嚥下障害の食事方法|介護者の注意点

嚥下障害とは、ものを噛んだり飲み込んだりする機能が低下する症状のことです。

正常に飲食が行えないため、栄養不足や脱水に陥る可能性があるばかりでなく、飲食物や唾液などが気管内に入り込んで肺に炎症を引き起こす「誤嚥性肺炎」の原因にもなります。誤嚥性肺炎は発熱や呼吸困難などを引き起こし、重症な場合には命に関わることも少なくありません。

このような病気の発症を防ぐためにも、嚥下障害のある人はスムーズな飲み込みができるように調節された食事を摂り、食事介助の方法にも注意しなければなりません。

今回は、在宅介護嚥下障害が出てきてしまった場合の食事や介助の注意点について詳しく解説します。

目次

  1. 嚥下障害の方が食事する際の注意点
  2. 介助者の注意点
  3. まとめ

嚥下障害の方が食事する際の注意点

高齢者の食事介護

食事中にむせ込むことが多くなった、食事時間が長くなった、食後口の中に食べ物が残るようになった…これらの症状は嚥下障害のサインです。嚥下障害は徐々に進行していくことが多いため、毎日介護しているご家族がその変化に気づかず見逃されているケースも多々あります。しかし、嚥下障害は誤嚥性肺炎や窒息などにつながることがあるため、発症した場合はできるだけ早く対策を講じていくことが大切です。

食事中や食後の様子、食に対する意欲などをよく観察して、些細な変化であっても何らかの異変に気付いたときはすぐにかかりつけ医に相談するようにしましょう。

また、家庭でも、嚥下機能の程度に合わせた形状や柔らかさなどを調整した嚥下食を取り入れることを検討したり、食事の摂り方も見直さなければなりません。食前・食事中・食後、それぞれの注意点について見てみましょう。

食前の準備

嚥下障害による誤嚥を防ぐには、食前の「準備体操」が重要と考えられています。

物を噛んだり飲み込んだりする咀嚼・嚥下の動作には、口やのどなどに分布する様々な神経や筋肉が関わっています。一日三食をしっかり摂っている場合でも、次の食事までには数時間の間隔があります。特に朝食は前日の夕食から12時間以上の間隔があることも少なくありません。

神経や筋肉は、長時間使用しないと固まってスムーズな動きができなくなります。とくに高齢者は加齢によって神経や筋肉の働きが衰えており、食事と食事の間に時間が空くと簡単に口やのどの動きが鈍くなってしまいます。

口の準備体操が必要

このため、食事の前には、スポーツと同じように「準備体操」を行うことが勧められているわけです。一般的には「嚥下体操」と呼ばれるものが広く取り入れられています。

体操ではなくても、スムーズな食事のための準備が有効な場合もあります。例えば、食事を開始した時に最も強くむせ込むのは、のどの神経・筋肉がまだウォーミングアップできていない状態といえます。

このようなタイプの嚥下障害では、食事を開始する際にシャーベットやアイスクリームなどを口にすることで、口やのどに冷刺激が加わり、動きがよくなることがあります。

また、高齢者は唾液の分泌量が低下している方が多く、嚥下障害の原因の一つにもなります。口の中が乾きがちの方は、食前に少量のレモン汁や梅干しなどを口にして唾液分泌を促すのもおススメです。

食事中の姿勢

嚥下障害がある方の中には、麻痺や脊柱の変形などにより食事に適した姿勢を維持できない方もいます。食事中は、舌を前に突き出した際に床と平行になる姿勢が適しているとされており、食事介助の場でもベッドのギャッチアップの角度や顎の位置などを調整してそのような姿勢に近づけることが大切です。

具体的には、軽い前傾姿勢をとりつつ前屈みにまではならないように注意します。ベッド上なら30~60度の範囲でギャッチアップし、顎は引き気味にすることがポイントです。 多くの食事介助では、介助者の方が高い位置にいるため、介助を受ける側は顎を上げがちになりますが、顎が上がった状態で口の中に飲食物が入るとそのまま気管に流れ込みやすくなりますので注意しましょう。

また、片麻痺がある方は身体が麻痺側に傾きがちになり、口の中の飲食物も傾いた側に偏るため咀嚼しにくく、嚥下障害を助長することがあります。食事の際には、片麻痺側にクッションや丸めたタオルケットなどを差し込んで、体幹が傾かないようにしましょう。

食事介護の姿勢

食後の注意

むせ込みなく無事に食事を終えると、食事の後片付けなどのためにすぐにその場を離れてしまう介助者も多いですが、食後は嘔吐なども起こりやすいため食後1時間ほどはなるべく近くにいて目を離さないようにしましょう。また、食後すぐに横になると胃の内容物が逆流することがあるので、最低でも1時間は座った状態またはギャッチアップを維持することが大切です。

さらに、誤嚥性肺炎を防ぐには毎食後にしっかりと口腔ケアを行う必要があります。口腔環境が悪化するほど口の中の細菌が増え、誤嚥性肺炎を発症しやすくなります。ブラッシングや入れ歯のケア、食べかすの除去などを丁寧に行いましょう。

介助者の注意点

食事の介助者は誤嚥を防ぐためにどのような点に注意すればよいのでしょうか?具体的なポイントをご紹介します。

覚醒していることを確認する

食事前には、しっかり目覚めていることを確認しましょう。高齢者は睡眠リズムが乱れる方も多く、日中も強い眠気に襲われるケースもあります。しっかり覚醒していない状態で食事をすると誤嚥のリスクが高くなります。

睡眠薬などの影響で常にボーっとしたり居眠りが多くなったと考えられる場合には、主治医にその旨を伝え、服薬調節をしてもらうことも大切です。

食べる量やペースを見極める

口に運ぶ量やペースはご本人の状態に合わせて調整しましょう。無理なく咀嚼できる量を口に運び、しっかり飲み込んだのを確認してから次の一口を運ぶのがポイントです。

嚥下機能の状態は日によっても時間帯によっても異なることもありますので、パターン化せず毎食ごとに頬の膨らみ具合や咀嚼回数、むせ込みの有無などを確認しながら調整することが大切です。

目の高さを合わせる

誤嚥を防ぐ姿勢を維持するためにも、介助する際にはご本人と目の高さを合わせるようにしましょう。スプーンなどで食事がご本人の眼や鼻の近くを通るように運ぶと、食事に対する視覚・嗅覚を刺激でき、食に対する意欲を上げることができます。

食事への集中力の妨げにならないように、過度な呼びかけを行わないこともポイントです。

適度な水分を摂る

嚥下機能が低下している人は、口やのどの中に食べ物のカスが溜まりがちです。これが誤嚥を引き起こすこともあります。食事中は食事と水分を交互に摂って、その都度食べカスを洗い流すといいでしょう。

水分が上手く摂取できない場合は、とろみ剤でとろみをつけた水やゼリーなどでも代用できます。

まとめ

嚥下障害のある方の食事介助には、誤嚥を予防するために注意すべき点が多くあります。いずれも重要な対策ですので、介助時の姿勢や食事の運び方などに特に注意し、確実に実行するようにしましょう。

今回ご紹介した内容が嚥下障害をもつ方の介護をしているご家族の参考になれば幸いです。

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(編集:編集工房まる株式会社)

 

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監修者:成田 亜希子
監修 成田 亜希子(なりた・あきこ)

2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。