事は2020年3月時点の情報で作成しています。

監修者:鵜沢静香
監修者:鵜沢静香

訪問介護事業所職員、福祉用具専門相談員。2015年から安心介護に関わっており、お話を伺った介護家族や介護職員の影響で介護職員初任者研修を取得し、訪問介護の仕事をスタートしました。2022年には介護福祉士、認知症ケア専門士の資格を取得し、自宅で介護をされる人・介護をする人、どちらも大切にしながら訪問介護の仕事を続けています。