中心静脈栄養でも在宅介護できますか?

質問

質問者現在父は入院中で、中心静脈栄養を受けています。自宅に引き取って在宅介護にしたいと思っています。中心静脈栄養を受けていても在宅介護は可能なのでしょうか? また、そのための準備や注意点があれば教えてください。


 

 

 

病院で中心静脈栄養を受けている方の中には、早く自宅に戻りたいという人や、家族の方が親を自宅で介護したいという人もいます。自宅での中心静脈栄養の方法について解説します。

在宅介護における中心静脈栄養とは

在宅介護の光景

1. 在宅中心静脈栄養法とは

 中心静脈栄養法(TPN:Total Parenteral Nutrition)とは、中心静脈という心臓の近くの太い血管内にカテーテルを挿入して高カロリーの輸液を投入するというものです。口から食べるか、鼻(経鼻経管)あるいはお腹の皮膚に孔をあけて(胃ろうや腸ろう)カテーテルを通し、腸から栄養を吸収する方法で十分な栄養改善できない場合に行われます。一般的に中心静脈栄養法は病院で行われますが、在宅で行うこともできます。それを在宅中心静脈栄養法(HPN:Home Parenteral Nutrition)といいます。

 在宅で中心静脈栄養法を行う場合、退院時に地域中核病院で指導が行われ、在宅時は在宅療養診療所でフォローすることが多くなっています。医師や薬剤師、看護師などから指導を受け、管理をしっかり行うことが大切です。

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2. 在宅中心静脈栄養法のメリット・デメリット

メリット

 何といっても長期入院から解放され、自宅に帰ることが可能となることです。病院ではなく、自宅で生活するだけでも気持ちが楽になり、生活の質は上がることでしょう。

デメリット

 医療者が時々チェックするとしても、主に家族が輸液の交換などを行い、点滴をしながら様子を見守ることになるため、その管理に十分な注意が必要です。たとえば、カテーテルを挿入している部分の細菌汚染やカテーテルの閉塞、消化管の代謝障害などに細心の配慮が求められます。介護の負担もそれなりに重くなります。  

3. 在宅中心静脈栄養法が行われる条件

 在宅で中心静脈栄養を行うための条件は以下の通りです。

  • 口からの食事ができず、胃ろうや経鼻経管などの経腸栄養では十分な栄養が摂れない
  • 入院して治療を行う必要がなく、病状が安定していて、在宅中心静脈栄養によって生活の質が向上すると判断される
  • 対応する医師や看護師に在宅中心静脈栄養の指導能力が十分にあり、輸液の注入管理における合併症とその対処法の心得がある
  • 入院中の中心静脈栄養法の管理を医師や看護師、薬剤師、栄養士が協力して行っており、在宅管理も訪問看護師や往診など、チーム医療で行う体制が整っている
  • 家族や本人が中心静脈栄養法をよく理解し、在宅中心静脈栄養法の必要性を認識している
  • 家庭で輸液の調整や注入管理が安全に行うことができ、かつ、合併症の危険性が少ないと判断される

在宅中心静脈栄養法の内容と管理方法

1. カテーテルの種類

 在宅で中心静脈栄養をする場合、ある程度長期になると予測されるときには長期留置できるカテーテルを使います。中心静脈栄養では、カテーテルの先端は体内で心臓近くの太い中心静脈(CV: central venous)に入っていますが、カテーテルを皮膚に挿入する部位は、胸や腕などいくつか選択肢があります。また、中心静脈と反対側のカテーテルの端は、皮膚から出ているタイプ(体外式カテーテル)と、カテーテルにつながるポート(リザーバー)が皮膚の下に完全に埋め込まれているタイプ(CVポート)があります。

 安全性や生活の質という意味で、現在は皮下埋め込み式型の「CVポート」が主流で、腕からカテーテルを挿入する中心静脈カテーテル「PICC」もかなり普及してきています。この2つの方法について、以下に詳しく解説します。

〇皮下埋め込み式CVポート

 CVポートは、カテーテルの中心静脈(CV)と反対側の端に100円玉硬貨ほどの大きさのポート(リザーバー)部分がついたものです。ポートは胸や腕の皮下に埋め込むので、外からは見えません。輸液や薬剤は、このポートに針を刺して注入します。ポートは、30分~1時間程度の簡単な手術で設置でき、体外式と比べ、カテーテルが詰まりにくいのが特徴です。

 輸液や薬剤を入れないときは皮膚の下に隠れ、体の外に出ている部分がないので、感染症の危険が少なく、その間は完全に輸液から解放されるため、入浴なども含め普通の生活をすることができます。  ただし、輸液を注入する際にポートを針で刺す必要があり、その時に痛みを感じることがあります。

〇末梢挿入中心静脈カテーテル
(peripherally inserted central catheter:PICC ピック)

 腕や肘の静脈からカテーテルを中心静脈まで入れるものです。 胸や首などからカテーテルを入れる手術と違い、腕には刺す危険のある臓器や大きな動脈がないため、カテーテルを挿入する手術の時に重い合併症が少なく、本人の恐怖感も少なくてすみます。感染のリスクも低くなります。

 ただし、カテーテルが細く、長く血管の中を通るため、詰まったり、静脈炎を起こす可能性もあります。カテーテルが身体の外に出ているので、引っかけないようにするなどの注意も必要です。カテーテルが肘から入っている場合では、腕の動きで点滴の滴下が悪くなることがあります。 

  このほか、カテーテルが、体の外から血管に入るまで10cmほど、皮下のトンネルを通るようになっている体外式長期留置用カテーテル(ブロビアックカテーテルなど)もあります。体外から血管まで少し距離があるので、感染のリスクが減り、カテーテルが皮膚にくっくことで、うっかり抜けるということが起きにくくなっています。

2. 輸液投与方法の種類とメリット・デメリット

 輸液の投与には、24時間連続で投与する「持続投与」と、1日のうち、6~12時間だけ投与する「間欠投与」があります。

 持続投与では、一定速度の点滴を保つために輸液ポンプを使います。ずっと点滴するため、日常の行動制限や束縛感はありますが、携帯用輸液ポンプを使用すればある程度自由に行動し、外出もできます。低血糖症状を起こす可能性が低く、口からまったく食事ができない場合は連続投与を行います。低血糖の恐れのある人は、持続投与の方が低血糖症状を起こすリスクが低くなります。

 一方、代謝性の基礎疾患がなく、口からある程度食べられる場合は、間欠投与も可能です。輸液していない間の経口摂取量が不十分だと低血糖を起こす可能性がありますが、その間の行動制限は少なく、生活の質が高いというメリットがあります。1日1セットの輸液のルート交換をするので、その分コストがかかります。

3. 輸液ルートと輸液バッグの交換

 輸液ルート(輸液ライン)とは、輸液のバッグと、体外へ出ているカテーテルもしくはCVポートをつなぐライン(点滴の管)のことです。ルートの交換は、持続投与の場合は1週間に1、2回、曜日を決めて定期的に、間欠投与の場合は毎日(毎回)行います。

 輸液バッグは、医療者とともに、本人や家族の生活リズムに合わせた交換時間を考えて決め、定期的に交換するようにします。

 カテーテルによる感染症を防ぐために、輸液バッグや輸液ルートの交換時は、消毒や手洗いなど衛生に細心の気配りが必要です。衛生や消毒、点滴の交換などの細かい操作法や手順は、理解できるまで医療者が指導してくれます。わからない点はいつでも質問するようにしましょう。

4. 在宅中心静脈栄養法をする際の注意点

 何よりも、命に関わる、カテーテルが原因の感染症を起こさないために、衛生・消毒と日頃の観察を怠らない心配りが必要です。発熱などいつもと様子が違う、カテーテル周囲の皮膚が赤いなど、トラブルの発見法、その時の対処や連絡について、事前に医療者によく教わり、確認しておきます。

 カテーテルはできるだけ長く使えるように操作しますが、カテーテルが抜けたり、詰まったりすることがあるので、その場合もすぐに医療者に連絡します。

 中心静脈栄養は太い静脈から主に濃いブドウ糖とアミノ酸を投与します。かなり高い濃度の輸液を、静脈のルートからだけで必要な栄養を注入するため、輸液の入り過ぎや高血糖、低血糖、血栓などが発生する可能性があります。また、ビタミンやミネラルなどの欠乏、胃腸、腎臓や肝臓の機能障害などの合併症が起こることもあるため、体調の変化には気をつけ、定期的に血液検査を行い、チェックすることも大切です。

5. 中心静脈栄養中の生活

 中心静脈栄養をしていても、散歩など外出は可能で、体調が安定していれば旅行や軽い運動などもできます。携帯用輸液ポンプを利用すれば、外出先でも持続投与が可能です。また、点滴中は行動が制限されますが、カテーテルを外せば、入浴も自由にできます。

 カテーテルをある程度長時間外す場合は、血液が中で固まらない薬を入れるなどの処置(カテーテルロック、CVロック)をします。入浴前はカテーテルの出ている周囲の消毒をして防水の被覆材を皮膚に貼ります。CVポートの場合は、針を抜いて消毒すれば、皮膚の外にカテーテルが出ていないので、より簡単な処置ですみ、いろいろ自由に行動できます。  

6. トラブルが起きたときの対応

◎熱が出た場合

 カテーテルの汚染が原因の可能性がありますので、速やかに受診します。 

◎カテーテルを刺した部分が赤くなったり、痛くなったり、腫れたりした場合

 カテーテルを刺している部分の感染が疑われるので、速やかに受診します。

◎輸液中に針を刺した部分が腫れてきた場合

 カテーテルの破損が考えられるので、速やかに受診します。

◎血液がルート内に逆流する場合

 輸液ルートの接続部分が外れている、緩んでいる、またはポンプが作動していない可能性があります。原因を探して正しく処置します。

◎輸液が入らない場合

 カテーテルや輸液ルートが詰まっていると思われます。輸液ルートが屈曲したり、閉塞していないかチェックします。

◎輸液のルートに気泡(空気の泡)が入っている場合

 輸液バッグが空になっているか、輸液ルートの接続が緩んでいる可能性があります。輸液バッグやルートを点検し、原因を見つけて対処します。

◎輸液ルートの途中から漏れる場合

 輸液ルートの接続が緩んでいるか、輸液ルートが破損している可能性があります。輸液バッグやルートを点検し、原因を見つけて対処します。

◎ポンプが作動しない場合

 電源やポンプを点検し、故障している場合は業者に連絡します。

◎カテーテルが身体から抜けてしまった場合

 清潔なガーゼで針を刺した部分を抑えて止血し、すぐに病院に連絡します。

◎カテーテルが破損してしまった場合

 破損した部分より身体に近いところを清潔なガーゼで包み、上からクレンメ(点滴量を調節したり止めたりする器具)をはさんで、すぐに病院に連絡します。

在宅中心静脈栄養への家族のかかわり方

 家族は輸液の袋のみを交換して、CVポートの穿刺やルート交換などは医療者にまかせることもできます。あるいは、家族がすべてを行うことも可能です。

 家族だけでやれば、家族と患者にとっては自由に過ごす時間ができます。しかし、その反面、不安が大きく、介護負担も大きくなります。

 一方、医療者が多く介入する場合は安心感が得られるものの、時間的な融通が利かないという側面があります。

 また、家族が高齢な場合、手技の理解や実施が難しいケースもあります。ただし、一人暮らしなどの場合でも、療養者本人が管理できる場合は在宅中心静脈栄養が可能です。

介護者の負担軽減のために

 中心静脈栄養法を在宅で行うことは可能ですが、カテーテルなどから感染症を引き起こさないよう衛生面での配慮が欠かせません。精神的にも体力的にもかなりの負担となります。訪問看護等の医療サービスを利用するなど、できるだけ家族の負担が小さくなるよう医療機関との連携を図りましょう。

 また、身体も清潔に保つことが必要で、自宅なら入浴・清拭なども介護者の負担になり得ます。介護保険制度を利用し、ヘルパーを依頼するといったことも考慮に入れましょう。

まとめ

  • 在宅中心静脈栄養法は、自宅で行うことができ、高齢者が家族と過ごすことができるというメリットがある。
  • カテーテルの設置方法には種類があり、それぞれのメリット・デメリットを検討して選択するとよい。
  • 家族にとっては輸液の交換や管理など、精神的にも体力的にも負担が大きいというデメリットがある。
  • うまく在宅中心静脈栄養を導入できれば、生活の中での自由度は高くなる。
  • 医療者・支援者と上手に連携して、サービスの利用も考え、無理のない範囲で利用できるようにすることが大切。

(編集:編集工房まる株式会社)

※この記事は2019年10月時点の情報で作成しています。

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監修者:野溝明子
監修者 野溝明子

医学博士。鍼灸師。介護支援専門員。
東京大学理科一類より同理学部、同大学院修士課程修了(理学修士)、東京大学医学部(養老孟司教室)で解剖学を学んだ後、東京大学総合研究博物館(医学部門)客員研究員。医療系の大学で非常勤講師を務めるほか、鍼灸師として個人宅や施設などへ出向き施術を行っている。
著書に『看護師・介護士が知っておきたい 高齢者の解剖生理学』『セラピストなら知っておきたい解剖生理学』『介護スタッフのための 安心! 痛み緩和ケア』など。