認知症の記憶障害とは 原因や対応方法を知ろう!

認知症の記憶障害とは

認知症の代表的な症状として知られている記憶障害。その症状や進行、自宅でできる対応方法についてまとめました。初期から出てくることのある症状ですので、しっかりと内容を把握しておけば認知症の早期発見にもつながります。ぜひご参考ください。

 

認知症の記憶障害とは

認知症の記憶障害について

 

記憶障害とは、認知症の中核症状のひとつです。もの忘れは年齢と共に誰にでも起こる生理現象ですが、認知症の記憶障害では出来事のそのこと自体を忘れてしまいます。最近の出来事から忘れていき、認知症が進行するにつれて過去の体験などの記憶も忘れていきます。

脳に損傷を受けたことにより起こる高次脳機能障害でも、記憶障害が現れます。新しい出来事を覚えていられなくなるのは認知症と同じですが、興味や関心があることについては新しいことでも覚えられることがあります。

認知症の中核症状とは

認知症の中核症状とは、脳の障害によって脳の細胞が壊れ、働きが低下することで起こる症状のことです。中核症状には他に、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、失語・失行・失認などがあります。

認知症には中核症状の他に、環境やその人の性格によって異なった症状が現れる行動・心理症状(BPSD)があります。

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記憶障害ともの忘れの違い

年齢を重ねると、誰にでも起こるのがもの忘れです。認知症によって起こる記憶障害とは、いくつかの違いがあります。

もの忘れでは体験の一部分を忘れますが、認知症の記憶障害では体験したことの全体を忘れます。例えば「昨日、公園で友達3人とお花見をして団子を食べた」という体験全てを忘れるのが認知症の記憶障害で、「いつ」「どこ」「誰と」などの一部分を忘れるのが加齢によるもの忘れです。

また、加齢によるもの忘れでは忘れていることを自覚していたり、ヒントがあれば思い出せたりする点が認知症とは異なります。

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記憶とは

記憶とは

 

認知症によって失われる「記憶」。記憶のメカニズムや種類を見ていきましょう。

記憶のメカニズム

記憶とは、日常的な出来事などを頭の中に蓄える脳の働きのひとつです。

脳が情報を受け取り(記銘)、その情報を蓄えて(保持)、必要な情報を呼び出す(追想)という過程から構成されています。

追想の機能が低下して起こるのがもの忘れです。

記憶の種類

記憶は保持時間や容量によって、次の3つに分けられます。

感覚記憶

感覚記憶とは、視覚や聴覚などの感覚器官が刺激された際に、ごく短期間だけ感覚を保持するものです。情報量は膨大で、一瞬で消えてしまいます。

短期記憶

短期記憶とは、電話をかけるまでに電話番号を覚えておく、さっき食べた食事のメニューを思い出すといった記憶です。大脳の海馬という部分が司り、長期記憶に移行しない限り数秒から数分で消えてしまいます。

スピーチの内容や順序を考えたり、計算したりするときなどに必要な情報を一時的に頭の中に保持する記憶(作動記憶)も含まれます。

長期記憶

長期記憶とは、数ヵ月や数年間などほぼ永久的に保持されて、必要に応じて活用される記憶です。繰り返しやまとまりができた短期記憶は長期記憶となり、大脳皮質に蓄えられるといわれています。

学習などで得た知識に関する記憶(意味記憶)、経験した出来事や情報に関する記憶(エピソード記憶)、手続きや技能に関する記憶(手続き記憶)も含まれます。

記憶障害になっても失われにくいのは自転車の乗り方やピアノの演奏などに関する手続き記憶だといわれています。

認知症の記憶障害の症状と進行

認知症の記憶障害の症状と進行

 

記憶障害の症状と進行を詳しく見ていきましょう。

記憶障害の症状

さっき言われたことを忘れてしまう、薬を飲み忘れたり二重で飲んでしまったりする、今何をしているのかわからなくなる、約束を破ってしまう、同じ質問を繰り返すなどの症状が現れます。経験したことの一部ではなく経験自体を忘れてしまうことから、つじつまの合わない話や作り話をしてしまうことも少なくはありません。

また、自分で片づけた事を忘れて誰かに盗られたと思い込む「もの盗られ妄想」や不安状態、抑うつ状態などの行動・心理症状(BPSD)を引き起こすことがあります。

記憶障害の進行

海馬の萎縮が早期から始まるアルツハイマー型認知症では、記憶障害は初期のうちから現れて、ゆっくりと進行します。最近の出来事から忘れていきますが、症状が進行するにつれて過去の体験に関する記憶や学習で得た知識なども失われていきます。

脳血管性認知症でも、もの忘れは比較的多く現れる症状です。初期のうちには症状を自覚していることが多く、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら進行していきます。

レビー小体型認知症やピック病などの前頭側頭型認知症の初期では、記憶障害は目立たないことが多いです。

認知症の記憶障害への対応方法

認知症の記憶障害への対応方法

 

記憶障害のある方には、どのように対応したらいいのでしょうか。すぐにでも実践できる対応方法をまとめます。

受け止めて安心してもらう

認知症による記憶障害を抱えている方の気持ちは、「途中から映画を見ているような感覚」と表現されます。現在起こっていることが理解できずに、不安や混乱を抱えています。

抜け落ちている記憶は、本人にとっては存在していません。周りがそれを訂正したり否定したりすると、本人はウソをつかれたと感じてしまう可能性があります。

本人が事実とは違うことを言っても、否定をせずに受け止めて安心させてあげましょう。

目や耳で分かるように

お昼に配食サービスを受け取る、夕食後に服薬する…などの1日のスケジュールを書き出して、目につくところに貼っておくようにしましょう。予定やしなくてはいけないことは、カレンダーに予定を書き込む、服薬の時間にアラームを設定するなど、頭で考えなくても目と耳で分かるようしておくのがお勧めです。

また、自分の字で日記を書いてもらうなど、出来事を思い出すヒントになるものを多く残しておくといいでしょう。

環境を整える

記憶障害により支払いを忘れてしまったり、食材の管理ができなくなったりした場合には、支払い手続きを口座引き落としにしたり、宅食サービスを利用したりと進行状況に応じて環境を整える必要があります。

ガスや水道を出しっぱなしにしてしまう場合には、家族やヘルパーがいるときにだけガスや水道を使うようにしましょう。認知症の初期のうちであれば、電話をした際に「この前、水道を閉めるのを忘れていたけど、今日は大丈夫?」などの気配りを見せることで、本人も注意が払えるようになるかもしれません。

どんな介護サービスが利用できるかについては、ケアマネジャーに相談してください。

ひとつずつ繰り返して覚える

家電を買い換えた時など、新しいことを覚える必要が出てきたら、ひとつずつ繰り返すのがポイントです。操作の順番をシールで付けておく、絵を使うなど、本人にとって覚えやすい方法を探ってみてください。

症状であることを理解しましょう

記憶障害の症状が現れている方は、同じ質問を何度もしたり、ガスをつけっぱなしにしたり、約束を破ってしまったりすることがあります。

認知症の症状であることを理解して、くれぐれも振り回されないようにしましょう。もし我慢できずに怒ってしまいそうになった時には、その場を離れて冷静になる時間をつくるのも大切です。

認知症の記憶障害の予防と改善方法

認知症の記憶障害の予防と改善方法

 

記憶障害の予防や改善にはどんなことに気を付ければいいのでしょうか。

認知症自体の予防を

認知症には特効薬はありません。記憶障害は脳の障害によって脳の細胞が失われ、働きが低下することで起こる症状です。

記憶障害を予防するためには、高血圧や糖尿病などの生活習慣病をしっかり管理する、身体を動かす、栄養バランスの整った食事をする、他人と交流するなど、認知症の予防を目指した生活を送るようにしましょう。

早期診断と治療が大切

記憶障害のような症状が現れたら、病院で診断を受けるようにしましょう。認知症の薬物療法は、脳の神経細胞がある程度維持されている初期のうちに始めた方が、改善する可能性が高いと言われています。

まとめ

最近の出来事を体験ごと忘れてしまうことから始まる記憶障害は、認知症により脳の働きが低下して出てくる症状です。レビー小体型認知症など初期のうちには記憶障害が目立たない認知症もありますが、アルツハイマー型認知症では初期のうちから現れます。症状を理解して、「もしかしたら」と思ったら、早めに病院を受診するようにしましょう。早期のうちから治療をすることで、改善を目指すことができます。

記憶障害が出てきても、症状に合わせた対応をすることで自立した生活を送ることが可能です。ケアマネジャーなどの専門家に相談しながら、上手に記憶障害と付き合いましょう。

※この記事は2020年5月時点の情報で作成しています。

医師:谷山由華
監修者:谷山 由華(たにやま ゆか)

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)

【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤

内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている