まだら認知症とは?

認知症の症状を指す言葉であるまだら認知症。言葉は聞いたことあるけれど実際にどんな状態なのかわからないというご意見もよく聞きます。ここでは、まだら認知症とはどういった状態の認知症であるのか、どのようにケアをしていけばよいのかについて紹介します。

目次

まだら認知症とは

まだら認知所のイメージ

まず、知っていただきたいことはまだら認知症とは認知症の種類を指す言葉ではありません。そのことをご承知いただいた上で読み進めていただければと思います。

まだら認知症とは認知症の初期に見られる症状の一種です。まだらという言葉の通り、一般的な認知症のように全ての機能が低下するのではなく、一部の機能のみ低下して他の機能は健常者とかわりない、というように特定の機能のみが低下している状態を指します。また、認知症の症状が出たり改善したりと、時間によってまだらに出現することもあります。

まだら認知症は調子のいいときもあることや、一部の機能しか低下しないことから、自分が認知症であるという自覚に乏しい人が多いことが特徴です。そのため、病院に行ってもたまたま認知症の症状が出てこない調子のいい日だったり、そもそも自覚がないため病院へ行くことを拒否するということもあります。そのため診断が遅くなったり、せっかく病院に行っても診断がつかなかったりすることもあります。

また、まだら認知症は障害が発生した部位などによっても出現する症状が異なり、共通する症状がないというところがポイントです。医師によってはまだら認知症ではなく認知症症状のムラという言葉で言い換えて表現することもあります。

まだら認知症の原因とは

このまだら認知症ですが、さまざまな種類の認知症の中でも特に脳血管性認知症に起こりやすいといわれています。この脳血管認知症の中でも特にラクナ梗塞でまだら認知症にはなりやすいといわれています。そのため、まだら認知症の最たる原因はラクナ梗塞によるものと考えられています。

ラクナ梗塞を含む脳血管障害は、脳のダメージを受けた部位によって症状が異なります。

・ラクナ梗塞とは

ラクナ梗塞とは細い血管が多発性に詰まる、日本人に多いタイプの脳梗塞で、脳梗塞の罹患者のうち約31%がこのラクナ梗塞であるというデータもあります。通常小さなものでは3-4mmの病変であり、最大でも15mmまでの梗塞をラクナ梗塞と呼びます。

一昔前までは、あまりに小さいため発見されなかったラクナ梗塞ですが、MRIの技術が進歩したことによって発見されるようになりました。梗塞巣が非常に小さいこともあり症状が全くでないこともあります。ラクナ梗塞はほかのタイプの脳梗塞と比べて比較的軽症である傾向にあります。また高血圧や糖尿病をもっている方に発症することが多い脳梗塞です。

ラクナ梗塞を含む脳血管障害によって起こるまだら認知症は60歳代と比較的若い年代で発症すること・症状が軽い事が多いことからも、認知症という病識が乏しい人が多くなる傾向にあります。

現在脳梗塞と診断されていないけれども、明らかにまだら認知症と思わしき症状が見られるという場合には、ラクナ梗塞を発症しているという可能性もあります。

まだら認知症の症状と進行

まだら認知症を発症させる脳血管障害の特徴は前述したように障害される部位で症状が異なるということです。ここでは、障害された部位別にまだら認知症として出現することが予測される症状をご紹介します。

・前頭葉に脳梗塞が起こった場合の症状

前頭葉、いわゆる脳の前の部分に脳梗塞が起こると、問題を解決する能力、計画を立てたり行動をしたりする能力が失われてしまいます。例えば、道路を渡る、複雑な質問(はい/いいえで答えられない質問)に答えることができなくなります。これらの機能を遂行(すいこう)機能と呼ぶこともあります。

さらに前頭葉の前の方だけが障害を受けると新しい情報を処理したり保持すること、いわゆる覚えていることができなくなります。そのほかに物事に関心がなくなる(感情、興味、関心の欠如)、注意力が低下する(注意散漫)といったことがみられます。 さらに問題行動が見られることもあります。例えば自制がきかなくなり不適切な状況で陽気になったり(葬儀中にニヤニヤするなど)、抑うつ状態になったり、過度に口論好きあるいは過度に消極的になったり、下品になったりします。

また、前頭葉の中間部分に脳梗塞が起こると、無関心や注意力の低下、意欲の低下といった症状が見られます。またこれに伴い思考力が低下するため、呼びかけへの反応が遅くなったり質問への反応が遅くなったりします。この付近には言葉に関係したブローカ中枢という領域があり、この部分に障害をきたすと話せなくなる、文字を見ても理解できない、話を聞いてもわからないといった言葉に関する障害もみられます。

・頭頂葉に脳梗塞が起こった場合

頭頂葉はいわゆる頭のてっぺんの部分です。この部位の中間部に脳梗塞が起こると、左右の区別がつかなくなる左右失認や、計算・文字を書くことができなくなったりします。また、体の各部位がどこにあるかという感覚(固有感覚)が分からなくなったり感じなくなったりします。

頭頂葉の右部分に脳梗塞ができると、髪をくしでとかしたり、服を着たりといった簡単な動作ができなくなる失行になります。また、空間内にある物の位置関係が分からなくなります。これにより、何かを描くことや作ることが難しくなる、地図が読めなくなる、自宅の近所で道に迷うといった症状が現れることもあります。

頭頂葉の右側が障害された方の大きな特徴としては病識の欠如があります。そのため、特に自分自身がまだら認知症であるということを認めない方や自覚がない方ではこの部分が障害されている場合があります。

・側頭葉に脳梗塞が起こった場合の症状

側頭葉はいわゆる頭の側面にある脳です。特に左の側頭葉に脳梗塞が起きた場合は言語の理解が難しくなります。他にも言葉の記憶や理解能力が障害されてしまいます。

言葉だけでなく、音や音楽に関連する記憶が障害されることもあります。そのため、今まで歌えていた歌が急に歌えなくなるなどといった症状がみられます。 脳梗塞の後に起きやすいけいれん発作を起こすとさらに症状は深刻になり、幻覚が見られることもあります。

他にもユーモアがなくなったり、極端に信心深くなったり、強迫観念を抱くといった人格の変化が生じることもあります。

・後頭葉に脳梗塞が起こった場合の症状

後頭葉、いわゆる頭の後ろの部分には、視覚情報を処理する部分があります。そのため後頭葉に脳梗塞が生じると、人の顔や見慣れたものの認識をすることができなくなったり、見えたものを理解することができなくなります。そのため、見えているものとは違うことを話したり、作り話をする作話という症状が見られます。

まだら認知症を発症させるラクナ梗塞自体、症状が緩徐に進むことから、まだら認知症自体の症状も緩やかに経過していくことが多いです。また、脳梗塞と診断されていないあるいは治療をしていないという場合でも、まだら認知症が徐々に進む場合は脳内で梗塞の数が増えている可能性があり、最終的に命にかかわるということもあります。

まだら認知症の人への対応

まだら認知症は前述してきたように自身が認知症であるという自覚が少ない場合や認知症であることを認めようとしないことが多いです。患者自身が認知症であるということを理解してもらえることが一番ですが、無理に認めさせようとして患者の尊厳を傷つけないように注意しましょう。

脳梗塞の診断がついており、治療を継続しているうえでまだら認知症となってしまった場合には医療機関のフォローが即座に入ることができるものの、脳梗塞を発症していない状態でまだら認知症となってしまった場合には特に病識は付きにくいものです。ですが、脳梗塞の診断が出ていないのにまだら認知症の症状が見られている場合にはもしかしたら今後、脳梗塞を発症するなどしてADLが低下したり、命の危険にさらされたりすることもあります。まだら認知症が疑われたら上手に患者を医療機関を受診させて、専門家に診察、診断をしてもらうとよいでしょう。

まだら認知症の症状が見られている、あるいは診断がついているうえで、介護が必要になってきたら要介護認定を行い、積極的にサービスを利用しましょう。また、幻覚や妄想などの症状が出現し、特に物盗られ妄想が出現してきた場合には、疑われた人の精神的な負担が大きくなることもあります。そのため疑いをかけられた人とあえて分離するなどの対応をとりましょう。

まだら認知症の方の精神症状に対しては一部の機能が健常である分、介護者が傷ついて精神的ダメージを受けることは少なくありません。ADL(日常生活動作の能力)が健常であるため要介護認定は下りなかった、だがまだら認知症の症状によって介護者が精神的に疲弊しているという場合には一度専門家に相談するということも対応の1つとなります。

まとめ

まだら認知症は一部の機能の低下しか見られない分、なかなか自覚が乏しく、それに伴い介護者も疲弊してしまう傾向にあります。もしも、対応につかれてしまったら必ず専門家へ相談するなどして1人で抱え込まないようにしましょう。また、まだら認知症が出現した場合には身体機能に異常がなくてもいったん医療機関を受診し、診察をしてもらい、まだら認知症に伴う病気が隠れていないかどうかを探っていくこともおすすめします。

病識の乏しいまだら認知症。介護者も一部の機能低下に翻弄されて疲弊されてしまうかもしれません。

周りにまだら認知症の方をケアしている方がいるという方はぜひこの記事をシェアしていただき、1人でも多くの方にまだら認知症について理解していただければと思います。

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監修者:春田 萌

日本内科学会 総合内科専門医、日本老年医学会所属
15年目の内科医師です。大学病院、総合病院、クリニックでの勤務歴があります。訪問診療も経験しており、自宅や施設での介護についての様々な問題や解決策の知識もあります。