自力での寝返りが難しくなると、発生しやすくなるのが褥瘡(じょくそう)です。悪化すると潰瘍が筋肉や骨にまで届き、強い痛みを伴い、状態によっては外科手術が必要になります。この記事では、褥瘡の予防や早期発見に役立つ情報をまとめました。ぜひご確認ください。
褥瘡(じょくそう)とは
褥瘡(じょくそう)とは、持続的に圧力がかかることで、皮膚と骨の間の組織の血流が悪くなって組織が障害された状態です。「床ずれ」という言葉のほうが、なじみがあるという人が多いかもしれません。ベッド上や車いすなどで長時間同じ姿勢でいると、身体の骨が出ている部分に持続的に圧力がかかり、皮膚の赤みやただれ、ひどくなると潰瘍や細菌感染が起こる場合もあります。
褥瘡が起こりやすい場所
褥瘡が起こりやすい部位は、次の通りです。
●側臥位(横向きで寝ている姿勢)
●仰臥位(上を向いて寝ている姿勢)
骨の出っ張っている部分が、褥瘡のできやすい場所です。特に痩せている方は皮膚と骨の間に脂肪というクッションがなく、褥瘡ができやすいので気を付けましょう。
安楽な体位を保持しましょう
安楽な体位とは、筋肉や関節に負担がかからず、身体の苦痛な症状も増強しない、安定していて安心できる体位のことです。ただし、どんなに楽な体位でも、ずっと同じ体位でいると、同じ部位に圧迫が長時間加わるため、血流が悪くなり褥瘡の原因になってしまいます。寝たきりで自分自身で体位を変えられない人には、体位を変えるお手伝いが必要です。
褥瘡の原因
褥瘡の原因は、大きく分けて4つあります。
同じ体位による長時間の圧迫
長時間同じ体位でいることで、特に骨の出ている場所が圧迫され、血流が悪くなって褥瘡が発生します。
皮膚への摩擦
ベッドのギャッチアップをした時の身体のずり落ちやシーツや衣服のシワで、皮膚に摩擦が起きて褥瘡ができやすくなります。
不衛生な皮膚の状態
おむつ等によって皮膚が汚れていたり、汗や排泄物などで湿っていたり、不衛生な状態が続くと褥瘡ができやすくなります。
栄養不良
栄養が十分に取れていないと、筋肉や脂肪が減ってしまい、また皮膚がむくんで傷つきやすくなるため、褥瘡発生のリスクが高くなります。さらに、低栄養状態では免疫力や回復力も低下するので、褥瘡が治りにくくなってしまいます。
褥瘡の予防方法
褥瘡は放置すると悪化してしまいます。さらに感染症のリスクも高まるので、しっかりと予防したいものです。
褥瘡を予防するポイントには、次のようなものがあります。
衣類やシーツのしわを無くす
衣類やシーツのしわは、圧迫を起こす原因となります。しっかりと伸ばしておきましょう。
体位変換や座位の時間を増やす
褥瘡を予防するには、2時間ごとの体位変換が効果的だと言われています。ただし、在宅で2時間ごとに体位変換をするのは難しいものがあります。要介護者の状態や使用しているマットレスによっては4時間以内でも良いとされているので、詳しくはかかりつけ医などに相談をしてみてください。
また、自動で寝返りの支援をしてくれるマットレスもあります。詳しくはケアマネジャーや福祉用具専門相談員に確認してください。
寝たきり状態の人にとって、座位は褥瘡予防に効果的な姿勢です。座位能力にあった車いすや座位補助具を使用して、お尻が前にずり落ちた「滑り座り」にならないように気を付けましょう。
清潔に保ち湿潤を避ける
おむつの中で尿や便が付着した状態が長時間続くと、皮膚への刺激で皮膚トラブルが起こり褥瘡が起こりやすくなります。おむつの交換をこまめに行うことで、皮膚が排泄物で濡れる時間を出来るだけ短くし、おむつの中で蒸れないようにしましょう。 また、入浴や清拭は、皮膚を清潔に保つだけではなく血行を良くするので褥瘡予防に効果的です。
栄養状態に気を付ける
褥瘡の予防や治療のために、しっかりとエネルギーとタンパク質を摂取しましょう。栄養バランスの良い食事を心がけ、足りない栄養は栄養補助食品を利用しましょう。ただし、疾患などに考慮する必要もあるので、詳しくはかかりつけ医や栄養士に相談をしてください。
福祉用具を使う
褥瘡の発生を防止する福祉用具には、褥瘡予防マットレス、圧切り替え型エアマットレスなどがあります。また、身体とベッドの間に差し込んで使う、クッション状の体位変換器もあります。
こうした褥瘡の予防に効果的な福祉用具は介護保険の対象となり、原則1割(もしくは所得に応じて2割または3割)の自己負担額でレンタルすることができます。詳しくはケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談してください。
褥瘡の経過
皮膚は表面から表皮、真皮と層になっており、その下に皮下脂肪、筋肉、骨があります。褥瘡は表面から徐々に深部まで進行していき、重症化するとその傷から細菌が入って命にかかわる感染症を引き起こすこともあります。褥瘡の経過を知り、早期発見と早期治療を目指しましょう。
ステージ1
皮膚の表面に発赤がある状態です。見た目で皮膚の欠損はないものの、硬さや熱感があるなど周囲の皮膚とは異なっています。
指で赤くなっている部分を3秒ほど押してみて、押したときに白っぽくなり、指を離したときに赤みが戻るものは褥瘡ではありません。押しても赤みが消えずそのままの状態のものは初期の褥瘡と考えられます。
ステージ2
欠損が真皮にまで届いている状態です。ただれや水ぶくれがあり、分泌物がみられます。痛みの訴えが始まるのもこの段階からです。
ステージ3
欠損が皮膚を超えて皮下脂肪にまで達している状態です。スラフ(黄色壊死組織)やポケットを伴うことがあります。ここまで進行すると、細菌が入って感染を起こしやすいので注意が必要です。
ステージ4
皮下脂肪を超えて、筋肉や骨がみえるくらいの深い潰瘍ができている状態です。神経組織も侵されているので、強い痛みがあります。
褥瘡かも?と思ったら
褥瘡は家族が見つけることもあれば、排泄や入浴介助の際に介護職員が見つけることがあります。「褥瘡かも」と思ったら、どのように対応したらいいのでしょうか。
圧迫を防ぐ
まずは褥瘡が疑われる部分が圧迫されないようにクッションなどを挟んで体位変換をしましょう。ただし、同じ位置にクッションをはさむと、次にその部分に別の褥瘡ができてしまうので、クッションを挟む位置もこまめに変更が必要です。
かかりつけ医や看護師に相談を
褥瘡は短期間で悪化する可能性があります。できるだけ早くかかりつけ医や看護師に相談をしてみてください。
皮膚科、外科、内科など、褥瘡ケアを得意とする医師がいる診療科は、医療施設によって異なります。どの診療科を受診したらいいのかは、医療施設に問い合わせてみるといいでしょう。
「どの医療施設に行ったらいいのかわからない」「往診を頼みたい」という場合には、ケアマネジャーに相談をしてみてください。
治療方法
塗り薬の使用や傷を覆うドレッシング材(被覆材)での保護、消毒や洗浄など、褥瘡の状態にあった治療が行われます。重度の褥瘡の場合には、壊死した組織を取り除くための外科手術が必要になる場合があります。
まとめ
褥瘡とは、一般的に「床ずれ」と呼ばれ、長時間同じ体位でいることで骨の出っぱっている部分に圧力がかかり、その部分の血流が悪くなることで起こるものです。圧力や摩擦といった刺激に加えて、不潔や湿潤な状態、栄養不良が主な原因です。
褥瘡を予防するためには、数時間ごとの体位変換やシーツや衣服にしわができないように心掛けましょう。皮膚を清潔にし、汗や排泄物で濡れたままにしないこと、エネルギーやたんぱく質などの十分な栄養を摂取することも大切です。
皮膚の発赤から始まる褥瘡ですが、進行すると強い痛みを伴い、外科手術が必要になることや命に関わる感染症を引き起こすこともあります。短期間で悪化する場合があるので、褥瘡かも?と思ったら、できるだけ早く医師や看護師に相談をしてください。