足腰の弱い高齢者には歩行器を!早めに利用してQOLを高めよう

高齢者は、足腰が弱ると出歩く気力を失い、脚力がさらに衰えてしまうという悪循環に陥りがちです。そのような状況を防ぐため、足腰の痛みやふらつきが見られる場合は早めに歩行器を検討することをおすすめします。高齢者向けの歩行器の種類や期待できる効果などを確認しましょう。

目次

  1. 高齢者向け歩行器の種類と選び方
  2. 歩行器は足腰が弱い高齢者のQOLを高めてくれる
  3. 杖やシルバーカーとの違いも要チェック
  4. 歩行器の基本的な使い方と介助のコツ
  5. 歩行器は高齢者の心身に好影響が期待できる

高齢者向け歩行器の種類と選び方

シルバーカー

足腰が弱った高齢者向けの歩行器にはいくつかのタイプがあります。主な種類や選び方を見ていきましょう。

高齢者向け歩行器は体をあずけられる

高齢者が利用する、いわゆる介護用の歩行器は4脚付きのフレーム構造です。腰まわりをU字で囲うような形状になっており、左右のハンドルをつかんで歩行のバランスをとりながら前進できます。

歩行器にはさまざまな仕様のものがありますが、以下の3種類に大別されます。

 

・固定型歩行器:両手で持ち上げてやや前方に置き、歩みを進めます

・交互型歩行器:左右のフレームを、足の動きに合わせて動かしながら前進します

・キャスター付き歩行器(歩行車):脚部の車輪を転がして前進します

 

それぞれ使い勝手が異なるので、身体状況や使用場所に合うものを選びます。

要支援要介護なら介護保険でレンタル可能

要支援または要介護の認定を受けている方なら、介護保険を利用して必要な福祉用具をレンタルすることができます。この制度は「福祉用具貸与」と言い、厚生労働省が指定した13品目を、原則1割(所得に応じて2割または3割)負担で借りられます。

レンタル可能な品目は要介護の度合いによって変わりますが、歩行器は比較的症状が軽い要支援の方でも利用可能です。

歩行器の必要性を感じたら、まずはケアマネジャーに相談しましょう。

適切な歩行器を選ぶためのポイント

適切でない歩行器を使うとスムーズに進めませんし、危険をともなう場合があります。歩行器を検討する際は、以下のポイントをチェックしましょう。

 

・どこで使うか(屋内・屋外/段差や傾斜の有無など)

・何のために使うか(リハビリ/日常生活/散歩など)

・身体状況に合っているか(歩行器を持ち上げられるか/ハンドルの位置など)

 

介護用の歩行器は軽いですが、中には持ち上げられない高齢者の方もいます。そのような場合は持ち上げる必要のないキャスター付きなど他のタイプを検討する必要があります。

歩行器の検討は、福祉用具の専門家のアドバイスを受けながら進めるので、安全に使いやすいものを選べるでしょう。

歩行器は足腰が弱い高齢者のQOLを高めてくれる

高齢者のQOL

利用者の身体状況や使用環境に適した歩行器を使うと、さまざまなうれしい効果が得られ、生活の質(QOL:Quality of life)の向上が期待できます。

歩行が安定して行動範囲が広がる

歩行器の主たる目的とも言えるのが「歩行の安定」ですね。

痛みや麻痺、筋力低下などの影響で思うように歩けないと、どうしても行動範囲が狭くなってしまいます。ですが、適切な歩行器を利用すれば歩行バランスがとりやすくなり、自分で移動できる範囲が広がります。

また、歩行器は手で支えながら体重をかけられるので、足腰への負担が減り、痛みを軽減できるところも大きな利点です。

介護する人の負担が減る

歩行器があれば歩行介助をする頻度が減るので、介護する方の負担も軽減できます。歩行器の使い始めは付き添ったほうがいいですが、慣れてきたらトイレに一人で行けるようになるなど普段の活動範囲が広がります。

介助を必要としない場面が少しずつ増えれば、介護者の心身のストレスも和らぐでしょう。

高齢者の自尊心を保てる

足腰が弱り、思うように歩けなくなった高齢者は、自尊心が傷ついている場合があります。

歩行が困難になると、今まで当たり前のようにできていたことができなくなり、行きたい場所にも行けなくなるのですから、自尊心を保つほうが難しいかもしれません。自分の子供や他人に介助されることに抵抗感がある方もいるでしょう。

ですが、歩行器を使えば行動範囲が広がり、介助されずにある程度の移動ができるようになります。このことは高齢者に自信を回復させ、精神的にも良い影響を与えるはずです。

活動量が増えて認知症予防にも

歩行器を使うと活動量が増え、認知症を防ぐ効果も期待できます。もちろん、歩行器を使っても健康な人と同じようなペースで歩くのは難しいですが、体を動かすことは全身の血流を促し、脳にも良い刺激を与えます。

足腰が弱ったまま家の中でじっとしていると、身体機能だけではなく認知機能も衰えやすくなり、認知症の発症リスクも上昇します。日常的に歩行器を使うことは、高齢者の安定歩行はもちろん心身の健康維持にも有効です。

杖やシルバーカーとの違いも要チェック

シルバーカーの利用

ここまで、歩行器の種類や効果についてお伝えしてきましたが、歩行サポート用具には杖やシルバーカーもあります。それらとの違いも確認しておきましょう。

杖は脚力がある程度残っている人向け

杖は下半身の筋力がある程度残っている方や、比較的歩行バランスが良い方に適しています。主に以下のような種類があります。

 

・一本杖:持ち手はT字型やスワン型、ストラップ付きなど

・多脚杖:脚部が3本や4本に分岐しています

・ロフストランドクラッチ:前腕を固定する部分とグリップの2点で身体を支えます

 

基本的に、杖を介して手や腕の力で歩行バランスを保つので、腕力や脚力が弱すぎると転倒リスクが高まります。

シルバーカーは自立歩行ができる人向け

シルバーカーはキャスター付きの歩行器(歩行車)と混同されることがありますが、歩行器のように体をあずけられる造りではないので注意が必要です。

シルバーカーは、主に自立歩行ができる方のお出かけや買い物を補助します。ハンドル部分に手を掛けられるので体力のない高齢者の外出に心強いですし、荷物入れや座面もあって便利です。

歩行器のように歩行を安定させるためのものではなく、高齢者が荷物を運んだり移動時に休憩したりするためのサポート用具だと認識しておきましょう。なお、シルバーカーは福祉用具貸与の対象品目ではないため、介護保険でレンタルすることができません。

歩行器の基本的な使い方と介助のコツ

歩行訓練

さいごに、歩行器を使った歩き方や介助のコツをお伝えしておきます。

固定型歩行器の使い方

 リハビリでもよく用いられる固定型歩行器は、以下のように使います。

 

1.歩行器の持ち手を両手でしっかり握る

2.歩行器を持ち上げ、少し前に置く

3.片足を一歩踏み出す

4.反対側の足を踏み出し、両足を揃える

 

固定歩行器の使い方

歩行器を置く位置が遠すぎると歩行器を安定させにくいですし、近すぎると後傾になり転倒しやすくなるので注意しましょう。また、痛みや麻痺があるほうの足を先に踏み出すのが基本です。

交互型歩行器の使い方

左右の持ち手(アーム)を交互に動かせる交互型歩行器は、歩行器を持ち上げずに使います。

 

1. 歩行器の持ち手を両手でしっかり握る

2. 右アームを押し出す

3. 左足を一歩踏み出す

4. 左アームを押し出す

5. 右足を一歩踏み出す

交互歩行器の使い方

通常の歩く動作と同じように、手足を交互に動かすイメージです。常に左右どちらかの脚部が地面に接しているので安定した歩行が可能ですが、固定型より身体のバランス機能やスムーズな動作が求められます。

安全に介助するコツ

利用者本人が歩行器に慣れるまでは、転倒を防ぐためにも適切に介助しましょう。介助の際は以下のポイントを心がけてください。

・歩行器の高さを調節し、不具合がないか確認する

・本人の斜め後ろ側に立ち、腰を軽く支える

・本人が一歩踏み出したら、介護者も同じ歩幅で進む

介助は本人のペースに合わせることが大切です。片側に痛みや麻痺がある場合は、患部側の後ろに立つようにしましょう。

歩行器は高齢者の心身に好影響が期待できる

在宅介護に歩行器を取り入れると、自立歩行が難しくなったご高齢の方のQOLが向上し、身体的にも精神的にも好影響が期待できます。歩行器にはさまざまな種類がありますが、ケアマネジャーや専門家に相談すれば適切なものが選べます。

介護を担う方の心身の負担も軽減できるので、歩行困難な方の在宅介護をする際は、早めに歩行器の検討をおすすめします。

(文・吉村綾子)

監修者:山岸駿介
監修者:山岸駿介

理学療法士。臨床経験は7年。
急性期から慢性期、スポーツ分野など幅広い分野を経験。医療・介護・スポーツなど幅広い分野のリハビリに携わり、老若男女に正しい運動で、健康的な生活を送るサポートしている。