胃ろうは、病気によって口から食べ物を食べられなくなったり、嚥下機能が落ちた人に、お腹の皮膚と胃壁の間にカテーテル(管)を通し、お腹の皮膚から直接胃に栄養剤を注入する栄養摂取法です。胃ろうの造設は、開腹手術によることもありますが、通常、比較的安全で簡単なペグ(PEG:Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)という手術で造設されることが多くなっています。この記事では、PEGを中心に解説していきます。
- 胃ろうの手術の対象
- 胃ろう導入時の検査等
- 胃ろう造設手術の手順・種類
- 胃ろうのカテーテルの種類とメリット・デメリット
- 胃ろう手術と入院中のサポート体制は? 入院日数は?
- 胃ろう手術の費用は?
- 定期的なメンテナンス
- まとめ
胃ろうの手術の対象
胃ろう手術の対象となるのは次のような場合になります。
- 飲み込みができない。
- 食事をしない。
- 口から食べると体の状態が悪くなる。
- 誤嚥性肺炎を繰り返している。
- 現在行っている栄養摂取法(例えば経鼻胃管等)が適さなくなった。
ただし、次のような人は胃ろうの手術ができないことがあります。
- 手術に使う内視鏡が通らない(食道に腫瘍がある等)
- 腹水がある
- 胃を切除している人の一部
- 栄養状態が非常に悪い
- 胃に腫瘍や炎症がある
- 血が固まりにくい
- 進行した肝臓の病気
- 重い感染症がある
- 極度な肥満である
- 全身状態が非常に悪い、もしくは終末期
胃ろう導入時の検査等
胃ろうを導入する際、以下のような評価や検査が行われます。
- 栄養状態を評価する。
- 摂食嚥下機能を評価する。
- 食道、胃、小腸、大腸において経腸栄養を安全に使えるかを確認する。X線撮影や超音波検査(エコー)、CT、内視鏡(胃カメラ)等で適切な検査を行う。
胃ろう造設手術の手順・種類
胃ろうを造設する手術は、かつて開腹による外科手術でしたが、現在はPEGという術式が基本で、内視鏡を使って15分程度の短時間で造設できます。全身麻酔の必要がなく、腹部への局所麻酔を行います。内視鏡も口から入れず、細く挿入感が気になりにくい経鼻内視鏡が普及しており、患者の負担もより軽くなっています。 PEG手術の手順を簡単に説明すると以下のようになります。
- 鼻から胃に内視鏡(胃カメラ)を挿入する。
- 内視鏡を使って胃の中に空気を送り込んで胃を膨らませ、腹壁と胃壁を密着させる。
- 内視鏡で照らした光が見える部位の皮膚を外から指で押し、同時に押された部位を内部から内視鏡でも確認し、孔をあける位置を決める。
- 造設部位に局所麻酔をして、その部位に穿刺し、最終的にその孔にカテーテル(チューブ状の器具)を通す。
- 挿入したカテーテルの両側(皮膚上と胃内)をそれぞれストッパーで止める。
PEG手術は、プル/プッシュ法とイントロデューサー法に分けられます。
プル/プッシュ法は、お腹に孔を開けた後、ガイドワイヤーに沿って口からカテーテルを入れ、押すか引くかして、最終的にそのカテーテルを胃壁からお腹に開けた孔に通します。
イントロデューサー法は、腹壁と胃壁を固定し、皮膚に開けた孔から胃内にカテーテルを入れます。イントロデューサー法には、内部ストッパーがバルーン型のイントロデューサー原法と、ストッパーの種類を選べるイントロデューサー変法があります。
それぞれの術式に一長一短があり、どの手術法を選ぶかは、胃ろうの目的や体の状態、介護の状況などを考えて決められます。
プル/プッシュ法 | イントロデューサー法 | イントロデューサー変法 | |
カテーテルの太さ | 太い (20~24Fr) |
細い(14Fr) | 太い |
カテーテルの種類 | バンパー型 | バルーン型チューブ | バンパー型ボタン (任意に選択可) |
内視鏡の挿入回数 | 2回(処置具操作) | 1回(観察のみ) | 1回(観察のみ) |
カテーテルの咽頭通過 (清潔手技可否) |
あり (不潔操作) |
なし (清潔操作可能) |
なし (清潔操作可能) |
胃壁固定 | 任意 | 必須 | 必須 |
入れ換え時期 | 長期(4か月以降) | 早い(拡張が必要) | 長期 |
胃ろうのカテーテルの種類とメリット・デメリット
胃ろうのカテーテル(PEGカテーテル)は、お腹の孔から抜けないように、胃の内側と皮膚の外側の両側から、ストッパーで固定されています。
内部ストッパー(胃内固定板)には、風船状の「バルーン」型とそれ以外の「バンパー型」があります。バルーン型は、カテーテルの先端にストッパーとしてパルーンを装着したもので、滅菌蒸留水を入れて膨らませることで固定します。パンパー型は、先端にお碗のようなストッパーを装着させたものです。バンパー型は抜けにくく、うっかり抜けてしまうことが少ない反面、交換が難しくなります。逆に、バルーン型は交換が簡単ですが、抜けやすいというリスクがあります。入れ替え時期はバルーン型の方が早く、一方のバンパー型は4ヶ月以降になります。
外部ストッパー(体外固定板)には「ボタン型」と「チューブ型」があります。チューブ型はチューブが動作の邪魔になりますが、栄養チューブとつなげやすく、ボタン型は違和感がない反面、開閉がやりにくいこともあります。
ボタン型バンパー
[メリット]
- カテーテルが抜けにくい。
- 動作の邪魔になりにくく、自己や事故による抜去がほとんどない。
- 違和感があまりない。
- 交換までの期間が長い(4~6カ月で交換)
- 栄養剤が通過する距離が短く、カテーテルの汚染が少ない。
- 逆流防止弁がついている。
[デメリット]
- 交換時にやや痛みや圧迫感がある。
- ボタン型なので開閉がやりにくいこともある。
ボタン型バルーン
[メリット]
- バルーン内の蒸留水を抜いて挿入・抜去するため、交換が容易(交換までの期間は1~2カ月)
- 動作の邪魔になりにくく、自己や事故による抜去がほとんどない。)
- 違和感があまりない。)
- 栄養剤が通過する距離が短く、カテーテルの汚染が少ない)
- 逆流防止弁がついている。)
[デメリット]
- バルーンが破裂する恐れがあり、交換が短期間で必要になる場合がある。
- ボタン型なので開閉がやりにくいこともある。
チューブ型バンパー
[メリット]
- カテーテルが抜けにくい。
- 交換までの期間が長い(4~6カ月で交換)
- 栄養チューブとの接続が容易で、介護負担が少ない。
[デメリット]
- 交換時にやや痛みや圧迫感がある。
- やや違和感がある。
- チューブが邪魔になって、自己抜去しやすい。
- チューブ内が汚れやすい。
チューブ型バルーン
[メリット]
- バルーン内の蒸留水を抜いて挿入・抜去するため、交換が容易(交換までの期間は1~2カ月)
- 栄養チューブとの接続が容易で、介護負担が少ない。
[デメリット]
- バルーンが破裂する恐れがあり、交換が短期間で必要になる場合がある。
- やや違和感がある
- チューブが邪魔になって自己抜去しやすい。
- チューブ内が汚れやすい。
胃ろう手術と入院中のサポート体制は? 入院日数は?
〇主治医と胃ろう造設手術の担当医師は異なります。大切なのは、医療者同士の連携です。病院内には栄養サポートチーム(NST)が構成されています。患者に最良の栄養管理を提供するために、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士、歯科医師、歯科衛生士、臨床検査技師、事務等、他職種で連携して活動します。
〇穴(孔)がしっかり完成するまで1週間ほどかかります。 入院期間は、状態が比較的良く、術後に問題が出なければ、だいたい1~2週間ですが、施設や家に戻るための介護や在宅医療の準備に必要であれば、1ヶ月くらい入院することもあります。
胃ろう手術の費用は?
入院して胃ろうの手術をする時の費用は、状態や造設方法により異なりますが、目安として、保険適用前で約30万円弱。保険を使って3割負担でも約9万円ほどです。
この場合も、高額療養費制度(医療費が1月で上限額を超えた場合、超えた額が支給される)を利用すれば負担は少なくてすみます。
定期的なメンテナンス
胃ろうカテーテルも劣化していきます。パルーン型は1~2カ月、パンパー型は4~6カ月くらいで交換することが望ましいとされています。交換しないでそのまま使用していると、汚れ、破損等のカテーテルのトラブルや、疼痛、びらん、肉芽、潰瘍など皮膚のトラブルを起こす恐れもあります。
万一、誤挿入等で腹腔内に栄養剤が注入されるなどすると腹膜炎を起こしてしまいます。そのため、カテーテルの交換後は、胃ろうカテーテルの先端がきちんと胃内にあるか、腹腔内などへの誤挿入はないかなど、確認の検査が必要です。検査には、経鼻内視鏡、造影X線、経胃ろう内視鏡を使用します。そのため、胃ろうカテーテルの交換は、基本的に医療機関で行います。しかし、胃ろう造設後、ある程度時間がたって安定している場合は、本人や家族の希望により、在宅での交換に対応できる医療機関もあります。
また、日頃の管理では、ストッパーがきつくなっていないか、カテーテルはよく回転するか、チューブが短くなったり傾いたりしていないか、常に注意します。何か異常がある場合は、専門的な措置が必要になることもあるので、すぐ医療者に相談しましょう。バルーン型の場合は定期的に内部の蒸留水の交換も必要です。
まとめ
- 日本の内視鏡医療の技術は高く、手術の安全性は高い
- かなり高齢な方や体力が極端に落ちた方はリスクを考慮したほうがベター
- 造設法(PEG)にはプル法/プッシュ法、イントロデューサー原法、イントロデューサー変法がある。
- PEGカテーテルには、ボタン型バンパー、ボタン型バルーン、チューブ型バンパー、チューブ型バルーンがある。
- 造設法、カテーテルとも、どの種類が最も適切か、理解できるまで十分説明を受ける。
- 胃ろうを設置した後は、医療者の栄養サポートチーム(NST)のサポートを受ける。
- 胃ろうを維持するには定期的なメンテナンスが必要。
胃ろうの手術について理解が深められたでしょうか。 参考になりましたら、ぜひシェアをお願いできれば嬉しいです。
(編集:編集工房まる株式会社)
医学博士。鍼灸師。介護支援専門員。
東京大学理科一類より同理学部、同大学院修士課程修了(理学修士)、東京大学医学部(養老孟司教室)で解剖学を学んだ後、東京大学総合研究博物館(医学部門)客員研究員。医療系の大学で非常勤講師を務めるほか、鍼灸師として個人宅や施設などへ出向き施術を行っている。
著書に『看護師・介護士が知っておきたい 高齢者の解剖生理学』『セラピストなら知っておきたい解剖生理学』『介護スタッフのための 安心! 痛み緩和ケア』など。