認知症と物忘れの見分け方を教えてください。物忘れがひどくなった義母が心配です。

質問

質問者同居する義母の物忘れがひどくなりました。3日前に人と会ったことを忘れたり、観劇の約束をすっぽかしたりするようになり、ちょっとおかしいと感じています。単なる物忘れなのか認知症なのか、見分ける方法はありますか?

 

 

専門家

例えば、単なる物忘れでは、「昨日の晩御飯の献立を思い出せない」のに対して、認知症では「食事をしたこと自体を忘れている」というような具合です。 同様に、約束したこと自体を忘れてしまうため、約束をすっぽかすことが多くなります。しかし、認知症による物忘れの場合、本人に罪悪感はありません。そのため、周囲の人は接し方を工夫する必要があります。また、認知症にまつわる悩みは家族だけで抱え込まず、早期に専門家に相談し、アドバイスを受けることも重要です。

ここでは、加齢による物忘れと認知症の症状の違いや見分け方、認知症の物忘れが見られたときの接し方、相談先について解説していきます。

混同されやすい「物忘れ」と「認知症」

混同されやすい「物忘れ」と「認知症

記憶障害は認知症の主症状のひとつ。そのため、ただの物忘れであっても「認知症になってしまったのかも…」と心配になる方は多いようです。反対に、ただの物忘れだと思っていたら認知症だった、というケースもあります。

まずは、単なる物忘れと認知症の根本的な違いからご説明しましょう。

物忘れは自然な老化現象

年齢を重ねると、身体機能が衰えるのと同じように脳の機能も徐々に低下します。そのため、「メガネをどこに置いたっけ?」「昨日のランチのメニューを思い出せない」といった物忘れは誰にでもあります。記憶力や判断力の衰えは加齢にともなう老化現象の一種ですから、物忘れが増えたとしても気にしすぎる必要はないでしょう。

認知症は脳の疾患

ただの物忘れが自然な老化現象なのに対し、認知症は脳の疾患によって引き起こされる機能障害です。脳の神経細胞が壊れたり、脳の一部が壊死したりして記憶障害を発症するので、単なる老化現象とは根本的に異なります。

認知症の約半数は、脳にアミロイドβなどのタンパク質が蓄積し、脳の神経伝達物質が減少するアルツハイマー型認知症だと言われています。ほかにも血管性認知症やレビー小体型認知症など、さまざまな原因疾患があります。

初期の認知症は気づきにくい

物忘れと認知症には根本的な違いがあるとはいえ、初期の段階だと認知症と気づきにくいかもしれません。認知症の方によく見受けられる、同じことを何度も言う・探し物が増える・ささいなミスが増えるといった変化は、加齢による認知機能の衰えでも起こり得ます。

そのため、認知症が軽度だと見過ごされ、気づいた頃にはかなり進行していた、ということにもなりかねません。

どう見分ける?物忘れと認知症の違いをチェック

どう見分ける?物忘れと認知症の違いをチェック

物忘れと認知症は見分けがつきにくいですが、症状の現れ方には大きな違いがあります。見分けるポイントをご紹介しましょう。

「何を」忘れたかに大きな違い

物忘れも認知症も「忘れる」という点は同じですが、「何を」忘れたかが大きく異なります。

例えば、単なる物忘れであれば、食事の内容は忘れても食事をしたこと自体は覚えています。ですが、認知症になると食事をしたこと自体を忘れてしまいます。このように、体験の中身ではなく体験自体の記憶が抜け落ちてしまうのが認知症の特徴です。

また、物忘れの場合は「ご飯?麺類?」などのヒントがあれば思い出すことが多いですが、認知症の方はヒントがあっても思い出せません。

自覚があるかどうか

忘れたことに自覚があるかどうかも、見分けるポイントのひとつです。ただの物忘れであれば「最近、物忘れが増えたな」と反省したり「何を食べたんだっけ」と思い出そうとしたりします。ですが、認知症の方は忘れた自覚がないため、忘れたことさえ気づきません。

日常生活への影響度合い

認知症による物忘れは、生活に支障が出てくることがよくあるため、日常生活への影響度合いも判断材料になるでしょう。

通常の物忘れは部分的に忘れる程度ですし、自覚もあるため、生活面や人間関係に支障が出ることは少ないです。

でも、認知症は「人と会う約束をしたこと」や「病院の予約をしたこと」などを丸ごと忘れてしまうため、大切な約束や予約をすっぽかすことも。指摘をしても「約束なんてしていない」となり、人間関係がギクシャクしてしまうケースも少なくありません。

その他のチェックポイント

認知症になると、記憶障害のほかに判断力や意欲の低下が見受けられます。

物忘れに加え、料理や電気機器の操作の手順がわからなくなったり、最寄り駅までの道順を間違えたりするようになったら要注意です。また、打ち込んでいた趣味の集まりに行かなくなる、好きなテレビ番組を観たがらなくなるといった変化も認知症の初期サインかもしれません。

認知症は人柄にも影響を与えることがあります。温厚な人が怒りっぽくなった、以前より頑固になった、失敗を人のせいにすることが増えたなど、「性格が変わってしまった」と感じる場合も認知症が懸念されます。

上記を踏まえ、ただの物忘れとは異なる兆候が見られるようであれば、早めに専門医を受診しましょう。

認知症の兆候が見られたときの接し方・受診先

認知症の兆候が見られたときの接し方・受診先

ご家族や身近な人に認知症の兆候が見られる場合、どのような対応をすればよいのでしょうか。さいごに、適切な接し方や対処のコツをお伝えします。

否定しない・責めない

認知症の方と接するときは「否定しない・責めない」を心がけましょう。

認知症の方の言動は、健康な人からすると理解しがたいものが多いので、つい強く指摘したり叱責したりしてしまいがちです。でも、自尊心を傷つけられるような言い方をされると、ご本人はますます頑なになり、症状を悪化させてしまうことも。

認知症の方が失敗をしたときは、ご本人の気持ちや考えを尊重し、穏やかに接しましょう。そうすれば、状況が飲み込めなくても「話を聴いてくれた」という安心感・信頼感につながり、不安や混乱が収まることがあります。

本人のペースに合わせる

判断力や思考力が低下している認知症の方に対し、急かすような態度をとるのはNGです。簡単な作業でも焦らせると混乱し、できることもできなくなってしまいますし、役割を奪われるとご本人のプライドが傷ついてしまいます。

認知症の方と接するのは根気がいりますが、ご本人は「役に立ちたい」と思っていることが多いです。そのため、なるべくご本人のペースに合わせ、やり遂げたときは感謝を伝えましょう。

生活環境を整える

コミュニケーションのとり方に気をつけるだけではなく、認知症の方が生活しやすい環境を整えることも大切なポイントです。

例えば、コンロの火を消し忘れる場合は、自動的に火が消える機能がついたものに買い替えると安心です。

同じ商品を何度も買ってきてしまう場合は、先に買い物メモを書いて渡すと余計なものを買う頻度が抑えられます。食事をしたことを忘れる場合は、朝昼晩と食事用のカードを作り、食べ終わったら裏返すようにすれば説明しやすいでしょう。

このように、物忘れを補う工夫をとり入れれば、同居する方の負担も軽減できます。

認知症検査を受けられるのは何科?

「ただの物忘れではなく、認知症かもしれない」と思ったら、早めに専門医を受診しましょう。認知症の専門的な検査は、主に神経内科や脳神経外科、精神科、心療内科で受けることができます。

最近では「物忘れ外来」や「認知症外来」のように、認知症に特化した外来がある医療機関も増えています。

とはいえ、自覚がないご本人をいきなり専門外来に連れて行くのは難しいかもしれません。その場合は、日頃からお世話になっているかかりつけ医に相談し、医師から専門医の受診を促してもらうようにすれば、ご本人も受け入れやすいでしょう。

認知症のサインを見逃さず、早期発見を

認知症は早期発見し、早めに治療をスタートさせれば、症状の軽減進行を遅らせることが可能です。そのためにも、単なる物忘れと認知症の違いを知っておけば、認知症のサインを見逃さずに適切な対応をとれるようになります。

ご本人の言動やふるまいの変化は、ご家族や身近な人だからこそ気づけるもの。お伝えしたポイントを意識して、認知症の早期発見につなげましょう。

 

監修者:寺岡純子(てらおか じゅんこ)

監修者:寺岡純子(てらおか じゅんこ)

主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。