高齢ドライバーの危険性と運転免許の自主返納について

認知症発症後の車の運転

認知症患者が運転を行うことの危険性

2017年3月12日に施行される改正道路交通法では、75歳以上の高齢ドライバーが認知症だと診断されると、免許証は停止または取り消しされることとなりました。

認知症に罹患すると、身体機能と認知機能が低下します。このような状況で運転などの複雑な動作を行うと、事故を起こす可能性が高まります。また、アリセプトなど服用している薬によっては、「車の運転は避けてください」と明記されているものもあります。

高齢ドライバーの自動車事故が急増中

2016年1月に開かれた「第1回高速道路での逆走対策に関する官民連携会議」では、こんなデータが公表されました。

・高速道路の逆走の7割が65歳以上
・逆走運転者の約1割が認知症の疑い
・2011年から2014年に起こった逆送による事故のうち、死亡事故は13%→事故全体と比べて約40倍
>>7割が高齢者の“高速道路の逆送”、日本の技術力でゼロを目指す

また、高齢者による痛ましい事故の報道を目にする機会が増え、その中には「認知症なのではないか」との推測がされるケースもあります。

高齢者の自動車免許の更新手続き

長年運転をしてきた高齢者の方は、運転自体を楽しんでいたり、運転に自信を持っていたりするかもしれません。楽しいという気持ちと自信の陰に隠れてしまい、年齢とともに運転に必要な身体機能が衰えていることに気づかないことも……。

2017年3月12日に施行される改正道路交通法では、70歳以上の自動車免許の更新手続きが見直されることとなりました。

高齢者に「今までよりも注意して運転しなくてはいけない」と気づいてもらうきっかけになるかもしれません。

70歳以上の方に適性検査

2017年3月12日に施行される改正道路交通法では、運転免許証の更新期間満了日の年齢が70歳以上75歳未満の方は、免許更新時に改正前よりも合理化された講習を受けるようになります。

「運転免許適性検査(30分)」、「双方向型講義(30分)」、「実車指導(60分)」の計2時間の講習です。

75歳以上は認知機能検査強化へ

また、75歳以上の方には約30分の認知機能検査が必要となります。

【認知機能が低下しているおそれがない方】
75歳未満の方と同じ講習を受けて免許更新。

【認知機能が低下しているおそれがある方】
実車指導と個別指導を含めた計3時間の「高度化講習」を受けて免許更新。

認知症のおそれがある方】
後日臨時適性検査、または医師の診断が必要。認知症だと判明した場合には、免許証の停止または取り消しへ。
診断結果に問題がなければ、実車指導と個別指導を含めた計3時間の「高度化講習」を受けて免許更新。

特定の違反で臨時認知機能検査が必要に

75歳以上の方が認知機能が低下した場合に起こしやすい違反をした場合に、臨時の認知機能検査が必要になります。

【認知機能が低下しているおそれがない方】
免許継続へ。

【低下のおそれがある人/認知機能検査の結果が前回よりも下がっていた人】
実車指導と個別指導を含めた計2時間の「臨時高齢者講習」を受けて免許継続です。

認知症の恐れがある人】
臨時適性検査または医師の診断書の提出命令が出され、認知症だと判明した場合には、免許証の停止または取り消しとなります。

また、特定の違反行為をしたのにもかかわらず臨時の認知機能検査や臨時の高齢者講習を受けなかったり、医師の診断書を提出しなかった場合には、運転免許証は停止または取り消しとなります。

特定の違反行為

・信号無視(例:赤信号を無視した場合)
・通行禁止違反(例:通行が禁止されている道路を通行した場合)
・通行区分違反(例:歩道を通行した場合、逆走をした場合)
・横断等禁止違反(例:転回が禁止されている道路で転回をした場合)
・進路変更禁止違反(例:黄の線で区画されている車道において、黄の線を越えて進路を変更した場合)
・しゃ断踏切立入り等(例:踏切の遮断機が閉じている間に踏切内に進入した場合)
・交差点右左折方法違反(例:徐行せずに左折した場合)
・指定通行区分違反(例:直進レーンを通行しているにもかかわらず、交差点で右折した場合)
・環状交差点左折等方法違反(例:徐行をせずに環状交差点で左折した場合)
・優先道路通行車妨害等(例:交差道路が優先道路であるのにもかかわらず、優先道路を通行中の車両の進行を妨害した場合)
・交差点優先車妨害(例:対向して交差点を直進する車両があるのにもかかわらず、それを妨害して交差点を右折した場合)
・環状交差点通行車妨害等(例:環状交差点内を通行する他の車両の進行を妨害した場合)
・横断歩道等における横断歩行者等妨害等(例:歩行者が横断歩道を通行しているにもかかわらず、一時停止することなく横断歩道を通行した場合)
・横断歩道のない交差点における横断歩行者等妨害等(例:横断歩道のない交差点を歩行者が通行しているにもかかわらず、交差点に進入して、歩行者を妨害した場合)
・徐行場所違反 (例:徐行すべき場所で徐行しなかった場合)
・指定場所一時不停止等 (例:一時停止をせずに交差点に進入した場合)
・合図不履行 (例:右折をするときに合図を出さなかった場合)
・安全運転義務違反 (例:ハンドル操作を誤った場合、必要な注意をすることなく漫然と運転した場合)
(引用元:警視庁

運転免許証の返納について

各都道府県の警察署では、運転に自信がなくなった高齢者の方や、病気などの理由で運転が心配な方へ、運転免許証の返納を勧めています。

申請先:居住地の免許センターや警察署
手数料:不要

一度返納した方が、再度運転免許証を取得する場合には、新たに運転免許試験の受験が必要です。

お得な「運転経歴証明書」

運転免許証を返納すると申請できるようになるのが「運転経歴証明書」です。自主返納から5年以内であれば、交付を受けられます。

参考:(外部サイト)警視庁 運転免許の自主返納をサポート

運転経歴証明書の申請方法

申請場所

居住地の運転免許センター、運転免許試験場、警察署にて申請
 ※運転免許センター、運転免許試験場→原則、即日交付可能
  警察署→2〜3週間程度で交付

必要書類

・運転経歴証明書の申込用紙(警察署、交番、駐在所、自動車安全運転センターにて配布)
・運転免許証(返納日以外なら住民票などの書類が別途必要)
・写真(縦3センチメートル、横2.4センチメートル)
・交付手数料:1000円前後(自治体による)

申請ができない人

・行政処分などによって免許が取り消された人
・免許停止中や免許停止の基準に該当している人
・再試験の基準に該当している人
・普通免許を返納したけれど原付免許を持っているなど、一部返納の人

身分証明書として使用可能

運転経歴証明書は、記載事項の変更や紛失時の再交付も可能で、身分証明書として使用できます。有効期限はありません。

また、運転をしてきた記念の品として受け取る方も多いそうです。

運転経歴証明書の提示で優遇が受けられる

「運転経歴証明書」を提示すると、公共交通の運賃が優遇されたり、ショップやレジャー施設、旅行会社などで割引が受けられるなどの特典が受けられる自治体もあります。詳しくは各自治体の警察署でご確認ください。

運転の卒業について

年齢などを考えて、「車の運転は辞めた方がいい」とご家族が考えていても、なかなか本人を納得させるのは難しいかもしれません。そんなとき、介護家族はどう対応すればいいのでしょうか?

専門家からのアドバイス

認知症要介護1の実母を持つ方から、「本人には認知症の自覚はなく、運転の自信はたっぷりあり、運転を止めることに納得しなかったのです」という相談が寄せられたことがありました。

それに対して、専門家の方からはこんなアドバイスが返ってきています。

主さんも理解しているように認知症の方の理解、説得は厳しいですね。
できれば車を処分されるのが良いでしょうが、
処分したことで解決できるかは保証できないでしょう。
しかし自分の使っている車が目の前にあれば、誰でも忘れることはできないし、
乗りたくはなるのは当たり前なので処分が一番なのかなと思います。

また一番難しいのが自身の心のコントロールですね。お母様に色々攻撃に合い、
イライラ、ストレスも大いにあると思います。
家族なのでとても難しいと思いますが、必要以上にこの件に関しては取り合わないことと、
ほんの少しの認知症に対しての諦めも必要かなと思います。

介護についての理想は色々報道やテレビで取り上げられますが、
現場では全て理想どうりにいかないので、時には涙をのんで
取り合わないことも現場では行っていますよ。
(専門家ガンバルマンさんの回答)
引用元 介護のQ&A 「認知症の母の車の運転について」 

以前支援していた利用者さんが認知症が発症して、ご兄弟から
運転を止められてすごっく怒っていました。

しかし、やはり車をこすったり、車庫にうまく入らなかったりと言う
状態が起こりました。ご兄弟から相談されて、主治医から話してもらう事に
しました。

認知症と言う病気は距離感がなくなり、遊びに来てくれた孫を
けがさせては大変だと言う切り口で話していただきました。
医師との信頼関係は良好だったので、受け入れて頂いたのです。
そこをすかさず車を処分したことが有りました。
(専門家アパさんの回答)
引用元 介護のQ&A 「認知症の母の車の運転について」 

車は、思い切り処分されてみてはいかがでしょうか?
預かったりして車があることで黎様のお気持ちの中にも迷いが生まれてしまいます。

車がなければ開き直れるのではありませんか?

それと、どういう時にお母様が運転をしたくなるのか?

その運転の代替えがあるのか?

例えば、スーパーであれば、買い物に一緒に行って(送って)くれる方がいる、
バスカードをプレゼントする、お母様が困らないようにバスの発車時間を
大きな紙に書いておく、ネットや生協、宅配などが利用できる手配をしておく・・等・・

もしかしたら、原付やシニアカーなどの代替えができないか・・等を
ご家族・ケアマネジャーさんたちとご検討されてみてくださいね。

盗難の対応は、ご家族のどなたかの携帯の電話番号を「〇〇警察署」として
電話のところに貼っておきお母様から電話があった時に婦警さんや警察官として
盗難の対応をしていただくのはいかがでしょうか?「今探していますので安心してくださいね・・」等

お母様の認知症の程度にもよりますが、どうしても判断力や
瞬発力などが衰えてしまいますので、これを機に一歩を踏み出しましょう・・。
(専門家norikoさんの回答)
引用元 介護のQ&A 「認知症の母の車の運転について

こういったアドバイスとケアマネジャーさんとの相談を経て、相談者の方は無事に説得に成功し、車を預かったそうです。

運転卒業式やマニュアルについて

沖縄県浦添市では、免許証を返納した高齢者たちの「運転卒業式」が行われました。この「運転卒業式」を実践している介護家族は多いようで、ツイッターでも話題になっています。

どんな「運転卒業式」が行われているのかや、国立長寿医療センターが制作した介護家族のためのマニュアルについての詳細は、下記の記事をご覧ください。
>>高齢者の運転を考える:運転卒業式や介護家族のためのマニュアルについて